第621.04話 √6-3 『ユウジ視点』『↓』
俺の一目惚れした女子に告白して大玉砕したかと思ったら、後日呼び出されて友達から始めようと言われたでござる。
俺が能天気な性格をしているのならば「脈アリ寄りのアリじゃん! いけるじゃん!」とポジティブシンキングに「よろしくお願いしゃーす!」と友達から始める恋愛生活に突入するものだが、現在の俺はというと――
「……」
何も返せずにいる。
それもそうだ、男子あたりのイタズラ覚悟で校舎裏の呼び出しに来てみれば一目惚れ相手がいる上に友達から始めようである。
一般男子としては動揺せざるを得ない。
そして決してポジティブ思考の持ち主ではない俺としては、これは男子ではなく女子からのイタズラなのではないかと疑念を抱き始める。
こう「下之が福島に告白とかウケるーw」「友達から始めようって言われたらどう反応するか見てみてーわ」「福島やってみーなーよー」みたいな。
ああ、ありえそう……。
じゃなかったら振った翌日に今時わざわざ呼び出して「友達から始めよう」なんて言えるはずもない!
これは罠なのか、俺の一挙手一投足に注目して今後女子グループで恰好のネタにされてしまうのか。
それを想像してしまうと、生徒の流動も少なく近隣に高校もないこの町で今後も生きていくにはちと辛すぎるぜぇ……?
「ど、どう?」
どうと聞かれましても!?
返しを間違えれば高校生活でずっとネタにされかねない、想像するだけでつらたん。
「いや、その……」
だから俺はずっと返しに困っていた。
それが良くなかったのだろう、目の前の福島は次第に表情を曇らせていく。
あの俺が時折見ていたスポーツ系で元気な彼女から遠ざかっていくようで……。
「……昨日あんたの告白を断っておいて、虫がいい……よな」
考えられないほど言葉が弱弱しくなっていく彼女が、俺にはとても演技には見えなくて。
例え演技だったとしたら、それは福島が上手いのであって騙される俺が悪いわけで――どうにか俺は言葉を絞り出した。
「ちょっと驚いてた」
「え」
「昨日の今日だったもんだから」
「そ、そうだよな」
一目惚れの欠点として、彼女の内面を俺が知らないことにある。
だから彼女の思考が未だわからない、ここまでして大げさに「友達から始めよう」というのは違和感を覚えるしかない。
「ここに呼ばず教室とかでも良かったんじゃないかって」
「そ、そりゃ恥ずかしいし!」
俺と話すことが恥ずかしいってヤツですかァー!? ごもっとも。
そりゃオタグループに痛男子ですもの、その通りでしたわ。
「だよな……」
「え、いや、違っ……たぶんあんたの考えてることじゃなく! 私が、単純に恥ずかしくて!」
「そうなのか」
言葉通りに受け止めるぞ言葉通りに受け止めるぞ……一割ぐらいは保険として、自分の考えを保持しておくけど。
――ただ勝手に俺は気持ちが軽くなったのかもしれない、イタズラの線が流石に俺の中で消え始めて油断をしていたのだろう、そこで口を滑らせる。
「しかしなんとなく意外だな。福島って話して仲良くなっていつの間にか友達になってる、みたいなタイプだと思ってたから」
「…………は?」
「え」
何が地雷だったのか分からないが、福島が「何言ってんだオメー」のような表情をして雰囲気が変わる。
”タイプ”とか勝手に決めつけてたのが悪かったのか、悪かったなこれは、謝ろうそうしよう。
「ああ、タイプとかって――」
「……友達いねえし」
「え」
そう俺の弁解とは全く違い方向の地雷だったようで――
「私に友達なんかいねえし!」
…………えぇ?
「マジで?」
「マジだけど」
マジなやつ?
「いや、だって部活とかの応援でほかの女子とかと仲良く話してるの見たけど」
「それは私が部活に必要なだけだろ」
……うーん?
にわか仕込みの俺からしても福島に対してそう思って近づいてる人間ってそうは居なさそうなんだがなぁ。
「いやでもあっちは友達と思ってるだろうし――」
「何言ってんだよあんた! そんなわけないじゃん! 部活手伝ってくれてるから話してくれるに決まってるじゃん!!」
俺の想像とURAHARAに自己評価が低すぎませんかこの子!?
ギブアンドテイクにしてもそれだと偏ってるよ。
「でももし仮にあっちが友達だと思ってたら――」
「無い!」
それを聞いたらあっちもショックだと思うんだけど……まで言えず。
その発想は逆に相手に失礼な気がするんだがなあ……俺が言えた口じゃないが。
「なら、その……アレだ。福島ってモテるんじゃないのか、男子にも女子にも」
「部活動で都合がいいからな」
そういうんじゃないんだが。
不思議には思っていた、福島がモテている感じは伝わってくるのに結局のところ浮いた噂はないというか……ここまでユイのソースだけどね!
「いや普通の意味でモテ――」
「無い!」
これは……なかなかのなかなかだな。
俺が言うのも難だが、本当に言うのも難だが”拗らせてる”パターンのやつ!
「告白とかされないのか」
「そりゃ何度かあるけど、きっと打算があるに違いないんだ……」
想像と真逆のネガティブ思考なんですが、俺より重度なんじゃないかこれは。
「じゃあ俺の告白からの今日のこれはなんだったの」
「だってあんた何の部活にも入ってないじゃん」
そうだけど…………ぐうの音も出ないけども!
