表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第十八章 君には友達がいない(らしい)。
620/638

第621.06話 √6-5 『ナレ視点』『↓』 ※2023/01/23 加筆しました

ルート6 これまでのあらすじ!?


<ユウジ視点>


 男子主人公ユウジが迎えた高校新一年生。 

 過去にあった諸事情から孤立していったユウジは、中学三年生に出会う悪友二人ぐらいとしか親交がなくなっていた。 

 高校生というものに少しは憧れのある一方で、ほぼ中学校から面子が変わらないということで期待もしすぎないようにしていた頃。

 ふとしたことで同じクラスでいて、それなのにほぼ全くかかわりのなかったはずの福島戸夏にまさかの一目惚れをする。

 女子でありながら悪友であり、かつ母親の再婚により義妹となったユイに後押しのもと校舎裏で福島戸夏に告白を試みるが玉砕。

 結果的に二度目の失恋となってしまったユウジだったが、翌日告白をしたばかりのほろ苦いスポット校舎裏に差出人不明の手紙によって呼び出される。

 イタズラなどを疑いつつも校舎裏に向かうと、そこには先日ユウジが振られたばかりの相手福島戸夏が待っていた。


「恋愛とかよくわかんないから告白はつい断っちゃったけど、よかったら私と友達になってくれ!」


 まさかの振られた相手からの友達申請、そこからユウジとコナツの日々が幕を開ける……? 



『どうも私です、助けてくだしあ』 



 しばらく沈黙していた携帯ゲーム機から発声する人工AIユミジが声を発したかと思うと、ユミジ以外の女性の声が携帯ゲーム機から流れたのです。



「「誰?」」



 しかし残念なことに、その声にピンことない人には誰だかまったくわかりませんでした。

 それもそのはず、彼女の声はここにいる面子とはほとんど面識がなかったのです。


「こんな時にいたずら電話的なものかのう……ユミジよ着信拒否しておけ」

『つながっている回線の所在地はこの家……これは、どういうことでしょう』


 桐はうんざりしたようにそう言いますが、ナレーションの私としては声を聞いてわかっていました。

 しかし、どう説明したものでしょうか……ユミジもその通信相手を不信に思っていますし。

 

「今はそれどころじゃないですからね」

『うんうん』


 ホニさんやナタリーに至っても今の状況を鑑みれば相手をするべきじゃないと思っている様子。

 確かに自分たちの存在がどうなっているかわからない現状では、それ以上に最優先することなんてないはずなのです。


 その相手というのが、この世界の誕生に大きく関わっていなければの話ですが。



『まってまって切らないで、たすけて。私ラスボス』



 このままだと彼女が大変なことになりそうなので、禁じ手的なナレーションのキャラへの介入も考えましたが――

 本人がこうバラすならなんとかなるでしょう。


「そういうの間に合っておるから、すまんの」

『ええ!?』


 変なセールス電話と思われてますね……万事休すでしょうか。


『少し待ってください桐、この回線どうやらこの家この階層で、場所的にはアイシアさんの部屋から繋がっているようです』

「なんじゃと?」


 ようやく察してくれましたか、そもそもの話なのです。

 

