第716話 √7-49 『ユウジ視点』『十一月六日』
そうして二人が打ち明けあったあと、少しの二人の時間を過ごしたあとには普通に文化祭準備に戻った。
……もちろん二人の時間といっても、いくらご休憩場所だといっても、別にキスだけだからな?
そんな学校で×××するとか、考えられないし……そんな発想もその時の俺にはなかったし。
というかもし仮にしでかしたら普通にバレるだろうし。
そんなの隠ぺい側に立たないと、例えば生徒会とか……まぁ、俺には全く関係ない話だ、うん。
ともあれ、ユキでありユキカのことも俺は分かり。
俺は俺で俺のことと、この世界のことも話せてスッキリとしたことで。
きっと二人を阻むような、微妙にことが上手くいかないようなことはもう起きないだろう、そんな予感がしていたのだ――
十一月六日
大盛況のカレー屋でてんてこ舞いにカレーを作り続けていた作業から解放され、ようやく訪れた休憩時間に――
『第十五問! 彼の好きな食べもの飲み物はなんでしょう?』
ユキの回答は「ドクターペッパーとカレーパン」と。
その情報は古いですよユキ! と姫城が「ドデカミンとから揚げです!」と。
『彼君! ではその答えは』
俺は自分に正直になった結果……マイの方に〇札をあげる。
なんだろうな……世界を経ることで、ちょっと趣向が変わったのかもしれないな。
もちろんドクペもカレーパンも好きなんだが、一番は何かと聞かれれば今はこれなのだった。
「ぐぬぬぬ」
「よしっ」
ユキが唸り、姫城がガッツポーズをすると観客が盛り上がる。
体育館のステージ上で、多くの生徒に見守られる中……ユキと姫城に挟まれながら修羅場っていたのだった。
どうしてこうなったのかと言えば――
* *
藍浜高校文化祭カップルコンテスト。
俺としてはまったくもって初耳なイベントなのだが、存在したらしい。
これまではミスコンが開催されていたのだが、「女子を見世物にするのか」などというモンスターな抗議があってコンテストの形だけが残り、女子の要望の多かったカップルコンテストになったと言うらしい。
まぁこう言っちゃ難だがギャルゲーとか昔のラブコメとかにはあったもんなぁミスコン、もうそういう時代じゃないってことか……と高校生一年生の若造がそれっぽく考えるのだった。
いわゆるリア充向きイベントであり、カップル仲のアピールや、そもそも目立ちたいウェーイ勢向けらしい。
なんだ、俺には関係ないじゃん。
「あるんだが、それが」
栃木のヤンキーの逆のことを言い出して俺にの心を呼んだかのようにユイが絡んで来て――
「ユキ氏とユウジ氏でカップルコンテスト応募しておいたお」
「え!?」
「なあに礼はいらないってことよ、友人からのささやかな後押しサ!」
そういえばそうだった……マイの世界の時のユイは文化祭で妙にしつこく俺とユキをくっつけたがっていた。
というか今思えばなんだったんだろうかあのキャラ、散々俺をニブチンだの罵倒してきてた気がするんだけど、君今とキャラ違くない?
まぁでも考えればユキと俺の関係を自然に公開出来る機会なのかもしれない。
もしかすればこれはユイGJ部かもしれんぞ……。
しかしまた別のタイミングで――
「乗るしかない、このビッグウェーブに」
突然マサヒロが俺に話しかけてきた……なんか嫌な予感がするな。
「ユウジと姫城さんでカップルコンテスト応募しておいたからね」
「えぇ!?」
「なにお礼はいいよ、僕が良かれと思ってやったことだからね。文化祭の空気でモノにしちゃいなよ」
空気でモノにするとか微妙にゲスなことを言っては去っていくマサヒロ。
「どっちも事後承諾はやめろ!」
……というか、これ二人が俺とユキ・姫城でカップルコンテストに応募してるんだよな。
「ダブルブッキングじゃねえか!?」
いやでもまさか運営側も彼役が重複してたら、審査かけたり、一組になるように働きかけてくるだろう。
そうなったら姫城には悪いが断らせてもらおう――
なんやかんやあって。
『第一回! 藍浜高校文化祭カップルコンテスト~! ひゅーどんどんぱふはふ!』
普通にカップル審査が通ってしまい、ステージ上に立つ俺を挟むようにユキと姫城。
どうして、こうなった!
