第744話 √9-3 『ユウジ視点』『四月六日』(終)
そういえばホニさんであり時ヨーコ改め下之ヨーコは藍浜中学に通い始めた。
そしてミキはといえば、桐と同じように今も藍浜小学校に通っているという。
じゃあ皆が学校に行くと家事はどうなるかと言えば――親父を見つけ出したことと妊娠 (マジだった)でしばらく仕事も休職としている母さんと「これからは一緒に住んだ方がいいかもね」とナオトさんが下之家に住むことになり、隣の家を引き払って引っ越してきたことでナオさんと母さんの二人が家事をするようだ。
ということからこの世界になって家族がまた一人増える、書類上は再婚なことから事実上の別居中なのがおかしかったのであり、傍から見れば正常になったと言えるのかもしれない。
結局一度も訪れなかったユイの家は少しの間もぬけの殻になっていたが、どうやら買い手が付いたらしく引っ越しが進んでいる。
……お隣さんだから挨拶は必要だろうか、今度姉貴と相談してみよう。
春休みの間、意外というのも難なのだが俺の家を訪ねて来る子は誰も居なかった。
ユキあたりは来てくれても良かったんだがな……というか俺が行くべきだったのか!?
ユキ世界ですっかり受け身になった俺が悪いなこりゃ、やってしまった。
という後悔をしたのが一学期始業式前日なのだった。
四月六日
朝も六時、なんとなく窓の外が気になってカーテンを開けてこっそり覗くようにすると――
「おおう……」
と言っちゃよくないのだろうが、朝六時なのに既に家の前にめっちゃ女の子いる。
芸能人の出待ち状態というか、それも全員バラエテイに富んだ美少女ばっかりなだけに彼女たちのいるそこの一角の土地代が上がりかねない。
ってか”俺の彼女たち”である……俺の彼女たちとかチョーシノッテンな? とか言われそうだが、そう言うしかないのだからしょうがない。
ユキとマイとマナカとヨリが居たな……四人いたらめっちゃって表現であってるよな? 盛りすぎ?
みんな可愛いか美人だし。
「と、とりあえず支度しないと」
習慣通りの早起きなのに、更に早起きとは皆何時に起きたんだろうか……。
そう思いながら俺はとりあえず着替え顔を洗い歯を磨き朝食は抜きにして家事を姉貴とホニさんに頼んでから、俺は外に出たのである。
「あ、ユウジおはよー」
「おはようございますユウジ様」
「おはようユウジ君」
「――おは」
俺が玄関を出るなりぱぁっと笑顔を輝かせるユキに、ぺこりお辞儀するマイ、平然としたマナカ、そして無表情にも手を挙げて挨拶するヨリの姿だった。
「おはよう」
「じゃあ先に私ね」
「え」
そうして挨拶すぐにユキからの鮮烈なキス。
「仕方ありません……ジャンケンもまた時の運」
「譲るしかない……です!」
「――デザートは私がもらう」
そしてそれがなかなかに濃厚というか……。
「ユウジとのキスすき」
「お、おおう……」
傍から見ていた三人も頬を赤らめている、ユキのキスはなんというかユキの性格や見た目と裏腹にどろり濃厚というか……褒めてますよ?
「じゃあ私も、それではユウジ様の唇を拝借」
「んん!?」
マイのキスはそっとするキス、なんともあっさり具合だがその分マイの唇の柔らかさが印象に残る。
「それでは私も。ユウジ君じゃあズボンを下ろしてください、キスしますから」
「どこにするつもりだよ!?」
とは言いつつもマナカと普通にキス、なんだか爽やかな風味なマナカである。
「――シメは私」
「そんな鍋のあとみたいに――」
そしてヨリとのキスなのだが――こ、これは!?
