第715話 √7-48 『ユウジ視点』『↓』
ユキに呼び出された時は告白のワードが頭をよぎったが、いやいやまさか……と思っていたら。
愛の告白ではなく、とんでもない告白が待っていたのだった。
まずは俺がこれまで他の女の子と付き合っていたことが完全にユキは分かってしまっていたこと。
そしてユキは本当はユキカであり、俺が最近夢に見て思い出した幼少期の出来事に登場したサクラとミユと姉貴以外の女の子の正体であったこと。
正直ユキカに関しては今まで点と点でどうにも繋がらず、思い出の中の女の子と母さんが口にするユキカという名前の子が別人だと俺は勝手に思い込んでいたのだ。
そんなユキがユキカなことを覚えていて、幼少期の俺とのことを覚えていると言うことは――これまでのことを文字通りすべて覚えていることの裏付けになっていて。
そしてユキが言う事はもっともなことなのだ、俺がこれまでの女の子のことをどう思っているかとおいうことも。
実際俺も考えは決まっていても、いざ話すとなれば躊躇するような考えであって”逃げ”が許されるなら濁してしまいたいぐらいだった。
しかしユキにここまで言われてしまった以上は俺も腹を括る他ならなかった。
俺の考えが及ばなかったし、彼氏失格に他ならなかったのだが……ここまでユキが追いつめられているとは思わなかったのだ。
でもユキの目線に立てばそれは決しておかしなことではなく、彼氏彼女の関係になったはずがの
彼氏に今も他の女の影チラつくとなれば不安になるに決まってる。
そして俺にとってユキカとあの幼少期の出来事が今更繋がったわけで、しかしユキの中ではずっと覚えていたことであり、自分が覚えているのに彼が覚えていないというのは……それこそ悲しくなるに違いなかった。
そんなユキは”告白”のあと俺のもとを去ろうとした。
しかし俺は謝らなければならないし、ユキが話してくれたのだから俺も自分のことを話すべきだと思ったのだ。
だからこそユキを引き止めようと後ろから抱きしめてみれば――ふよん。
両腕で感じるこの柔らかさはといえば――
「きゃあ!」
「す、すまん!」
この世界初めてのユキの告白で、触れることが叶ってしまったユキの胸の感触であった。
相変わらずなんともハリのある感じは他の女の子の比ではなく――ハッ! 俺はなんて最低なことを!
「……ユウジ。こういうのってタイミングが大事だと思うし、次第によっては百年の恋も冷めると思うんだ」
「ごめんなさいごめんなさい」
俺は躊躇ない土下座を慣行する、もうこればっかりは俺にすべて非がありますもの。
ユキの決死の覚悟のあとでこんなセクシャルハラスメントを働いてしまって本当に申し訳ない!
「……いいよ、別に。ユウジは彼氏だし、それに私だって、私からだって、わた……」
「それ以上いいから!」
自分のはじめての告白を思い出し、恥ずかしさに喉と身を震わせるユキを静止する。
「こんな引き留め方意図してなかったとはいえ、本当に悪いんだが……俺からも話したいことがあるんだが、いいか?」
「…………うん」
ユキはOKしてくれたものの、俺が話そうとする内容は白昼堂々話すというのには少々厳しい。
「ちょっと場所変えるか」
「……うん」
それから適当な場所を探していると、なかなか二人きりになれて静かに話せる場所というのは少ない。
そんな時出会ったのが――
「ユウジ、ここプレオープン中だって」
「お、おう」
一年三組だかの出し物、というより名前だけなら手抜き感満載の『休憩所』だった。
俺がさっき出し物周りをしていた時に見つけた出し物だが、休憩一時間いくらとかが妙に気になっていたのは確かで。
「なになに……『全四室! テレビ・カラオケ・ベッド付き! 完全遮光! 完全防音! どれだけ叫んでも外まで聞こえません!』――だって」
「お、おう」
休憩室にしては気合入りすぎだろ、とか。
文化祭の休憩室にベッドは必要ないだろ、とか。
遮光と防音は防犯上どうなんだ、とか。
色々ツッコミどころは多いのだが――
「コインいっこ入れるだって」
「しかも安い!」
一時間百円だそうである、いやこの設備考えたら破格すぎるだろう!?
