第621.08話 √6-7 『ナレ視点』『四月二十日』
どうも、ナレーターのナレーションです。
前回までで色々ややこしい世界になったことが分かったので、少し変化のあったユウジの周辺まわりこと日常に迫ってみたいと思います。
題して! ギャルゲー主人公(自覚無し)密着二十四時です!
……別にストーカーとかじゃないですよ? これはミユ・ユミジからの正式な依頼であり――
四月二十日
朝六時半過ぎ、下之ユウジの朝ははや……くはないけど遅くないし普通ですね。
他世界・後の時間軸では神裁対策だったりして早朝ランニングなどしていましたね。
枕元の目覚ましが鳴り始めますが、いまだユウジは寝息を立てています。
はたしてこのまま起きれるのでしょうか?
するとユウジの部屋の扉がゆっくりと開けられたと思うと、小さな人影が部屋に忍び足で入ってきました。
音を立てないようにゆっくりと歩みを進め、ユウジの寝るベッド横にまでやってくると――
「……おはよー、お兄ちゃん」
小さな声でおはようの挨拶をする桐……中身はほぼ美樹ですが。
そんな彼女がユウジを起こしに来たようです。
「ふふ」
起きないとわかってユウジの頬をつんつんし出す桐、どうやらいたずら心的なものが芽生えたのかもしれませんね。
ほほえま~。
「そろそろ起きた方がいいと思うよー……えいっ!」
「ふごっ!?」
ユウジはお腹の上に突然何か重さを感じるようになり、その衝撃と違和感に肺から軽く空気が押し出されるようにして噴き出しながら意図せず目を覚まします。
するとそこには馬乗りになった桐の姿がありました。
「おはよー、お兄ちゃん。目が覚めた?」
「お、おう……おはよう桐」
楽しそうににこにことしている桐を見ていると、変な起こされ方をしても強くは言えなくなってしまいます。
「起こしにきてくれたのか?」
「うんっ! ミナお姉ちゃんに頼まれた、妹のわたしの任務だから!」
えっへんと誇らしげにする桐……桐って言ってて違和感が凄いんですけど!?
美樹って言っていいですか……ややこしくなるからダメですか、そうですか。
「起こしてくれてありがとな桐……じゃあ起きるから」
「うん?」
「いや、どいてくれないと起きれないんだが」
「このまま起きて!」
「無茶言うな!」
そう言いつつユウジは体を起こした状態で腕に力を入れ、桐のお腹まわりを掴んで自分のお腹の上から、加えてベッドの上から降ろしました。
「あはー、またねーお兄ちゃん!」
「ちょ」
悪びれもせず、びゅーんと凄い勢いで桐は部屋を去っていきました……嵐のようでしたね。
「嵐のようだった……」
ナレーションパクらないでもらえます?
「おはよう姉貴」
「おはようユウくん!」
それから少ししてユウジは軽く歯を磨いたあと、未だ寝間着姿のまま居間にやってくるとミナさんが笑顔で迎えられる。
朝の生徒会活動があるので早めに登校することもあり、既に学校指定のセーラー服をまとってクリーム色のエプロンを身に着け、動きやすいようにと髪をポニーテールで結っていますね。
ユウジが食卓であるキッチンカウンターに隣接したダイニングテーブルに行くと、既に桐が席についていました。
キッチン・ダイニング・リビングもとい居間が何の仕切りもなく連続しており、境界は畳の居間からフローリングのダイニングですね。
基本的に食事はダイニングテーブルで済ますものの、親戚や友人が来た際などは今のちゃぶ台で食事をすることもあったそうです。
六人掛けのダイニングテーブルは今の家族四人にとっては少し広く感じてしまいますね。
「ユイはまだ起きてないのか」
「私が起こしにいっても全然だった!」
どうやら桐はユウジを起こした後にユイを起こしにいったみたいですが、なかなか難敵だったようですね。
「私が行こうか?」
「いいよ姉貴は生徒会があるし俺が行ってくる。それにユイはなかなか寝起きが悪いからな。二人は先に朝食食べててくれ」
本来女子が女子を起こすべきなんでしょうが、ユイはなかなか手ごわいようです。
加えてミナさんは生徒会があるので早めに朝食を摂らないといけませんから、これにはユウジの提案に頷きました。
「うんっ! ミナお姉ちゃん食べよ!」
「うん、じゃあお願いします」
それからユウジはユイの部屋に行って一〇分少々の掛け合いののちいつものように叩き起こして連れてきます。
洗顔と歯磨きを終えたユイが席に着く頃にはミナさんも桐も朝食を終える寸前でしたが、わずかな時間ですが家族のうち四人が朝食に揃ったのでした。
朝七頃には生徒会の為に少ししてミナさんが家を出て、既に食べ終わった自分の食器と桐の食器は洗い終わって食器立てに乾かしてある頃。
