第717話 √7-50 『ユウジ視点』『↓』
そうこうして第一回にして大盛況にして行われたカップルコンテストにて、大多数の生徒の前で行った俺たちの交際宣言を以て、のちに情報の拡散などして俺とユキと付き合っているということは全校生徒の周知の事実となっていた。
いや……自意識過剰とか言われるかもしれないが、ユキと姫城両ファンクラブの規模を舐めちゃいけないし、ミナ副会長の弟というネームバリューも手伝って話題力は抜群だったそうである(ユイ談)。
ちなみに姫城の世界では暴徒化したファンクラブメンバーが俺に襲い掛かってくるイベントがあったものの、何故か今回ばかりは存在しなかった。
その理由としては生徒会副会長の姉貴がどうやら裏で目を光らせていたのと、ユキファンクラブメンバーは俺たちの交際をどうしてか祝福し、マイファンクラブは今後を見守っていく方針のようだった。
実はかつて俺に襲い掛かってきた”ユキ様LOVE”なファンクラブメンバーを名乗る者は”マイ”ファンクラブメンバーだったのである、いわゆる敵陣営へのなりすましだった。
一部の過激な生徒が敵陣営のファンクラブ・もとい敵陣営が慕う子を間接的にでも貶めるべく行っていた行為らしく、全体で見ればユキ・姫城両者の恋を応援する体だったというのだ。
ということもあって俺に時折送られてきていたお呪いの手紙は敵陣営のなりすまし作戦が交錯した結果ということで、どちらかと交際が決まったことでそんな作戦も終了するというものだったらしい。
ちなみにユイやマサヒロは俺への攻撃に一切干渉しておらず、本当に精鋭化した一部のファンクラブメンバーによるものだったとのこと。
そんなことから両ファンクラブメンバーはというと敵視するのは俺ではなく(している者もいたかもしれないが)、むしろ敵陣営を敵視して派閥争いのようになっていたのが真相だった。
んなばかな。
いや、確かに思い出してみれば姫城と付き合ったあとは、各ファンクラブそのものが特にアクションを起こさずにフェードアウトしていったのは今思うと不自然であり、両者の恋を応援しすぎた結果起きたこと、となると分からないでも……ない?
他の世界でのファンクラブ活動が見られないのが物語の道具らしくてウンザリしていたのだが、そもそも俺とユキや姫城がそういった関係にならなさそうなことから活動が活発化しなかったということで一応説明が付いてしまう。
……派閥争いって普通に怖い。
一応ファンクラブメンバーの数人が俺に声をかけてきたのだが「ユキ様を幸せにしてやってくれ、不幸にしたら●す」「今の彼女と別れたらマイ様と付き合え」というもので、なんと熱心なファンの方々ではあるもののこれはこれで両陣営怖い。
ちなみにファンクラブ以外の世間はというと「大体知ってた」「姫城ちゃんと付き合うと思ってたのになー」「やっぱり幼馴染だと勝手が違うんだねー」などと、そこまで衝撃的ではなかったようである。
まぁ実際今の今まで、誰も聞いてこそ来なかったが俺とユキの近づいた距離感からほぼ付き合っているように認識されていたらしく、晴れて全校公認となってしまったようである。
まぁ、そうして俺とユキは公認カップルになり。
時々冷やかされながらも、基本的には祝福されて誰かに陰口を言われるということもない、必要以上にもてはやすこともない、実に優しい世界になっていた。
そうなれば別にコソコソせず二人で居ることも可能なのだ、もっとも登下校デートは普通にしていたので今更かもしれないが。
「いこいこー!」
「おー」
一年二組出しもののカレー屋のメニューはシーフードカレーのみ。
しかし当初の安価な冷凍シーフードだったそれがどこから仕入れたか生シーフードミックス使用に、カレーに抜群に合う高級米を揃え、野菜ほか具材も今朝市場で仕入れてきた新鮮なものと、試作時よりも素材選びは本気である。
更には辛さが一辛から十辛まで十段階で選べる工夫が奏してか初日にしてリピーターもいるほどだ。
そんな一辛はリンゴとハチミツを使ってそうなぐらいの甘さな子供も安心の美味しさで、十辛はEELカレー並ともっぱらの噂……もっとも俺は普通の辛口クラスの五辛までしか食べてないが。
ユキは激辛もいけるので七~十辛に関してはユキ監修のそこそこヤバい辛さから、死にそうな辛さながらもうまいシーフードカレーになっているそうだ。
ちなみに十辛の完食を達成すると……十辛専用カレー無料券がもらえる。
普通は苦行のあとに苦行に挑めなどと鬼畜の所業かと思われるかもしれないが、雨澄が現在その唯一達成者で早速十辛無料券ループに入ってカレー屋の売り上げを圧迫しているとかしていないとか。
辛さ調整も手軽に出来るようにしたことで、レシピ通りに作りさえすれば安定したカレーが出来るので俺やユキがかならず監修しなければならない、ということはなかった。
おかげで休憩のローテーションもホワイト気味に行え、俺たちも晴れて休憩時間を貰い文化祭巡りを謳歌出来ているということだった。
……まぁカップルコンテストで交際発表した手前、クラスメイトが気を利かせてくれたということも無くはないのだが。
あの俺たちを見送る際の生暖かいクラスメイトの目が忘れられない、いやまあ有難いことだけども……。
「皆楽しそうだねー」
「だなー」
お祭り気質な藍浜高校の生徒のみならず町民も訪れたことで相当な活気に満ちている。
西に祭りあればワッショイワッショイ東に祭りあればワッショイワッショイ、祭りが特定地点であるとそれ以外の土地がゴーストタウン化する都市伝説があったりなかったり。
実際お祭り大好きな町民性故に祭りに全力を出すのもまた然りであって、文化祭の気合いの入りまくった出し物を見ていると全力で遊んで楽しむこともいいものだと思える。
ちなみにある意味全力を出し過ぎた例の休憩場所は、勇気あるものの通報によって基本設備そのままにシースルー化されてイカガワシイことは出来なくなったという。
シースルーだからこそイカガワシイことをしようとするのはこの学校にはいないはずである……いないよな?