一時間で基本的に四百円しか稼げない出し物とか……回転率は低いわ利率はほぼゼロだわ、絶対ペイ出来ないって。
とはいえ完全防音というのは、別にいかがわしい意味でなく今回ばかりは勝手が良い。
俺が百円をコイン入れに入れて一つの部屋にユキと入っていった――
「ユウジ、ユウジ! カラオケある!」
「だな……」
休憩室は窓もない密室で、部屋の中にある照明のみが灯りとなる。
狭い空間にベッドとテーブルとイスとカラオケとテレビを押し込んだ結果、ベッドを覆い隠すように置かれたテーブルの周りを囲むように椅子が置かれて、そのベッドに接するようにテレビ兼カラオケモニターが置かれている。
テーブルは折りたたんで立てかけることでベッドも普通に使えるようで、ベッドを使わなければ大きいテーブル付きのカラオケ部屋である。
……まぁそもそも文化祭の休憩室にベッドはいらないと思うんだが、なんだかことと次第によってはいかがわしいことに使われてしまいそうなんだが……。
とはいっても、しょうがない――ここは使い終わったら生徒会に通報しておこう。
他の世界では生徒会役員として、今も生徒会役員の弟としてそこそこ名の通っている俺がこんな不明瞭な出し物を看過するわけにはいかない。
まぁ一時間キッカリ使わせてもらってから通報しようと思っているあたり、なかなか俺もアレなのだが。
「……それで、ユウジの話したいことって?」
「ああ、そうだ」
俺が話したいことは、ある意味言い訳に聞こえてしまうかもしれないことばかりだ。
でもこれまでの世界のことを知っていて、俺がこれまでそんな行動をとらざるを得なかった理由を話すには仕方ないことだった――
「実はな……まず前提として、この世界って一年間をループしてるんだ」
「それは、なんとなく分かってた」
全部覚えてるならそうなるよな。
「で、このループするこの世界は――現実とギャルゲーが混ざってるんだ」
「…………え?」
まぁ、そういう反応になるよな……。
「ギャルゲーって……あのユイとかが話す女の子が出て来るゲームの……?」
「それなんだ。で……ちょっと落ち着いて聞いてほしいんだが、そのだな…………ユキもそのギャルゲーのヒロインでな」
「えぇ!?」
そうなる、だろうなぁ。
「ど、どういうこと!? 私はつまり架空の存在ってこと!?」
「いや、それがなかなかややこしくてな……そのギャルゲーの原作が委員長なんだよ」
「なんでそこで委員長!?」
「俺としても意味分かんないんだが、委員長が俺を中心に実在の女の子をモデルにしたギャルゲーの原作となる小説を書いて、それが未来の俺と未来のアイシアの目にその小説が留まってな……未来の俺が開発したタイムマシン・二次元現実投影システムを用いた実験にその小説を使うべく、委員長がタイムスリップしてこのギャルゲーを結果的に過去にさかのぼって開発させて、そんなギャルゲーが紆余曲折あって俺の手元にやってきてプレイした結果ギャルゲーと現実が微妙に混ざり合った今の世界が出来ちまった――そういう訳なんだ」
「普通にイミワカンナイ」
まぁそうなるな。
「一応話さないといけないんだが、委員長は人の心とかを覗ける能力を持っててな。その時に覗いたヒロインの心の中にある願いを中心に小説にしたんだ。例えばそうだな……姫城だと『自分を変えたい』クランナだと『好きになった人と結ばれたい』のような感じだったか」
「え、それって……私が幼馴染になりたいって思ってて、それが叶ったのも……?」
「間接的に委員長がやったんだろうな。委員長が願いを読み取って小説にして、そのあとは委員長の意図でなはなく未来の俺たちの策によってギャルゲーになって現実と混ざり合って実現した……ような感じか」
「…………うそー」
ほんと、俺もそんなこと聞かされたらマンガの読み過ぎだと思いますもん。
「で、ギャルゲーってのは主人公が女の子を攻略する……というか、恋愛関係になるゲームでな。恋愛シミュレーションゲームとも言うし」
「……うん」
「その主人公に俺が選ばれた結果、委員長が選んだ実在の女の子をもとにしたキャラ……というかほぼ実在の女の子なんだが、その子達と恋愛関係にならなくちゃいけなくなってな」
