第721話 √7-54 『ユウジ視点』『十ニ月二十四日』
十二月二十四日
ついにクリスマスイブの日がやってきた。
終業式から既に四日経っており藍浜町は既に冬休みモードとなっている。
ここ一か月近くはバイトをしながらユキとの時間も作り、プレゼントについても入手済みである。
電動ミルもアクセサリーも隣街のデパートまで買いに行っている、通販を使えばいいと思うかもしれないが我が家の方針で通販禁止令が出されていた。
まぁそれも以前母親がたまたま休みがあって長く家に居る機会に、居間で昼ずっと通販番組を流し見していたらムシャクシャして手あたり次第に注文してしまい請求が大変なことになった前科があり、家計を財布を握る姉貴によって下之家は通販自体が禁止されてしまった。
ちなみに手あたり次第に注文して届いた通販グッズは一度開封されただけで今は物置部屋に眠っている、そんな通販グッズの海にナタリーが紛れているので割と不憫な気もするかもしれない。
もっとも最近再婚した(ことになっている)ユイに限っては例外で、たまに届くkonozamaな箱はユイ宛てのものであり、それはちゃんとユイが払っているものとのこと。
オシャレにうるさい(という姫城の世界以来の設定)のユイに俺のデート服をコーディネートをしてもらった。
……浮気じゃないですヨ、手伝ってもらっただけですよ。
まぁ例えオシャレに着こんでも、冬場なのでコートに覆われてしまうのだが……まぁ屋内などで脱いだらダサいと幻滅だろうし、整えて正解だろう。
そうこうあって学校のある日と同じぐらいに早起きをして身支度を整えて家を出る。
コートを着込んで外に出たものの、普通に寒い。
気温的ならばユキが降っても……おっと、神天気かな?
じゃなくて雪が降ってもおかしくない寒さなのだが、朝から夜まで晴れ予報であり雪に縁は無さそうだった。
今の俺の出で立ちはといえば――
スキニーパンツなるフィット感と履き心地を両立したスリムな黒いパンツ、クリームのTシャツに薄茶色のニット素材のセーターを着こみ、藍浜高校指定コートで身を包んだ一品。
……実はパンツに関してはユイから「使用済みだがくれてやろう」と貰ってしまったから手元にあるわけで、女子のお下がりを着るというのはなかなか複雑だが丈までフィットしてしまったのだからしょうがない。
他は家にあったもので見繕えた、高校指定コートですべて覆われてしまっているが……まぁ冬だからしょうがないだろう。
ちなみに家に普段使いのコートがあったのにあえて指定コートにしたかと言えば、いわゆる学生鞄をもって不自然でないかにある。
ユキへのプレゼント袋をそのまま持ち運ぶわけにもいかず、かつデートでリュックはなぁと考えた結果の学生鞄の中身を空にしてのプレゼント収納だった。
学生鞄に合うようにの学生コートなのだ、一応それっぽくちゃんと意味はあるんだぜ!
カバンに入っているのは、アクセサリーの入った箱と電動ミルのパッケージ、あとユキならいくらでもストックしてそうだが電動ミルに使えそうなスパイス数種類セット。
……喜んでくれるといいんだがな。
そしてしばらく待ち合わせ場所の、いつもの登校時に顔を合わせる場所でユキを待っていると――
「おっはよ~、ユウジ~!」
白いモコモコのコートに身を包んだユキがやってきた、なにこれ可愛い。
今は耳元からズラしてこそいるものの、またモコモコした真っ白の耳当てを付けていて純白可憐な天使がそこにはおったそうな。
「お、おはようユキ」
「待った?」
「いや待ってない、それよりも今日のユキすっごい可愛いな」
「ちょ! そんないきなり直球に褒めないでよ! ……すっごい嬉しいけど、ありがと」
またまた白いモコモコモコの手袋をした手をブンブンブンと振りながら顔は赤くして照れるユキ、紅白ユキたまらんです。
しかしこんなに全体的にモコモコしていてもほっそりと見えるあたり、やっぱりユキのスタイルは良いんだろうな。
「じゃあまずどこ行こっか!」
「そうだな――」
「……とりあえず屋内入るか」
「……うん、さびゅい」
こう普通に会話していたが朝だけに普通に寒いのである、いや気温自体は氷点下下回ってるんじゃないかこれ……。
待ち合わせ時間も早かったために商店街に行っても本屋も映画館も空いていないということもあって――
「困った時のスーパー山中!」
「……確かに助かった」
スーパー山中とは藍浜町に一店舗だけ存在する藍浜商店街内にあるスーパーである。
町に一店舗というのが珍しく地方の町的リアリティがあるのだが、コンビニは数店舗あるし、商店街内に八百屋・魚屋・肉屋・菓子屋etc……と充実しているのだ。
実際このスーパー利用者はセール目当てか、色んな店を回るのが面倒な層とか、日用品売り場も併設されてるから、的にどうにか生き残っているようだった。
そしてこのスーパー、営業時間がこの町では朝六時からとクソ早い。
