第695話 √7-28 『???視点』『↓』
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追記:一部描写を訂正しました
「これで一息、と」
持ってきたリュックサックからPCやその他周辺機器を取り出し、設置したところでふぅと息を吐く。
嵩鳥さん……じゃなかった委員長が、二階建て・個室付きのコテージを借り切ってくれたのは正直助かった。
こうして一人で作業出来る時間と場所が必要だからね。
僕が居なくても皆が疑問を抱かないように、納得するように、そう言う風に出来ているからここに一人籠っていようと問題ない。
そこんところは<管理>しちゃえばちょちょいってね。
「作中唯一の山エピソードがあるユキルートだもんなあ……いつもの携帯ゲーム機では不安だし、本腰入れないと」
そうしていつものように、PCを立ち上げて自分用に作った世界の<管理>画面を開く。
××回目にもなる繰り返された世界のせいで、データの蓄積によるバクの増加が著しくてしょうがない。
正直この段階に来ると現地に来て調整しないと現実が大変なことになって仕方がないのだ。
「まぁ僕が居ない方がユーさんもハーレムっぽくなっていいだろうしね」
まぁ僕が居ても実はハーレムというか、このキャンプに参加してる男はユーさんだけなんだけど。
なにせ――僕が、いや本当は私が、マサヒロという設定で存在しているだけのアイシアのコピーなのだから。
私にとっての重大事件、ユイルート後のユーさんが世界を凍結させた際。
これまで未来の私・この二〇一〇年の藍浜町で下之家に住み始めた現地の私で世界の<管理>をしてきたものの……現地の私は凍結に巻き込まれて何も出来ないでいた。
それでもあの日、私の部屋もといサーバールームではいつものように凍り付くぐらいに冷房をキンキンに冷やしていたからこそ、サーバーの熱暴走ではないはずだった。
嵩鳥さんの手前不確かなことは言えなかったんだけど……ブレーカーが落ちたことには代わりないけど、電力超過によるものではないはずで、私の計算ミスでもないはずで。
もし考えられるとしたら、ユーさんの願いが、ユーさんの能力が無意識にも作用した結果としか思えなくて。
……そう、はずとしか言えないから私はそれは憶測でしかなく誰にも話そうとは思えない。
実際皆に曖昧な世界で嵩鳥さんを介してネタバラシをした時に、私は「ユーさんはこの現実と二次元のハイブリッド世界では無力」と言っていたのだから。
おそらくはバグによって、私が<管理>していたはずの、桐やユミジに譲渡していたはずの、ユーさんの一時的な能力行使がなされたのだと思う。
しかし確定的でないからこそそれを口に出すことはできない、無力だとしておかなければならなかった。
だから結果論で言えばあの事件を防げなかったのは私のミスだったのだ。
当時私はまだ岡小百合だったこともあって、ユーさんから遠い場所にいたのも致命的だった。
未来からアクセスをして<管理>を試みるものの、弾き返されるばかりで私も自力では完全にお手上げだった。
私の<管理>する力も、記憶や事象はいくらでも管理出来ても、ユーさんの”心”を<管理>することは出来なくて、ユーさんの心の問題で起こった事件だけに私にはどうしようもなかったのだと思う。
だからこそ現地に居て、ユーさんに寄り添っていて、心に触れることのできるユミジや桐にある程度の指示を出して、ホニさん達が現地で行動してくれなかったら、正直致命的に世界がバグに侵食されて復元不能になり得たかもしれない。
だから用心深くすることにした。
ユーさんが夢に見ていた、妄想とも言える”繰り返さない世界”の二〇一一年四月一日以降が続く世界に出てきた高橋マサヒロは、その世界では異常に疑問を抱いてしまった。
ユーさんが構築した妄想世界とはいえシステム上は私たちが作った世界の延長線上にある。