「……うん?」
「というのも俺が女の子と攻略しないと、この一年間をループする世界を抜け出せないらしくてな……だからこれまで色んな女の子と恋愛関係になってたんだ」
「…………」
正直俺が聞かされたらヘタクソな上に救いようのないアホみたいな言い訳である。
でも大体本当なんだよ……俺も正直受け入れられているか微妙にしても代えがたい事実なんだよ……。
「つまり……今の私も攻略してただけ、ってこと?」
「それは……半分違う。これまでも攻略のつもりで女の子と付き合ってたら……いつの間にか本気で好きになってた」
最初は攻略だと意気込んで、少しの罪悪感を背負いながらも女の子と関係を持って行くのだが……いつしか本当に、マジで好きになっているのだ。
それは今までの皆全員に共通で、時が経った今でも――俺が皆を好きな気持ちは変わらないのだ。
「じゃあ私は?」
「…………本当のこと言うと、だな。ユキは俺にとってこの世界での初恋みたいなもんなんだ」
「うそだ」
「嘘じゃない! 俺がこの世界の主人公にされて、初めて出会ったのがユキだった! 一緒に通学するところで、すっごい可愛いと思った! こんな女の子と付き合えたらなって思ったんだよ!」
「ほ、ほんとかなぁ」
「だからこの世界の為に攻略しないといけないと思っていても……普通にユキと付き合いたかった」
「調子いいの」
「……そう、思われても仕方ないよな。悪い」
もし、普通に俺とユキが出会っているか、本当に幼馴染だったのなら
俺は成長していくユキを隣で見つめながら……好きになってしたかもしれない。
隣で見つめるってるのが自分で言っててキモいけど、男の妄想はキモいもんだ! 悪いか!
「私のことどれぐらい好きか教えて」
「いっぱいちゅき」
「……ちょうどポケットにあるハバネロパウダーを皮膚に擦り込んでいい?」
「マジでごめん」
ふざけるところじゃなかった……全部あのクソアニメが悪いんだ。
「好きだ」
「他の子と比べると?」
「…………皆と同じぐらい」
「嘘を付かないのはいいことだと思うけど、それを言われて嬉しいと思うのかな」
「少なくともユキの為なら世界救っちゃうぐらいには好きだ」
「…………てきとう言って」
自分の気持に嘘は付けないし、ユキにだって耳障りのいい言葉を並べることだって出来ない、他の女の子を裏切ることだって出来やしなかった。
そしてユキにこれまでの女の子のように危機が迫れば、自分の身体を投げ出してでも助けに行く……正直クサい台詞だけど、これまで俺はそうしてきたつもりだ。
「……ユウジ、この世界だと皆に好かれてるよ。私の幼馴染はおモテになって誇らしいですわよ」
「それでも、俺はユキの彼氏だから」
「っ! でも! 皆のこと好きなら、告白されたらOKしちゃうかもしれないじゃん!」
「いや、絶対のこの世界ではユキ一筋を保証する」
「……それ言ってること相当クズいよ」
「……全てが終わったあとで誰か一人を選ぶことってのは出来る気がしない」
「でも女の子はその人にとっての一番がいいよ? その人にとっての唯一がいいよ」
「……そう、だよな」
ユキの言う事はすべてもっともなのだ。
言うなれば、極端だが来年には別の女子に浮気するかもと明言しているわけである。
とんだクズ野郎である、でも俺としてはこればっかりは曲げることが出来ない。
少なくとも俺が女の子それぞれに愛想尽かされたあとでも、俺からはみんなのことを好きでいたい。
「…………あーもう!」
ユキはせっかくセットしていたと思う自分の髪をぐしゃぐしゃとすると――
「ユウジはこれまでの世界で私以外の女の子の願いとか気持ちとかに答えていったってことでいいの?」
「……結果的にはそうなるかな」
「つまりは、ユウジと結ばれて皆幸せだったの?」
「俺はそう思いたい」
主人公として、いや一人の男子として、俺なりに向き合って、戦ってきたつもりだった。
自画自賛……となるかもしれないが、俺は皆を幸せにしてきた自信がある。
「だからユキも幸せにするから」
「……この世界では、ね」
ぐうの音も出ない。
「じゃあとりあえずは! この世界では浮気禁止! 私のことだけ見て! 私だけの男の子になること! それは絶対に譲れないから!」
