第702話 √7-35 『ユウジ視点』『↓』
ユキに買い出しに出かけたあと、少し遅いバーベキュー昼食が終わって、男子のコテージに全員集まって委員長持ち込みのボードゲームなどを夕方まで楽しんだ。
流石に二日連続はピザ宅配ということはなく、委員長が持ってきていた素麺を茹でて夕食としたのだった。
というかこれ……キャンプじゃねえな!
キャンプに来たのに結局二日目は外でバーベキューをしたぐらいで、すぐ冷房が効いてWi-fiも飛んでるコテージに全員戻ってきているのだからなんともだ。
だってしょうがない、外は真夏なんだもの。
ゆらキャンだって舞台は秋冬だったのだから、そりゃテント張って外で過ごすことも出来ただろうさ。
しかし外にいるだけでじっとり汗をかくほどの真夏にそれっぽいことをやろうと意気込んでも、現実コテージがあるならば合宿になるだけだった。
ようは企画倒れだったのである、真夏にキャンプ”風”を実現しようとすると、こうなるのだとよーく分かった……まぁこれはこれで楽しかったけども。
そんなこんなで夕飯が終われば風呂である、昨日はなんだかんだで積みラノベを時間を気にせず消化してたら深夜アニメタイムになってユイと見ることになり、テントを組み立ててたら俺が風呂に入るのは翌日早朝になってしまったものの、今日は普通の時間に入るよう意識する。
それに――
「風呂一緒に入りにいこうぜい」
「それってユイ、お前男湯に来るのか」
「…………い、行かない! というか途中まで一緒に行こうってだけだし!」
微妙に素になってるぞ。
まぁユイもこのグルグルメガネな見てくれでも、なかなか乙女なところがあるからな……。
ちなみにマイはというと風呂だけは「ごめんなさい、お風呂は一人で入りたい派なのです」と言ってコテージ内の風呂を使っているようである、まぁそんな理由も俺は知っているのだが皆に口外することはない。
正直マイが気にしてるほど、皆気にしないとは思うのだが……まぁ万が一にでもこのメンバー以外に”見られる”のは嫌だろうし、皆の前で肌を晒さない選択も間違いないと思う。
ということから、ユキとユイと委員長と俺で露天風呂に向かっている。
「下之君、私たちは混浴構いませんが」
「私は構うよ!」
委員長が冗談っぽく言う一方でユキは強く否定していた。
ま、それが普通だわな……例え彼女であっても、まだそこまでじゃない。
とか言うとそれからがあるのかとか、どうなるのかと思うかもしれないが触れないでほしい――あくまでこれ全年齢対象ゲームが原作だから。
「倫理くん……」
委員長、微妙に心を読んだような言葉選びはやめてほしい。
というかメガネ外してないよな……?
「じゃあ後でぬー」
「おう」
そして男女の暖簾で別れて風呂に入っていく、今日は比較的早い時間あってか番台に人が立っていたので委員長がコテージを借りている旨を話すとちゃんとタダになった。
まぁここで俺が金を出しても変なだけだし、昨日は誰も居なかったからということで出しただけで、今回は気兼ねなく使わせてもらうとしよう。
そうして身体を洗ったあと、一面石が張られた床に岩造りの浴槽風呂に入っていくのだが、存外しっかりとした作りに驚く……昨日はアイシアがいたせいでそれどころじゃなかった上に。朝焼けもまともに見ていなかったぐらいだし気づかないのも無理はない。
今はちょうど夜で丁度見晴らしのいい場所にあるのか、浴槽からは無粋な囲いもなく藍浜町を見下ろすような雄大な景色になっていた。
「おお」
海と山に挟まれた土地に住宅が密集し、住宅地から少し先には地方として十分な規模の商業エリアがあり、主にそこの灯りが際立って強く見える。
そういえば、と今日の日付を思い出して七月の『四』の付く日だということに気付く。
ああ、縁日で夏祭りだからそのエリアが明るく見えるのか、と理解する。
大きなビルもなく商業エリアでも映画館が五階建てぐらいで、他は二・三階立てが立ち並ぶのはある意味地方らしい町なのかもしれない。
夏休みシーズンだからと海の家が営業時間を終えた直後なだけにまだ明るさを保っており、光源が殆ど無いはずの海を僅かに照らしている。
本当に都合もよくまとまったこの町は、住んでいる者からすれば身近にあって気づかないのだが実際相当便利に違いない。
思えば小・中・高の学校生徒の面子が変わらないのも、この町の住人がここを動くことがないからでもあって皆この町を悪くは思っていないのだろうと思う。
