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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第二十章 この中にもう一人、幼馴染がいる! ーなかおさー
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第671話 √7-4 『ユウジ視点』『↓』



 桐の部屋探訪は不作に終わったが、俺としては確かめなければならないことがあった。

 記憶にあって分かっていても、この目で実際に見て聞いてみないことにはなんとも言えないことなのだ。

 だから俺は――


「ミユ、入ってもいいか?」

「っ! ちょ、ちょっと待って。」


 俺はミユの部屋の前までやってくると扉をノックした。

 彼女こと俺の実の妹であるミユは前の世界で引きこもりを脱して、更に俺と恋人同士になっていた。

 そしておそらくミユはこの世界のシステム側である桐たちと交流があり、この世界のことについてこれまでも話していた様子だった。

 

 色々確かめたいことがあった、だから俺は前の世界の同じ時期ならこうして扉を叩くこともなかったのに――俺は行動したのだ。


「……ん、いいよ」


 おおよそ数分後に扉が開くと、ミユが姿を現した。

 記憶にある前の世界の短くした髪ではない長めの、それでも少し整えようとした様子が垣間見られる癖の強い黒髪で、新しく出したとおぼしき新品ジャージを着たミユ。


「あのさミユ……引きこもりやめたんだよな」

「この時点ではまだやめてないよ」


 この時点では……か。


「正直変なことというか、頭おかしいことを聞かせてもらうんだが――俺とミユと付き合ったことってあるか?」

「っ! ……本当に覚えてるんだ、ユウ兄」

「ということは、そうなんだな」

「そうだよ……私はユウ兄の”元”彼女だよ」


 元と自分で言って少し悲しそうにして、俺も正直複雑な気持ちでその言葉を受け入れた。


「そうか…………ちょっと話してもいいか?」

「うん、中に入って」


 そうしてミユに招き入れられてミユの部屋に入る――




 

 部屋は暗くなく、ある程度整理された雰囲気とミユ以外の人物が訪れたような形跡が残っている。

 多分俺がミユの部屋を訪れる前、桐と話している間に来訪者がいたのだろう。


「それでユウ兄は、どこからどこまで覚えてるの?」

「あー、えーとだな……主にマイと付き合ってからミユと付き合うまでのことも」

「……節操無し」

「返す言葉も無い……」


 いや正直俺も信じられないけど、記憶の捏造を疑わない限り、あまりにも詳細すぎることを覚えてるもんで。


「ということは本来忘れてるはずだった前の世界も、それまでのことも、全部覚えてるってことね」

「そういうことになるな」

「…………ユミジが言った通りだ」

「ユミジとも親交があるのか。俺も時々曖昧な空間で会うアイツと、か」


 曖昧な空間にいる彼女は、前の世界でミユの持っている携帯ゲーム機を通じて言葉を発していることを覚えている。

 

「……ミユはいつから覚えてるんだ?」

「私は……ユウ兄がユイと付き合った時ぐらいから」

「だいぶ前じゃないか……そうか」


 ミユは俺が忘れている間もこうして俺たちの生活を眺め続けていたらしい、何年も違う事もあれば同じこともある繰り返す世界で生き続けたのだ。


「がんばったな、ミユ」

「っ! ……が、がんばったじゃないよ。だ、誰のせいで……」

 

 言葉だけ見れば責め立てるものだが、実際は涙声で感極まったような言い方で俺はただ生暖かく見守るほかなくなってしまう。


「……それにユウ兄ががんばってないとは思ってないから、私見てたし」

「……そうか、でも俺は毎度忘れて楽してたからな」

「それぐらいいいじゃん、どれだけ女の子の為に体張ったと思ってるの。ハイブリッドな世界でも痛いものは痛いし辛いものは辛い……はずだし」

「そうか……そうかもな、そう言ってくれるのは……悪くないな」


 今の俺には自分が死んだ記憶も混在している、その時感じた痛みも悲しさも辛さもすべて覚えている。

 目の前でユキが事故に遭う様、目の前で殺されるホニさんたち、ホニさんに滅ぼされた世界で俺が死ぬ時、アオと会いたいだけで事故死する俺。

 忘れることなく、俺の記憶と経験として今は根付いている。


「……あのさ、ユウ兄」

「うん」

「聞きたいことがあるんだけどさ」

「ああ」

「……今でも私のこと好き?」

「好きだ」

「…………なら、私とまた付き合ってくれる?」

「すまん」

「なんでよ」

「俺はまだ、やらなきゃいけないことがあるから」

「…………ごめん、分かってて聞いた、ごめん」


 俺の中の気持ちの整理というのはあまり付いていない。

 これまでの記憶を覚えているということは、俺の抱いた彼女たちへ好意も健在なのだった。

 それもマイと付き合ったのが一番前だから薄い、なんてことはなくて。

 全員へ、同じぐらいの思いを抱いているのだからタチが悪い。


 責任すべてを放棄するなら、目の前にいるミユと――イチャイチャしてえ! 

 ……と思うほどなのだ。

 でも覚えているからこそ、俺の役目を分かっている。


 それは――



「この繰り返す世界を終わらせないといけないから、それを言い訳にしても断らないといけない」


 

 世界を救うヒーロー気取りと言われても仕方ない。

 でも俺は世界を救った気なんてさらさらない、仕組まれた物語の中でまんまと目の前の女子に恋に落ちるだけの節操無しの男子でしかない。

 それでも桐が口を酸っぱくして言ったように女の子を攻略しないといけない、例え俺が自分の心を殺してでも、他の女の子を裏切ってでも。

 だから俺は―― 


「……いいよ、頑張ってね主人公」


 少しだけ辛そうな表情で笑みを作って俺に激励の言葉をミユはくれる。

 主人公なんて柄じゃない、と言いかけて俺は――


「ありがとな、頑張る」


 そうして俺はミユの部屋を後にするのだった。

 



  

 それから月日が過ぎていった。

 桐とミユの部屋を訪れた日から、俺の記憶の中にあるいずれかのことが起こる。

 おそらくはシナリオを進める上で必要な事柄、留学生組のホームステイや高校入学日などが大きく変わることはなかった。

 ちなみにこれまでの世界どれもがすべて同じ出来事が連続しているわけではなく、ある程度の法則性などがあって進行する。

 とはいっても劇的なことのない些細なもので、クランナに付き合わされた卵焼き特訓で俺が卵の殻が混在しているか、やたら甘じょっぱい卵焼きを食べさせられるか程度の違いしかない。

 それでもこれまで何度もやり直した世界の中で経験し・この目で見たことが目の前で繰り広げられる。

 選択肢の答えを予め確実に知ったうえで間違えようのない問題に挑んでいるような、答え合わせをしているような気持ちになってくる。

 いわゆるイレギュラーなミユや桐以外の家族やクラスメイトとの会話は俺の記憶にある会話と一字一句同じなのだから、少しだけうんざりとして、改めてこの世界が現実とゲームのハイブリッドであると認識させられるのだ。



 そうして、あくまでこれまでは本編に入る前の前日談といったところ。

 もしゲームならば特典小説などで補完されるような、大した出来事もない日常風景。

 繰り返し位置が四月の一日に設定されているだけで、訪れるのはゲームのシナリオ上の始まりの日――



 の前日。

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