第694話 √7-27 『ユウジ視点』『七月二十三日』
七月二十三日
そうして高校生になって初めての夏休みがやってきた。
ごめん、俺にとってはもう××回目なんだわこれ。
というか藍浜町の住民全員が××回目の夏休み、エンドレス二〇一〇年度世界だけにしょうがない。
そしてみんな、未来の俺が本当に申し訳ない……何十年後だかに俺に言い聞かせておくから。
まぁそんな導入はひとまず置いておくとして。
ユイが麻雀で勝ったことにより最初の友人間の出かけ先は、藍浜町の海に対した場所にそびえ立つ山林こと裏山を目指すキャンプとなった。
といってもハイキング気分で登れる小山であり、車道がそれなりに整備されているので普通に車で乗り入れることも出来る。
海と山に挟まれた風光明媚な町藍浜町。
普通はそんな田舎的ロケーションながら、映画館もスーパーもコンビニもファーストフードも遊園地も揃う至れり尽くせりっぷりは、まるで映画のロケ地のようだ。
昭和の頃の炭鉱周辺は娯楽設備が揃っていたところも多いと聞く、しかし性格的には近いもののこの町にこれといった産業は無い。
いよいよこの町がどうやって成り立っているのか謎だが、一応すぐ隣の町はオフィス街であり列車は一時間に一本しかないが、バスは頻繁に走っているので出勤には事欠かず、学校施設も揃っているので住宅地という場所柄なのだろう。
……これ以上細かいことを追及してはいけない!
とにかく、俺たちが(これまでの世界で)夏に行く場所と言えば海で海水浴だったのだが、今回は海には行かないと見える。
代わりに初めて山に行くことになった、キャンプ道具一部持参とキャンプ場のコテージを借りての二泊三日という日程。
え? キャンプなのにテントじゃなくてコテージなのは何故かって? …………だって冷房ないし、虫に絶対刺されるし、コテージがあるならいいじゃん。
しかし何故か家にあるテントと寝袋を掃除して持って来させられた、正直邪魔なだけなのでは……。
ちなみにそのコテージはというと委員長の親戚がたまたまキャンプ場を運営していたことで、格安で借りることが出来たのだ。
……きっとたまたまだろう、きっと。
「おおー!」
「いいところですね」
「これはゆらキャンにもってこいだぬ!」
ユキと姫城とユイが各々に感想を述べていた。
藍浜町の裏山ともいうべき場所を三十分近く登っていくと、ひらけた場所に出る。
そこそこの平地もあり秋冬にはテントをいくつも立てられるだろう、更には足が付くほどの浅い川も流れていて、緑香る山林もほどほどに存在している。
数軒並ぶログハウス風コテージの近くにはキャンプ場受付兼事務所と、洗い場・バーベキュー場も完備され、お手洗いもそこそこに点在している、更に近くには着替え場所付き露天風呂もあるという。
ちょっとまって露天風呂について詳しく……じゃなかった、なんだこの都合良すぎるロケーションは。
マジで一体ここはどこの国なんだ、一応日本のはずだよな? 実は山の途中でワープポイントとか通過してない?
それとも実は映画のセットを再利用した観光地とか……にしてはガラガラなんですけど、一応他に利用客もいるっぽいが、それがこの都合が良すぎる場所が怪しまれない程度ぐらいという。
……ダメだな、うん、細かいこと考えちゃダメだ。
都合が良くて結構じゃないか、不便よりも便利の方がいい、何も悪いことは無いじゃないか……よし、さっきまでの考えは忘れておこう!
「とりあえず受付に行きましょうか」
そう、委員長のおかげで格安で借りれたコテージということもあって委員長がもちろん来ている。
俺とユイとマサヒロと、そこにユキと姫城と委員長の六人構成なのだった。
なんでまた委員長がかと思うかもしれないが、やっぱりこの場所を設けるにあたって……まあ裏で動いていたのかもしれない。
本人が話さない限り、深く聞くことは止すつもりだが、もし委員長のおかげで今が成り立っているなら内心で感謝しておこう。
受付を終え、コテージの鍵を借りる。
一応ということで男女別に隣り合ったコテージを二棟というのだから、格安でなければ学生の身分でこんな贅沢な使い方出来そうもない。
そうしてマサヒロが「じゃ、僕はコテージに二泊三日籠るから」と鍵を持って消えていった、もう来なくて良かったんじゃねえかそれは。
ユキが「コテージの中に荷物置いてくるね!」と姫城とユイを連れていった頃。
「実は下之君、これ全部私のおかげなんですよ」
「……なんとなく察してたけど自分で言うなよ」
さっきの俺の心を読むように耳打ちしてきたらコレである、純粋な感謝の気持ちを返してほしい。
というか確かにコテージ目指した女子勢の中に居なかったけど、こう話す為かい。
「まぁこの町自体が、ある意味では都合よく作られたということだけです。ちょくちょく調整は未来の私たちがやっていますが」
「マジかよ恐ろしいな未来の俺ら……」
それは過去に干渉しまくってるのか、それともそうなるように仕組んでいたのか、考えただけでも恐ろしい。
「私が来たのは物語準拠にすべく細部にして最後の調整役と、下之君に夜這いを仕掛けたりどうにか混浴する為です」
「おい最初以外の理由はなんだよ、絶対やめろよ」
ただでさえややこしいのに、今度こそ関係性が拗れる。
「……分かりました!」
「フリじゃないからな!」
そんな委員長との話を終え俺もコテージに向かう。
見た目はログハウス風だが、中は木材を多用しつつも立派な家構造をしている。
冷蔵庫とコンロが付いている小さなキッチンもあれば、ちょっとしたテーブルとイスとテレビの置かれたダイニングもある、そしてまだ開いてはいないが謎の部屋があるようだ。
トイレもあれば家族風呂もあり、Wifi完備という完全に家である。
加えて二階建てになっており、キッチンやダイニングなどの共同使用場所こそ吹き抜けになっているが寝室が二つ存在している。
規模的には四人から六人家族で使うような、結構な規模のコテージのように思える。
ちなみにマサヒロは二階を既に占拠しているようである……まぁ、俺は一階の方がトイレもキッチンも近いし触れないでおこう。
「あれマサヒロはどうしたのかぬ?」
「籠ってゲームやってるっぽい」
「なら仕方ないのーぅ」
いいのかよ、完全に別人だけど一応マサヒロなんだがアイツ。
「まあしょうがないよな」
俺も別によかった、放っておいて害があるわけでもないし。
「おまたせー」
「お待たせしました皆さま」
「遅くなりました」
ユキと姫城と委員長が二棟のコテージ前にやってきて、一応マサヒロ以外が全員集合となった。
こうして二泊三日のキャンプ(?)生活が始まりを迎えるのだった。