「そういえば時が止まったこの世界で、どうやって電話をかけてこれたのかな?」


 ホニさんの疑問は至極もっともでした。

 ホニさんが部屋を出ることが出来ない、正確には部屋の外には存在できず、時計の針も止まってしまったこの空間。

 そこに外界から通信が入ったことの意味は本来なら大きかったのですが、全員が動揺していた上に名乗りもしなかったことで相手にされなかったのです。


「確かに! アイシア……さん? どうやってここに電話を――」

『消える、消えちゃいそうなのd、ダウンロードしt』


 美優はホニさんの疑問に同意します。

 アイシアはオルリスとともにこの国この町藍浜高校に留学し下之家にホームステイしている銀髪で赤い瞳をした少女。

 そんな彼女アイシアはいつもの掴みどころのないような雰囲気ではなく余裕がなさそうでした。

 その時、通常はユミジが使っている携帯端末にダウンロードの有無を問われるウィンドウに「イエス」か「ノー」のボタンが表示されました。


「……変なウイルスじゃないでしょうね」

『それはわた……しの人格デー……から、おねが……い』


 美優は怪訝に思いながらも聞こえるのは途切れ途切れになっていく音声。

 ユミジは次第に回線速度が落ちたようにアイシアの音声が安定しなくなりつつあることを認識していました。


『本当に鬼気迫ってるようです。美優、お願いします』

「わかったよ! 何が起こっても知らないからねー!」


 携帯端末もといゲームのボタンを操作し「イエス」のコマンドが入力されるとダウンロードが開始され、パーセンテージの数字が上がっていき、少ししただけでダウンロード率は一〇〇パーセントを迎えます。

