表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
633/648

第621.07話 √6-6 『ミユ視点』『四月??日』



四月??日



 私、下之ミユの同居人たちがこの部屋に軟禁状態になってから十数日が経った。

 桐・ホニさん・ナタリーはこの部屋から出れない状態になって現在に至り、そしてユミジがいつも収まっている携帯端末に人格データとそてアイシアが同居している。

 この部屋・この空間にいた数日のうちに、私以外(・・・)の実体を持っていた子、正確には桐・ホニさんに変化が訪れていた。


「まったく空腹感がないのう。というか受け付けぬ」

『我は節することが出来たけど、これはさすがに……』


 桐が自分のお腹を触りながら、ホニさんはかつて神石前で肉体を維持するために省電力モードにしていた頃を想像しながら呟いた。

 この部屋では実体があり、私が触ることも出来る二人は今に至るまで何も食すことなく済み、エネルギーを含めた栄養摂取を必要としないでいた。

 最初の頃は私が通販なり、家の備蓄をちょろまかすなりして三人で飲料・食料の類いをシェアしていたものの、すぐさま桐とホニさんに異変が生じた。


 私以外の二人の体が食べ物を受け付けなくなったのだ。


 そもそも空腹感がなく喉も渇かない、その上で無理に体内に取り込もうとすると強烈な嘔吐感に襲われるのだという。

 それでいて飢餓感もない、身体の調子もおかしいところはなく、私から見ても二人の血色はよく健康そのものだった。

 

「くさくないですか……?」

「すんすんすーーーーーん! 問題ないなあ」

  

 私がホニさんに近づいてにおいを嗅いでみる――無臭だ! GOOD!

 軟禁初期の頃こそ私のお下がりの服に着替えていた二人だったものの、風呂に入ることもなく体を拭くこともなく清潔感が保たれていた状態から着替えることもなくなった。

 決定打となったのが一週間しても全体的な生理現象が見られなくなったこと……つまりはお手洗いに行く必要すらなくなったということ。

 確かに今の部屋のすぐ隣にお手洗いがあるものの、そこは純然たる部屋の外であって桐やホニさんも例外じゃなく、この部屋の外に出れない以上行くことも叶わず問題と化するところだった。

 あ、ちなみに私は部屋から出れるのでお手洗いにも行けてるし深夜にこっそりシャワー浴びてたり。

 しかしそんな生理現象に見舞われることもなく、新陳代謝が止まったような二人の状態をユミジとアイシアはこう話した。


『これまでの桐やホニはトイレも行ってたし風呂も入ってたもんね。普通ならにおうよ』

「デリカシーの欠片もないのう!?」

「………」


 アイシアはデリカシーないね!? 桐はそのデリカシーの無さに驚いてるし、ホニさんは恥ずかしそうにしてるし。

 でも部屋から出れない以上今の状態は不幸中の幸いかもしれない、だって生理現象があったらここで(・・・)しないといけないし、ぶっちゃけ私は少しほっとしてるかもしれない。

 まだこう見えてても私ボトラーじゃないから! 誰に言い訳してるかわかんないけど。


『……実体が有るようで無いのが二人の現状なのかもしれません』

「私はこう触れるのになあ」


 桐とホニさんの頬をつんつんとする、どちらも若々しいハリとぷにぷに感がクセになりそう。

 すると携帯端末の画面上にユミジと並んで腕を組んだグラフィックのアイシアが続ける。


『この世界においては私の扱いとそう変わらないのかもね』 

 

