第621.14話 √6-13 『ユウジ視点』『↓』
メールや電話を試してみたりしている内に福島との昼休みが過ぎ、午後の授業を終えて下校し家に帰る。
結局福島とは部活棟空き教室で面と向かって話した以外の接触はほぼなく、帰り際に「またなユウジ」「また明日コナツ」という挨拶をしただけである。
それでも福島とは昼休みにまともに話せた上に連絡先も入手出来たのを考えると今日は大きな進歩があったと言える、じっくり福島との友情を育んでいこう。
……友情を育んでいこうって当人が言うと絶妙になんかヤダな、この発言は編集カットでなかったことに。
それから夕食を終え居間で、特に面白くもつまらなくもないテレビの情報バラエティをぼーっと見ていると「ユウくん」と姉貴に呼ばれる。
振り返るとソワソワした姉貴の姿があり――
「ところでユウくん、その~……手紙の返事とかは来たのかな?」
「ああ、無事手紙届いて会えた」
「っ!? そ、それは誰なのかな~? いや、教えてくれたらでいいんだけど」
「友達だ」
「ヒント! 苗字か名前だけでも! 両方でもいいよ!」
それもうほぼ答え、両方とも言ったら完全に答えじゃん。
今日の朝にも聞かれたが、やっぱり姉としては自分の家族の弟がどういう交友関係をしているのか気になるものなのだろうか。
朝は正直手紙に集中したいからと姉貴への返しはぐらかしたが、今改めてみると福島は姉貴と同じ生徒会役員なことから面識はあるんだったな。
なら言っても特に問題はないのかもしれない――
「姉貴も知ってると思うけど福島だよ、生徒会にいる」
「福島ちゃん! うんうん、明るくて挨拶も気持ちいい子だよね。生徒会の会計の仕事もバッチリこなすし、生徒会が無い日は部活動の助っ人として頼りにされてるし」
姉貴から人物評が返ってくるとは思わず、あんまり人のことを話さない姉貴にしては珍しい。
生徒会副会長の姉貴目線でも福島の仕事や人となりは評価が高いようだ。
「福島って生徒会役員になったのは高校が初めてなのか?」
「ううん、私が中学生徒会二年生で副会長になった時に一年生で入ってきたんだよ。最初から真面目に仕事こなす子で、来年には会計になって私が卒業してからも続けてたみたい」
中学校からの付き合いだったとは意外だ、姉貴は生徒会の話をあまりしないだけに知らなかった。
とは言っても俺も同じ中学校なのに生徒会役員の名前とか気にも留めてなかったのだが。
「それで中学生徒会での縁もあったし、福島ちゃんが生徒会役員希望だったのもあって一年生で会計任されてるの。すごいよね」
「すごいな福島」
確かに一年で役職の会計をやっているとは珍しい、中学生徒会での信頼が裏付けされているのなら納得だ。
「その福島ちゃんに手紙出したんだ……ど、どんな内容?」
「連絡先交換しようって、最近友達になったんだ」
「なるほどね~……ってユウくんが福島ちゃんの友達!?」
そう言うと姉貴に凄い驚かれた、姉貴が驚いてる姿ってなんか新鮮でいいな。
「ユウくん一応ね。聞きたいというか本当は聞いちゃいけないんだけど……先に謝っておくけどごめんね――」
ここまで念を押されると俺も身構えてしまうぞ。
「福島ちゃんに振られた下之さんって……もしかしてユウくんだよね?」
「グワーッ!」
確かにそうくるよな、学校のことをあまり話さない姉貴でも”そういう噂”の類は耳に入ってくるだろうし……知ってるよなあ。
今まで確信がなかったのか、噂話だから信ぴょう性が薄いと判断したのか。
ただ福島への告白というイベントは日常茶飯事で、その中の一人だったことですぐさま風化……したには違いなかった。
……俺としても今は福島に対しての恋愛感情はなくとも、改めて玉砕相手と言われるとダメージあるぜこれは。
ちなみに言った当人の姉貴も動揺している様子だ、客観視してもブラコン気味な姉貴からすれば弟が振られた相手と友達なんてのは信じられないのかもしれない。
「ぐ……確かに俺だけど」
「っ!? いや! だって一度告白した相手に振られたのに友達っておかしくない!?」
その通りだ、”振られた”という噂話が流れた時点で”友達になった”というイコールにはならない。
”友達から始めましょう”は社交辞令とか関係性の軟着陸を試みているのであって、大抵始まらないのが相場だ。
それもそのはず、別のタイミングで福島からの呼び出しで友達になったというのだから……姉貴がおかしいと思うのも分かってしまう。
