第733話 √7-66 『ユキ視点』『三月三十一日』(終)
私は世界の終わりを覚えている。
とはいってもこの世界で思い出すまでは忘れていた、それでも何度も繰り返されてきた世界の終わり。
今では分かる、世界の終わりと始まりは想像よりも淡々としているんだよね。
別に世界が滅亡するわけでもないので、至って終わりは平穏に、始まりもあっさり風味だと思う。
世界が終わると、どうなるかと言えばその刻を最後に時間は巻き戻る。
二〇一一年三月三十一日二十三時五十九分五十九秒、次の日を迎えることなく二〇一〇年四月一日〇時〇分に戻る。
一年間の成長も、色んな成果も、何もかもが一年前に復元されるんだ。
たまたま早朝の深夜まで起きていたら、ふっと何の意識をすることもなく瞬き一つで一年前になっているみたいな感じ。
そしてそれまで私は気づかなかったし、この世界の殆どの人はきっと気づかないように――出来ていたんだと思う。
思い返してみても何か痛みがあるわけでもなくて、周囲が大きく変化することもなくて、それでも確かに変わっている、元に戻っている。
そんな私の知る世界の終わり。
そして何の疑問を抱くこともなく、巻き戻った世界を普通に受け入れて世界が始まっていく。
もし次の世界でも私はこれまでのことを覚えていられるのなら、ユウジがこれまでのことを覚えていてくれているのなら。
もしかしたら何も変わらないかもしれない、それこそただ時が巻き戻っただけ、みたいな。
それでも世界の終わりというものを意識してしまうと……怖くなってしまう。
それこそ私が次の世界で覚えていられる保証もないし、ユウジが覚えていてくれる保証もなくて。
私がまた気づくことなく”忘れて”なかったことになって、そしていつも通り……違うかな、正確には私の隣にユウジがいない生活が始まると思うと怖いんだ。
だから私は――
三月三十一日
一度ユウジの家にお泊りしちゃうと、なんだか後を引くというかタガが外れるというか……頻繁に行くようになっちゃうよね。
もちろん私の家にユウジが泊まりにくることも結構あって、学校があった日でも学校を翌日に控えていてもお構いなしに泊まりっこするので……今までもよりもずーっと二人の時間が増えたと思う。
だから私の提案は至って普通のことで、春休み中だからとシチュエーション的にも変じゃないはず、だから私は――
「お邪魔しまーす」
「お邪魔された」
「……お邪魔だった?」
「大歓迎」
そんなユウジとの特に意味もない掛け合い、でもそれがなんだか楽しくて幸せで。
……次の世界では私はユウジの幼馴染に戻って、こんな幼馴染以上にいい意味で気安い関係にはなれないのかな、とふと思い落ち込んでしまう。
私の見てきたこれまでの世界で、誰一人として――ユウジと二度付き合った女の子はいないのだから。
そして泊まると言っても今は私はお客様気分じゃなく、ちゃんとやれることはやるようにしてる。
ユウジだって私の家に泊まりに来ると家族に許可を取ってから嬉々として家事をやりだすし……お母さんお父さんがすっごい喜んでたなぁ。
彼氏に負けていられない! とユウジの家に来ては何かしらをするわけで――
「あー、ユキちょっと風呂洗剤取って来てくれるか」
「持ってきといたー」
「おお、助かる。気が利くぜ」
前に来た時に洗剤の減りが気になってて、もしかしてと思ったらバッチリだった。
なんだかユウジとの阿吽の呼吸みたいで嬉しい、つうと言えばかあみたいな。
「もうユウジの家の勝手も分かってきたかも」
「なら下之家検定も余裕で合格だな」
ちょっとやりたいかもしれない、キッチンにおけるホットプレートの場所はここ! とかかな。
それから夕飯も私が手伝ったりする。
……スパイス一辺倒だった私だけど、ユウジの家に泊まるようになってからミナさんやホニさんの美味しい最強な手本な料理を味わえることもあって普通の料理も上達してきたかもしれない。
そういう変化ってなんだか嬉しいよね、もちろんスパイス大好き! に代わりないけど、おいしいものはおいしいから受け入れていく感じ。
スパイス料理なら誰にも負ける気がしないけど……他の料理でもユウジより美味しく出来たらなんて、女の子としては結構重要な問題なのです。
そうしてお風呂は基本的にミユと入ることが多くて。
お風呂の中でユウジのことで良く盛り上がる、やっぱり妹だからこそわかることもあって参考になる。
そしてミユはミユで私とユウジのこれまでの関係性とかも気になるみたい。
お互い知り得たい情報を交換出来てるからWin-Winだね!
