第706話 √7-39 『ユウジ視点』『八月二十日』
八月二十日
ぶっちゃけ夏休みの終わりまで二週間も切ったところで登校日なんていらないんじゃないかと思う。
実際ホームルームと全校集会だけだし……割と本気で長期休みだけに、生存確認的な意味があるのかもしれないのだが。
にしてものこのタイミングは本当にピンと来ない、事情的には盆を避けた結果とかなんだろうか。
ちなみに肝試しの後も”四”の付く日は縁日ということで、四日・十四日と縁日もとい夏祭りにワイワイと皆で出かけていた。
その他にも学校の冷房がキンキンに冷えてやがる図書室の一室を使っていつものメンバーで夏休みの宿題消化しにかかる日、なんてのもあった。
なんというか……色んな意味でこれまで経験した夏で一番充実していた気がするな!
それはこれまでの世界どころか、皮肉にもこの生涯で一番高校生らしい夏休みを謳歌出来たような気がしてならなかった。
基本インドア系っぽい集まりにユキや姫城が加わることで、途端に色んなところに遊びにいったりしているわけだから二人の影響は大きい。
ちなみに委員長はいたりいなかったり、姉貴とも出かけるような時はミユも付いてくるような具合だった……しかし知りえているとはいえミユが普通に引きこもりを卒業していてビビる。
というイベントのちを思い出しつつの今日は登校日であり、なんだか一気に高校生の本分を思い出せてくれるぜ……。
まぁ、せっかく学校に来るというのでユキと一緒に登校するべく待ち合わせをしていた。
「おはよー」
「おは」
そうして向かってくるポニーテールをフリフリ揺らしながら駆けてくるユキ、なんというか絵面が健康的な上に可愛い。
「いこっか」
「おう」
そうして二人手を繋いで歩きだす、もはや何の疑問を抱くことも、必要以上の照れもない二人のスキンシップだった――
彼氏彼女になったからと毎日会っているわけではなく、基本夏休みは皆で集まる時に会う感じだった。
それでも携帯電話で話したりメールで会話したりはしており、ふとした皆の注目が集まらない時や場所に二人の時間……なんてのもあったりする。
別に隠しているつもりはないにしても大っぴらにしていないせいで未だ隠れて付き合っている感じであり……なんだかスリルがあってドキドキするな。
バレる時はその時だと思うし、いずれ皆に明かす機会もあるかもしれない。
と、ある意味では俺たちの関係の周知に関しては先延ばしにしているのが現状だった。
「そういえばユキ焼けた?」
「え、そう?」
夏休みも割と頻繁に会ってはいたのだが、こうして二人だけで歩く時間というのはあまりなかったこともあり、ユキをまじまじと見ているとなんとなくそう思う。
少なくともキャンプをした頃の記憶と照らし合わせると、ほんのり肌が小麦色になっているような気がしないでもない。
「あ、ほんとだ」
ユキは半そでセーラー服を微妙にまくし挙げて、焼けていない肌の境界線を見つける。
……なんか日焼けの境界線って微妙にエロいよね、男子高校生だからしょうがないのです。
「こ、こっちはどう」
「おっ!?」
思わず声が出てしまったのはユキがセーラー服を今度はお腹の部分をたくし上げて言ったものだから、驚いてしまったのだ。
ちらりと見える形のいいヘソときゅっと絞られた色白のウエストが見えて、なんというかありがとうございます。
「ごちそうさまです……」
「なんかユウジ目がやらしーよ」
「しょうがない、男なんだもの」
「しょうがないなあ」
そう言うユキはあきれた様子でも怒った様子でもなく、少し機嫌が良く見えた。
しかし日焼けユキ……これはなかなかにレアで健康的で可愛くてちょっとエr――
そんなこんなあって、夏の間に少しだけ容姿が変わっているクラスの面子を眺める。
明らかに逞しくなったような男子もいれば、ちょっと肉付きが増したように見える男子もいたり、メガネをかけはじめた男子もいる。
……男子にしか言及がないのはアレだ、男の俺が特に仲が良いわけでもない女子をまじまじと見るわけにもいかないので許してほしい。
ついでにマサヒロもいるのだが相変わらずな病的手前な色白の容姿で携帯ゲームをしている、もしかしたらコイツ教師にバレないように授業中もゲームやってるんじゃないだろうか。
そんな中チラっと見た程度だと福島がめっちゃ焼けていて超褐色、委員長は微妙にメガネの周りが日焼けしてて面白いことに、ユイは色白なまま、姫城はまったくもって不変な感じである。
そんな中だとユキは本当に程よく焼けたという感じで、俺の中で評価は高い。
「日焼け女子のギャップ萌え、良いと思わんかねユウジ隊員」
「それは分かる」
完全に俺ら目線なユイに思わず賛同する、夏の前と比べると……なんかいいよね。
「しかしてユウジは程よく焼けたぬあ」
「そうか?」
皆と遊びに行く以外も家族に付き合ったり、朝の早朝ランニングはやったりはしてたが……意外と自覚ないものなんだな。
「ちょっとズボンめくってみてぃ」
「おう」
学校制服学ランは通年通して長ズボン、その裾を折り曲げ折り曲げしてふくらはぎあたりを露出させる。
「ひゃ~エロいでござるなぁ!」
「それは分からん」
分からんぞマジで、たかが男の足に日焼けの境界線が出来たところでなんだというのだ。
「これは……なかなかいいですね」
「ちょっと男の子の気持ちが分かったかもしれない」
……そういうものなのか。
まぁ姫城とユキにそう言われて別に嫌な気がしないが、なんとも新鮮だ。
「ユウジ様そういえば髪伸びましたね」
「あー、そうかもしれん」
基本的にひと月半に一回ぐらいは髪を切っているのだが、夏休みのタイミングは学校の生徒指導がないこともあって怠りがちである。
そういえば時々前髪が目にかかってウザいと思う時があった、襟足がシャツの襟にこすれるし……これは確かに伸びてるな。
「なんかこう……今のユウジ様をシャンプーしてみたいです」
「分かる! わっしゃわしゃと!」
いやユキ、姫城に同調してるけどそれも俺にはよく分からない……。
ペットの毛並みみたいに思われてるのだろうか、それとも二人とも美容師を目指しているのか、はたまた自分の小さな子供の髪を洗って見たくなるような母親視点なのか。
そんなこんなあり、思えば登校日はそんな自分以外のクラスメイトの夏休みの間での変化が良く分かる日なのかもしれない。
え……宿題が終わってないとかの怨嗟の声? はは、自分らは終わらせてるので関係ないですなあ。
もっとも、元来の俺は宿題を最後にとっておくタイプだったので世界を経るごとにそこは変質したと言っていい。
まぁ同じ夏を経験していることが暗に分かっているのか、これまでバトル三昧や女子との交際でのんびりやってる暇がなかったというか。
そんな風に俺が変わっていくのだから……俺の周りの女の子も変わっていってもおかしくないのかもしれないな。
かつて姫城にあった過激な一面がなりを潜め、委員長はといえば元の性格なのかはっちゃけるようにもなったし、雨澄も周囲とのコミュニケーションを適度に取っているようにも見える、ミユだってこれまでのことを覚えているとはいえ引きこもりを卒業したように――彼女たちもまた変わったのかもしれない。
そんなことを、ふと思う登校日だった。