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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第二十章 この中にもう一人、幼馴染がいる! ーなかおさー
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第672話 √7-5 『ユウジ視点』『四月二十一日』



 俺には同い年の幼馴染がいる。

 幼稚園から関係が続く縁で、以前は家もかなり近所で隣あっていたぐらいだった。

 それがいつかこの町の中とはいえ少しだけ引っ越したことでちょっとだけ関係は離れたが、別に仲が悪いということもなく、普通にちょっと親し気な友人関係が今に至っても続いている。

 ちょくちょくメールなどで「買い物付き合ってー」とか「暇だから遊びにいかない?」などと誘われては、休日一緒に出掛けるということも少なくない。

 幼馴染の彼女は元から可愛い部類だったが、年を経ると贔屓目に見てもかなりの美少女に成長したものだと思う。

 昔から変わらない少し前髪を別けておでこを出したポニーテールがトレードマークで、明るくポジティブな性格で男女問わず話すので多分というよりも絶対に俺よりも友人は多い。

 そして男子からの人気も高く、ユキ曰くしょっちゅう告白されているようだ、しかし何故かその度に断っているとのことだった。

 一回ぐらい誰かと付き合ってみればいいのにと軽口を叩いたらしばらく口を聞いてくれなかったのを鮮明に覚えている、結局理由は分からず仕舞いだったがとにかく謝り倒したり甘味を奢ったりなどで、一応の解決を見た。



 ……というのが俺の脳内にある設定だった。

 俺が考えた痛いストーカー気味の脳内設定というよりは、このギャルゲー世界において作られた過去設定というものだと思う、たぶん。

 一応ユキとの幼馴染な記憶があるにはあるのだが、どうにも各エピソードごとが独立して存在するだけで前後の記憶が見つからないことが多かった。

 まさしく作られた記憶というもので、おそらくユキも俺とそんな経験がなくとも同じような記憶を有しているものだと思う。


 

 そして四月二十一日を前日に控えた夜、携帯にはユキからのメールが届いていた。

 内容はというと「なんとなくだけど明日久しぶりに一緒に登校しない?」というものだった。

 俺としては明日の日付を考えると、女の子からの登校デートの誘い以外にも少しドキリとされられてしまうがここで断るわけにもいかず了解とメールを返す。


 そう、明日は俺の記憶の通りなら。

 これまでの世界の記憶通りならば――


  