そんなことを岩造りの立派な風呂から眺める、見晴らしが良い為に風も吹きつけることから、そこそこの湯温のはずだがのぼせにくいのかもしれない。
こりゃ朝焼けも綺麗だったろうなぁ、とアイシアに気を取られていたことを少し惜しく思うが……まぁ、またいつか来てもいいだろう。
それこそ秋に来たっていい、今度こそちゃんとキャンプが出来るようにしたっていい。
このゲームを攻略し終わったら、また皆で来たっていい。
「……皆で、か」
ゲーム攻略後、果たして皆はどうなってしまうのだろうか。
いくら原作が委員長の書いた俺を中心にした小説であり、それぞれモデルが存在するとしても……それ故に二次元でいて限りなく現実にも近かったとしても。
そんなモデルとなった子を俺はよく覚えていないから分からないにしても、この現実と二次元がハイブリッドしたことで……おそらくは容姿や性格などが変質していると思うのだ。
だからゲームが終わり、時が進み始める世界で――今と同じ皆と会って話すことが出来るのか、と考えてしまう。
そもそもハイブリッドな世界じゃなければ俺と皆が出会って付き合って好き合って、苦難を乗り越えたりするなんてこともなかったと思うのだ。
だからゲーム攻略後、俺たちの関係はどうなってしまうのだろうと今更ながらに考える。
「でも、そうだな……」
もし俺たちの関係がリセットされるのだとしても、それはしょうがないのかもしれない。
だってそれまではゲームだったのだから、本当の意味で現実と二次元を混同するほど俺はおかしくなっていない。
だからきっと別れがあるかもしれない、でももしかしたらとも考えてしまう。
この世界の皆ままに、クリア後もしれっと世界は続いて行くのかもしれない、と。
こればっかりは終わってみないと分からない。
だからその時に考えるほかない。
今はせっかくキャンプに来ているのだから、露天風呂を楽しんでいるのだから、こう難しいことを考えて悩むのはよそう。
気持ちをすっかり切り替えて、これで露天風呂堪能モードになる。
そしてぼんやりと露天風呂で身体を癒していると、女湯の方から聞き慣れた声が聞こえてきた――
「委員長はメガネ取らないのかえ?」
「あなたがそれを言いますか」
そういえばマイが居ないこと思うと、ユイと委員長でダブルメガネである。
しかし何故風呂に入ってまで眼鏡を……?
風呂に入れば印象的に曇りそうなもんだが、案外曇り止めとか塗ってるのだろうか。
「風呂でメガネを外さないメガネっ子はクソだと思う」
「ケンカ売ってるんですか巳原さん、そういうあなたもメガネ外したらいかがですか」
「これは体の一部ですしおすし」
「じゃあ私も」
「そんな曇ったメガネが身体の一部とは片腹大激痛ですわな~」
「なんだァ? てめェ……」
ふざけたグルグルメガネかけておいて他人のメガネに厳しいユイが悪いとは思うのだが、そもそもそんなことで喧嘩するなし。
というかやっぱ曇ってんのかよ、そしてユイのメガネはもともと曇りガラスっぽいけど今更ながらユイのデフォルトの視界どうなってんだ。
「二人ともケンカはダメ!」
二人の口論を見かねたユキが仲裁に入っている、流石俺の彼女である…………都合良い時だけ彼氏面するなとか言うなよな。
「なら両方外せばいいよ!」
どうしてその結論に、いやまぁ分からないでもないが……一応二人がメガネを外したがらない理由については、以前の世界の経験から俺は知っているので、なんとも複雑な気持ちだ。
委員長はメガネをしてはいるのだが実は裸眼で視力は十分いいのだと言う。
しかしメガネというレンズを介さないと委員長の目にはあらゆることが見えてしまう・認識出来てしまうのだという。
その人の内心から記憶、生い立ちや願いに至るまでの情報が分かってしまうことは、イメージで考えれば疲れてしまいそうな気がする。
だからこそ委員長は基本的にメガネをしている、そして関係ないが外した委員長の素顔は割と大人っぽかったりする、関係ないけど。
ユイに関してはどうして学校で許されているのか今でも謎なのだが、自分の存在・立ち位置を周囲に知らしめる為のものらしい。
もともと真面目勤勉っ子出身のユイは、変な喋り方もグルグルメガネもオタク趣味も、自分に自信がないからと自分をキャラメイクする為だったという。
もっとも今はではすっかり板についているのだが、根底にあるのはそんな自分を演じるためのそもそものメガネなのだ。
だから俺がその場に居れば「まぁ二人はメガネ星から来たメガネ星人だから」と茶化して収拾を図るものだが、残念ながら俺は男湯にいる。
ああ、混浴なら……混浴ならなー?
