第705話 √7-38 『ユウジ視点』『七月二十五日・八月一日』
ナタリー「あの……」
呼ばれてからずっとポケットに入ってたというか……携帯のストラップに擬態してたせいで、その……ユーさんと篠文さんの一部始終聞かされていてですね。
地獄かと!
七月二十五日
…………今何時だ?
そういえばなんだか身体が微妙に痛いと思っていたら、そうだったテントで寝たんだった。
テントの周りは明るいようだが……ここ屋内だよな?
もしかしてこの屋内キャンプルームは時計と連動する機能も付いてたりするのか、だとしたらなんともハイテクだ。
そうして寝袋を着ていた俺が視線を横に動かすと――
「うお」
「……おはよ、ユウジ」
そこにはユキが居た、近くで見ると更に可愛い。
そしてユキはと言えば目をつぶって何かを待つように口先を俺へと向ける。
……そうだよな、なんかんだでキスしまくったあとに二人寝袋に潜り込んで寝たんだっけ。
なんかそこらへんの記憶はないが、それ以上のことはないだろう、うん……決して朝チュンが意味するようなことはなかったはずだ。
「おはようユキ」
「うん」
ユキに軽くキスをすると、ユキはにっこりと笑う、可愛い。
しかし昨日だけでディープなキスに、テントと寝袋とはいい一夜を共にするとは……なかなかに不健全だ。
「起きよっか」
「ああ」
そうして二人寝袋からもぞもぞと出て、ユキは――
「朝、ちょっと散歩しない?」
「……眠気覚ましにもなりそうだし、それもいいな」
ポケットに入れていた携帯電話を取り出して時間を確認する、朝の六時ほどだった。
朝の散歩としては気温も上がりすぎていないだろうし都合が良いだろう。
「顔洗ってくるね」
「俺の方のコテージの方でするか?」
「……そうだね、うん。お邪魔する」
そしてユキと俺それぞれ顔を洗ってから、屋内キャンプで使ったサンダルをそのまま持ってきて外に出た――
「んー!」
「結構涼しくて助かるな」
男子側コテージの玄関扉を開けて外に出ると、朝焼けに出迎えられた。
少し目が眩んでもしまうが、なんだかんだで身体が朝の陽ざしを浴びて喜んでいるような気がする。
ユキも手を組んで腕をぐっと頭上に伸ばす、テント寝で凝り固まった身体をほぐしているのか、なんだか見ていて気持ちよさそうだった。
「いこ、ユウジ」
「ああ」
そうしてユキの手を取り、朝の散歩に繰り出す。
鳥のさえずりと、風の音、サンダルが地面の土を踏みしめる音だけの静かな朝。
想像通りに真夏には思えない涼しい朝は散歩にピッタリだった。
「なんか爽やかでいいな」
「うん、歩いていて気持ちいいね」
ほんとこのキャンプ場、設備も揃ってるし、程よく開けつつも草木もあって、風呂からの景色は良いし……いいところだな。
「また来てもいいかもな」
「うん」
「秋も興味あるけど――来年の夏にまた、コテージ借りるのもいいかもな」
「うん」
「今度は二人で来るのもいいな」
「……うん!」
まだ来年が来ないことを俺は分かっている、それでもいずれ来る未来だ。
その時俺やユキがどうなってるか分からないにしても、少し先にあるはずの未来を考えたって悪くないだろう。
「……また来年も、約束だよユウジ」
「ああ、約束だ」
ユキはこれまでのことを覚えているなら、まだその来年が来ないことを知っているのだろう。
それでも、いずれ来るであろう未来の約束。
少なくともこれぐらいは忘れないでいたいものだ――
ちなみに後で聞かされたことなのだが、女子四人のコテージでユキだけが居ないのは怪しまれたんじゃないか? という点について。
委員長が微妙に変装をしてユキっぽく振舞っていたり、入れ替わり委員長と夜を乗り切ったようである。
結果ユイからは「ユキはやたらお花摘みに起きてたっぽいの」という印象が付いてしまったが……、
「昨晩はお楽しみでしたね」
「え」
「冗談ですよ」
なんて姫城が言うものだから背筋が凍ったものだが、冗談と聞いて……それを真には受けられんだろう。
それでもとりあえず姫城が不機嫌な様子ではなかったので、一応なんとかはなったらしい。
とはいっても姫城含めてな乙女回路は門外漢なのでよく分からない。
そして本当に完全に二泊三日籠りきりだったマサヒロは何故か肌ツヤが良い印象だった。
男の肌ツヤとか気にする時点で気持ち悪いのだがそうっぽく見えたのだからしょうがない。
こうして皆荷物片付けに俺はテント・荷物片付けを終えてコテージを引き払い、チェックアウトしたことで俺たちの合宿……じゃなかったキャンプは終わりを迎えた。
いつものメンバーで泊りがけに出かけるのも悪くないな、と思うイベントだった。
八月一日
今日は肝試しをやることになった、テラ肝試しリベンジである。
リベンジは分かるとしてもテラはどこから来たのかといえば――
「気合入れまくってぜい」
「総工費●●●万円だったかな」
「エンターテイメントは大好きです」
ユイとマサヒロと委員長の三人による肝試し運営で、それはもうハイクオリティかつリアリティに満ちたものが出来たという。
ちなみに肝試し会場の寺墓地の土地管理者と委員長が交渉し、もしギミックを設置するとしても現状復元することや、基本的に静粛にやることを条件に許可を取りつけている。
なんか委員長が仕切るとキッチリする印象がある、まぁ俺たちでやってたヤツって不許可だしな……ツイツターに載せようものなら炎上どころかケーサツにツーホーも有りえたかもしれない。
ほらよくあるマンガやアニメの肝試しって、そういう許可取ってる描写ないしウェーイって感じで勢いでやってたし……まぁ参考には出来ないわな。
集まったのはキャンプメンバー六人(内運営側は三人)と、姉貴・ミユ・桐・ホニさん・母さんにナオトさんの下之家フルメンバーに、クランナ・アイシア・福島・井口・雨澄が集まった……集まりすぎである。
ちなみにそんな肝試しはかなり気合が入っていて、もしかすればお金を取れるレベルなのだが内容は割愛する。
ユキとペアになり、ユキが俺の腕に抱き付いたり、ちょっと身体がふら付いてキスしたりしたのは内緒である。
ミユと姉貴が怖がる様は見ていてちょっと興奮したり、井口を護る雨澄が微妙にカッコよかったり、ホニさんは暗闇の中で神々しかったり、母さんとナオトさんは微妙に百合百合しい空気醸し出していたり、そんな程度である。
そんなこともあり意外と楽しかった肝試しは終わりを迎えたのだった。
アスカ「あれ……私たち呼ばれてない」
チサ「コナツは呼ばれているのに私たちが呼ばれないのはどういう了見かしら」
ナタリー「というか私も呼ばれてないですし」
アオ「病院が移動出来れば……」
神楽坂ミナ「並行世界の私も呼ばれてなーい!」
ヨーコ「出てくるタイミングがないんだけど」
ユミジ『なんでゲーム機を置いて行ったんですかミユ……』
ナレーション:流石に別人格に人工AIと鉈は勘弁してください