「したらば俺がイタズラでさせられてる可能性とかは無いのか」
「…………っ、その発想はなかった」
ここまで想像しててなかったのかよ。
「て、テープ回してへんやろな」
「回してない回してない」
俺がテープ回されてる方だと思ってたし、俺はオフホワイトです。
「それでどうなんだ! こんな私なんかと友達は無理ってか! ひと思いに言ってくれ、そしたら心置きなく逝ってくる!」
この子想像より発想が危ういよ。
「そりゃ福島と友達になれるってなら大歓迎だけど」
「そりゃ福島と友達なんか無理だよな」
「言ってない言ってない」
「介錯は頼むぜ……」
聞き分けが無いよこの子、しょうがないので一世一代の行動に俺は出る――
「っ!」
「友達として、よろしくな」
「……はい」
彼女の手を取り、出来るだけ真剣な面持ちにして俺はそう返した。
……なんなんだこれは、シチュエーション的には恋愛の告白みたいなんだが。
「え……ってことはあんたが私の友達一号でいいのか……?」
「それはいいけど出来れば友達なら名前で呼んでほしい」
「そりゃもちろん! よろしく、ユウジ!」
……いきなり呼び捨てとは、まぁキャラクター的には合っていそうだしいいんだろうけど。
「改めて福島コナツだ、”友達”としてよろしくな!」
「ああ」
こうして俺は福島と友達になった。
なったのだが――
「よし! 友達記念に手を繋いで帰ろうぜ!」
「え」
「え?」
友達とはいえ男女が手を繋いで帰宅を……?
「何かおかしいこと言ったか?」
「いや、一応言っておくけど俺男子だぞ」
「知ってるよ、ユウジが女子だったらさすがの私も驚いてた」
そうじゃない。
「いやー、その、だな……高校生にもなって男女が手をつなぐってのはその……」
「友達っぽくていいじゃん、何がおかしいんだよ」
「なんか恋人っぽくないか」
「ばっ……バカ! 恋人じゃねえし! ユウジお前思ったよりエロか!?」
せやろか……?
「恋人なら……言わせんな恥ずかしい」
そうマジ照れ顔で言う福島、可愛いんだがそうじゃない。
わかった、なんとなくわかってきた。
「福島の考えはよくわかったが手をつなぐのは無しな」
「なんでだ!?」
「世間ではそんなことすれば恋人に間違われるから」
「そんなわけないだろ!?」
そんなわけあるよ。
「それとも何か、やっぱり私と友達になんかなれないって話か……」
思考が両極端!
「そんなことない。なら俺が恥ずかしいってことでどうだ」
「私と友達なことが恥ずかしいってことか!?」
「福島みたいな人気者と友達とか誇らしいのに」
「人気者じゃねえし!」
俺はそう実は手をつなぐのを誤魔化しながら福島が帰路に就くよう誘導していた。
こうしていれば言いあう男女の友達のようなものと周囲は見てくれるだろう……ここまで福島と話していて分かった。
「ああ、じゃあ俺の家ここだからまたな」
「友情の手つなぎはああああああああああ!? ま、またな!」
彼女は、おそらくは――めんどくさい、というよりも”ズレた”友情観の持ち主であることがわかってきたのだった。
「ただいまー」
そうして福島との手つなぎを阻止しながらの帰宅に成功し、自宅の鍵を開けて玄関に足を踏み入れてそう言った。
すると――
「あ、おかえりなさい! お兄ちゃん!」
俺の可愛い末妹の桐が出迎えてくれる。
「桐ただいまー」
「きょうは遅かったですねお兄ちゃん!」
「ああ、ちょっと友達と話しながら帰ってきたんだ」
間違ったことは言ってない……。
「なら桐ともお話してくださいお兄ちゃん!」
「じゃあ着替えたら話そうか」
「やったー!」
うーん可愛い、理想の妹ここに有りだな。
そうして桐は自室のある二階へとたったったーと階段を駆け上がっていった。
「ユウジ氏乙ですぞ!」
「よお」
同居し始めたユイがリビングから出てきて敬礼をする。
「さて、何があったか聞こうじゃないかね」
「あ、桐との先約が入ったからあとでな」
約束しちゃったからには守らないとな、決して俺はシスコンじゃねーし!
「私も年齢的には妹ですぞ!? それに義妹という魅惑的なフレーズ持ち、どや」
「ユイが義妹ねえ…………うん、がんばって」
半袖半ズボンなラフな格好のユイ、色気の欠片もなく
「なんだと貴様妹裁判だ! 法廷で会おうぞ!」
などと言い合っていると――
「ただいまー」
生徒会活動を終えて姉貴が家に帰ってきた。
「おかえり姉貴」
「おかえりなさいミナさん」
ユイは基本姉貴の前では猫を被っている、まともな喋り方を出来るのにしないヤツである。
もっとも色々あって姉貴もといこの家に世話になっている身だからこそ気を使っているのかもしれない。
「夕飯作るからねー」
「おうー」
そうして俺はトイレ横の洗面台で手を洗い着替えるために自室にやってくる、が――
「お兄ちゃん」
「桐、ちょっと待っててな」
「待ってます」
「そういえばこれから風呂洗うんだが、桐も手伝ってくれるか」
「はい!」
いい子である、きっと姉貴に似たんだろうなぁ。
着替えを終えて腕めくりをしながら桐と風呂を洗いはじめる、その間桐と今日の出来事の話をしあった。
下之家は母子家庭ながら、母親は長期出張中で基本おらず姉貴が一家の大黒柱となっている。
家族構成は母親ミサキ・長男ユウジ・長女ミナ・次女ミユ・三女桐に加えてユイが今は住んでいる、というより一応は義妹だけど。
そんな六人で、使われていない部屋がいくつもあるこのだだっ広い家に住んでいるのだった。