四月二十一日



 いや、ね。

 正直”こと”が起こるのが分かっていて熟睡できるわけないじゃん、それでもここはほらもうちょっとご都合的に寝かせてくれてもいいじゃん。

 結局一睡もすることなく朝を迎えてしまったわけで。


「Oh……」


 というか今更凄く眠くなってきたんだけど、身体が悲鳴あげて睡眠フェーズに移行しようとしてるんだけど。

 この世界でも家事の手伝いやってるから今アラームの鳴ってる目覚ましの示す時間は朝六時前だし、まあ寝ようと思えば寝れる時間はあるのだ。

 しかし今寝てしまえば家事手伝いを放棄するだけでなく、確実にユキとの待ち合わせはおろか登校時間にさえ寝過ごす自信があった。


「いやそれでもあと五分……いや五年……」

「年単位とか世界をまるまるムダにするつもりか、起きるのじゃ」


 そうして聞こえてきた声の先に目を向けると――


「重い」

「このわしが重いわけないじゃろ、目を覚ませ」

「いや腹の上に米袋載ってるの想像してもらえれば普通にきついんだが降りろ桐」

「わしにおはようのチューをするのなら下りるのもやぶさかでない」


 …………ああ、そういえばこうした桐の適当な誘いもずいぶん久しぶりな気がするな。

 なんで最近は無かったんだっけ。

 単に俺が忙しかっただけ? それともこの世界に慣れる為の桐なりの気遣いだったのか、それとも単に他に話を回せるキャラが現れたからか……まぁどうでもいいわな。

 思えばマイの頃とかは思い切り背伸びしたかのような物言いで、そんな煽るようなことを言ってたっけ。

 あの頃は面倒くさいとかで拒んできたが、ここはなんとなく――


「…………ほらよ」


 そうして俺は強引に身体を起こすと桐の頬めがけて唇を近づけキスをした。

 すると桐は何をされたか分からないと言うように呆然としたような表情をしたあと――顔を真っ赤に染め上げた。


「な、な、な……っ! 何をするか!」

「……お前がしろって言ったんじゃん、それともマウストゥマウスをご所望だったか」

「ちが……違うわい! シスタージョークを真に受けるでない……お兄ちゃんのえっち! 小さな女の子に興奮するロリコン! 妹にしか欲情しないシスコン!」


 ……流れでテキトーなこと言ってんなこいつ。


「自分から誘っておいてそれはねえんじゃないかなあ、お嬢ちゃんよ」

「そ、それは……やめて! ひどいことしないで! R指定が変わっちゃう!」

「いや悪いけど流石に本当にマジで、桐には欲情しないし無理」

「…………それはそれで面白くないのうっ!」

「おい腹を蹴るな、起きがけに内臓を刺激するな、胃液がリバースしちゃうだろうが」

「うるさいうるさい! ゲロインならぬゲーローになってしまえばいいのじゃ!」


 ヒーローとかけてんのそれ、蛙怪人みたいな名前になってんじゃん。

 ……ちょっとした懐かしいコントはここまでにして、俺は覚醒しつつあった脳内に抱き始めた疑問を目の前の妹っぽいものに投げかけた。


「というかなんでお前、桐”今このタイミング”で俺の前に来てんの? 本来なら俺がやらかした次のタイミングだろ」

「……そういえばお主はこれまでのことを覚えているんじゃったな」


 さっきまでのふざけムードもなりを潜め、少しだけ悲し気な表情をして桐が悟ったように言葉を返す。


「だから、こう口には出したくないけどさ……ユキが事故にあって、ゲームオーバーのちにコンテニュー時に状況説明に出てくるのがお前じゃん」


 そう、俺は分かっているのだ。

 可愛い幼馴染と、幼馴染らしく、ギャルゲーのイベントっぽく二人で登校できるのが楽しみすぎて遠足の前日のようにドキドキワクワクしていたわけではない。

 …………いや、ごめんちょっとはその気あったけど今はそういうことじゃなくて。


 彼女が、ユキが。 

 俺と一緒に登校して、俺が何もしなければ、俺の目の前で彼女は事故に遭う。

 こればっかりはどの世界では変わらず存在したこと。

 偶然回避出来た世界もあれば、鈍感な俺は気づくことなく何度も繰り返したことだってある。

 必ず通らなければならないイベントの一つなのだ。


「そうじゃな。しかしお主にいきなり世界の始まった日に電撃訪問されてしまっては、今更これまでの展開との不一致を意識しても何の意味もなかろう」

「まあそうなんだがな……」 


 この世界の始まった日、別に俺がロリコンでシスコンだから真っ先に桐の部屋を訪れたわけじゃない。

 桐が世界を知っていることを俺が知っていたから、真っ先に桐がいるであろう部屋に向かったのだ……もっとも本当なら桐はその時点では俺に認識されていないはずだった。

 その時は桐が時折使っていた謎能力が使えなかったことと、桐のキャラ設定がズレた事実ぐらいしか目新しいことは無かったのだが。


「そういえば桐、あと(攻略していない)ヒロインは何人いるんだ?」

「ふた……ふん、言えぬな」


 二人か、なるほどな。

 というかそういう今までは規制されてたとかで言えなかった情報も、制限なく俺に開示できるようになったんだな。


「実はさ桐、俺この原作ゲームの謳い文句とかうっすら覚えてるんだよね。例えばヒロイン総勢十人以上! とか」

「そこまで覚えておるのか……」


 絵が良いだけのクソゲーと酷評された”ルリキャベ”の謳い文句の一つは『総勢十人以上のヒロインが登場!』だった。

 マイ、ホニさん、クランナ、ヨリ、アオ、コナツ……それにユキと桐もそのはずだな。

 これだけだと八人だが、ある意味この原作ゲームのクソゲーたる要素の一つに”攻略不可ヒロインの存在”がある。

 

 ヒロインをジャンル分けする……というのも正直どうかと思うだが、実際にしてみる。

 クラスメイトのマイとユキ、異能力関連でホニさんとヨリ、クラスメイト兼文通少女のアオ、クラスメイト兼生徒会コナツ、留学生兼生徒会でクランナ、家族内の妹で桐になる。

 こうして別けてみるとジャンル内で人数はほどよくばらけているようにも思えるし、単独の設定だけで一ヒロインのルートは基本存在しないように思える。

 しかし生徒会クラスメイトラブコメのコナツルートとバトルありSFありなクランナルートは大きく違う、生徒会でジャンル分けするとしてもあくまでそれは序盤のことだけで、実質は別けて考えるべきだろう。

