第684話 √7-17 『ユウジ視点』『↓』
『あ! ユウジと私が付き合ってること皆に秘密だから!』
そんな彼女(文字通りの俺と交際している女子)たっての希望により、放課後を迎え家に帰りそして一日が終わるまでも、俺は今日の出来事を誰にも話さなかった。
こういうイレギュラーな事態の場合いつもは桐などに相談するものだが、俺が誰かに話したことがこの家の住人の誰か経由でユキや姫城さんの耳に入る可能性も考えると話すことを躊躇した。
確かに現時点の姫城さんにバレるとかなり修羅場が予想されることもあって、まだ隠しておきたいという理にはかなっている。
それでもじゃあ俺はその隠している間どういう態度をとるべきなのかと、皆の前じゃなければイチャイチャOKということなのか、ルールがいまいちわからない。
こればっかりはこれまでの経験を用いて自力で考えるほか無さそうだ――
「”交際をし始めた彼女が、付き合っていることを誰にも言わないでと言ってきました。どう考えればいいでしょうか”っと」
そうして俺はヒャッハー知恵袋さんを用いて自力(?)での解決を試みたのだ。
すると――
『二股かけられていると思います』
『完全に浮気』
『遊び』
『実質ATM』
まるで役に立たなかった、時間を返してほしい。
というか何を俺はそんなに疑心暗鬼になっているのか、ユキを疑っているわけじゃ……いや、少しは疑っていたのかもな。
突飛な行動も、このタイミングでの告白も交際も、何か意図があるのではないかと考えてしまったのだ。
それもユキがこれまでのことを、正確にはこれまでの世界を覚えているかのようなことを言っていたのが原因の一つだ。
実は俺が知らないだけで未来の俺側の人間なのか? とか、そもそもどこからどこまでユキは知っているのか? とか。
そんな予想外の不安要素に俺は振り回されていたのだ。
「あああああ、考えても仕方ねえ」
頭をクシャクシャとかきながらそう呟く、考えたところで俺のこれまでの経験に基づいた記憶や技術などはこの世界ではまるで役に立たないだろうし。
こうなればユキの様子を見守るほかない、現状はユキの言う通りに今までと同じように振舞うとしよう。
五月十二日
……なんか微妙にクセで早く学校に来てしまった。
確かに姉貴たちよりは遅く家を出たはずなのだが、生徒会登校時間に近いぐらいに教室着。
殆ど誰もいない教室で、最近の世界じゃあまり没頭できなかったライトノベルに更け込む。
思えば最近の世界じゃ生徒会に入ったりバトルしたりで一応趣味だったはずのアニメもライトノベルも浅く触れる程度しか出来なかった。
それが最近のこの世界では生徒会にも入らないしバトルもないしで、むしろ時間を持て余すようになったことでアニメマンガラノベに使える時間が増えたのだった。
しかし今読んでいるラノベは、登場人物がいつも酒飲んでつまみ食ってボードゲームして出版あるあるばっかり言っているという……ヒロインの性欲が凄い。
表現こそライトだが、このヒロインの性欲に関してはディープなんじゃないかと思いながら読んでいるとクラスメイトが登校し始めていた。
「おはよう下之君」
「おは委員長」
委員長こと嵩鳥マナカがやってくる。
この世界の俺は、彼女がこの現実とハイブリッドになっているギャルゲーの原案を書いたということはとうに知りえている。
そしてその原案は今頃の俺の周辺を基にしたというのも――
そこで俺はふと気づいた、あたりを見て委員長しかいないことを確認してから――
「なあ委員長……いや原作者さんよ」
これまでの記憶を覚えている上に、本来は消えているはずの記憶も残っている。
ということはあの教室での委員長の告白も、委員長の正体についても俺は分かっているのだ。
「…………はい、一応人祓いと時間停止しておきますけど。なんですか」
「昨日ユキに告白されたんだが、それはシナリオ通りか?」
「え?」
……この反応を見るにシナリオ通りではないということか。
「…………分かりました。未来の私に問い合わせてみましたが、本当に告白されたのですね。もちろんシナリオ通りではないです」
「俺が嘘ついてどうするんだ。しかしそうか……」
「しかし胸揉みした上での告白ですか……篠文さんもやりますね! で、どうでした?」
「そこは触れないでくれ!」
「つべこべ言わず感想を述べよ、でなければこの件バラします」
この創造神……登場キャラクターに脅迫を……!?