「いいでしょう、私のとびっきりセクシーな素顔お見せします」
「アタシも本邦初公開だ、全米が泣いちゃうぞ」
二人とも何言ってんだこいつら、しかし意外にもメガネを外すことを二人は承諾したらしい。
そんな会話が男湯まで丸聞こえということは女湯はあの三人で占有しているのかもしれない、ということは委員長に限ればメガネを外そうが大した負荷はかからないということなのだろうか。
「はい」
「やー」
「え、ええええええええええ!?」
そして案の定ユキが驚いてる、俺もえええええって言いたいけど言ったら覗きを怪しまれかねないので言えない。
いや見てなくても大体想像できるからしょうがないじゃん、なんか桐からもらった能力に「千里眼的なもの」あったけど使ってないよ、本当だよ。
「委員長は大人っぽいし、なんかユイは女の子っぽいイケメン!」
大体合ってる。
多分ユイは高身長にスレンダーさ、整った顔立ちも含めればイケメン男装キャラが似合いそうなルックスだったりする。
きっと髪型変えたり少し化粧するだけでユイは化けるタイプなのだ、付き合ったことのある俺が保証出来る。
そして委員長はメガネを外すだけで、見た目クール女子っぽく大人っぽさも醸し出す。
老けていると言うと怒られるのだが、少し年上に見えるのだから仕方ない……それはそれでいいんだがなあ。
そんなイケてる二人がメガネを外すものなら、ユキも驚くのは普通の反応だろう。
「え、てかユイ可愛いんだけど! 委員長は美人だし――」
まぁそうなるな。
そうこうキャッキャウフフしている女子三人を肴に、俺は風呂を楽しむことにしよう。
ここにマイが居れば、あの大きな胸をユキが見ておっきーとかすごーいたーのしーとか言ってたかもしれないなあ……いかんいかん、邪すぎるぞ俺。
「というかユキさん肌スベスベなーん」
「スタイルいいですね」
「そ、そんなことないよ」
そして風呂ボイスを参考に、ついつい自分の妄想の中であられもない姿にしてしまった彼女たちをふと想像――
俺の経験からしてユイは全体的にスレンダーだ、しかしガリガリという感じではなくほどよく絞られた身体でスタイルは良かったはず。
ヒロインズの中じゃモデル向けの体型かな……ロクな運動もしていないのに、あの細さに地味に肌ツヤの良さは謎が謎を呼ぶのだが。
そしてユキは結構着やせするタイプ、健康的な程度のほどよい肉付きでキュッと締まっているところは締まっているまさに女の子らしいという体のラインだ……姫城がでかいだけで、ユキも結構あるよ。
委員長はまぁユキよりも小さい、何がとは言わないが……全体的に細い印象で、もうちょっと肉が付いてもいいかもしれない、でもメガネを外すと大人っぽいし色っぽい、謎である。
くそう! 俺の妄想の中でも邪魔な湯気と光線が! まるで見えねえ……! 自主規制の野郎オブクラッシャー!
…………という、付き合った女の子たちのスタイル評論に透視疑惑と言うクソ最低なことをして、あとで後悔したのは内緒だ、すまん皆。
ともあれしばらくして、いよいよのぼせる前に俺は風呂を上がったのだった。
風呂上りに売ってるフルーツ牛乳の美味さたるや、扇風機の涼しみたるや、こりゃもう風呂に恋しちゃいそうだぜ……恋は風呂上りのように。