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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第八章 ※独占禁止法は適応されませんでした。
54/648

第191~192話 √1-29 ※独占禁止法は適応されませんでした。

一応締められていればいいのですが……文章の酷さはもう、ごめんなさい。



== ==  HRS√1-6



  

 散々笑い泣いた私は、無感情になった。私に残されたのは何もなかった。

 弟は私よりも若く死に。あれだけ憎んでいた父は母を道連れにして死んでいった。正確には違う、母が道連れにしたのです。

 分かっていても私はそうは思わない。責任を感じて、これから手を汚したまま生きて行くのが辛いものだと悟ったから。

 だから、父だけ死ねばいいのに。母自身も自殺したのだと思う。 

 でも出来れば考えてほしかった。私がいることを。私を残して皆が消えてしまったら、私はどうすればいいのか。

 いっそ、私も死ねれば良かったのに。そう考えていた――

 母を憎むことは出来ないけども、最後の最後に見捨てられ私にとっての”裏切り行為”は私を大きく傷つけられた。


 その後は本当に親切な母方の祖父母にひきとられた。本当に親切で、逆に困って仕舞うほどだった。

 私を強く想ってくれていた。ただの孫娘と祖父母の関係なのに、直接な繋がりはないはずなのに。

 だけど祖父母はこう言った「私の娘が残してくれた最後の孫でもあるの……それに、マイ自身がとっても大切なんだよ」

 その愛を感じなかったかと言えば嘘になる。でも信じることは出来ない――


 もしかしたら、父はないにしろ母と同じ”裏切り”をするかもしれない。そう思ってしまうと心を開くことは出来ませんでした。

 


 中学生になっても人を信じることは出来ませんでした。

 クラスメイトとは友人関係を築くことは出来ず、いつも一人ぼっちでした。

 それでも私は寂しくなかった。そもそも寂しいという感情をあの時に失くしていたから何の問題もありません。

 それから二年は時が過ぎて行く。消化試合のように、機械的に過ごす日々。

 死んでもいいけれど、死ぬ理由もなかった。それに祖父母のことも心の片隅にはあったのです。

 ……少なくともあれほどに親切にしてくれる祖父母に迷惑はかけたくない、と。


 

 変わったのは三年の初めでした。

 いつも通り、何も感じない日々を過ごしていた。そんな時に一人の男子生徒とすれ違ったのです。

 

「…………」


 その男子生徒はひどく沈んでいた。まるで、私を鏡でみたかのように暗く憂げで絶望に満ちていました。

 だたの同類としかその時は考えず、記憶の海に流れ去って行くかに思えました。



 翌日また男子生徒とすれ違った、しかし様子が違いました。

 今度は話相手が居て、延々と聞かされることにたまに相槌を打つ程度です。

 それも彼が変わっていっているように思えました。 



 そのまた翌日にすれ違えば今度は自分から話題を切り出していました。

 大きな進歩だった。かつての同類だと思った彼は数日で様変わりしているのです。


「(どうしてそこまで、変われるのだろう)」


 その男子生徒が気になり始めていました。


 

 更にそのまた翌日。

 すれ違うことはありませんでしたが、こっそりと休み時間風景を覗く。

 そこには普通に笑いあいながら話す男子生徒が居て、もう同類とは呼べないまでの変わり様でした。


「(!)」


 さらにもう一人やってきた。茶色い短髪の変な眼鏡を掛けた女子が話す二人に話しかけていました。

 口車にのるよう――いえ、ごく自然にその女子は会話の輪へと入って行き、会話は弾んでいます。


「(どうして……どうして)」


 疑問でした、なぜ人が集まるのか。かつての同類になんでここまで人が集まって来るのか。



 その後にも、女子が輪に入り。若干噛み合っていない場面こそあれど会話は弾んでいました。

 その時私は「羨ましい」そう思うのと同時に「あの男性生徒は私と何が違ったのだろう」と思うようになりました。

 その頃から、男子生徒を付けるようになり――そして名前を知りました。


「ユウジー、はやく見せてくれよー」

「いや、まてって……このキャラメルパッケージが――」


 ……ユウジ。

 ユウジ。ユウジユウジユウジユウジ。

 ユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジ。


「……ユウジ」


 名前を覚えてからは、彼を目で追うようになりました。

 もしかしたらその頃にはもう私は好きになっていたのかもしれません。

 それは羨望か憧れか……分かりはしませんでしたが、気になって行くのです。

 

