第670話 √7-3
ユミジの告白についてまた細かく問いただして、整合性を確かめた上で――
「はい、ということで情報交換ね」
薄暗い部屋……には違いなくても今はカーテンを開けて光が差し込んでいる。
ユミジに衝撃にしてあっさりすぎる告白によって、今一度この状況を確認してみようと思ったのだ。
ということでナタリー(妖精体)とホニさんを私の部屋に呼び寄せた、桐に関してはことがことなので呼ばずに話し合いを始める。
「ホニさんはどこまで…………ホニさん?」
「えっ、あっはい……なんでしたっけ?」
「ほら、これまでの記憶をどこまで覚えてるか……ってことなんだけど」
「そうですね。我がヒロインの世界から、我が滅ぼした世界も覚えてますね…………うぅ」
「なんかごめん」
確かに呼んでここにやってきた時点でホニさんは何か思いつめた様子というか、ずんと沈み込んだ表情をしていたのが気になったけど。
そう、桐とユミジが消したはずの雨澄ルート時のホニさんが世界を滅ぼした記憶が消えずに残ってしまっているのだった。
そういえばあの時はビックリしたなあ、暗い部屋にいきなり植物の波が押し寄せてきたと思えば食虫植物的なのに取り込まれてどろどろどろ……この話はやめよう。
「我はこの手でユウジさんを……世界を……ぐぅ」
『ホニさんの記憶を弄ったはずなんですけどね、どうもこの世界ではその設定の類がおかしくなってるみたいで』
本人目の前にして記憶を弄ったとか言うなよこの無神経AI。
「ユミジや桐の手も煩わせて……ああぁぁ……」
『ウジウジするの勝手……と言いたいところですが、過去のことにこだわっては仕方ないでしょう。過去にこだわるならホニから見れば下之ユウジなんて女子誑かしてはとっかえひっかえしてるクズですよ』
言い方! 言い方もうちょいなんとかしてよ。
「クズじゃないです! ユウジさんは放っておけないだけなんですよ、優しい人なだけですから……そんな一方的なユウジさんの悪口は許しません」
怖いんだけどホニさん、人工AIに手出すと私のお古のゲーム機がお亡くなりになるからやめてね。
『ウジウジしないなら私も言いませんよ。そもそもたかが世界を滅ぼしただけなんですか、それが愛の結果ならしょうがないことです』
「人工AIが愛語ってる……」
『実は私ミユが好きなんです、異性として』
「ユミジって男だったの!?」
ここにきて衝撃の事実、なら今までの曖昧な空間とかに出てきたビジュアルなんだったの、女装だったの?
『冗談ですよ、半分は』
「どっちが冗談が言ってくれない!?」
本人曰く異性としての部分とのこと、よかったよかった……………うん?
『さてコントはここまでにしておきましょう。とりあえずホニは自分の世界からのことをすべて覚えていると、ナタリーはどうですか』
『え……私も自分の世界から、かな。別に私は忘れたこととかないしね』
『覚えていると。ということは私や桐が加えた追加要素だけが無効になっているようですね』
「それにユミジが言う通りなら桐の”わし・のじゃ”喋りがなくなっていたり――」
「『えっ』」
それを聞いて驚いたのは他ならぬホニさんとナタリーだった。
「まさか!? 桐がのじゃ喋りじゃないとか、おかしいですよ!」
『かなり深刻ですね……』
私も同じこと思ったけど桐のキャラクター把握がわし・のじゃで済んでいるというのは、ある意味キャラが薄い気がして可哀想な気がしてきた。
『加えて下之ユウジのこれまでの記憶が維持されているようですね』
「『えっ』」
もはやコピーペーストしたのではないかという先ほどのリアクションを二人はすると、続けて。
「と、ということは我とユウジさんが恋人同士だった頃のことも……!」
『そうなると私の為に文通してくれたり、私の為に事故に遭ったり、私を使って戦ったり、私がこっそり一分の一体の時にキスしたことも――』
そう言いかけてナタリーははっとした表情をしてしまったと口に出す寸前で――
「ちょっと待ってください!?」
ホニさんのツッコミがさく裂する。
だよねえ、私はログ見て知ってたけどホニさんはたぶん知らなかったもんね。
「ナタリーが一分の一体の時って、自身の物語じゃないはずですよね? ということは委員長の時かミユの時にしたってことになりますけれど」
『……委員長の時に、初めにしました』
「ずるい! 我もしてないのに」
じゃあ私も今からユウ兄にキスしにいっていいですかね。
……半分冗談はさておき、とりあえず現状の皆の状態は良く分かったとして。
「まあとりあえずその話はおいておくとして。現状の確認が終わったところで、ユミジから聞いたことを話しておきたいんだけど」