 つまるところ、私が触れられて実体があるように思えるだけで、二人は消えかけたアイシアと同じ扱いになっているのかもしれない。 

 時が止まったようなこの世界で、桐とホニさんの時間もまた止まったように体の変化が生じなくなったということ。

 この部屋の中でのみ存在出来て、外に出ることが出来ないのが、ある意味二人がアイシアと同じ状況かもしれないことの裏付けになる。


 加えてこの部屋の時間は三月三十一日二十三時五十九分五十九秒のまま止まっている。

 私が外に出て日付・時間を確認すると時間が経過していたので、私の部屋だけが時間に取り残されている状態なことをユミジらと話し合って仮定した。

 そして部屋に戻ってくると日付・時間は三月三十一日二十三時五十九分五十九秒を指している、部屋と部屋の外では時間の流れが異なることが分かる。

 これが以前にユミジに聞いたことに似ている、それは藍浜町とそれ以外の空間断絶、一年間を繰り返す藍浜町の外に出た際に時の流れはどうなるのか、について。


 この町を出て数年して戻ってきた・町を訪れた一般人Aがいるとする。

 普通ならこの町に戻ってきた時点で同じ年数が経過しているはずなのに、実際は繰り返す藍浜町の一年間という時間が優先される。

 その者一般人Aの記憶がどうなっているのかといえば、その町の外に出たことを覚えていない|その町の外に出たことを覚えていない《・・・・・・・・・・・・・・・・・》。 

 観察の結果、またこの町で同じ時間を過ごし町を出て、数年して戻ってまたこの町でこの町を出るまでを過ごす――それを繰り返すのだという。

 ある暇だったタイミングにユミジと話し検証することを決めて、特に私たちと関わりのない「この町を出ることが決まっている」町民を観察した結果のこと。


 そんな経験を経て、今の状況を説明するならばこの部屋が藍浜町とイコールで、部屋の外が藍浜町の外イコールという解釈をする。

 藍浜町が一年を繰り返す箱だとすれば、この部屋は三月三十一日二十三時五十九分五十九秒を繰り返す箱と考えてみようと思う。

 その一秒以下の時間を時が止まっているのではなく、時間を繰り返しているのならば二人の状況説明も出来る。 

 時が本当に止まっているのならば桐やホニさんは部屋の中とはいえ行動できないはず。

 一秒の世界を繰り返すものの、桐自身が持つ権利とユミジによる能力行使で「世界を繰り返している記憶を保持できる」能力ゆえ普通に過ごせているのだろうと思う。


『私はもともとよくわかんない存在だしね』

 

 ナタリーに関してはそもそもが妖精のような存在で、これまでも何をエネルギー源に活動しているのか不明だった。

 ただ桐やホニさん同様この部屋の外に出ることは叶わないそうで、ナタリーもこの一秒以下を繰り返す空間に縛られているようだ。


『――現在の各個人の状況がわかりました』


 そうしてユミジが語るのは、この世界においてこの空間における人物の実体を持つ方。

 残酷な言い方をするならば、この世界で”本物”と判断された方。

 この空間にいて、この部屋から出れない方を世界は”偽物”だと言っているようだった。


 ユミジ曰くは――

 桐は周知の通り「美樹」人格は桐の名前で下之家三女として活動、年相応の性格で小学校に通っている。

 ホニさんと別に「時陽子」が存在、神石前で衰弱状態で発見され現在は警察で保護されている。

 この部屋にいるユウ兄の”守護神”としてのホニさんと別に”土地神”としてのホニさんが存在し、今もこの町に存在しているという。

 ナタリーとは別に「中原蒼」が存在、入学式初日のみ出席後現在入院中。

 アイシアはクランナと共に入学式タイミングで留学、現在は学校近辺に家を借りて通学中。


「やはりわし以外も別個体が存在しているようじゃな……状況的にわしらの方がイレギュラーという扱いかの」


 桐曰くはこの部屋にしか存在できないもの、この部屋の外に存在できるもので区別するならば自分たちがイレギュラー的な存在なのだと解釈したようだ。


『まあマナカが見て聞いて書いたルリキャベの”原作”のもとになった世界をベースにしてるっぽいから、そうなるよね~』


 創造神の一人、この世界におけるベースとなったギャルゲーの事実上の原作を書いたのがユウ兄のクラスメイトにして委員長の嵩鳥マナカだった。

 でもその作品が完全な創作物ということではなく、むしろキャラクターにおけるモデルはほぼ全員存在し、かつ付随するキャラ設定なども限りなく実際の人物準拠だという。

 だから時陽子もホニさんも実際に存在したし、それをシナリオ上まとめた結果時陽子の肉体を借りるホニさんという構図が出来上がったらしい。

 しかし現実において時陽子が下之家に保護される事実はなく、神石前でユウ兄とホニさん(時陽子)が出会うこともなかったという。

 色々踏まえて考えると、これまでの世界は”現実に嵩鳥による脚色を加えたシナリオ原作のギャルゲーと現実を改めて混ぜたもの”だったということ。

 だからこの世界は脚色を加えなかった、現実に近しい世界と解釈していいのだと思う。

 ということから脚色を加えたことで生じた関係性・キャラクターの設定などはすべてなかったことにされているのだろう。


「ならどうやってこの世界を”攻略”出来るのかな……?」


 ホニさんの言う通り確かにそうだ、この世界の攻略法について。


『ポイントはこの世界は現実”風”世界であって、純粋な”現実”世界じゃないってことだよ』


 アイシアがそうヒントのようなことを言う、確かに私も引っかかっていた。

 ここが現実”準拠”の世界だとして、準拠しているだけでベースとなる世界はなんなのか?


