第690話 √7-23 『ユウジ視点』『五月二十九日』
一応今も記憶にある今後起こりうる出来事を書き出してはいるのだが、メインの出来事もといイベントこそ間違いなく発生するものの、イベント間の細かい出来事に関して、ここまで原作通りじゃなくなった展開な以上は予測しようがないのが現状だった。
まぁユキとこの時点で付き合ってその……キスをするような仲になっている時点で、過去のことはあまり参考にならないと思っていいだろう。
それでも原作準拠なイベントは存在しているので、少しなら注意出来ることには違いない。
そしてこの体育祭前、少しずつユキや姫城と関係を深めていくようなタイミングには――
「あー」
登校して下駄箱を開ければあらビックリ、下駄箱から雪崩れ落ちてきた感情の籠ったお手紙の数々……もっともその感情は主に負の感情に違いないのだが。
今どき珍しいラブレター風装いでマイ・ユキ各ファンクラブ会員からの呪いの手紙である。
まぁそこに綴られた罵詈雑言や恫喝・恐喝に至る文言の言及は避けるが、まぁ彼らの怒りを相当に買っていることに違いはないわけで。
ユキや姫城を陰ながら見守るというファンクラブ方針故か、未だ行動を起こす者はいないものの、俺の知りえている未来通りならば彼らの一部が精鋭化していくのは時間の問題であった。
俺としては彼らに悪いと思う気持ちが無いわけではないにしても、片や幼馴染にして彼女であり、片や好意を寄せて来る相手であり、正直俺から手を出したなんてことは無い以上不可抗力だとは思うのだが、こればっかりは人気者の女の子と交友を持つ男子の宿命だろうから仕方ないと諦めている。
…………いや、気取ってるとかじゃないんだよ。
だって正直に言って時代錯誤も甚だしい存在の学校内生徒向けファンクラブとか、俺がそこまでSNSにのめり込んでいないとはいってもアナログな手紙による嫌がらせも古いというかさ。
こういうもんだと思うしかないじゃん、そしてこれまでの記憶には姫城さんと付き合った時以外は存在の片鱗さえ見せないファンクラブの存在は、所詮物語の道具でしかないんだなとか。
どこか醒めた考えがあるにはあって、だから既に経験して予め分かっていたことにそこまで感情を露わに出来ないというか、真剣になれないというか。
それにホニさんの時やクランナ時やヨリの時に対峙した本当の命を賭して戦うような修羅場に比べれば生ぬるいというか――
俺TUEEEEEEEEEEEEとか言わないで、しょうがないじゃんこの大量の手紙を、あまり目立たずにゴミ箱に捨てなきゃならないんだから言い訳ぐらいしたっていいじゃないk
五月二十九日
今日の授業も午前中に終わる、五月第五週土曜日。
「寄っていくとこあるから帰るね」
とユキで教室で別れたのはいいものの、俺も今日も寄り道しなければならなかった。
とはいっても寄り道というのがユキと同じ方向か分からず、更にはユキとしてもプライベートがあるものだろうし、と少しの迷いののちにユキは颯爽と教室を後にしていたのだからしょうがない、初動が遅い俺はたぶん悪くない……。
姉貴に俺が提案したことなのだが「昼飯食べて帰るから、ついでに商店街で家の食材の買い出しするわ」というもの。
最初こそ昼ご飯だけで買い出しは気にしないでいいとという姉貴を強引にも説得して、ファーストフードかどこかで昼飯を食べたのちにスーパーに向かおうと思っていたのだった。
しかしファーストフードに行くつもりではあったのだが、この町唯一のバーガーショップは午前授業だからと藍浜の生徒が帰り際に殺到間違いなし。
ならば喫茶店かと言われると、男子高校生の腹が膨れるにはあまり適さない気もする。
そこで考えた俺が時折取る行動といえば、なんとスーパー直行である。
実は贔屓にしているスーパーはそこそこの規模で、そこそこの品ぞろえに、そこそこに安く品質もそこそこと、そこそこ良いスーパーなのだ。
そんなそこそこそこそこ良いスーパーにはそこそこくつろげるイートインスペースが存在しており、ベーカリーコーナーや弁当コーナーなど買った商品をその場で食すことが出来るのだった。
イートインスペースもフードコートを併設しているわけでもなく、本当に買ってきたものを食べるだけのスペースだけあって、昼間でもそこまで混まない恰好の穴場となっている。
俺の算段はといえばスーパーで昼食を見繕って腹を膨らませた後に、本命の買い出しを済ませるという無駄のない効率厨も真っ青な考えだった。
そうこうして俺はスーパーに向かい、主婦層は昼前に買い物を済ませている為に工事作業員やOLなどが昼時だからと来店しているぐらいのそこそこ空いた食品売り場をうろつく。
実は俺、こうしてスーパーの棚とかをまじまじと見るのが好きだったりするのだ。
最近こそ旅行に行っていないが旅行先ではスーパーに入って、地元のそこそこスーパーと品揃えや値段設定などを比較して楽しんでいるという、もしかしたら俺の性格って主婦向きなのかもしれない。
だから買い物自体が好きではある、特に俺が来たタイミングでいつもよりも安く商品が買えると超嬉しい、気になっていた商品が安くなってワゴンに入っていると遠慮なくつい買ってしまったりもする。
ということもあって、とりあえずサンドイッチとおにぎり辺りを昼食にしようかと向かっていると、ふと調味料コーナーに思わぬ人物が――
「……ユキか?」
「えっ! ユウジ!? なんで!」
「そんな驚かなくてもいいだろうに」
「いやだってその……昼にスーパーにいるなんて変だよ!」
それは俺のみならず昼食を買いに来たOLさん方や、そんな客が来るからと働いているスーパーの働き手にも失礼だからやめてあげてほしい。
「ユ、youは何しにスーパーへ?」
なんか番組名みたいになってる。
「こう見えても俺はスーパー内をぶらり散歩するのが大好きなんでな、そういうユキはどうしたんだ?」
「え! えーっとね…………買い物」
歯切れ悪く出てきた理由は、シンプルすぎて説明になっていなかった!
「今日キメるための香辛料を買いに来たのか」
「キメてないから、ちゃんと料理に使うから……あ」
いや冗談で言ったけど、調味料を料理以外に使うのだったらビックリだわ。
「ああああああああああ! もういいよ、ユウジ! ちょっと買い物付き合って!」
「え?」
「で、買い物終わったら私の家にそのまま付き合って!」
「え!?」
「ダメなの!?」
「ダメじゃないけど!」
「じゃあよし!」
「何が良いんだ!?」
「ふふふ。私の行動を見てしまったが最後なんだよユウジ、こうなったら道連れだよ……」
「ひい」
すごい物騒なこと言ってるけど、要は誘われたのだった。
…………マジで、どういう流れなんだってばよ!?
こうして俺はユキの家に初めて(多分記憶の中の出来事を除けば)訪れることになったのだった。