 だから正確には生徒会のコナツ、留学生のクランナということでそれぞれ贅沢にも一人一つの設定が用いられることになる。

 しかしホニさんとヨリのルートが対となるように、おそらくユキとマイが対であると仮定すれば、他のヒロインのルートも対となる存在があってもおかしくなかったのではないか。

 

 そこで考えたのがボツとされたルートが存在した、あるいは続編でメインヒロイン昇格する予定があった枠の存在する可能性だ。

 俺がどこかで聞いたこととして、生徒会関連は原作だと本来別開発のゲームのリソースを流用した疑惑があった。

 つまりは生徒会で現実にこれまで存在していた姉貴や、入る時と入らない時があるユイ以外だと、アス会長と書記のチサさんがいる。

 会長・書記の二人をヒロインとして数えるなら、攻略対象ヒロイン八人を加えて十人になる。

 そしてクランナルートがあって、対となるであろうアイシアルートがないというのも変な話で、それも数えれば十一人にもなる。

 ちなみに妹枠の桐はというと、とりあえず妹出しておけというような浅い発想な気がするので深く考えても無駄な気がする、ただもしかしたら対で考えるなら姉ルートの案が存在したかもしれない。


 すると”ヒロインは十人以上登場!”に違いはないわけで、確かに攻略出来るとは一言も言っていなかっただけで嘘はついていないのだ。

 もちろんそれも原因で原作は酷評され・炎上したのだがそれはまた別の話。


 そこで桐から聞き出した数字、今まで攻略したヒロイン以外の、残り攻略ヒロインが二人ということは――桐とユキのみになる。

 桐は自分でヒロインとか言ってたし、おそらくというかそうじゃないと困るのだが――俺の幼馴染に”なった”彼女ことユキもヒロインに違いないのだ。


「ついでに俺が朝起きて、何の前触れもなく始まったあからさまな説明描写は、どう考えてもユキルートだろ」

「いやわしには分かるから良いんじゃが、そういうメタ的なことは言うでない」


 ここまで詳らかにされていなかった俺の中でのユキの立ち位置・関係を示した時点のこの流れでユキがヒロインじゃなかったら驚くわ。

 というか共通ルートで毎回事故に遭わされる子がヒロイン対象じゃないとか、そんな悪趣味なことをする原作ゲーム会社とかどんな手段使っても潰しにいくわ。

 それ以前に事故に遭わす共通ルートなんか作ったセンスの欠片も無いクソスタッフがぶっとばすぞ。


「ってことはユキ攻略して、お前も攻略すればいいってことなのな」

「…………まぁの」


 全てを覚えている俺にとって、中途半端に誤魔化すのも無駄と観念したか桐はそう認めたのだった。

 ユイや姉貴や委員長やミユという別のゲーム原作はヒロインが四人固定だということもミユに聞いて知っている。

 俺がこうして全てを覚えているこのタイミングは限りなくこのリアルとハイブリッドな世界のゲームの終盤だったらしい。


「ゲームクリア……しないとな」


 俺の役割は桐曰く、女の子を攻略しなければならない。

 そしてヒロイン全員を攻略することで、この繰り返す時間を抜け出すことが出来る。

 だから俺は、これまで強く意識してこなかった――”攻略”という言葉を胸に刻み付ける。


 これから俺がユキと恋に落ちるわけじゃない、彼女を俺に惚れさせるなりして攻略しないといけない。

 それは俺の為でも彼女の為でもない、この世界の為に。

 きっと俺が巻き込んでしまってであろう皆の時間を進ませる為に――このゲームに勝たなければならない。

  

「エンディングが見えた――!」

「臆面泣くパクるでない」

 

 俺の尊敬する某神にーさまぐらい、計画的で冷静に淡々かつ確実にやっていかないと、たぶん精神が持たないのかもしれない。

 実際今も俺の心の中にはこれまで関係を持った彼女たちへの罪悪感が渦巻いているのだから―― 


 人間、いざ大事なことが迫れば徹夜明けでもなんとかなる。

 眠気なんてとうに吹き飛んで、俺は記憶の中のやり方で彼女と朝――登校デートをするのだ。


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