この町にコンビニは確かに数店舗あるものの、二十四時間営業しているのは半分ほどで、一部のコンビニは午前九時開店午後九時閉店と個人商店レベルなのだ。
ここで飲食物を買ってイートインコーナーで補給してから、ちょうど商店街逆側に位置する国道側出入り口にはバス停も隣接されているのもあって、ここから出勤……なんて会社員も少なくないとか。
なによりもこのイートインコーナー、何かしら買いさえすれば結構な時間居ても何も言われないという絶好の溜まり場にして穴場である。
俺はホットのおしるこを、ユキはホットのコンポタをそれぞれ買ってイートインスペースで一息つく。
「ほんと穴場だな、ここ」
「そだねー」
クリスマスイブ当日にして、お祭り気質を抑えきれない藍浜町民にしてリアル充実者の方々は、ホテルスタートだったりファーストフード直行だったりカフェで待ち合わせだったり……まぁこの小さな街でそんな需要が巻き起こるとなれば混雑は免れないわけで。
デートにスーパーはちょっと……というのを思う人も多いようで、結果この時間にイートインコーナーにいるのは、クリスマスイブなのにどう考えても出社しようしている会社員数人と俺たちぐらいとなっている。
「じゃあここで落ち着けることだし――じゃん! ユウジにクリスマスプレゼント~」
「おおー!」
ユキが手にも持っていた紙袋から可愛くラッピングされたプレゼントが出てきて俺の手元にやってくる。
どうやら軽く柔らかいもののような。
「開けてみてみて」
「じゃあお言葉に甘えて……おお!」
そうして出てきたのは――マフラーだった。
それもどうやらマスプロ品などではない、手編み製!
「これ、もしかしてユキが作ったのか?」
「……そ、それはどうかな?」
違うのか!?
「なんでそんな不安にさせる言い方を!?」
「じゃ、じゃなくて! そう、だけど……どう、かな? あんまり上手じゃないかも」
「いやいや、温かそうだ。ありがとうユキ」
薄紫色の丁寧に編まれたマフラーで、今年の冬は首元を暖かくして過ごせそうだ。
「え、えへへ……それにね、このマフラーちょっと長めに作っててね……ちょっと隣お邪魔して……ふんふん、こんな感じに」
「お、おう……!」
こ、これは……!
「一緒の時は二人で巻けるように……ね?」
「ほ」
「ほ?」
「ほああああ」
惚れてまうやろおおおおおお!?
いやとっくに惚れてたわ。
いやあこうすると自然に接近できるし、ユキはちょっと肩と肩で触れ合うだけでもドキドキするし、このマフラー最高では?
「そ、それにね……ちょうど恥ずかしいところを隠せる長さ!」
「それはちょっとよくわかんない」
「恥ずかしいところのこと……い、言わなきゃダメ?」
「いや、なんとなく分か――分からないけど、問題ないから! ありがとうマジで!」
ユキの照れっぷりとモジモジっぷりに、裸にマフラーを巻きつけてギリギリ隠している姿を想像してしまったのは俺悪くないと思う。
それは別の小説でやってくだしあ。
「じゃあ俺からは――これ」
「あ、開けていい?」
俺が鞄から取り出したラッピングされたパッケージをユキに渡して、もちろんとを答えると――
「こ、これは! 電動でスパイスを挽けるやつだ! これすっごく欲しかった!」
「なら良かった」
一応この町でも探したのだが、そんな局所的な電化製品・調理器具扱ってはおらずデパートに向かったのだった。
「今ならこの数種類のスパイスをお付けして」
「……い、いくらかな?」
「プレゼントはプライスレス」
「きゃー素敵! ちょっとカレー弁当買ってくりゅ!」
スパイスのこととなるとキャラが崩壊している気がしないでもないユキ、本当に好きなんだな。
「ちょ、っとその前にもう一つ」
「え? も、もう一つお付けして!?」
「そうじゃないっす」
ユキ相手に俺は通販やりにきたわけじゃなくて――
「これ」
「……開けていいかな?」
「ああ」
そうしてユキがまた包装を開けると――
「雪の結晶……!」
「そんな感じだな」
ユキが手に取って目を輝かせながら見ているのは――雪の結晶を象った二種類のブローチだった。
二つセットになっていて、どちらも良く見ると形状が違う結晶を形作っているのが特徴だった。
しかしユキがそれを最初に見た時に妙に驚いた様子だった……実は持ってる~とかじゃない、よな?
「キラキラして綺麗だね……ブローチかな? うん……これすっごく嬉しいな、とっても……嬉しいなぁ」
「なら良かった」
気に入ってくれたよう安堵する俺は――
「今日は雪が降らなさそうだから、代わりにな」
などと供述しており――
「…………ごめん、それは笑っていいところ?」
「なんかすまん」
「うそうそ。私のこと考えて選んでくれたんだなぁ、ってのが分かってとっても嬉しいよ。ありがとユウジ!」
「ど、どういたしまして」
そうこうしてお互いのプレゼントは好評を博したようでなによりだった――