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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第二十章 この中にもう一人、幼馴染がいる! ーなかおさー
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第681話 √7-14 『ユキ視点』『五月十一日』


 私には勇気がなかったんだ。

 ただ一言の声をかけることさえできなくて、顔を合わせることも出来なくて、勝手に諦めて。

 機会はいくらでもあったはずなのに、どうして――



 きっと本当は、彼に私に気付いてほしかったんだって。

 私が――彼のことをちゃんと覚えていただけに。

 でもそれは私がきっと特別だから、覚えてないのが普通なのだから。



* *



 この町に帰ってくるのは何年ぶりだったかな.


 産まれたのはこの町で、幼稚園の年中まではこの町で過ごして、もちろん小さい頃には友達もいて。

 別れることが悲しかったことを覚えている、別れた友達の名前や顔を覚えている、その友達に言った別れの言葉とそれに対する友達の言葉も覚えている。

 私は記憶力がよくて……というよりも<生まれた時から今に至るまでのことをすべて事こまやかに覚えている>。



 全部、覚えている。


 

 全部というのはそのままで、私は自分が産まれて目を開いてみた瞬間から今に至るまでを少しも忘れずに覚えている。

 朝起きて夜眠るまで、瞳を閉じている時以外のすべてを覚えている。

 ふと聞いた両親の会話や、テレビで流れている番組の内容までの、すべてを。


 私は、忘れない。

 正確には……忘れられないんだけどね。

 忘れたくとも忘れられない。


 記憶力がいいだけなのだと、三つ子の魂百までとは言っても個人差はあるのだと、最初は思っていたけれど。

 本当のところ私の記憶力は異常だった、私はみんなと違っていた。

 皆が覚えられないのだと思っていたのが逆で、本当はある程度は忘れるようなのが普通だった。

 そんな私は小学校の頃は浮いていた、最初はすごいと言ってくれた子からも次第に気味悪がられたりして、ショックで。

 だから私はいつからか、自分が”普通”になるように演技した。

 本当は覚えていることもある程度は覚えていないフリをして、それっぽく振舞って。


 そうして私はようやく普通の女の子になれた。





 そんな私は”あの出来事以来”これまで繰り返されてきたとされる世界を覚えてしまっていたんだ。

 

 記憶力がよくても予知能力があるわけじゃない、それでも未来のことを”覚えている”というのは、私に予知能力が宿ったかそれとも――世界が繰り返されていると思うしかなくて。

 私の頭の中には”あの出来事”……私が通学路で死ぬ・死なない、という一連の出来事の記憶が複数ある。

 おかしなことだけど、同じ時間同じ場所同じシチュエーションで私が死ぬか死なないか、どう死んでしまうのか、どうすれば死なないのかというのを何十通りも覚えていたんだ。

 そんな私が唯一死なない方法はたった一つで、ユウジが私の手を牽いてくれる時だけだった。

 それ以外の行動をすると私は必ず死んでしまう、死因が細かく分かれていて……それも覚えていたくはないけれど、こういう体質だからしょうがないんだよね。


 そして”あの出来事”をキッカケに私はすべてを思い出していた。

 本来忘れることが出来ないはずの私が忘れていたというのは、これまたおかしな話ことで……忘れない方がおかしいんだけどね。

 この世界が繰り返されている根拠のもう一つとして、私はこの目で――ユウジが他の女の子と付き合う記憶。

 それも私が知る限りは一人じゃない、私のクラスメイトだけじゃなくて、他のクラスだったり……驚いたのは家族相手だったり。

 ユウジが女の子を短い間にとっかえひっかえとか二股三股していると言えばそうじゃなくて、ユウジは必ず一対一で女の子と付き合っていることも覚えてる。

 ユウジとある一人の女の子との一年間の交際が何通りもあると言えばいいのかな、そんなユウジが付き合っている光景を私はこれまで見て来ていた。



 更には不思議なことに、私には二つの過去の記憶がある。

 それは”私がユウジの幼馴染の記憶”と”私がユウジの幼馴染に憧れた記憶”で、前者に関しては今の世界と地続きのようで違和感がない。

 けれど後者の記憶はというと、今との繋がりは薄くても……たぶんそれが本来の記憶なのだと思う。

 だってそこには私にとっては印象強くて、きっとユウジは覚えていない出来事が存在しているのだから。


 車に轢かれそうになる私がユウジに助けられる、というシチュエーションは”あの出来事”だけじゃなく、似たようなことがあったんだ。

 ずっと前の、小さい頃、私がこの町を一度引っ越す前のたった一年間。

 あの時私はユウジは幼馴染ではなかったけど顔なじみであって、母親同士も仲が良かった。

 きっとユウジは覚えていないかもしれない、幼稚園の私とユウジが私たちの送り迎え中に来ていた母さんが目を離した瞬間に、車道に歩いていってしまった私はあやうく車に跳ねられかけた。

 そんな私に気付いて、ぐいっと腕を引っ張って道路の端まで寄せたのはユウジだった。

 その時私はなんとも思っていなくて、ユウジだけが少し怒っていただけの、そんな出来事だったはずなのに。

 