舌を介して流れ込んでくる果実的甘さ、そしてゴロゴロと口の中に入ってきたのは――
「――飴どうぞ雨澄だけに」
「…………」
雨澄から口伝いにもらったのはキャンディだった、それもオレンジ味の。
正直そのギャグがどうでもいいぐらいに、飴の口渡しってドキドキしてやばい。
ちなみに後でヨリに聞いたことだが、俺とヨリの世界以後は病気だった母親が元気になったらしい。
神裁となる必要もなく、そもそも神裁のシステムが今も残っているかは分からないものの、今はヨリが学校に行きながらバイトなどして生活も少しずつ安定してきたらしい。
何が出来ることがあれば言ってくれと言ったら「――じゃあご飯作りにきて」とのこと、近い内にヨリの家を訪ねることになりそうだ。
「じゃあいこー」
「お、おー」
なんて四人と道端でキスしてから登校するのだった。
……早速性が乱れている気がしてならない。
二年生になってからのクラス替えはというと――
「ええええなんでえええええ」
「……ユウジ様との時間が」
「私のユウジ君との同じクラスメイト記録が……」
ユキとマイとマナカは二年一組隣のクラスへ、ユイとマサヒロは三組へ、コナツは四組へとバラバラになってしまう。
一方で――
「よろしくお願いしますわ!」
「よろしくー」
「――ども」
「よ、よろしくお願いします」
オルリスとアイシアとヨリとナナミが同じクラスになった。
どうやらオルリス達がホームステイしているのが下之家家族ということで、同じクラスにする配慮だったのかもしれない。
それにしては今更過ぎるだろう。
「えー二年二組の担任だ……名前は知っているだろうから、まあいいか。一人分席が空いてるが遅れて明日入ってくる生徒のだから――」
そうして、なんとも言えないクラス分けによる二年生が始まったのだった。
……そういえば二年生になって初めてマサヒロと再会したのだが。
「おーユウジ、そういえばクラス別になっちまったな」
「マサヒロ……か?」
それはかつてのマサヒロだった。
新マサヒロのような中性的な感じはどこへやらの、むさくるしい爆発ヘアーである。
……しかしなんだかそのマサヒロを見てホッとする俺がいた、ようやく本当に日常が戻ってきたのだと思えてならなかった。
「なんだよ、そんな幽霊でも見たような顔して。しかし気づかぬ間にもユウジはモテたもんだなぁ……まぁ俺には愛しの宮子先輩がいるからいいんだがな!」
「えっ!? マサヒロお前彼女居たの!?」
ここにきて衝撃の事実である。
「ユウジほどは居ないがな。まぁでも宮子先輩見た目チャラチャラしたギャルなのに面倒見いいし頭いいし、美人なんだよな……ほんとなんで付き合えてるのか分かんねえぜ」
そういえばそのマサヒロの彼女というのは佐渡宮子といって、なんと姉貴の友人らしかった。
しかし変なところで繋がりがあるというか……マサヒロはまぁなんだ幸せにな。
始業式明けの教室への移動時間に、意外過ぎる人物と出会った。
「どうもユウさん」
「アオ!?」
中原アオ、手紙を介して会話をした相手にしてナタリーとなって俺の相方となった女の子である。
いや、こう言っちゃなんだが……彼女は。
「なんか急に病気が治って普通に登校できるまでになったんだよね」
「んなアホな」
しかしどうやら本当らしい。
二月初めに急激に容態が安定するどころか症状が劇的に軽くなり、二ヶ月のリハビリを持って普通に学校に来れるまでになったという。
「現代の医学の力ってスゲーよね」
「す、スゲーな」
「委員長に聞いたんだけどね、モデルとなった子は入院はしてたけど別に死ななくて、ユウさんたちが二年生を迎える頃には回復してたんだって」
「えぇ……」
「委員長、私を勝手に殺すなーって感じ」
ほんとだよ。
「でも、だけど……もしかしたらユウさんのおかげかも、って私は思うんだよね」
「俺の……?」
「委員長はああ言ってたけど、本当は私は死ぬことになってて、それをユウさんの謎パワーでナントカカントカ! ってね!」
「いやいや流石にそれは……」
「ないかな? でも別に私はどっちでもいいかな。こうして普通に学校に来れるなんて夢のようだし、それに――」
そしてアオは続けて。
「私の好きな人のユウさんと一緒に学生生活送れるしね」
「っ!」
いや、アオとは文通していただけであってまさか恋愛感情があるとは――
「一分の一ナタリーの時にした、キスが忘れられなくてその――」
「あ、アオ?」
「はーい、同級生のアオは私と一緒に来てねー」
「ミユ!? それにアオの同級生って!」
「だってアオ一年まるまる学校来てないから留年してるし」