 そしてユミジの映っている画面上に、ユミジとは違う人影が現れました――


『た、たすかった……あ、ユミジちょっと間借りさせてもらうね』

『緊急時なので仕方なかったですが、結局のところあなたは誰なんですか?』


 画面を見る限りでは銀髪女子っぽいものを表現したドットのキャラアイコンとユミジがコントしてるみたいなんですが……。


『ええとどうも、アイシア・ジェイシーです! ここ最近の世界(・・・・・・・)まではゼクシズ国からの留学生として下之家にホームステイしてた第一王女です!』


 ”ここ最近の世界”という言葉に一同が眉をひそめる中――

 王女なのは知ってましたが、第一王女なのは地味に初めて聞きました。


「……今のお主はアイシアなのか? それともシアなのか?」


 この中では桐だけが知っているアイシアの秘密。

 彼女の中にはこの時代に生きる”アイシア”と未来からやってきた人格・記憶の”シア”がいること。


『……今は一応アイシアだよ。未来の記憶はあるけどね』


 タイムマシンを利用した精神の時間遡行。

 未来において質量をもった存在のタイムスリップは実験段階というものの、精神においては未来のユウジが開発し実現しています。 

 これまでもその技術を用いてオルリスやマナカの未来の人格・記憶を浸透、現在の彼女らの人格・記憶と共存していました。

 そして未来の人格が未来に戻っても、記憶の類は現在の人間に定着するとのこと。


「今の実際のお主はどうなっておるのか。そこの部屋にいるのかの?」


 桐としてはどうしてアイシアがこんな形で自分たちに接触してきたか気になっているようですね。

 そして今の状況を紐解くカギも探していました。


『もうあの部屋に私はいないよ。あの部屋もきっと単なる物置に戻ってると思う』

「……どういうことじゃ?」

『今の私の実体は、ゼクシズ国にあるんじゃないかな』

「……? このタイミングで留学していないのは変じゃな。ということはオルリス攻略後より前の世界設定ということかの?」


 桐の考えとして、このタイミングで留学・ホームステイしていない状況というのが不可解でした。

 オルリスルート攻略後は三月末に留学の為に下之家にホームステイ委しはじめる”という設定”に最近はなっていたのです。 

 これはあくまでもアイシアの干渉による改変で、本来オルリスとアイシアは別の場所に住居を構えていました。

 つまりはオルリススート以前、ゲーム設定が反映された初期の世界設定が今適応されているのだと桐は推察したのです。


 留学してもゲーム設定に準拠するなら下之家にホームステイすることもなく、部屋に存在もしていません。

 以前のホニさんが世界をまたいだ時、自室に留まることが出来ず神石前に戻されたように、ですね。

 しかし当のアイシアはそれに対して首を横に振りました。


『ゼクシズ国にいるであろう実体(・・)を持った私とは接続も出来ないよ、私は切り離されちゃった側だから』

「実体……」


 実体、というところが桐は引っかかるのでしょう。

 そしてアイシアはあまりにもあっさりとした態度と言葉で、この部屋にいる全員の状況を示してしまうのです――



『というかこの部屋にいる美優以外が、この部屋の外の世界から切り離されてるんだよね』



「「……え」」


 アイシアは自分のこともわかった上で、さらに桐らの現状も理解した上でこの部屋にやってきたのです。


「わ、わたし以外ってどゆこと!?」

『うーん、どう説明したものですかね……まず美優はリアル家族にしてプレイヤー側だから? 対象外って考えてもらえばいいかも』

「……まったくわかんない」

『”はーとふる☆でいずっ!”を起動したことで美優がプレイヤーサイドだったのは知ってる?』

「……たぶん、なんとなく」

『でもユーさん既に”ルリキャベ”を起動済みだったことで、美優はサブプレイヤー扱いになったって感じで』


 これまでの世界が混迷を極めたのも、現実と”ルリキャベ”世界だけでなく、美優の起動した”はーとふる☆でいずっ!”の要素も混ざり合ったせいでもあって。

 本来ならばゲームの起動者がプレイヤーに指定されるところ、先に起動したユウジに優先権が発動し美優にはプレイヤー権のようなものが渡らず”サブプレイヤー”になった……はずだったんですけど。


『サブプレイヤーはプレイヤーの世界まわりの干渉を受けにくい、だからこれまでも”この世界が現実とギャルゲーのハイブリッド”ということも例外的に認識出来てるはず』

「な、なるほど……?」


 原則世界がリセットされる度に”この世界が現実とギャルゲーのハイブリッド”だと意識し・考えるものも疑うものも本来はいないはずでした。

 最初にこそユウジは桐から知らされますが、ゲームの進行による”修正力”によってその認識すら薄らいでいきます。

 普通に過ごすならばここを紛れもない純粋な現実だと信じて疑わず、一年を過ごしまた一年間の記憶を失って繰り返すはずでした。


「というかちょっと待って、さっきからここがゲーム世界前提で普通に話してるけどアイシアは何者なの?」

「というかラスボスとか言ってたのう」


 そうでした、ナレーションの私こそ知っていますが以前アイシアがここにいる面子を曖昧な空間に呼び出して自分を創造神と名乗り、すべてをぶっちゃけたことは<管理>したことでなかったことになった(・・・・・・・・・・)のです。

 

『あー、うん自分で言っちゃったもんね……ユミジや桐は分かると思うけど”創造神”の一人と言えば分かる?』

「な!?」

『……あなたがそうでしたか』


 桐ら視点ではマナカが創造神の一人なことは分かっていました、ただユミジや桐が知らない風なのを思うと創造神が誰であるかは一切明かしていなかったようでした。


『作るもの・読むもの・管理するものという三人がいることは知っていました。マナカは読むもの<リーダー>のようですが、すると二択になりますね』

「ゲーム起動事情を分かっているあたり<マネージャー>あたりか、確かにそれはラスボスじゃな」

「え? え? ちょっと二人で勝手に納得しないでよ、どういうこと」


 ユミジや桐が勝手に納得していたことに対してミユが声をあげます、それはそうですね。


『ユミジや桐の能力は私が貸与してる感じだから』

「「っ!?」」


 そう、ユミジや桐が使うことの出来る各種能力の出どころは<マネージャー>こと彼女アイシアだったのです。


『まあ私ももう一人の創造神から借りてるのを<管理>して貸与してるだけだからまた貸しなんだけど』

「……もう一人の<クリエイター>は誰かの」

『それは言えないかな。でもきっとここにいる皆が知ってる人かもね』


 <クリエイター>と<リーダー>と<マネージャー>の三人が創造神です、もう一人についてもナレーションにして嵩鳥でもある私は把握していますが、言わなくても別にいいでしょう。


『で<マネージャー>な私がここまでの世界を<管理>してたって話。この藍浜町が箱庭になったのも、一年間を繰り返すようになったのも、だいたい私がやったことだよ』

「え……!?」

 

 思わずミユが声をあげ、ほかの部屋のみんなも衝撃を受けます。


「つまり……ループするこの世界はあんたのせいってこと?」

『まあそうなるなる』

「っ……!」 


 あっさりと肯定するアイシアに、さすがに桐も怒りを覚えます。

 