つまりは、同システム上の世界が再進行し始めてもマサヒロに”現状を正しく認識してしまう”という異常をきたす可能性が考えられたからこそ――彼には代わってもらった。
もっともユーさん世界凍結事件の次のルートに、即代わりの私実装なんてことは出来なくて、その次のルートからではあったんだけど。
そして偶然にもユーさんがオルリスルート攻略後、オルリスと隠しキャラ扱いだったアイシアとしての私が下之家にホームステイする展開が解禁されたことで、私も自然にユーさんの近くで構えられるようになったんだよね。
彼に代わってもらった理由……というのはあくまでも表向きの理由、建前、未来の二人に説明する為のことだった。
実際はといえばユーさんと近すぎず遠すぎずの友人の間柄という立ち位置が、私にとって好ましかったからでもある。
ユーさんにはマサヒロが別人にとって代わったことは悟られていたようだけど、まさか中の人が私ことアイシアだとは気づいていないと思う。
そして私は女子に無関心で、ユーさんとユイとのグループに属していて、携帯ゲームをしているような……そんな新しいマサヒロというキャラクターを構築していた。
とはいっても私がただゲームをやっていたかと言えばそうではなく――携帯ゲームの形をした情報端末を用いてこの世界を<管理>していたのだ。
こうすれば未来の私と現地のアイシアとしての私に加えて、ユーさんと学校では近くに入れるマサヒロ(偽)という立場が手に入る。
事実上の三人体制ならば不測の事態にも対応しやすいという寸法だった。
ちなみにマサヒロ役の私と、この頃のアイシア役の私の関係性、というよりもどういう仕組みかと言えば。
ユーさんがヨリルートで試した、主に日常用と戦闘用に分身してルートを攻略していたユーさんとUさんの仕組みと同じだ。
見た目の変化は、元々細身でそれほど凹凸がない私の容姿に、少し跳ね気味の茶色に染めた髪色風のウィッグを付けて、灼眼が特徴的だった瞳の色はカラコンで茶色に演出している。
そしたら中性的なイケメン風になった……とはいっても、じゃないけどもそれほどあるわけじゃない、女性的な凹凸な部位は未来の技術の特殊スーツで隠せていた。
ちなみに入ろうと思えばそのまま風呂にも入れるし、羞恥心さえ無ければ男子小便器でも用を足せる優れもの……どうでもいい情報だった。
I●のシャ●ロットデュノアが使ってたスーツみたいな、その他詳細な基本構造については禁則事項ということで。
だから一応ホニさん・ヨリルートでは神としても仕事をしていた私からすれば、ユーさんの分身の提案は正直驚いた。
ああ――自分で編み出したものは分かっちゃうものなんだなって、分身の技術に関してもユーさんが無自覚的に生み出していた。
流石ユーさん自分では無自覚にあらゆるものを作り出してしまうだけはある、そんな辻褄合わせを担当しているのが私たちなんだけどね。
そんなこともあって私はあくまでこの世界の為にマサヒロを演じている。
もっともユーさんと合法的に一緒に居る時間が増えるとか、ユーさんと同じクラスメイトになれるとか、そんな邪な思いもないわけじゃないけど。
でも、もし私が本気を出そうものなら世界を<管理>して、ユーさんを<管理>して、ユーさんを私だけの主人公にすることだってできる、ユーさんにとってただ一人の女の子になることだってできる。
だけど、それはしない。
それじゃ面白くないし、そんな形で結ばれるのは私がいよいよウンザリして頭おかしくなってトチ狂って、そんな最終手段ぐらい。
私だっていつか、普通にユーさんと恋したいから。
私だって自分がヒロインになれる世界を夢見てるから。
だからそれまでは、”不思議な同居人として”と”マサヒロにとって代わった変なやつ”として、ユーさんの傍に居られればいい。