そうして、ついに夜がやってくる。
ちょっと怖い、けど。
「ん? なんか顔についてるか?」
「ううん、別に」
隣にユウジがいるから、きっと大丈夫。
下之家に泊まる際はユウジの部屋で一緒に同じベッドに寝る。
ごく自然にユウジとこれ以上なく近づける時間、これが好きで仕方なかった。
ユウジの体温と、吐息と、鼓動がなんとなく伝わってくる。
それで私は今も安心出来ていた。
「もうすぐ……終わりなのかな」
「……ああ、そうなるな」
「しれっと続いてくれていいのになあ」
「このまま二年生になって、ミユに先輩って言われたい」
「…………ほんとユウジってミユ好きだよね」
「なにおう、ユキも好きだ」
”も”なんだよね、だから皆を好きでいる気持ちは変わらないっていう、ちょっとだけ悔しい感じ。
「そこはユウジ曲げないよねー、はぁ……一度でいいから私だけ好きって言わせたかったな」
「不器用ですから」
「そこは嘘でも”ユキだけが一番超ベリーグッドに好きだ”って言ってくれてもいいのに」
「好きだ、ユキ」
「ちょろいと思われようが許す!」
「ちょろかわ」
「ちょうすき」
「おおう」
たまにマジ顔で好きって言うとユウジもドキってするっぽい、ちょろい……可愛い。
「あと数分……だね」
「ユキ……」
「ユウジ、一応言っておくね」
そう、私は世界が終わる程度ではへこたれない女なんだよね。
「二年生になっても、私はあなたの彼女だから」
それが多分まだまだ先のことだと分かっていても、何度でも言う私の宣言にして告白。
「……それは嬉しいもんだな」
「だから! 私は二年生になっても”この”私だからね!」
「分かった」
「普通にキスしようとするよ? 抱き付いたりするよ? 泊まりにいこうとするよ?」
「ああ、どんと来い」
「というかユウジからも来てよね」
「……前向きに検討します」
「へたれた!」
そうして時計の針は刻一刻と進んでいき、そして――
「ユウジ好き! 大好き! ずっと好きだった、これからもずっと好き! だから、だから――」
それはこの世界最後のキス。
このまま繋がっていれば二人が離れることはないかもしれない、そうであってほしい、本当なら世界なんて終わらずに続いてほしい。
ずっと私と付き合って、それで、それで――
「ユキ、愛してる」
「うん、私もだよ!」
私の願いは叶わず世界は終わり、そして――
私は消えてなくなった。
√7 END
「もしもユウジが”幼馴染になりたかったユキ”と結ばれたら」
これはそんな十つ目のユウジの”イフ”の話。
これにて√7完結です。
ぶっちゃけた話今の文章でマイの裏ルートをリメイク(事実上の焼き直し)になるはずが、想定と全く違う作りになりました。
なんだかこのルートはユキが主人公の小説を書いている気分になりました、ユウジ視点も結構あったんですけどね。
さて、クソゲヱ的には最後の山を越えました。
あとは短めな終章と少しの後日談のような感じです、どうにかこの作品の完結も見えてきました。
もう少しクソゲヱリミックス!にお付き合いください。
……え? 追加ヒロインの続編、もちろん忘れていませんよ(棒)
それよりも先に序盤について大きく手直ししたい気分です。