第199話 √2-4 G.O.D.
四月二六日
放課後姉貴に呼び止められた。
昼食時にとんでもない爆弾を弁当にしかけてくれた姉貴は「放課後にね、ユウくん少し教室の前で待っててくれる?」と何故かは知らないが、友人達に別れを告げる中一人閉め切られた教室を追いだされ、廊下に立ちつくす。
二〇分は待ったであろう、既に生徒もまばらで各運動部の今日の活動も始まっている頃だ。
「ごめんねー」
息を切らしながら駆けてくる姉貴。確かに待ったけども、息を切らすまでまで走らなくても……
「ホームルームで遅れちゃった、ごめんね?」
「いや別に構わないぞ? で、用件はなんだ?」
何も聞かされていない状態で放課後残留指令が来たので、一体なぜに俺を呼びとめたのか。
「ユウくんに……伝えたいことがあるの」
「!」
なんだ、この姉貴の雰囲気。ギャルゲーならばしんみりとしたBGMが流れ出し、立ち絵から夕日をバックに立つヒロインのCGが展開されるだろう、ってそんなことどうでもいい。
ゲームならば、ここで放課後告白タイム(HKT)で、いつもにも増して頬を赤らめる姉貴から推測するに――
熱か。
流石にある訳ないって、俺への愛の告白なんかは。なんか最近の姉貴の溺愛がガチの愛に変わりそうな気がしないこともなくて時々戦慄を覚えているけども。
それはいけない。背徳恋愛とかさ、学生の身で何しでかしているんだよ、と。学生でなくても白い目で見られること確実で、湖に飛び込んで心中未遂後、海外逃亡しなくてはならないハメになる。
パソコンの放熱現象で熱が籠るのが機械には良くないのと同じように姉貴も熱のせいでいつも以上に脳に負担がかかって脳内回路がおかしくなっているのだろう。
「あのね……」
そうなれば、間違いを冒す前に止めておこう。
「私……」
「姉貴、もしかして熱ある?」
「私の……へ?」
俺の気遣いに呆気にとられる姉貴。違うの?
「いや、顔赤いし熱あるんじゃないかなーって」
「だ、大丈夫! これも演出の一つだからっ!」
「演出?」
「……はっ」
しまったと言わんばかりに口を押さえる姉貴。
そして、悲しいことに鍛えられた俺の五感は殺気を直ぐに感知できるようになっていた――
「ちっ、外したか」
近くから少し男勝りな女子の声。更に……大勢いる、だと!
「それでも執行しろ、皆の者かかれぇっー!」
「「イエッサー!」」
しかし俺の回避は神懸かっていた。
囲まれる直前に人との隙間を縫って床をスライディングし追手は回転しながら拳を振り回して攻撃。
その中で随一と言っていいほどに運動神経が優れているようにも見える先程の男勝りの女子の力強い勢いのある拳が俺を襲う。
「(ハイ●ーセンシティブ)」
あれよあれよと振りかざされる拳を避けて行く。その様はお花畑を踊るようにも見えた。
「な、なんだと!」
流石の男勝りもこの動きには驚いたようで。
「(トライア●ンド)」
流石にト●ズは使えないので、火事場の馬鹿力――男女平等パンチ! ……も現代社会的、俺の意識的に出来ないので、フェイントで逃げっ!
「あ、まてぇぇぇぇぇぇぇ」
しつこく追いかけてくる生徒共を振り切り、学校を出た。
「はは、俺の勝ちだ」
……にしても何だったんだ? アレ。演出とか言ってたのを見るに、姉貴も仕掛け人ってところか。
一体なぜあんな超劣化済みバトルシーンが展開されるほどに俺を捕まえたかったのか……謎過ぎる。
姉貴はおそらく今日も生徒会……生徒会? もしかして、生徒会関連とか……どうだろうね。
今日は共に帰る相手がいない、そうだな。丁度いいから商店街の惣菜屋で”いっぱい☆コロッケ”でも買って帰るか。
えーと、どうもナレーターです。久しぶりですね、今までずっと視聴させていただいてましたー。
四月二一日からは一話からのおさらいってことですかね? そして姫城事件があり……今日は、あれ?
なんか展開変わってません?
それで一方の生徒会室。
「え! 捕獲出来なかったの!?」
「面目ない……アタシがアイツを甘く見ていたんだ、ごめんな下之副会長」
「いいの、いいの……協力してくれてありがとう、みんな」
「ミナ、気落とさないで……私たちの出番これで終わりだけど」
「ええっ、シモノユウジとの関係性が無くなってせいで私たち出番ないの!?」
「そうよ、アスちゃん……だって絡む意味がないもの」
「そ、そんな……」
「……あのさ、さっきから会長とチサさんは何話してたんですか?」
「こっちの話よ、気にしないで」
「そうですか? なら聞かないですけど……」
「ナレーター、聞こえてる? 私たちの存在意義無くなったのだけど、どうしましょう?」
私に聞かないでください。
……生徒会が絡まないということは必要以上に拘束される時間が減るということ。
学校行事も日常も……一体誰が今回は主役なんですかね?