遅れて朝食を各々終えたユウジがユイの食器もまとめて洗って食器立てで水を切る、洗濯物は朝の分はミナさんが起床時に既に洗濯機を回してあり、出かける寸前に洗濯の終わった衣類を部屋干し出来るものと乾燥機に入れるものをわけてあります。
下之家は日中家において家事が出来る人間がいないので、基本的に一家全員が寝坊などしなければ出来る家事は朝にやっておくことになっているそうです。
朝八時頃にはユウジとユイと桐が一緒に家を出る、小学校の登校時間はもう少し遅めでもいいのだがカギを締める関係で三人で出るようになったとのことです。
「いってきます」
「いってきまー」
「いってきまーす!」
帰ってこない返事を待つことなく、三人が出かけることで下之家は静寂を取り戻します。
二階のヌシとなっているミユだけが家に残っているものの、部屋から出てくることは滅多にありません。
正確にはミユの部屋にはほかの住人もいますが、”データ状態になった”下之家のホニさんやわし人格の桐やナタリーやアイシアらはこの家にもこの世界にもいないことになっているのです。
「またねー、お兄ちゃんお姉ちゃん」
「おー、気を付けろよー」
「バイバイ―」
途中で桐と別れるとユウジとユイは藍浜高校を目指します。
「おはよ」
「よー」
見た目好青年で中性的ながら根っからのオタクなために浮いた噂のない悪友マサヒロが漫画本片手にユウジとユイ相手に挨拶してきます。
ユウジも適当に返しすと、ユイはマサヒロの持つマンガ本に注目し――
「お、もう五巻出てるのか。放課後買お」
「今二周目だけど巻末のおまけマンガが最高だよ」
「こりゃ楽しみだぜえ!」
ちなみに藍浜高校への私物というか学校に関係のないものの持ち込みは禁止されているので、校門で風紀委員的な仕事もしている生徒会には見つからないようにしなければいけません。
そこのところマサヒロは手練れなので制服やら鞄などの隠しポケットに入れていつもやり過ごしているようです。
ユウジはそこらへん面倒なので学校の図書室にも置かれていることでギリギリ許されるライトノベルを本屋の紙ブックカバーに包んで持ってきているだけみたいですね。
そしてマサヒロは「じゃ、早めに教室に行ってじっくり三周目読むから」と言って足早に去っていき、ユウジとユイの二人に戻りました。
「明日は読みたいやつが載ってるのが発売だし楽しみが続くぜえ」
さっきのマサヒロの漫画に触発されてユイも気になっているマンガがあるようです。
「よーお二人さん」
「よー」
「やー」
二人はクラスメイト男子に普通に挨拶されて返します。
ユイがユウジの家に同居し始めた初日こそ少し話題になったものの「巳原と下之じゃ何も起きないか」と浮ついた噂としてカウントされず、二人が同じタイミングで下之家から出てきて登校しても何の反応もされないようになりました。
二人曰くはその方が面倒じゃないので助かるとのことですが、これが仮にも主人公とヒロインの姿ですか……?
そうして二人は校門で生徒会役員による軽い身だしなみチェックを受け――
「や」
「よ」
福島コナツが短くユウジに声をかけます、生徒会活動中とのことでそっけないですが、そもそも朝挨拶するよな関係になったのも”友達から”始めたことで起こった変化の一つでした。
そして昇降口で靴を履き替えユウジとユイは先に教室に着いていたマサヒロを横目にそれぞれ席に着いて鞄を置くと、予鈴までの間三人でつるむのです。
そうして午前授業・三人でつるむ昼食・午後授業を終えて下校の時間です。
「また明日なー」
「また明日」
廊下ですれ違った生徒会で残るという福島に別れを告げてユウジはユイと帰路につきます。
家に帰れば先に帰っていた桐が「お帰りなさいお兄ちゃん! ユイさん!」とお出迎え、遅れて「ただいまー」とミナさん帰ってきて一日が終わりました。
この世界においてはユウジと友人関係と呼べるものは悪友の三人と最近出来た福島だけです。
そして幼馴染もいなくなった”あの人”だけで、妹においてもオリジナル桐と家にいるミユの二人だけで――それ以外との繋がりが出来ることはありませんでした。
それはもちろんこの世界に存在しているユキもマイも、アオもヨリも、オルリスもアイシアもユウジと関わることはないのです。
「…………」
ただ一人だけ、篠文ユキその一人だけは時折遠目にではありますがユウジを見つめていましたが、そのことにユウジは気づくこともありませんでした。
どうもお久しぶりです。
今回は定期的に更新したいなと思い、現時点でこの話数含めて7話ほど書き溜めてありました。
現在6-14執筆中、毎週日曜21時に投稿されるはずなのでよろしくお願いします。
個人的な話をするとこの話は去年半年前に書き始めて途中で止まっていたものです。
それを書き足して投稿したわけですが、一応数千文字規模で書いて没にした流れがあったりしました。