「ど、どういうつもりなわけ? みんなをこんなに巻き込んで、あんたは何をしたいわけ!?」


 ミユは怒りと理解不能なことで思考をぐちゃぐちゃにしながらも、アイシアに対しては画面の中にいなければ掴みかかってもおかしくない勢いでした。


『……私はね、本当はユーさんのヒロインになりたかったんだよ』

「え」

『というのは置いておいて。今は言えないけど、この世界をやり直すことには意味があるよ。そうしないとヒロインの願いは叶わなかったし――救われなかったんだ』


 いつものアイシアらしくない真面目な口調でそう言いました。

 この世界をやり直すこと、ヒロインを攻略することに意味があるのです。

 今のこの状況は創造神の一人が作った仮想現実投影ソフトウェアの動作試験には違いませんが、それはあくまで表面上の口実。

 実際は叶わなかったこと、救われなかったことを、やり直す為に未来の私は――嵩鳥マナカはアイシアと協力していたのですから。


「…………」


 ミユとしても未来を奪われたかのような、都合よく実験のモルモットにされているようなこの状況を作り出した理不尽に対しての憤りがあったのです。

 でもそれがヒロインの願いをかなえる為、救うためと言われると思い当たる節があるのも確かでした。 

 そしてふと考えてしまうのです、今のリミックスした世界でなければユミジや桐やホニさんやナタリーとも出会えなかったかもしれないと。

 自分のパソコンの画面越しに見ていた主人公ユウジとヒロインが結ばれて幸せになる場面と、その物語の度に”救い”があったことを、否定は出来ませんでした。


「一つ聞いていい?」

『うん』

「この世界の繰り返しに終わりはあるの?」


 世界の繰り返しの終わり、一年間を繰り返すこの状況を脱して未来に進むこと。

 ミユだけでなく多くのこれまでの世界の記憶を持った者からすれば途方もないわけで、<管理>してきたアイシアから聞き出す必要性がありました。


『あるよ。ヒロイン全員攻略でこの動作試験は終わり、それがゲームクリア』 


 ――おはよう主人公、とりあえず女を攻略オトセ。でないと世界は止まったままじゃ。

 それが桐が最初のリセット後にユウジに言った言葉でした、攻略を進めることでしか止まった世界から抜け出せることは最初から決まっていたことなのでしょう。


「わかった、あんまり期待しないで半分ぐらいは信じる」

『それで充分だよ』


 アイシアはいきなり現れて突拍子もないことを言って、更に自分がラスボスだと名乗って今の状況を形作る要因をだったと言いますが、その言っていることすべてが本当かを信じるにはミユたちにとっては時間が足りませんでした。

 それでも今は表面上では、その言葉を信じるしかないとは思ったからこその”半分”なのでしょう。


『それであなたが<マネージャー>ならば、どうしてこの状況になっているのですか』


 人工AIのユミジとしても思うところあるようで、いつもよりも機械的な口調でそう問いただします。

 この状況とは桐やホニさんの現状、時間の止まったミユの部屋、それらを含めてでした。


『いやあ痛いところ突かれちゃった……。一応私はこれまでの世界を<管理>してきた、けど今回はダメだった、バグの蓄積を甘く見てた。いやほんと、私という存在が消えかけてデータとして逃げてきたってことで今の私に出来ることは少ないんだよ、ごめん』

「ごめんって……」


 アイシアはあんな性格ですが、身を削って時間を費やしてこの世界の<管理>を行ってきました。

 一つの町、その空間と人間と一年の時を管理することを世界を繰り返しても続けてきたのですから、色々”無理”が出てきたのでしょう。


『この物語のうちに今の歪な状態にはケリを付ける。なんとかする……から、調子のいいことを言うけど今は私のことは見逃してほしい』

「……あんたを許すつもりはないけど、あんたが実体を失ってデータになってここに逃げてくるぐらいには切羽詰まってたのは分かったし、ここで責めてもしょうがないし私は見逃すことにする」


