第196話 √2-1R G.O.D.
20120912
「おはよー、ユウジッ」
玄関を出れば、快活にポニーテールを揺らしながら振り返る篠文由紀、幼馴染の彼女の姿がそこにはあった。
笑顔で挨拶を繰り出すユキに、俺ももちろんのこと挨拶を返すことにする。
「おはユキ」
「……繋げてない?」
おはユイよりは繋げた感が薄いのでセーフ。
「おユキ」
「時代劇の役名!?」
と、いうことで俺はいつも通りの日常を過ごしている。
毎日律儀にも迎えに来るユキと共に学びやへの道をひた歩く訳で。途中で会うは――
「おはようっ、ユウジッ君&ユキ!」
「おはー」
ユイとマサヒロと合流である。
マサヒロは何処にでもいそうな、ホラー・グロ・アニメ……多岐に渡る趣味を持つ、オタッキナーな悪友である。
まあユイに関しては諸事情によって登校を別にしてはいるものの「同居関係」にあるのだが、それは別の話。ユイもこれまたオタッキー。
そんな訳でいつのもメンバーこと”4人”でやっと歩み慣れ始めた藍浜高校への道を歩いて行く。
一〇分経たずしてその地上3階建ての藍浜高校の校舎が姿を現す。
この町に只一つの高等学校で、生徒数も地方にしてはそれなりらしい。
大体の生徒がまたまた只一つの中等学校こと藍浜中学校からほぼエスカレーター式にやって来るので面子は変わり映えしない。
有る意味閉鎖的社会とも言え、転校生がこの学校へと来る度に全校生徒で話題になるのもそんな社会の弊害の一つとも言えよう。
我がクラスこと一年二組の教室に着く頃だが、まだ担任が襲来するまでは三〇分以上の余裕がある。
そしてそれまではいつものメンバーでトーキングタイムであった。
先陣を切ったのはユイで、更に次に乗ったのはマサヒロだった。
「いやー、昨日の”俗・荒物語だっしゅ”面白かったわあ」
「確かに良かったな、あの橋の下で失望を叫んだちわらぎ先生には笑った」
「おーい、二人ともなんでそんなにシャ●トに固執したネタ展開してんだよ」
「いやユウジ、あれは面白かったよ?」
「ユキも見てるのか! アタシは嬉しいぞ~」
「ユキまで……いや、面白かったけども」
アニメちっくな話題で盛り上がることもあれば。
「あの学食の新メニューどう思う?」
「辛さが足りない」
「いや、ユキ。親子丼には辛さは必要ないと思うぞ?」
「えー、美味しいよ? 辛親子丼」
なんというか子に辛く当たる親みたいだな、ソレ。
「ん~、そうだな塩っ気かぬ?」
「いや、俺的には……ユウジ、どうぞ」
「俺かよ……なんというかダシが薄い気がする、それから――」
こんなベーシックな話題でも盛り上がり。
「あの杉坂先生について一言どぞ」
「自慢話が長い」
「卒業生の悪口に授業時間費やすな」
「しつこい……かな?」
まあ、学生らしいっちゃらしい何故か上から目線な教師評価とかをしている。
そんな何の変わり映えもしない日常だ――
「テスト時期いつだっけ?」
「ググレカス」
「いや……ググってもそんなピンポイントには出てこないだろよ」
「分かったらついでに教えてちょー」
学校のホームページにアクセスして確認……しても良いのだが、携帯のスケジュール機能に記してあることを思い出す。
そしてカレンダーを覗く。
「えー、二〇一〇年五月一七日から三日間……アト一か月もねぇな!」
「へー、そんな時期ねえ」
* *
これから始まるのは二〇一〇年四月からの物語。
まだ中学生な空気を残した高校一年生の俺はこの翌日に――
ユキの交通事故を目撃する。