第678話 √7-11 『ユウジ視点』『↓』
「あなたを殺すためです」
おっと展開が飛んじゃったぞ。
こんな廊下の真ん中でそんな台詞言われちゃったぞ。
更に喧噪がうるさくて彼女の声ほとんど聞こえてないし、現実は「あ――を―――――す」てな具合にしか聞き取れないから台詞知って補完しないと分からないほどという残念さ。
「……とりあえず場所移動して話さないか?」
「…………そうですね」
いいのか、自分で言っておいて本当にアレなんだがいいのか、すごい展開的に締まらないんだが。
……ということで例の半地下までやってきた。
ちなみに半地下とかいう学生にとっての絶好のたまり場スペースが昼休みにがら空きなのは何故とかは気にしてはいけない。
「……こうしてユウジ様を呼び出した理由があるんです」
軌道修正を試みる彼女、なんだか本当に申し訳ない。
「その理由はですね……」
次に出るであろう言葉は――
「あなたを殺すためです」
ごめん、さっき聞いた。
「あ、はい」
「……ちょっと反応薄すぎませんか」
これはいけない、一応原作通りにやらなければ。
例え内容に無理があっても原作どおり……次は~原作通りです、制作者の希望通り方面へはお乗り換えです。
「な、なんでこんなことするんだよ!? 俺が何かしたのかっ!」
「私をこんなに虜にしてしまうなんて……ええと、言いそびれていました。ユウジ様私こと、姫城舞はあなたのことが好きです」
ということで一番最初の俺の彼女こと姫城舞さんです、拍手。
……調子乗りましたごめんなさい。
「なんで虜にされたのが俺を殺すに理由に繋がるんだ?」
「それは簡単なことです。私はあなたに一目惚れして胸が切なくて切り裂かれるほどの苦しさを経験しました」
なるほど。
「すぐにあなたの傍に行きたい、と思っていた矢先にユウジ様の彼女かと思われるものが現れたのです」
そういうことね。
「それは……誰?」
「しらばっくれても無駄です……篠文ユキさんのことですよ」
「いや、まて俺は付き合っていない」
否定しておく。
「嘘です、私はあなたをずっと見ていました。そうですね、表現するとしたら熱い視線で舐めまわすように……! そして今日の美術の授業帰りには……お互い抱きしめ合って……ッ!」
「いや誤解なんだよ、あれはユキが階段で躓いて――」
「ゆ、ユキ!? ……うふふふ、あなたと篠文さんは名前で呼ぶ仲なのですね。 篠文さんもあなたを呼び捨てで呼んでいましたし……」
「でもそれがなんで俺を殺す理由になるんだよ!」
「なります。本当なら篠文さんを闇討ちすればよいのですが」
やっぱこの頃のこの子物騒だな。
「でもユウジ様はとても魅力的です。きっとまたあなたの虜にされる者が現れると私は思うのです」
「……」
「なら虜にさせないように私のものにしてしまえばいいと私は考えました。殺して愛しいユウジ様の生首だけを持って私は生きて行くのです。決して邪魔されることのない、永遠の二人の時間が続くのです」
うん、そのりくつはおかしい。
「俺はそんな事の為に死にたくはないな」
「そうですか……なら方法を変えましょう――私が自殺しますから、私の生首を持ってユウジ様と共に生きさせてください」
「だから、なんで結局どちらかの生首しか残らないんだよ!」
「それがいいですね。そうすれば私の生首を気味悪がって他の女は寄り付かないでしょうし。それを構わない、という方がいたら呪い殺しますので問題ありません」
「では、ちゃんと事後処理を……」
「……待てよ」
「なんですか? ユウジ様が死を選ぶのですか?」
「……ならお前に、本当に死ぬ覚悟があるのか?」
「……ありますよ。好きな人が他人に取られる痛みに比べれば、死ぬ痛みなんてマシなんです」
自分の首にナイフを付きたて芯の通った真っすぐな瞳で彼女は言う。
その眼に迷いなど無く俺一人に見据えてくれていた。
そうか、ここまで本気で、そこまで俺を好いてくれてるのか……それならお礼を言わなくちゃな。
……別にここまで原作通りを免罪符にコピペ出来て楽だとかは思ってないよ、本当だよ。
「あり――」
「いえ、でも」
ん?
「本当は死にたくない、です。ユウジ様の顔を見てお話をして付き合って結婚をして子供を作って老後一緒に過ごして……」
んん?
なんか内容が重いというか以前に、初めて聞いたような――
「でも、振り返ってもらえないのなら……」
こんなセリフでしたっけ。
「死にたい……死にたくない……」
あれ?
「お前が死ねえええええええええ!」
なんで唐突にク●スアンジュのパロをキャラ崩壊させてまで入れたあああああああああああ!?
原作通りにやれよおおおおお、制作者の趣味のパロをぶっこむ必要なんてないだろおおおおおおおおおお!
そうして迫りくる姫城の包丁……止むえまい!
