第737話 √8-3 『ユウジ・桐視点』『↓』
「で、次は俺の学校か……」
「うんうん」
桐というか、今はミキの能力の一つにテレポーテーションぐらいありそうだが……ここまで自分の足で歩きまわっていた。
すごい非効率的ィ!
「桐は時々学校に来てたの、お兄ちゃんの様子見に来てたからなんだよ」
「えー」
「ほんとだよ?」
しかしこのミキは年相応の表情をするので首をかしげて言うだけで可愛い。
桐も元は良かったんだなと再認識するばかりである。
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わしの主人公のサポートというのは、基本的に”現実では起こりえないこと”をわしの能力で起こすことが基本じゃった。
例えば熱狂的なファンクラブメンバーといっても武器を持って集団で一人を襲うなど、そんな創作でしかあり得ない行動普通はしない。
だからこそわしが学校まで行って男子たちをある種洗脳し煽った側面もある、ようは時と場合によっては思考の誘導も行っていたということじゃな。
それ以外にも高校に来るのはそうじゃな……ユウジが主人公をしておるか、とかちゃんとヒロインに意識を向けられているとかも気になるの。
あとは、純粋にユウジが過ごす高校生活が少し羨ましかったのかもしれぬな。
こんなことは誰にも話せはしないが、わしの兄が楽しく過ごしているところを見て安心したかったのもあったのじゃよ。
主人公にしてわしの兄にしてユウジはいいやつじゃ、気も効くしここぞという時に踏ん張れる、諦めも悪くどうにか手段を考えて攻略を達成していく――わしにとって誇らしい兄じゃった。
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「……なんか気恥ずかしいわ」
「ちなみに全部桐の本心だからね?」
余計気恥ずかしいわ!
え、桐ってそんなこと考えてたのとか本当に驚いてしまう。
……もっとも俺を襲ったファンクラブメンバーが桐の仕業ということは、そのあとのエピソードで水に流してやろう。
「つぎつぎ~」
「お、おい――」
そしてやってきたのは何の変哲もない通学路である。
「ここは桐やお兄ちゃんやホニさんが息絶えた場所だよ」
「……ああ」
しかしミキはドきついことを臆面なく言う、桐とは微妙に別ベクトルでなかなか末恐ろしい。
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原作ゲームであれば主人公は謎の力に目覚めてバトル! ……なのじゃが現実はそうもいかない、普通に考えればの話ではあるがの。
マナカがユウジに伝えたという、原作ゲームには現実にモデルがいると、いうことは――そんな謎の力だって、すべて創作だとは言い切れないわけじゃ。
実際わしが持っているこの能力は、誰かかから貸し与えられたものだということは分かっておった。
しかしまさかユウジが本来持っているはずの能力を根こそぎわしが預かっているとは……のちのちになって知ったことなのじゃが。
だからこそユウジが戦う際にはサポートできるようにした、わしにおける能力譲渡もわしの能力の一つであるほか、譲渡する能力するものもわしが預かっているものじゃ。
それを限定的にユウジに貸し与えることで、戦ってきた。
……しかしこのゲームはどうにもゲームバランスがおかしいらしく、普通にやれば勝てないような相手がラスボスじゃった。
わしはその相手にユウジが勝てるべく、すこーしだけを無理した結果が……わし含めて全員が息絶えるという最悪のエンディングを迎えることになる。
わしが倒れ、ホニやユウジが殺されて行くのを意識が落ちていく中で見てしまっておった。
……どうしてこうなってしまったのじゃろうか。
結論から言うと、わしにとってユウジの多くの能力は全力で使おうとすればキャパオーバーだったことにある。
こう見えて、というよりも見た目通りの童女の身体がその度重なる能力発動・譲渡に耐えられなかったのじゃ。
そうしてユウジは自らを鍛え、わしからのサポートを減少させたことで戦いを挑み勝利するのじゃった。
わしはサポート役として存在していても、足を引っ張ってしまったことを後も散々悔やんだものじゃ。
のちの雨澄の世界でもユウジはわしにあまり頼ろうとせず、どう考えてもわしを気遣っていたからの。
思えば決められた役割こそまともにこなせない、わしは自分の存在意義に疑問を見出すようになり、そんなロクに役にも立たない意味の分からないわし自身が一体何者か、という疑問へと繋がっていったのじゃった――
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「そうか」
やっぱり桐なりに”あのバッドエンド”を気にしていたんだな、と思ってしまう。
俺は別に桐が足引っ張ったとは思ってないんだがなぁ、むしろ俺がどうにかすべきだった……一度でも皆が息絶えるようなことにならないようすべきだったのだ。
思えば桐は正直可愛いかといえば嘘になる、それでも嫌いではないし、俺を勇気づけるようなことも、助けるようなこともいくらでもあった。
喋りが古臭くて、見た目はちっちゃな悪友のような……家族というより、俺は桐をそう思っていたのかもしれない。
そうしてまた家に戻ってきて、今度は母親の部屋にやってきた。
「ここで桐は母子手帳を見つけたんだよ」
「そういうことか」
そして桐はその母子手帳を見て、または何かしらの考えあって――自分がミキであることを自覚したのかもしれない。
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サポートもろく出来ない、そして自分自身でも正直良く分かっていないこの喋り方、わしという人間が分からなくなったのじゃ。
そもそもわしは人間なのか、いやいやそもそもゲームのキャラクターが現実に出てきたのを人間と呼べるのじゃろうか。
そこでわしは自分のルーツをただなんとなく、能力を使ってわしにまつわることを探した結果、母子手帳を見つけ……知ってしまった。
隠されていた記憶、桐というわしになる前の――ミキというのがどういった存在で、どうしてわしのように変化してしまったのか。
それをわしは少しずつ思い出すようになってきておったのじゃ。
わしが原因なのも含めてバグに世界が侵食されはじめる頃、わしにかけられていた”自分のことを詮索しない”呪いもまた解けてしまっておったのじゃ――
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「…………」
「それで、ここからが桐じゃなくてミキのことだよ」
そうしてミキは遠くを見るようにして俺の頭の中に直接語り始める。
それはミキがミキになれず、そして結果的に桐となってこの世界に現れたその経緯だった。