「射的やりたい!」
「やるか」
モノホンの縁日商から借り受けた設備と、縁日に準じた景品を揃えた射的がユキの目に留まったようだった。
というか射的の受付の人、どう見てもモノホンの縁日商にしか見えないんだが。
一応学生を特殊メイクで再現と謳っているものの……実際のところ人も借りてきたりしたんじゃないだろうか。
そして縁日同様のシビアさで、数回の挑戦で収穫はキャラメル二つだけだった。
「おっ、これ面白そうだな」
「なになに?」
ぶらぶら歩いていて目を付けたのは部活棟にある「B級物品展示会」という出し物だった。
「あー、これ知ってる!」
「こんなのあったな」
流れているのは中学生の頃ぐらいにやっていたバラエティのビデオ映像。
しかしこれがマニアックな代物で、かなり予算をかけているセットながら裏番組のせいで視聴率は低迷したまま放送十数回で打ち切りになってしまった番組だった。
全部を見ていないにしても、あーそんなのあったなと思えるものだ。
……というかこれテレビ局に許可取ってるのかよ、この部活――『B3部』ってすげえな
「これすぐ店頭から消えたヤツだ」
「見た事あるかも」
鳴り物入りで発売しながら、あまりに挑戦的すぎる味だった為に姿を消した清涼飲料の缶。
ミユとかと自販機巡りをしていた頃の俺のB級スピリッツが燻られるぜ。
「それにしても誰もいないね」
「そうだな」
ショーケースでえりすぐりの珍品を眺めているだけで楽しくはあるのだが、そのB3部の部員の姿がまったく見当たらない。
さながら地方の役所などに隣接している、係員の誰もいない資料館のようである。
「あ、そういえば! この学校には部員が存在しないはずなのに活動はしている痕跡のある部活がある――って七不思議聞いたことあるかも」
「なんだよ怖いな」
「だから本当の意味での幽霊部員がこの部活にはいるんだって」
「……お祓いした方がいいんじゃないか」
正直展示物には親近感を覚えたが、なんだか微妙に怖くなってきたぞ……とはいっても展示物には罪はないのでじっくり見た。
中には出版されなかった(作者不明)の生原稿小説とかもあったが、この部活は一体どういう存在なんだろうか、もしかすると色んな人が集まってワイワイする部活だったのかもしれない。
もっとも本当に幽霊が集まっているところならいわく付きすぎるので祓った方がいいと思うのだが。
それから俺たちは文化祭のパンフレットを眺めていると、体育館でクランナとアイシアの演劇があるのを知って移動する。
美少女留学生コンビによる新感覚ロミジュリということで前評判も上々だ。
「面白そうだね」
「楽しみだな」
そうして俺とユキは観客席のパイプ椅子に隣同士で腰かけ、自然に手と手を合わせながら演劇を鑑賞した――
演劇を見終わった、なかなかの満足感である。
「それにしても二人が自殺してからの幕末転生は驚いたな」
「そうそう! 二人とも和装似合ってたね!」
西洋世界観で原作にある程度忠実に展開されたロミジュリは終盤のラストと思われた展開から一転、二人が日本の幕末に転生して再び出会い恋に落ちるという壮大なストーリーだった。
セットはまだしも衣装もまるで変わっており世界観は大きく変わる、それからの元ロミオ役のアイシアが繰り広げる殺陣は見応えがあった。
確かに見ていて結構面白かったが……劇作家が西洋演劇と時代劇の両方をやりたくて二つぶちこんだんじゃないかとかは言ってはいけない。
面白さは正義である!
それから文化祭を巡る。
チョココーティングのスティックゲーム屋などというものが屋外の屋台に出ていて、明らかにそのチョコスティックの値段暴利だろと言いたかったが自家製とのこと。
相変わらず良く分からないところで気合が入っているのだった。
「ん、これ美味しいよ!」
「……本当に本格的だ」
チョコの質もそうだが、企業秘密レベルのプリッツェルスティックのカリッと感が凄い……謎の技術すぎる。
「ユウジ、こっちこっち」
「ん?」
「ん」
「お、おい……」
ちょうど人の少ないところまでやってきて、ユキはチョコスティックを口にくわえて差し出して来たのだ。
いわゆる伝説のチョコスティックゲーム!
……いわゆるチキンレース的にも、イチャイチャ的にも使われるゲームで、スティックの両方から食べていきそのままマウスゥトゥマウスゥするか、寸止めにするかは関係次第である。
「ん!」
「わ、わかった……」
そうして俺とユキは向き合う恰好で、チョコスティック自体もそこまで長くないので開始時点で顔が近い。
ユキがカリカリとチョコスティックを食べていくので、俺も負けじと食べていく、そして――今日のユキはチョコ味だった。
そんな具合に時々イチャイチャしながらの文化祭巡りは終わったのだった。