「……私がサブプレイヤー扱いってことは、あくまでここはギャルゲー世界ではあるんだよね」


 もし現実に戻って、ギャルゲー世界で完全になくなっているのならば私がサブプレイヤーとして存在できないし、この部屋も維持できないだろうと思う。

 ということはギャルゲー世界においてプレイヤーサイドの主人公のユウ兄のほかに、ヒロインが誰かいるはずなのだ。


「だから、この世界を終わらせるための”攻略対象”がいるってことか」


 そう私はそう考える。

 これまでの世界を終わらせて、次の物語に進むための条件は単純明快――この世界における主人公がヒロインを攻略してエンディングを迎えることで、次の世界・物語に進むことが出来る。

 

『そそ、今のところユ―さんの攻略手腕に私たちの命運はかかってるってこと』


 加えて『まあ、攻略不能バグとか世界進行バグがあったら詰みだけどね』とか縁起でもないし超不穏なことを言っていたが、全員聞かなかったことにした。



* *



四月??日



「この世界のユウ兄。これまでのこと覚えてないっぽいよね……?」



 実はこの十数日観察してきてわかってきたことだった。

 ユウ兄はこれまでの世界のことを覚えていない、普通に中学校を卒業して高校生になった普通の男子高校生だと”思い込んでいる”。

 確かにこの考えは尚早かもしれない、でも本来は未発生イベントの”ユキの事故後”にユウ兄にアドバイスするはずの桐がこの世界において存在できないのだ。


「お主がやってみるか?」

「無茶言わないでほしい」


 桐が私にそんな無茶ぶりをしてくる、まだ面と向かって会える勇気はないんだからね! 

 ちなみに今の家事に関しては……出るタイミングが難しい、これまでの世界だとホニさんを手伝う形で出来たものの、いきなりミナ姉に「私、家事やる」と言うのはちょっと言い出しづらい。

 幸いこの家の住人がいくらか減ったことで、ミナ姉が一応家事をユウ兄と美樹に手伝ってもらいながらも出来ている点はよかった。

 おそらくこのままゲーム世界であることを認識しないまま、この世界は進行するのだと思う。


『でもどういうわけか、ユウさん福島ちゃんに告白してたけど……もしかして』

『まー、あの子がヒロインっぽいね。実際シナリオには福島コナツルートは存在するし、今のところ話の流れも一緒』


 ナタリーが私たちの思っていたことを口にし、アイシアがそれを裏付ける形になった。

 そう、私たちはこの部屋からの観察の結果「ユウ兄が福島に告白後玉砕、しかし福島が友達になろうとアプローチしてきた」ところまでわかっている。


「アイシア的に福島シナリオってどう思う?」

『うーん……確かめんどくさかった気がする』

「めんどくさいヒロインだとマイもいたし――」

『バッドエンド量は並ぶかな』

「『…………』」


 えぇ……。

 


「え、そもそもスポーツ系で明るくて人当りも良さそうな福島がめんどくさいってどういうこと!?」

『……見てると分かると思う。あとはユーさんが一発攻略してくれることを祈ろう!』


 原作サイドでシナリオを知ってるであろうアイシアがそれを言うってさ……。

 不安でしかないんだけど!?  


「ちょっと待って。そもそもバッドエンドを迎えたところで、ちゃんとやり直せるよね?」

『たぶん』


 アイシアが断言してくれないところが不安すぎる!


「というかやり直せる前提で話すけど、やり直した場合この部屋というか私たちの状態はどうなるの……?」

『さぁ?』

「真面目に答えてほしいんだけど!」

『いや、だってここバグ世界だよ。これまでのシステムがちゃんと作動するかわかんないし』


 言われれば確かにそうだけど!


『これまでのシステムが機能して、この部屋が干渉を受けず独立を維持できるなら――攻略成功までこの部屋で何回も、下手すれば数年規模の時間を過ごすことになるだろうね』


 …………この世界私たちに厳しくない?


「頼む! ユウジ速攻攻略してくれ! さすがにこの部屋で何年も過ごすのは気が狂ってしまうのじゃ!」

「ユウジさん頑張って……お願い……」


 それは切実な祈り、特に部屋から出れない桐とホニさんには死活問題すぎる。

 マジでユウ兄なんとかして!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