第734話 √8-0 『ナレ・アイシア視点』『三月三十一日』
三月三十一日
どうも、ナレーションです。
そこは暗い……ことはなく、今は電気が燦々と照りパソコンも起動している部屋です。
そこには”この世界のこと”を良く知る人達が集まっていました。
「いよいよだね」
『はい、これで最後の物語になります』
部屋の主ことミユとユミジ、そして――
「緊張します」
『年越しみたいでワクワクしますね』
「わしは終身名誉妹じゃしな」
ホニさんとナタリーと桐も居ました。
深夜も二十三時だというのにこの部屋に集まっているのは――
「更に次はわしがヒロインじゃからな! ほほほ、わしの蠱惑的なボディでユウジをメロメロじゃ!」
『原作ゲームだと○○対策で、ただ主人公が妹と過ごして終わるイカガワシイこと一切無しの癒しルートだったそうですが』
規制が無いからと割とやりたい放題な人工AIがさらっとネタバレをかましてきます。
……というか私の書いた原作も、流石にユウジ他の女の子みたいにチュッチュさせるわけにもいかないしソフトな仕上がりになっちゃったんですよ。
「ネタバ……デマを言うでない! 大体○○対策の意味が分からぬな、そのゲームには十八歳以上しか出ていないはずじゃし」
「なんでそんなすぐバレる嘘付いたの」
ミユにバシっと切り捨てられる桐、というか高校一年生なユウジの同級生メインな以上は全員十八歳というのには絶対なりませんし。
「ほう! そんなこと言っていいのじゃなミユ! 都条例的にはお主がユウジと×××したのもアウトじゃぞ!」
「と、都じゃないし」
都関係なくアウトですけどね、いわゆる比較的ボヤかしているのでセーウトです!
『とか無駄話してたらもう二分切ったよ』
「無駄話し言うでない!」
そう、彼女たちが待つのはこの世界の終わりでした。
まるで年末の年越しを迎えるような雰囲気で皆集まっているのです。
『多分桐のルートは短いでしょうから速く終わりますよ』
「みんなわしに冷たくないか!? そんな日ごろの行い悪かった覚えがないのじゃが!」
まぁ、なんというか……そんないい子ではなかったですからね。
「ええい! こうなれば次の世界で一番ユウジをトリコにして見せようぞ」
『「え」』
「全員ハモることないじゃろ!」
そうして冗談を言い合うような和やかなこの部屋で、これまでの世界を知る者たちの関係は至って良好なのでした。
そして――
「あ、そういえばじゃの」
「桐?」
桐が何か思いついたように言うのでホニさんが聞くと――
「これからは多分わしがわしで無くなるから、そこのところよろしくの」
「「……え」」
桐が言い終わり、皆が疑問を声をあげる頃には世界が終わり――
そしてこの部屋には誰もいなくなりました。
それ以前にこの家、この世界から”たったの二人”を除いて生物すべてが姿を消したのです。
* *
「あー、もうやることやったからね!」
目の前の管理画面に延々増え続けるエラー警告ウィンドウを眺めながら、私はお手上げする。
やるべきことはやった、やれるだけのことはやった。
最低限の布石は打てたし、間違わなければその布石はちゃんと生きるようになっている、そしてもうこの世界の私に出来ることは何もない。
「あとは」
あとは、この世界を生かすも殺すも――主人公次第。
「間違えないこと祈ってるよ」
時計の針は二十三時五十九分五十五秒。
「頼んだよ、ユーさん」
そうして世界は終わり――この部屋の主のアイシアは消えてなくなった。