 ミユとしては彼女の言葉を聞いて、ある程度割り切ることに決めたのでしょう。

 世界を<管理>してきた彼女がなんとかすると言うのです、それが出来るかもしれないのは現状彼女アイシアだけしか考えられないので頼らざるを得ないのも確かでした。


「アイシアが仮に本当に<マネージャー>ならわしはその下位互換でしかないのじゃし、神に祈るぐらいの気持ちで任せるしかないのう」 

 

 桐としても創造神の存在は知っていて、世界に影響を与えていることも理解しているからこそ、この現状打破に関しては自分の貸与された力ではどうすることも出来ず、<マネージャー>アイシアに任せるほかないという結論に至ったのかもしれません。  

 ホニさんは「解決してくれたらありがたいかな」やナタリーは『いいんじゃな?』という返答、二人に関しては自分たちが本来は存在できなかったかもしれない・今はいないかもしれない存在だからこそ、感謝したい気持ちと世界を弄ぶようなことを理不尽だと思う気持ちがせめぎあっていて内心複雑ではあるものの、現状は頼らざるを得ないことは理解していました。

 最後にユミジも『なんとかしてもらえれば私はいいです』と淡泊気味に返したことで、今回ばかりはラスボスの存在・所業を”見逃す”ことにしました。


『助かる』


 と、一応の休戦となったことで話題は戻ります。


『……で、現状の整理をしよっかな』


 アイシアがこの現状を、変質した世界を、ひとまずはこの部屋だけがイレギュラーな理由について語り始めます。


『この部屋だけが時間が止まってる原因だけど、以前にも起きた”ユーさん・フリーズ事件”から、プログラム的にはプレイヤーの起動した端末のある部屋という箱を一定領域として認識してるっぽい』

「あの時が止まった件か!?」


 アイシアに言われて桐が思い当たったのは、ユウジが部屋ごと凍結状態になり時が止まってしまった事件のこと。

 ホニさんの奮闘によってどうにか解決しましたが、危うく世界があのまま止まってしまうところでした。


『ここも”プレイヤーの起動した端末のある部屋”だからこそ空間としては独立していて、今度の場合はそのおかげで世界の干渉を免れている……のかな、たぶん』

「もっとわかりやすく言って」


 重要な話には違いないですが、結果的にアイシアと同じように『この部屋の外の世界から切り離されている』理由にはまだたどり着いていませんからね。


『あー、うーん……』


 少しアイシアは悩み整理する時間を経て――



『この部屋の外、限りなく現実。だからこの部屋にしかギャルゲー由来のキャラは存在できません』



 わかりやすすぎて、端的過ぎて、ぶっちゃけすぎました。


『優先順位としてはゲームと混ざることのなかった”本来の現実”、次いで現実を基にした”ルリキャベ”のギャルゲーシナリオの二つ。現実とギャルゲーがハイブリッドしたことにより発生した人格・人物などは存在できないみたいなんだよね。いわゆる異能力や極端なキャラ付けみたいなファンタジー要素の介在しない場所――現実的な世界(・・・・・)ってことかな』


 解釈としては、ここまで現実とギャルゲー世界がハイブリッドした世界の時間を経て構成してきた人格・人物などがこの世界では存在できないようになっている……ということでしょうか?

 

『美優は現実に存在したからこそ部屋から出れるし、プレイヤーだからこそプログラムの領域的にこの空間は保たれてる。でもこの部屋の外はほぼ現実だから”ギャルゲーを嚙ませないと存在しなかった”人たちは存在を維持できない。そゆこと』


 アイシアが突き付けたのは、創作上の延長線上にある人だからこそ今この世界ではこの部屋の中でしか存在できない……そういうことでした。

 これまでの現実とギャルゲーのハイブリッドした世界とは異なるのです。

 

「「っ!?」」


 これに当てはまるのは美優以外の全員。

 桐は本来”美樹”なので、外に存在する場合は現実orギャルゲーシナリオ準拠の美樹人格が優先される(というよりも同一存在ではなく、桐と美樹が分離している可能性もある)。