「来い”ナタリー”!」
『え』
「決闘の時間だああああああああああああああああああああ」
『えええええ呼ばれて飛び出てしまったけどどういう状況なんですかこれ!?』
そうして俺と姫城のバトルが始まる――
「「オープ●ディール!」」
そうした俺と姫城の未来を賭けたマネーバトルが……誰が分かるのかこのネタは。
「……」
「はぁ……はぁ……」
そうして俺と姫城の激闘が繰り広げられた。
一瞬のアクションシーンとしてはあまりに大出血サービスな数百カットの神アニメーション、作画枚数もウン千枚を超え、一線で活躍するアニメーターによるまさにぬるぬるとした作画の激闘が繰り広げられた――のだが。
そんなネット上では神作画回と謳われること間違いないレベルの完成度の一連も、まことに残念なことにこの文面上では表現できないのが本当に辛くて仕方がない。
実際監督のこだわりによって異様に作り込まれたこのシーンによって、のちのちにスケジュール崩壊を起こしてよもや放送を落すことになろうとはスタッフの誰しもが知る由も――
「流石ですユウジ様……ここまでお強いとは」
「姫城もすごかったぞ」
背景美術を大いに書き直すハメになるほどに、多くの打痕や斬られ傷の残った半地下はもはや廃墟然としていた。
そんな中でナタリー片手に、片や包丁片手にして熱い握手を交わしていた。
王道マンガの決定版、激闘の末の和解と友情である。
「これで勝てぬなら、首を取れないならば仕方がありません」
「分かってくれたか姫城……!」
前の説得する展開とは違うとしても、これでことが進むと安堵しかけたところ――
「こうなれば、最後の手段として」
「え」
……また物騒な予感がする。
姫城のことだ、一度解決したかに見せて何をしでかすか分かった物じゃないと再度警戒をする――
「自分の魅力で、ユウジ様を振り向かせてまいりましょう」
「順序逆だろ!?」
それが最後の手段!? 最初だろおおおおおお!?
「いえ、まさしく私が諦める前の最後の足掻き。決して勝ち目がなくとも一人の女として挑まなければならないのです」
「いやいや勝ち目ってなんだよ……」
姫城が言おうとしていることは、正直分かりたくはないがなんとなくは分かる。
「それは……私に魅力がないから、です」
「ねえよ」
「やっぱり」
「魅力がないってのが、ねえよ」
姫城は自信がないからこその、順序を間違った過激な行動をする子なのである。
だからこそ”あの時”だって極端な行動だったはずだ。
拒まれたくないから完全な別れが怖いから嫌われたくないからと、距離を置いたあの時のように。
「じゃ、じゃあ私のどこがいいですか」
そう来るよな。
しかし俺はこの世界では彼女のことを知らないことになっている。
だからあくまでも、今日初対面の彼女の印象をそのまま話すのだ――
「見た目……かな」
と、言うと姫城からさっきまで熱のこもっていた感情が急激に引いていった。
「…………え?」
「美人でスタイルもいいし、声も可愛いし」
スク水が似合うし、胸もおっきいしとは流石に言わないでおく。
「はぁ」
うお、すげえ引かれてる。
「そんなよくも知らない美人に好かれてるというか、熱情を注いでもらうのはなかなか悪い気分じゃないっていうかさあ。男冥利に尽きるよね」
「そ、そうですか」
美人と言われて照れているような、だとしてももっと言い方があるんじゃないかというような表情で困惑しながら答える姫城。
それでいい。
「――だから俺だってこんなもんだよ」
「え?」
「もしかしたら俺が凄い人物だとか、カッコイイ人物だとか姫城には映ってたかもしれないけど。所詮は単なる男子高校生だよ」
「…………」
俺は今は言えないが知っている。
姫城が背負っている過去も傷も、優しくて勇気があってゆえの行動の結果なのだと。
行動が極端なところはある意味人間らしくて愛らしい、ことを深く考えてしまうから、悩んでしまうからこそだと俺は分かっている。
彼女が魅力的なのは、一番最初に付き合ったのだから俺が知っている。
「幻滅したか?」
「い、いえ」
「ま、とにかく姫城に魅力がないなら俺にはもっと魅力がないってことだ」
「いえ、ユウジ様は!」
「なら俺だって、姫城は魅力があると思う。いやあるはずだ、見た目以外にもきっと」
「…………それって私が見た目だけだと言われてる気がするのですが」
「そりゃ姫城のこと何も分からねえもん。姫城だって俺と面と話すのは初めてだろ?」
「……はい」
「だからこれから知っていけばいい、見た目だけじゃない上面だけじゃない良いとことか悪いとことか見つけていけばいい、知ることに遅いも早いもないんだから」
「それって……」
ようは俺が言いたいのはこういうことだ。
「友達からはじめようぜ」
そうして俺と姫城は友達になったのである。
……前の世界だとこう、気の利いたセリフとか”生きてみろよ!”とか松○修造的なノリをシナリオに沿って言って姫城と関係を築きはじめる、的なイベントクリアなのだが。
多分今回はほぼアドリブ、まあでもしょうがない。
いくらギャルゲー世界だったとしても、自分の感情に抗うわけにもいかないのだから。
* *
しばらくして姫城と教室に帰ってきたユキに怪しまれたり、お茶を普通に買い忘れてしまったりして、再度買いに行く結果になってしまった。
これならカバンに水筒を忍ばせておいて「いっけねー、底から出て来たや」とか恍けておくべきだった、というトホホなオチ。
そうそう、それから色々あって生徒会には入らなかったりした。
ルート分岐条件とかあるみたいだけども、ヒロインもう残ってないのに気にしてもね。
そもそも姫城・ユキの共通ルートで生徒会に入ること自体意味分かんねえというか、だから姉貴には悪いが突っぱねさせてもらった。
……本当に申し訳ないんだけど、生徒会ルート入ってユキ達と遊ぶってのが時間的に無理になるんでな。
そもそも生徒会に入りつつも生徒会両立出来た姫城の時がおかしいというか、これスケジュール管理してないだろとか、移動時間ワープしないと成立しないだろとか、そんな矛盾を取り払った結果なのであしからず。
ということで今回ばかりはユキルートであろうことを免罪符に帰宅部をエンジョイさせてもらうこととしよう。