実際三人体制で世界を<管理>するなんてどう見ても面倒くさいし手間もかかる貧乏くじな仕事をしているのも、未来のユーさんの力になれるからだ。
こう見えても私、面倒ごとしょい込むぐらいにはユーさんのこと大好きなんだよね。
本当の現実、嵩鳥さんが脚色する前のリアルで、ゲームと違って何の変哲もない北欧からやってきた私は、ユーさんに一目惚れしていたりする。
成績・運動とにかく突出していないのに、愛嬌もあり男らしいたくましさも垣間見る、単に自分好みな男の子だった。
でも、一瞬気の迷いでユーさんの記憶を<管理>することで覗き、ユーさんの心には上野桜という女の子が占めていたことを知ってしまった。
だからその時は諦めた、けれどその初恋は終わったようでいて終わらなかった。
だって彼は、彼女に事実上振られているのだから、それを私は知っていたから、完全に諦めることはしなかった。
だからこそ私は機会を伺い続けた、そして私は長い時間をかけてでもユーさんと再会できるように世界を軽く<管理>して、道筋を作った。
”ある人”の記憶も<管理>して、未来でまた出会う事も確証が持ててもいた。
そうして私は偶然を装って、必然的にユーさんとまた出会う。
いつの間にか彼は独り身を拗らせた結果タイムマシンにVR技術を完成させ、次元を超えたAR技術でさえもほぼ完成に行き着いていたんだけどね。
そんな先に今の私がいる、マサヒロを装った私がここにいる。
「というかこんな無茶なロケーション……ほんと維持するの大変なんだよね」
ユーさんが言っていた都合の良すぎるロケーション、ほんと人工比率とか電力事情に至るまで無理ありすぎ。
でもそう原作に書かれているのだから仕方ない、妄想でここまで脚色した嵩鳥さんを恨むべきか褒めるべきか……。
「あーもう次から次へと……」
細かいところだと買ってきた鶏肉が牛肉になりかけるバグとか、意味が分からない。
そうしてひたすらバグの修正や、危険なイベントの回避などを<管理>するのは作業でしかないのだが、そこまで苦じゃない。
管理画面と別タスクで、他の女の子とバーベキューパーティをエンジョイしているユーさんを時折眺めてもいるし、なによりユーさんの役に立てればいいと心の奥底から思っているのだから。
私の娯楽は、ユーさんを見つめていることと、ほんの時々でいいから彼をからかったり、彼から感情を向けられすればいい。
私の中ではユーさんの次にオルリスが好きなんだけど、そんなオルリスルートで申し訳ないけどオルリスをダシに戦った時はユーさんに敵視されてゾクゾクした。
バトルとかもすっごい楽しかった、立場上空気に近い私にどんな感情であってもぶつけてもらえるのは嬉しいことに違いなかった。
この世界で、未来と記憶を共有出来ている嵩鳥さん以外私こと本体のアイシアが何者かを知らない。
もちろんかつての曖昧な空間にヒロインとユーさん集めて話した暴露も、結果的にすべてが真実でなかったにしろ私が<管理>しているので思い出す者もいない。
だからユーさんにとって私の認識は、あまり関わり合いのない居候。
もっともオルリスの時のことをすべてを思い出したユーさんは覚えてるから、元敵キャラみたいな感じかな。
それでも別に敵視してこないあたり、ちょっとだけほっとはしているようで、少し残念なようで。
だから、そんな私は多くを彼に・世界に求めない――もっとも今は。
「二泊三日ずっと籠りっきり……あー、でも温泉ぐらいは行きたいなあ」
その考えのせいで私は意図せずやらかしてしまうことになるのだけども、それはまた先の話。
某所にて
マナカ「……なんかものすごく後付感の強い設定ですね。そもそも分身出来るとか以前の世界で提示出来ているだけで展開的には無理ありますし、シャ●スーツみたいなご都合アイテムを出してでも辻褄を合わせようとするのは正直納得がいかないと言うか――」
アイシア「はい<管理>」
マナカ「とても自然な展開だと思います」