「なりゆきでな……」
「も、もしかしてユウくん再アタックの結果友達から始めたとか……?」
それを姉貴は自分で言ってて目を白黒させている、継続ダメージだ。
「いや、俺はきっぱり振られたぞ。後日呼び出されて福島から友達になろうって」
「福島ちゃんから!? なんで!?」
福島曰くは好意を持っていない上に部活動に入ってなかったからという条件からの提案だったそうだが、冷静に考えると告白して振られた俺の気持ちをなんだと思っているんだろう。
……まぁ名前呼びになってから苗字で呼んだら殺しにかかってきたり、手紙の書き方を間違ったら殺してくるような福島だから倫理観的なことは考えない方がいいのかもしれない。
というのを姉貴に話すのはさすがにオープンにしすぎでもあるし、言っても混乱されそうなので――
「な、なりゆきで……あ、メール来た」
と姉貴と話している間に携帯の着信音が鳴る。
ちょっと失礼、的なジェスチャーを姉貴にしつつメールの文面を見て速攻で返す。
姉貴も福島のメール文面が表示された俺の携帯画面に興味がありそうだったが「気になる……でも覗き見してユウくんに嫌われたくないし……」一般常識やマナーの類なプライバシーとブラコン気味な姉としての興味の狭間で苦悩している様子だった。
「う、うーん……それでユウくんは福島ちゃんと連絡先交換したってことなんだ?」
納得してない様子で本題に戻る。
一口に連絡先を交換したといっても、割と大変だったんだぞ姉貴。
福島と連絡先を交換したいだけなのに手紙を書いて呼び出して、その手紙の内容がバッドコミュニケーションで俺一度死んで、手紙の内容を熟考しての今があるのだ。
「福島ちゃんはいい子なんだけど……でもユウくんを一度振った相手かぁ、うーん……」
姉貴の中で生徒会会計の福島として信頼を得ているせいで、俺が振られた相手という情報を加えたことで判断に悩んでいる。
個人的には姉貴が信頼しているだけで福島の好感度が上がるし、福島のことを評価している姉貴の好感度も上がっている、Win-Winだ(?)
結局そのあとも姉貴はうーんうーんと悩み続けている様子だった。
そう、さっきさりげなく着信して速攻で返したメール――
福島から連絡するとは言ったものの、あれから一時間おきにメールが来ていて、その内容も「今日はありがとな!」とか「会えてよかった」とか「話せてよかった!」とかをメールと時間を分けて送ってくる。
それに対してのメールを返信していたものの、ちょっと携帯から離れている間にやっちまった。
メールを読んだはいいもののメール返信を一度忘れてしまったのだ。
福島からの最後のメールは「やっぱ本当は今日会えたこととか連絡先交換したとかダメだったか? 友達として私はダメか? なら」というメールを読んだタイミングで世界リセット、ちなみに俺は死んでない――たぶん福島が死んだ。
四月二十三日 午前:六時三〇分
というかオートセーブ的な機能があるのはいいことだと思うが、セーブポイントは朝の起床時固定かよ。
「マジか、ここまで戻るのか……」
ということは手紙を書いて連絡先を聞き出すまでの昼休みまでの一連の行動も全部やり直しになる、んなアホな。
セーブポイントもうちょっとこまめに用意してくれよ、連絡先聞いたところあたりにもセーブポイントくれよ。
「……まあ反省会と予習は出来るか」
福島が死んだ理由を考察する、俺が予想だにしない死因ではなければ最後に見たメールは”遺書”のようなものだ。
つまるところ俺が携帯を放置したことでやり取りが途切れ、福島は不安になり精神が不安定になったところで自殺……あたりだろうか、またはそれに気を取られて事故死あたりか。
「既読スルーで自殺すな!」※この頃にLI〇Eあたりのアプリは実装されていないはずです。
百歩譲れば俺が友人の福島のメンタルケアを疎かにしたことが今回の失敗。
じゃあどうするかと考える、一時間おきほどに来るメール全てに短くも返信すべきかというと現実的ではない……わけではないが深夜メールを送ってくることもあるんだろうか、それは対応無理だな。
だから現状を打破する為のメール文章が求められる。
「顔が見えない相手で、何を考えているかわからないから不安になるんだろうか」
その気持ちはわからないでもない、文章越しにその相手の本当の感情をすべて汲めるかというと難しいだろうと思う。
……文章越しか、なら電話越しなら少しは違うか?