『ではでは、カップルの”カレ”と”カノ”紹介です――』
というか司会委員長かよ、こういう仕切るの好きなの? それとも単純に人材不足なの? 低予算なの?
『エントリーナンバー八番です……が! ななななな、なんと! ”カレ”サイドがブッキングしてしまったようです!』
「「え~!」」
観客大盛り上がり、委員長司会進行うめえ……。
『この場合どうなるでしょうか、解説のひだまりさん!』
解説とかいるのかよ、そしてクラスメイトの愛坂ひだまりかよ。
『え~、これは修羅場になってしまう気がしますね。果たしてどういった経緯でブッキングしてしまったのか、盛り上がってまいりました』
人の修羅場をエンターテイメント感覚で楽しもうとするんじゃない。
『考えられるのは彼女Aが出してしまったカップル申請の一方、彼氏が出したカップル申請は彼女Bだったという可能性です』
『つまり、どうなりますか?』
『これは……二股ですね』
「「えええええ~!」」
この解説すげーテキトーなこと言ってんな、そして観客大盛り上がり……主に女子が。
ワイドショー感覚なの? 晒し物にされてる気分になってくるんだが。
「なるほどなるほど! これは完全に修羅場確定ですね! ちなみに申請者はそれぞれの別の友人だそうなので、その可能性は無しでーす」
「実はそう思ってたんだよ」
クソ解説すぎるだろ、チェンジ!
しかし印象としては俺の二股イメージが一部に付いてしまった、ご覧くださいこれが印象操作というものですよ。
「さて、ブッキングした場合ですが。このコンテスト初開催なので前例に縛られません! ということで”カレ”一人に対して”カノ”二人でもOKでーす」
「「うおおおおおおおおおおお」」
いやいやいやいや! 審査で落とさなかったから嫌な予感したけど、出場取り消せよ!
「ということでエントリーナンバー八番のカップル……トリオ? は三人席を用意していますので、お使いください」
くっ……さっきまでの流れ完全に茶番で、俺たちを出す気マンマンだったんじゃねえか。
そしてトリオって言うとお笑い芸人みたいになるから凄い嫌なんだが!
「それでは出場者も揃ったところで、参りましょう! カップルコンテスト~”カプ・コン!”」
その略し方ロックなマン作ってそうな会社になってアウトだろ!
「最初の種目は、題して! カップル愛確かめ選手権!」
それ神な舌で見たやつ――
* *
で、現在に至る。
この番組……じゃなかった、イベントのルールとしては”カレ”が”カノ”のことについて正解するとポイントが入り、その逆も然り。
ちなみに不正解だとポイントマイナスで、カップル総合計数のポイントでコンテストのランキングが決まるようだ。
……いや、そのルールだと場合によっちゃ三人出場の俺たちが有利すぎるのでは。
そして他のカップルもそれに疑問を呈さないのは何故なのか、もしかして他のカップルも仕込み的なヤツなのか
『第二十問! もし”カノ”に告白されるなら、または実際にされた時! どんな言葉やシチュエーション?』
…! ここに来て核心を突くようなことを。
というかこれは……マジで答えなきゃダメなやつなのか。
ユキの最初の告白シチュエーションとか、正直お茶の間で話せる気がしないんだが、
姫城は姫城で俺をゲッツ……じゃなくて拉致して刃物で脅して告白とか、これは警察案件になってしまいますぞ!
……ここはもう不正解でもいいから書きだそう。
そうして俺はユキ「校舎裏の木の下で”好きです”」と書き、姫城は「病室で看病してくれる彼女が”好きです”」と。
まぁ間違ってない……間違ってないはずだ、ユキの告白はちょっと意味合いが違う告白な上にシーンは繋ぎ合わせてるけど。
姫城の告白は、俺と姫城の立場が入れ替わってるから厳密には違うんだけども、一応あったことだ。
『それでは正解は』
『越前製菓!』
ちょっと解説うるさいんで退場させてもらえます?
