第713話 √7-46 『ユキ・ユウジ視点』『↓』
※今日から最終回まで毎日更新します
私の記憶だと、私がユウジに告白した日は今日で。
文化祭を目前に控えて、準備時間の合間にユウジを呼び出しての……告白。
私はその機会に三度目の告白にして、はじめての”自分にまつわる告白”をする。
本当の私について、本当のユウジとの出会いについて。
それをちゃんと言って、ユウジが本当の私を受け入れてもらえれば、きっともう自分のことで悩む必要もなくなるはずで。
物事が微妙に噛みあわないような、上手くいかないようなことがきっと解消されると思えて。
だから私はユウジを呼び出す前に洗面所の鏡の前で身だしなみを整える。
「よ、よし」
ちゃんとした告白だからと、変に服は乱れてないかとか髪がはねてないかとか、鏡の前でにらめっこして。
覚悟を決めた私はユウジに携帯でメールを送って呼び出す、そして私は校舎裏の大きな木を目指すべく歩みを進める。
緊張はしているけど、そこまで不安じゃないのはなんでだろう、文化祭の賑やかな空気のおかげかな。
そんな時、廊下を歩いていて。
「あっ」
少し遠くにユウジの背中を見つける。
携帯はまだ……見てないのかな? それならそれで一緒に木に向かってもいいかも、そこでちゃんと告白しよう。
「ユ――」
そうして名前を呼ぼうと手を上げて近づいていくと、ユウジの死角になるように一人の女子が居て、話しているところなことに気付いてしまった。
……だ、誰と話してるんだろう? と何故かギリギリ近くの柱に隠れてしまう、別にそんなやましいことはないはずなのに。
どうやらユウジと話しているのは女の子のようで、お化け屋敷出し物のクラスなのか、血糊などで制服を汚している恰好のあの子って……カレーレシピ決めの時に審査員に来てた雨澄さんだよね?
以前の世界でユウジと付き合っていた女の子で、別のクラスなのに私たちのクラスに来て堂々交際発表したインパクトは凄かった。
そしてそのあと幼馴染的にはユウジをどこの馬の骨とも分からない女の子に渡すのは抵抗があって、ふと話してみたら……いい子だしユウジのこと良く分かってた。
ユウジについての話題で白熱したり、昼食を共にしたこともあったぐらいで、いい子で……だから私としては警戒してしまう。
微妙に二人の会話が聞こえてくる、喧噪の中でも聞こえているのは私が注意深く聞いているせいなんだと思う。
「――ところで、そろそろUの弁当が食べたい」
そういえば雨澄さんと付き合っていたユウジは、私たちの付き合いが悪くなった一方でその子と昼ご飯にしていたようで。
……ん? でもちょっと待って、そろそろユウジのお弁当食べたいってどういうニュアンスなの?
それだとまるで、ユウジのお弁当を食べていた頃のことを覚えているような――
途切れに途切れに「彼女を放置するとはぷんぷん」とか「週三回は作っていた」とか「カレー弁当」とか聞こえてくる。
ああ、やっぱり”彼女”ってのが彼氏彼女のことなら――
「――夢の中では私たちは交際していた。現実でも付き合って欲しい」
……っ!
それは告白に他ならなかった、マイと同じように夢に見ていたという話で。
でもそれは夢じゃなくて、実際にあったことで。
そして雨澄さんはユウジにちゃんと告白するぐらいには好意を抱いているわけで……!
「いや、俺実は付き合ってる人が――」
そうユウジが即座に否定してくれることに安堵する私がいて、一方で雨澄さんが振られたことに安心している私に失望している私も居て。
そう、だ。
ああ、そっか。
私の晴れないモヤモヤは自分のことだけじゃなくて――ユウジのこともあるからだったんだ。
もしユウジがこれまでの世界のことを覚えていたとして――今ユウジは他の子のことをどう思ってるの?
私が覚えている限り、知っている限りの女の子のことを今も好きだったりするのかな?
本当の、本当に私のことはどう思っているのかな?
「――でも、私があなたに興味を抱いてることは忘れないでほしい」
「……っ! でも、すまん」
「――Uが幸せならそれでいい、じゃ」
ユウジが彼女に謝って、断っているのに、晴れない不安が心の中に渦巻いて。
気づけば私はユウジと逆の方向に走り出していた。
ああ、ユウジの本当のことを聞きたくないなぁ。
実は私のことはそこまで好きじゃないのかも、とか。
実は今も他の子の方が好きなのかも、とか。
こんなの”幼馴染の私”らしくなんて全然なくて、自分の好きな男の子がモテていたら不安になってしまうような、嫉妬深くて、器が狭くて、全然いい子なんかじゃない私はそんな人間で。
逃げたい、告白から逃げ出したい。
もし私が自分の本当のことを告白をして、ユウジももし自分の本当のことを話してくれて。
その時に私が否定されてしまったら、他の子の方が今も好きだと言われてしまったら、きっと立ち直れない。
だから、もし告白なんてしなかったら。
今と変わらない関係が続くはずで、それもいいかなって、妥協したっていいかなって思えてもしまって。
でも……でも!
「自分で決めた……ことだから!」
廊下の喧噪の中で走りながら叫ぶ。
文化祭で急いで走る人なんていくらでもいるし、喧噪に紛れて誰も気に留めることもない。
だから私は、せめて自分の決めたことをやり通したい。
きっとユウジと私の本当のことはいつか向き合わないといけないことだったはずだから。
逃げちゃだめだ、不安な自分と戦え私!
ユウジを好きな気持ちが誰かに負けるなんて思ってない!
なにせ私はずっとユウジのことを考えていたんだから!
幼い頃から、遠く離れても、ユウジが私のことに気付かなくても――ずっとずっと”ユウジと幼馴染になりたい!”というその気持ちを覚えていたんだから!
* *
「ねえ、ユウジ」
どこか悲しそうに言葉を紡ぎ続ける彼女に、俺はただただ見つめることしかできない――。
俺の幼馴染の”はず”の彼女は――
「私は……幼馴染になりそこねちゃった私はさ」
その告白は辛そうで――
「私……覚えちゃってるんだよ、これまでユウジ君が――色んな女の子と付き合ってたのを、さ」
「何も無かったように振舞うべきだったかなぁ……ねえ、ユウジくん」
彼女は”やっぱり”俺と同じように――かつての記憶を持っていたのだ。