 忘れられない私はその出来事を、同じぐらいにちっちゃくて、今に比べればかわいいユウジが私を助けてくれたことを今も思い返す。

 今思えばかっこよかったとか、死ぬところだったとか、だからユウジが怒っていたのだとかが成長した私にはわかるようになって。

 一年間の短い付き合いだったのに、引っ越したあともユウジを意識し続けていて、しばらくして中学二年生になってこの町に戻ってきた時もユウジを目で探していて。


 あまりに幼少期の短い期間だけに、きっと私を覚えていないユウジを見つけた時には嬉しかった。

 そして周りにはミユとサクラが居た、幼少期はそこにミナさんも加わって遊んでいたっけ。

 でも私は躊躇してしまった、だってユウジとミユとサクラの関係があまりにも完成されすぎていたから、そこに混ざれる隙さえなかったのだから。

 もし強引に混ざろうと思えば混ざれたかもしれない、けれど拒絶されるショックが嫌だったから私は足踏みし続けた。


 するといつの間にかユウジの周りに居たはずのミユもサクラもいなくなっていた、そしてユウジは誰かを寄せ付けないように一人でいて、声をかけようと思ってもなんと声をかけていいか分からなくて。

 私のこと覚えてる? なんて言っても、そんな小さい頃のことをみんな覚えているはずもなくて、そうしている間に時間が経ってユウジの周りに集まりだしたのがユイとマサヒロで。

 ついに私はユウジとかかわりを持つことなく中学校を卒業してしまっていた。 


 ああ、私が引っ越さないで今の今まで付き合いがあればなあ、ユウジの幼馴染だったらなぁ。


 

 そんな私の願いが今は叶っている、それが当たり前で確かなこととして認識されている世界。

 この世界で私はユウジの幼馴染だった、でも別にユウジを異性として認識しているとかそんなことは……なかったはずなのに。

 親しい男の子の友達のはずなのに、私はこれまでの恋心を忘れていない、誰にも悟られない失恋を覚えている。


 

 今あるこの世界は何度もユウジ相手に踏み出さず、いつの間にか失恋をしていた世界の果てにあった。



 そんなユウジを最近は意識してしまう。

 本当はちょっとかっこいいと思っているユウジにドキっとされるようなことをされると、嬉しくなって切なくなって胸が苦しくなる。

 幼馴染はくされ縁、あまりにも慣れてしまっただけに恋愛対象として見れる……はずないんだけどなあ。


 でもしょうがない、これまでの失恋を思い出してしまったのだから。

 そしてユウジ相手に幸せそうにする、ユウジと付き合っている女の子を見たせいで、私はひどく羨ましくなってしまったのだから。

 基本的に勝手に失恋してきた私でも、面と向かってユウジに振られたことももちろん忘れていない。


 だから……その……私は……!

 今回は頑張っていいかな、ずっと前以来に頑張ってもいいかな、と誰にも問うことは出来ない問いを自分に投げかける。

 他の世界の同じ頃にはここまでユウジに恋い焦がれていなかったけれど、気持ちが抑えられないのだからしょうがな。!


  

 ユウジと幼馴染同士だけじゃなくて……恋人同士にもなりたい!



 ……と、そんな思いを抱いたのが約二週間前。

 結局私はどうにかこの思いを隠してきてしまっていた。

 普通でいることの演技に慣れすぎたせいか、以降はユウジからのドキっとする出来事もなく普通を演じられてしまっている。

 まったくヘタレだなあ……本当に私って。


 ……また今度頑張るから。

 


五月十一日



 姫城さんが非公式新聞アイパマ新聞を広げながら静かにキレている。


 いつの間にかユウジと仲良くなっていた姫城さん……いや本当は覚えてるんだけどね。

 覚えている記憶の中でもこのぐらいタイミングで姫城さんはユウジと仲良くなっていた、どうしてかは未だに分からないけど。

 覚えてるからといってこの世界では初めての出来事なので、姫城さんがユウジに挨拶した時は知らないふりをしてユイに同調してみたり。

 なにせ自分は覚えているのに他人は覚えていないことがあまりに多すぎて、いつしか私も覚えていない”ふり”をすることに慣れていたからね!

 ……自分で言ってて悲しくなるけど、しょうがないよねこればっかりは。


 私もこれまで自分で見たことを覚えているだけで、ユウジがどうして他の女の子と仲良くなったとか、ユウジが明らかに逞しくなってるんだろうとか、そういう経緯は知らないし見てないから分からない。

 稀にその女の子と話す機会が有った時に話されるノロケ話で察せることはあるけどね。


 そんな姫城さんはいつしか私とユウジとユイと高橋君(ユウジやユイはマサヒロと呼んでる)の輪に入るようになって、しばらく経って。

 そういえば校門前で非公式新聞部の杉谷先輩がアイパマ新聞配ってるなぁ、とか内容は確かユウジと留学生で別クラスのクランナさんのスキャンダルだったなぁとか、それも予期せぬハプニングをフライデーされただけだったなぁとか、知っていると覚えているとなんとも思わないわけだけど。

 事情を知らない上にユウジ大好きな姫城さんにとっては、どうにも看過できないみたいで。


 …………今すぐフォローしてもいいんだけど、いくら事故みたいなこととはいえユウジがセクハラしたのには代わりないからしばらく様子見しておこうっと。

 頃合い見たらフォロー入れようかな。


 いや、本当なんとも思ってないからね。

 別に毎世界で同じセクハラスキャンダラスを見せつけられてウンザリしてるとか、クランナさん私よりスタイルいいからユウジにとってきっと役得なのが面白くないとか、そんなことはないからね。

 本当だよ?

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