『おおー! 八番カップル、どっちも正解! いや~ツボを突いてきますね~!』
どっちもアリだったらしい。
というか一応元ネタを踏襲するべく、”カレ”がホワイトボードオに書いて公開する前に”カノ”がホワイトボードに予め書いたものを公開するのだが。
大体一致している……ということで正解判定だったようだ。
『さてすべての問題が終わり、最後の問題が一〇〇点問題だったことで――八番が優勝です!』
「はい!?」
「「おお~」」
すべての問題が終わったことも、クイズ番組にありがちな最後の点数百倍とかも、完全に初めて聞いたんだが。
そして他のカップル! 少しは抗議して! 普通に暖かく拍手しないで!
『さて優勝者の八番の三人には金のメロンパン入れと、学食一年間分無料を三分割したものをお渡しします』
メロンパン入れいらねえ。
そして一応商品一年間分無料を分割すること初耳だし、三分割すると大体四か月分じゃん……微妙に景品表示法違反なのでは?
『それではここで八番のカレカノさんがそれぞれ言っておきたいこと、あればどうぞ!』
「はい、ユウジ様好きです。付き合ってください」
「「ここでガチ告白!?」」
観客総ツッコミである、そして言われた当人は硬直するしかない。
なんちゅうタイミングで言うんだこの子は……まぁでも俺の答えは決まっているのだ。
「ごめんなさい」
「「え~!」」
「BOOOOOOOOOO!」
「マイ様の告白を断るとは何事か!」
「処する? 処する?」
俺が即断ると観客から大ブーイングである、こればっかりはしょうがないと思うがなかなか気持ちよくはないものだ。
「お断りする理由を、聞いてもよろしいですか?」
まぁ姫城はそう聞くよな……。
「俺には付き合っている人がいるんだ」
「「えええええ~!?」」
「アタシだったかー」
「もちろんわたくしですわね」
「もしかして私とユウくんが!?」
「ユ、ユウ兄!?」
「――弁当、作って」
「わ、わたしの可能性!」
『まさか司会の私だったなんて、照れますねえ』
なんか観客席に居る誰かさん方が皆好き勝手言ってんな!
というか委員長はマイク音量でかくて全員に丸聞こえだからマジで今は黙って。
『まぁ多分私だとは思いますが。誰と付き合っているか、聞けたりしますか』
委員長じゃないから、それはないから……。
俺はユキの顔を見ると、緊張しながらも深く頷いた。
「俺は篠文ユキさんと、付き合っています」
「「ええええええええええ」」
『え~ 本当にござるかぁ? 篠文さんそこんところ、どうですか!』
そうして委員長にマイクを向けられたユキは少し俯き気味にして――
「……はい、ユウジと付き合ってます」
それでいてしっかりと頷いた、照れてるユキかわいい。
「「はあああああああああ!? 納得いかないなああああ?」」
「「よっしゃああああああ!! さすがユキたん、大勝利」」」
「いやいや、ユウジはマイ神と付き合うべきだと思うけど」
「負け犬がなんか言ってるなぁ」
「フフフ、ユイ僕はマイユウ派なんでね。幼馴染は例え結ばれても最終的に滑るんだから、愚かな選択だね」
「なんだと! アニメダキーポセカンド一期の中恋さんの悪口はやめろ! というかユキユウ派のアタシにケンカ売ってんのか? あぁ!_?」
というか申請者した二人対立してんのかよ……そして、それをキッカケにファンクラブメンバーでの抗争が始まった。
血を血で洗うような事態になって――いたそうだが、俺は二人は連れてさっさとステージ裏に引いて行ったので実際は知らない。
そうして大騒ぎの観客席をステージの布越しに聞きながら――
「あのねマイ……私、私ね」
「なんとなく、そんな気がしていました。おめでとうございます」
「ごめん」
「謝らないでください、二人の友人として祝福しますよ」
姫城……まるで聖者であり天使のようだ。
「ただ、諦めてはいませんので。気を抜いたらダメですよ? いつでもいただきにいきます。それでは――」
という不穏な言葉を残して一人去っていった。
…………やっぱり俺の元彼女にして姫城マイ、油断ならない相手である。