少しだけ私が表情を真剣にしたことで何事かとナタリーとホニさんは黙って私の方を向いていた。
『話しちゃうんですか?』
「私だけが知ってる意味ないし、ここは共有しておいていいんじゃないの?」
『少しだけ下之家身内の要素が強いのはどうかと思いますが、ミユが話したいと思うなら』
「そ、じゃあ話しちゃうね」
そうして私が話したのは――
「突然だけど桐って何者だと思う?」
「と、突然ですね」
『唐突ですね』
まぁそういう反応になるよね。
まずはホニさんが首を傾げながらも言葉を返した。
「桐……たぶんユミジに近い存在みたいですよね」
『妹風ガイドキャラみたいな』
だいたいあってる。
「それで合ってるんだけど……問題は”誰をモデルにしたか”でね」
「モデルがいるんですか!?」
『……それは原作のゲームとは関係なく?』
「関係なくはないよ。というよりナタリー、このゲームの原作者は委員長だよ」
『あ、そっか。そうだよね』
「そんな委員長が誰をモデルにしたかと言えば――この下之家の三女、下之美樹なんだよ」
「『えっ』」
そんな反応になるよね、うんうん。
「三女って……次女がミユで、あれ?」
『居ない……よね』
「うん、今は居ないよ。でもかつては居た、正確には”産まれるはずだった”子だよ」
「『…………』」
そう桐という存在のルーツは、本来はこの下之家三女として生を受けるはずだった下之美樹だった。
ユミジ曰くユウ兄と私が本当に小さい頃にお母さんが死産した、ということらしかった。
「それで桐の”わし・のじゃ”喋り、あれも意味あったみたい」
「あったんですか!?」
『あったんだ!?』
いや私も思ったけど、うんすっごい驚いてるね二人とも。
「桐は美樹の魂と、私のおばあちゃんの魂が半分ずつだからあんな喋り方なんだって」
「『なるほど……』」
「そんな死産した美樹の魂をどうにかこの現実に寄越してきたのが私のお父さんで、それが原因で行方不明に」
「『え』」
「そのお父さんを今も探す為に再婚したユイのお父さんと異世界に旅立っているから、実はお母さんがあまりこの家に居ない理由だったりして」
「『!?』」
「それでお母さんと再婚したユイのお父さんかと思った人が実はお母さんで、おそらくはユイはお父さんの腹違いの娘で」
「『?????』」
「まぁそんなところみたい」
「全然意味分からないんですけど!?」
『え、ちょっと基本部外者の私でもあまりに衝撃的すぎることの羅列なんだけど!?』
お父さんが亡くなったというのに私に実感がなかったのも、実際に死に目を見ているわけではなかったから。
お母さんが常にどこかに出かけているのは、そんなお父さんを今も探しているから。
お母さんが再婚した相手も実はカモフラージュで、その相手はユイのお母さんにして私にとっての義母になる存在だった。
ちなみに現父親の件に関しては問いただしたらユミジがボロを出し、それには私もかなり驚いた。
いやいやそんなわけあるかと思ったけどもユミジがそんな突拍子もない嘘をつく必要もないので信じるほかなかった。
つまりユイは血のつながった義理の姉、ということになってしまうわけで。
「正直まだ理解出来てないんですけど……つまりは桐こと美樹がことのはじまりってことですか?」
「ホニさんさすが」
『はぁ~、そんなことあるんですねえ』
ここまでゲームのシナリオだったらもっと私も気軽に信じられたのに。
言ってる自分も正直全てを受け止められている気はしないのだ。
「……と、ここまでゲームほぼ関係無しの現実の話でした」
「考えてみたらそうですよね!? ええ!?」
『小説より奇なりすぎる』
「たぶんゲームのおかげで桐の存在を固定出来たんだろうけど、今もお母さん異世界飛び回ってるとか、ユイが義理の姉とかはゲームまるで関係ないからね……」
いや本当ね、私どうユイに接していいか分かんないんだけど。
リアルにお姉ちゃんって言った方がいいパターンのやつ……?
「正直ユミジがバラしたそんな情報を一人で抱えるには重すぎたから、道連れにさせてもらったよ」
「……はい、これは重いですね」
『これはしょうがない』
ちなみにもしユウ兄がこれまでの記憶を覚えていると仮定すると、ユミジ曰く私の世界でこれらの情報のおおよそは知りえているらしい。
なんということを……。
「とりあえず私から話すことはそんな感じ、これからも何かあったら情報交換しよう」
「……そうですね」
『うん』
ということでそんな記憶を持つ者同士の集まりは解散になった。
……情報交換が済んだだけで、これからが、この世界がどうなるかさっぱり見当もつかないし。
とりあえずは様子見するしかないかな――
訂正:ミキの表現について一部修正しています