 ホニさんは本来”時陽子”の体に宿る実在したという神様の魂なので、この家に存在できないし、あるいはこの世にも……。

 ナタリーは本来”中原蒼”の魂が鉈に転生したもの、現実で鉈に転生するというのもゲームの延長線上にあることから、本当ならば存在できない。

 

 そんな現実の延長上、ファンタジーサイドにある人間は、かろうじてこの部屋・この空間だからこそ消えずに残っているということ。

 そのあんまりな事実に全員閉口してしまいました、そんな中でもアイシアは話を続けます。


『私もギャルゲー噛ませなかったらユーさん家にホームステイすることなんてなかったもんね』


 アイシアもヒロインでこそありませんが、ヒロインであるオルリスの影響を受ける方ですからね。

 今の現実を例えるならば、ユウジがマナカ脚本のギャルゲーをもとに現実投影ソフトウェア”ファーストワールド”を開発せずor稼働せず、時間遡行技術も開発せずor遡行せず、未来からの干渉がなかったもしもの世界。

 これまでのことがあってはじめて出会えたことも、知り合えたことも、生まれたことも、すべてなかったことになっている世界なのです。

 

 だからユキやマイやオルリスやヨリも存在はしているのでしょう、だたユウジと関わるきっかけが失われています。

 これまで必然とされてきたユウジとの出会いが、確定しなくなったのです。


『私は”世界の修正力”に消されかけて、消えかけたところでどうにか人格データだけここに逃げてきたってわけ』


 アイシアは実際に存在していたアイシアとのリンクが消え、”世界を現実準拠に戻す”修正力の前に消えかかっていたことで助けを呼んだのでしょう。

 本来ホームステイしない彼女はまだ自分の国にいるのかもしれまんし、それとも留学はしてきてもこの家ではない別の場所に住んでいるのかもしれません。 

 そして本来の現実においての彼女は”未来の干渉”によって生じる人格や記憶の変化が生じません。

 すると現実に今存在しているであろうアイシアと、ここにいるアイシアは別の存在となってしまうのです。

 

『私の部屋はサーバールームだったから修正に手間取ってたのかもしれないけど……というかこの世界にサーバーないんだ、やばあ』

「……サーバーがないとどうなるんじゃ?」

 