「はうっ、痛いところを突かれた」
「なーにが一緒の学園生活贈れるしね、よ。そんなユウさんの妹と一緒に学園生活送りましょうねー」
「あああああ、ユウさああああああん」
…………どうやら浪人組のミユと、留年組のアオで同級生にしてクラスメイトになったようである。
同じ世代はミユが一人なのを心配していたが、ナタリーの頃そこそこ仲が良かったというアオがいるなら安心だろう。
そうして同い年ながら一年二組となったアオとミユ、それで一応全員のクラスが確定したことになった。
始業式の日だからと午前授業であり、姉貴なども含めて全員で寄り道することになった。
そして姉貴や俺の発想らしく、穴場にしてはそこそこに広い十数人が集まれる規模の場所ということで――スーパーのイートインコーナーにやってきた。
「せっかく二年生になれたのにユウジと別のクラスだなんてー!」
「ユウジ様……」
「いやほんと私の数少ない同じクラスメイト記録がね……」
コーラをやけ酒に見立てて煽る一組移籍組三人、まぁ俺も予想外ではあったが。
「ほっほっほっ、ユウジはお任せください」
「よゆー」
「――任せてほしい」
「な、なんかごめんなさい」
俺と同じクラス四人は、微妙に余裕ありげな表情だった。
「私なんて四組だぜー、盟友にして彼氏なユウジと遠いクラスになっちまったー」
「アタシは同じ家に住んでるし別にいいかね」
「私はそもそもユウくんと別学年だし……」
「私はユウ兄と違ってスロウスタートなだけだし」
「でもユウさんを先輩呼び出来るの、いいかも」
コナツほか他クラス・他学年の子も呟く。
しかしこう考えると本当に大所帯というか……。
「そういえば皆のキスポイントは……クランナさんとミユとミナさんは使い切ってるし」
「一日一回ですからね、私は今日使った一回のみなのであと五ポイント残しています」
「私も五だね」
「――私も五」
朝にキスした四人のポイントは五らしい、基準が良く分からないが。
もしかしたら四月一日から一ポイントずつ溜まってるのか……?
そしてユキはスマホ(いつの間にか買い替えていた)を見つめているのだが、どうやら他の子のポイントも分かるらしい。
……つまりはキスを監視しあってるのか、なんか怖いぞ!?
「マジか! ユウジ私と今からキスしようぜ」
「え!?」
「ずるい! ユウ兄と私もする!」
「ミユは使い切ってるじゃん、したら協定違反だよ!」
協定の違反ってなんぞ……。
「うう……我慢する」
「とにかくユウジ歯食いしばれ」
「それは俺殴られるのかコナツ!?」
そしてコナツによる熱烈なキスである……なんというかパワフルだった。
「私はポイント溜めておこうかな。七ポイントでユウさんとのデート権ゲットだし」
「そういえばそういうルールだった!」
「デ、デート権!?」
アオがそんなこと言うとミユが思い出したように叫ぶ、もう何がなんだか分からないよ。
「えっとねユウジ、私たちはユウジの彼女で皆いる為に協定を作ったんだ。それがポイント制だったりするんだけど」
「な、なるほど」
「それとも、そういうの勝手にされて嫌だった……?」
「いや、俺のことを好きでいてくれるならなんでもいいさ」
彼女たちがケンカするのは見たくない、俺が何もせずに全員がある程度納得できる取り決めが出来たなら俺が言う事は何もないだろう。
「……今なんでもするって言ったよね、ユーさん」
「アイシアは協定に入ってないですわよ!」
まぁ、でも責任を取ると言うことはこういうことなのだろう。
彼女たちのコミュニケーションも、スキンシップも、俺はすべて受け入れて一緒に過ごしていくということなのだ。
……いいじゃないか、少なくとも俺が愛想を尽かされるまでは皆と一緒に居たいもんだし。
「とにかくね! ユウジ私たちは、ユウジのことが大好きで! あなたの彼女なのは代わりないからね!」
「ああ、分かった。みんな……これからもよろしくな」
「「うん!」」
「「はい」」
「「おう!」」
それぞれが答えて、そして時間が過ぎていく。
皆で話したり、たまにキスされたり。
それでも、なんだ。
こうしてみんなで過ごせるのは幸せなことだな、と俺は思えてならないのだ。
もしかすれば周囲から白い眼で見られるかもしれない、大きな壁にぶち当たるかもしれない。
それでもみんながいればなんとかなりそうな気がするのだ……根拠は全くないんだがな。
これからも皆と仲良く楽しく過ごせますように、俺は心の中で願うのだった。
@ クソゲヱリミックス! @ END
これが実質最終回です。
この作品を終わりとするならここで切るべきでしょうね……でも、あと1話だけ続きます。