「それはもちろんだ。約束する」
「もし約束破ったら傷口にハバネロパウダー塗り込んで口内にも流し込むから」
こ、怖い……がそれぐらいやるぐらいの権利がユキにはあるのも、俺には理解出来る。
「わかった」
「じゃあキスして。少なくともこの世界では……ううん、これまでの世界でも一番とびっきりのキスして! この世界が終わるまで私のこと幸せにして!」
「ああ」
「じゃないと、許さないんだからね――」
防音で良かったと、本当に思う。
それから俺たちは長いこと唇を合わせていたのだった。
そうして俺たちはこれまで隠してきたことを打ち明け会ったことで、少なくとも俺は胸のつかえが下りるようだった。
というか男としては、主人公としては嘘でもこれからもこれまでもユキ一筋だと言うべきだったのかもしれない……が、俺は嘘をつけなかった。
そこまで自分は器用に出来ていないし、それにこれまでのヒロインを裏切るようなことは出来なかったのだ。
だから俺はユキと他のヒロインを天秤にかけて、他のヒロインをとった。
……そう思われても仕方ないし、それが間違いでもない。
詭弁だし、言い訳でしかない、自分を正当化する卑怯な考えかもしれなくても――その皆にはユキも入っている。
だから好きだ、ユキもマイもホニさんもユイもオルリスも姉貴もアオもヨリもマナカもミユもコナツも。
誰が一番好きかと聞かれたら答えられない、誰か一人選べと言われたら俺は選べない、もし一人にしなければいけないことになったとしたら――俺はみんなの前から去るだろうと思う。
皆を好きでいられないなら、皆が俺といることで不幸になってしまうのなら、俺はすべてを諦める覚悟だ。
これはユキと付き合いながらも、マナカに言われたゲーム攻略後の、この一年間を抜け出した世界を考えて導き出した俺の結論だった。
でも最終的に諦める、わけであって……どうにか皆が幸せに、皆といれるように足掻いて足掻いて足掻くつもりではある。
諦めるのは何をやってもどうしようもなくて、何をやっても皆が辛く悲しんで、それはもう取り返しが付かない事態の寸前、いよいよ詰んだ時だけだ。
俺の皆を好きな気持ちは、そんな簡単に諦められるほど小さいものではないのだから……たぶん、いや相当に諦めが悪いはずだ。
じゃなきゃこれまでの世界は俺をここまでやってこれていない。
ゼロか百ということしか考えられない、頭でっかちだし、不器用だし、一方でワガママで自己中心的で……どうやら俺はそういう人間らしい。
ぽつぽつと取り戻す記憶の中にいる俺とは、もしかしたら今の俺はまったく別の考え方をしているのかもしれない。
もし、そうだとしてもこの繰り返す世界で俺はそんな自分を手に入れたのだ。
突き止めれば、そんな俺はギャルゲーの主人公のキャラクターそのままになってしまったのかもしれないし、はたまたそんな主人公からも外れてしまったような何かになってしまったのかもしれない。
実のところ分からない。
今の自分は正しいのか、それともすべてことが進むように作られたキャラクターでしかないのか、はたまた本当に偶然に出来上がってしまった人格なのか。
ルーツなんて考えても仕方ない、今こう考えている俺は俺でしかないのだから。
少なくとも俺は主人公を演じているつもりでいて、一方で自分の意思で行動もする、そんな人間になっている。
そんなハイブリッドでいて、中途半端でいて、歪かもしれなくても――終わりまでは俺はそれを貫いていく。
それ以降は……主人公の役目が終わった時は、その時考えることにする。
それまではつかの間の、ユキとの二人の時間・世界を過ごそうと思うのだ。
プチ後日談
ユキ「委員長、ちょっと!」
ユウジ「委員長、俺の彼女がモノ申したいって」
マナカ「なんでしょうか」
ユキ「ユウジから聞いたんだからね! 私とかをモデルに小説書いてたってこと!」
マナカ「……バレてしまいましたか、そのことに間違いありません」
ユキ「っ! ど、どこまで知ってるの?」
マナカ「それは幼少期の篠文さんが下之君に惚れる出来事から、今はキスだけでは物足り――」
ユキ「あーあーあー!」