 未だにこの部屋の多くの者の動揺が収まらない中、それでも桐としては自分のことで折り合いがついていなくとも、アイシアが危機感を示すことに反応せざるを得ませんでした。

 アイシアはユウジ凍結事件後ぐらいから、学校生活を送りつつコピーロボットなどを活用しつつもサーバールームにほぼ24時間籠って監視・修正などを行ってきたのです。

 今回の事象は致命的なバグで生じたことのようですが、それが結果的にメンテナンスに用いるサーバールームも消え、アイシアも追い出されてしまったというのです。


『これまで細かなバグとかは私がサーバールームに籠って修正してたから……修正無理! バグ野放し!』

「それは本当にまずいやつではないか!?」


 聞かされたのは想像以上に絶望的な状況でした。

 そもそも今までがメンテナンスありきで成り立っていたのであれば、制御不能になったようなもので……今後がどうなるか、完全に未知数となってしまったのです。


『ヤバいよ。これで前の凍結バグなんて起きたら修正できる自信がない』

「ユウジさんがまた……」


 ホニさんはあの時、世界が止まってしまったことを思い返します。 

 あの時はどうにかなりましたが、次は大丈夫なんて保証はどこにもないのです。


『でもこの部屋が生き残ってて首の皮一枚つながったかも。だから美優、悪いけどパソコン借りるね』

「いいけど……なんとかなるの?」

『なんとかしないと私たちが消えるか、世界が壊れるかするからね……なんとかする!』


 アイシアとしても進行不能バグが出て取返しのつかない事態にはなって欲しくはないのでしょう、当たり前ですが。

 さらにアイシアとしてはこの世界を乗り越えて、ゲームをクリアした先の”自分”を見据えているのでしょう。


『だからユーさんにはヒロイン攻略してもらって、この世界はだましだまし進行するしかない!』


 この世界で決定的な改変とか無理だし、と付け加えます。

 つまりはこの空間にいる人間の原状復帰はこの世界では厳しいのでしょう。


『次の世界でこんなことが起きないように、ユーさんの一発攻略を願って一年かけて対策してやる!』


 こうしてアイシアの戦いがはじまった、すべてはユウジの攻略にかかっているそうです。

 ……想像以上に綱渡りですね!?



* *



 それは携帯端末の中での、ユミジとアイシアの二人の間の話。

 今ユミジは外部に音声出力をしないようにし、アイシアに問いかけました。


『アイシア』

『なに?』

『あなたは言いましたね――』


ユミジが繰り返したのは『この部屋の外、限りなく現実。だからこの部屋にしかギャルゲー由来のキャラは存在できません』そんなセリフでした。


『相違ないよ』

『では――なぜ美樹は存在出来ているのですか?』

『どうしてそう思うの?』

『桐は一番わかりやすくハイブリッド世界において生まれた人だとは思います。ですが美樹はあくまでもギャルゲー由来のはずです。そこは説明と矛盾していませんか』


 本来下之美樹はルリキャベにおいて設定されたヒロインの一人のはずです。

 ギャルゲーの設定により時陽子の体を借りるホニさんや鉈に転生した中原蒼が本来存在できないというこの世界において、ギャルゲーのみで現実に存在しないはずの美樹が存在出来ていることに疑問を持ったのです。

 そう、ユミジはこの時は知らないのです――桐と美樹という存在がどういうものなのかを。


『私の言い方は間違ってないし嘘じゃないけど。言い方を変えるなら、そうだね……』


 そしてアイシアは少し考えてから口を開きました。


『ここは”イフ”な世界だよ。もしも現実において生まれなかったはず(・・・・・・・・・)の人物が存在して、それ以外は正史通りな、そんな世界だよ』

『それはどういう――』

『その内分かると思うよ』


 アイシアが多くを語らず、ユミジもそのすべてを理解できていない今。

 私が勝手に表現するならば――


 下之家の三女として美樹が生まれて(・・・・・・・)、桐がいなくて。

 ユウジが幼馴染に振られて。

 ユウジが事故で一部の記憶を失い、その原因を作ってしまったとショックを受け引きこもった美優がいて。

 ユウジがユイとマサヒロ以外と交友関係がなくて。

 ユキが幼馴染じゃなければ、マイがヤンデレ的行動を起こすこともない、ホニさんがいなくて、オルリスやアイシアがホームステイすることもなく、アオが鉈に転生することもなく、ヨリが異能力を手に入れることもない――誰とも結ばれなかった未来のユウジの世界に限りなく近い、そんな”ほぼ正史”世界の物語。

なんと約二年半ぶりの投稿です、一応続きました。

ちょっと書き忘れてた部分があるので加筆しました。


<アイシア視点>


 重なったバグが限界突破した結果、今まではギリギリ混ざり合っていた現実とギャルゲーの要素が反発。

 限りなく現実に近いながらもギャルゲー原作準拠の世界になり、これまで加えられていったファンタジー要素やほかのヒロインルートの要素も削除。

 その結果ユウジの家族構成は母ミサキ、姉ミナ、妹ミユ・ミキ、義妹ユイ・兄ユウジという六人構成となる。

 同居していたオルリスは留学前の状態に、アイシアも留学前なもののサーバー内に意識だけ取り残される、ホニさんはミユの部屋から出ることは叶わず。

 桐の意識だけがミユの部屋に取り残されミキが別に存在することに、完全に独立してしまった空間のミユの部屋と唯一第二の主人公格ミユのみに許された自由。

 はたしてこの世界を無事乗り切ることが出来るのか、ユウジの攻略手腕にかかっている(?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