それで、電話の内容は他愛のないことでもいい、でも最初はそうだな――
ここまで姉貴に便箋を貰ってから福島に部活棟の空き教室に招待されて連絡先を交換するまで完全に同じ流れを辿った、おそらくここまでは間違った行動をしていないはず。
問題はここからだ――
まずは昼休み後からの一時間おきのメールにはちゃんと返す、だいたい九時ぐらいまでは対応する……メールの内容には相槌を打つような返信なだけで、問題なさそうだ。
そこで俺はあるメールを送る。
『電話で福島の声が聞きたい、お話しよう。電話かけていいか?』
まるで初々しい付き合いたての恋人に送るかのようなメールであるが、これもメンタルケアの一環であって恋愛要素は皆無である。
恋愛シミュレーションならぬ、友人コミュニケーションゲームのような感覚だ。
俺のメールでの提案のあと、すぐに返信が届いて『電話まってる』とのこと、くっ……これが恋人同士なら甘酸っぱい流れだというのに――だが、たぶん福島とは恋愛にならないだろう。
「もしもし、夜分に悪いなコナツ」
『もしもし! ユウジか、ユウジの声だ!』
電話という文明の利器に初めて触れたかのような反応……そんなことはないのだが、”電話で友人の声が聞けた”ことに対して感動しているのだろうと思う。
『それで、話したいって……』
「いや、コナツの声が聞きたかっただけ」
『ま、マジか……なんか嬉しいな!』
俺も福島に対してめんどくさいよりも、こうして楽しそうな声を聞けて良かったという気持ちが勝っている……なかなか奇特な人間かもしれないな。
……ここからも大事なところだ、どうやってメールの頻度を現実的なレベルまで減らせるか――
「メールでコナツと話せるのもいいけど、こうやって電話で話すのも楽しいな」
『た、確かに! それはあるな!』
「あと福島が嫌じゃなかったら、学校でも俺と会えたりしないか?」
『? 学校では会って挨拶してるだろ?』
挨拶してるのが会っているという認識か……そういう意図ではないんだが。
「挨拶も大事だけど福島と一緒に居れる時間が欲しい」
『ほんとか!? で、でもな……』
「それとも俺とは学校で会いたくないか」
この言い方はまずかったか? ちょっと踏み込みすぎたか?
というかこの会話聞かれてたら完全に恋人同士に誤解されるやつである。
『ち、違う! だって私とユウジが学校で話してたりしてたら恥ずかしいだろ』
「…………」
ちょっと傷ついたぜ、致命傷で済んだぜ、
「俺と友達ってのは周りに知られるのは……ダメか?」
『そ、そういう意味じゃなくてだな! ユウジに恥ずかしい思いをさせるというか、私なんかと友達とか変な目で見られるんじゃないかと』
ああ……そうなのか、そういうことなのか。
福島の根底には自分の自信の無さ、自己肯定感の薄さ、自己評価の低さがあるんだな――なんかもったいないな。
「んなわけないだろ。福島と友達になれて俺は嬉しいよ、皆に自慢したいぐらいだ」
「っ!」
実際福島が友達とか周囲に自慢できると思う、非公式新聞あたりの一面トップになるんじゃないか? まあ、そういうことをするつもりはないが。
「友達と一緒に居たいって思っちゃダメか」
『だ、ダメじゃない! むしろ私はずっとユウジと一緒にいたい!』
”ずっと”は言い過ぎな気もするが、それでも俺も本心で思っていることだった。
『……まだちょっと自信ないから、あの空き教室で昼休みに会うとかで大丈夫か?』
「もちろん。そこで昼ご飯でも食べながら一緒に話したりするか」
『それは――最高に楽しそうだなっ』
電話越しの福島が嬉しそうで俺も嬉しい、やっぱ好きだわ福島――友達として。
「だからメールも良いけど昼休みにとっておきの話とか温存しても良いかもしれないぜ?」
『それはそうかもしれないな! 温めておくぜ! 明日が楽しみだな!』
「明日は休みだからまた来週な、それまではメールか電話でまた話そうか」
『明日会えないのか……わかった、来週会えるの楽しみにしてる。来週昼休み”あの部屋”で会おうな!』
「ああ、コナツのとこ行く時とかにはメールか電話するからよろしくな」
『待ってるぜ!』
「じゃあ夜も遅くなってきたし、また明日電話かメールでな。おやすみコナツ」
『ああ、おやすみユウジ!』
そうして電話を切って、メールでも『お休み』と短くメールを送るとすぐに『お休みな!』というメールが帰ってきた。
それから二時間三時間と経ってもメールは届かず、電話が鳴ることもなかった。
メールが会話の手段としか誤解していたことからくる不安だったのだろう、今後電話出来たり会えたりするとなればその不安も緩和されると俺は考えたのだ。
「楽しく話せたな」
そうして一日が終わる、二度のやり直しを経てリセットを迎えることなく明日以降を迎えたのだった――
X周目 ルート6 バッドエンド&リセット回数:5回
内訳 福島コナツ死亡