というか未来の委員長に問い合わせれば俺の考えや感想なんて余裕で分かることだろうに、意地が悪い。
なんとなく面白くない俺は反撃を試みるのだった。
「そういえば……マナカの生乳良かったな……交わったとかいいながらもマナカが怖がって実はガチ本番は無しだったけど」
「全カットで想像の余地を残していたのになんてことを言うんですか!? ……はっ」
認めちゃってどうするんだよ。
「大体まだ高校生同士が文字通りしましたなんて、そんなの各所が黙ってないだろうし」
「そ、それはそうですが……でも、双方精神は大人レベルに成熟しているのでセーフでは!?」
「アウトだよ!」
それ見た目には分かんねえし、大体未来の自分と意思疎通できる委員長と違って俺は未来の俺のことは委員長経由で聞いた話しか知らないし。
「まぁミユとはしたけどな」
「そこはなんで確定するんですか!? このシスコンシンキンソウカン男!」
「合意の上だからセーフ!」
「アウトですよ!?」
ま、まぁ半分冗談はここまでにしておいて。
「ちなみにユキのはマナカより下着越しでもデカい気がした」
「今頃それ蒸し返すんですか!? そして本当に最低なことを言ってこの男は!」
「なら聞くなよ。俺の性格知ってれば俺を恥ずかしがらせる質問として適してないだろ」
「く、くやしい……でも」
でも、なんだよ。
「まぁユキの行動に心当たり無いならいいんだ、時間取らせたな」
「いいですよ、久しぶりに合法的に下之君とイチャイチャ出来ましたし」
「基本違法なのかよ」
「そうですよ。一度ヒロインを終えたらもう、次は無いんですから」
「…………」
少しだけ寂しげにした委員長に俺は胸が締め付けられた。
俺と結ばれてこれまでの世界を覚えているということは、そういうことなのだ。
「悪いとか、ごめんとか、無しですからね。むしろ下之君がこのゲームをクリアしてからが本番ですから」
「……どういうことだ?」
「考えてませんでしたか。下之君がすべての女の子を攻略して、時が進み始めた世界で。果たして私たちは下之君にどういう気持ちを抱くでしょう?」
「それは……いや、リセットされるもんじゃないのか」
「どうでしょうね、それは下之君次第ということですよ――では、人払いと時間停止解きますね」
そう言い残して俺と委員長は単なるクラスメイトに戻っていく。
一年を繰り返す世界を抜けた先、いつも通りの日常が続くのだと思っていたが――
そのいつも通りとは、今のものか?
それとも――
長い時間が経っている気がするがそんなことはなく、まだホームルームのずっと前だ。
生徒会登校とはそれだけ早く来ていたものであり、委員長と話していた時間が止まっていたことも感覚的に長く感じさせる要因だろう。
少しずつクラスメイトが席に着いて行く、そしてマサヒロやユイと昨日読んでいたラノベについて話していると――
丁度椅子に対して後ろ向きに座って話していただけに、教室の後ろ扉から入ってきたユキと目が合った。
ここは普通っぽく、いつも通りっぽく……っと。
「おはようユキ」
こんな感じだろう、大きな声でも小さな声でもなく普通の挨拶。
これならユキも俺の要求に満足に違いない――
「お、お、お、お、お、おはようユウウウウウウジ!?」
「どうしたよ!?」
「い、いや! その! 鞄おいてくりゅううう」
そういう語尾のキャラじゃなかっただろーーー!?
……なんなのユキさん、何を意図してるのかいよいよ分からなくなってきたよ。