 そして想うのです。あのように人を寄せ付けるような人に。

 私は愛して貰えるのではないか、想ってくれるのではないか。

 決して”裏切らない”のではないか。


 そうして私は深みに嵌っていきますが、結局中学時代には会話を交わすことは一度もありませんでした。

 それでも私は変わろうと思いました、私をいつか愛してくれるように……手入れしていない髪を整え前髪を切り――

 印象が変わる頃……三年も終盤に差し掛かった頃には、色々な男子生徒が集まってきましたが。

 どれもこれも私の容姿だけで、いつかきっと”裏切り”をするであろうと考え、告白も断り続けました。


 私はもう心に決めていたのです。

 ユウジ様という方に愛してもらいたい、だから私からまずは愛そうと。


 そして、高校になってから念願の同じクラスメイトになって。

 最初の遭遇はあの時……ユウジ様が私のペンケースを落としたあの時です。

 それから、私の世界はまた動き出したと言えるのかもしれません。


 私はユウジ様を愛しようと思っていました。

 クラスが一緒になれて、それで四六時中ユウジ様を見ることが出来て。

 でも、私は知ってしまった。ユウジ様は既に誰かのモノになっているのだろう、と。

 

 私から見て、ユウジ様と……そしてお相手の篠文由紀さんはお似合いでした。

 ”幼馴染”という時間のハンデは、ユウジ様にとっては初見同然の私にはハードルが高かったのです。

 そして思ってしまった。あまりにも身勝手で、あまりにも独占欲にまみれたことを。

 このままでは今まで愛すと決めたユウジ様が取られてしまう――”裏切られて”しまう。

 怖かった。これでは本格的に、接点が無くなってしまう……また私は狂い始めていました。

 ユウジ様のことだけで頭がいっぱいで、どうしたら私が愛せるように、取られないように出来るか――


 そうだ、この手に奪ってしまえばいい。

 誰も奪いとれないような、唯一の方法。

 ユウジ様を殺せば、ユウジ様の最後の記憶には少なくとも私がいる。

 そして時の止まったユウジ様を永遠に愛し続ければいい。

 

 そしてあの場所へ――あの暗く、一階から物置へと続く少し下った階段で。


「あ、そういえば。 ユウジ様を呼び出した理由があるんです』

「……なんでしょうか」

「その理由はですね……あなたを殺すためです」


 小刀を隠し持ち、ユウジ様を眠らせて連れてきて、そうユウジ様に告白しました。

 その時のユウジ様の驚きようには……少しばかりキュンときました。  


「な、なんでこんなことするんだよ!? 俺が何かしたのかっ!」


 ユウジ様が私に直接何かしたわけではありません。でも……ユウジ様は私を困らせ惑わせていたのですよ?


「あなたは罪作りな人ですね」

「え」

「私をこんなに虜にしてしまうなんて」


 気になり始めた一年前からずっとあなたを目で追いかけてました。

 顔を合わせることも、言葉も交わすことも無かったけれど……私はあなたの虜になっていたのです。


「ええと、言いそびれていました。 ユウジ様私こと、姫城舞はあなたのことが好きです」


 さりげない告白。それでも私はそれに意味を感じていませんでした。

 きっと断られるから。何も知らない女子生徒に話しかけられ、拉致され、告白されても承諾することなんてないでしょうから。


「えっ……でもなんで、虜されたのが俺を殺すに理由に繋がるんだっ」

「それは簡単なことです。私はあなたに一目惚れして胸が切なくて切り裂かれるほどの苦しさを経験しました。すぐにあなたの傍に行きたい、と思っていた矢先……ユウジ様の彼女かと思われるものが現れたのです」


 一目ぼれは今思えば違うのかもしれませんし、やっぱり合っているのかもしれません。

 この時私は愛そうとしただけ……結局”好き”という気持ちが明確にあったかは分かりませんでした。

 嘘をついてでも、偽りに塗れていても、ユウジ様を今繋ぎとめられる言葉はそれぐらいだったのです。


「それは……誰?」

「……しらばっくれても無駄です、篠文由紀さんのことですよ」

「いや、まて俺は付き合っていない」

「嘘です、私はあなたをずっと見ていました。そうですね、表現するとしたら、熱い視線で舐めまわすように』

 

 高校に入ってからは特に熱い視線を浴びせていたかもしれません。


「そして今日の美術の授業帰りには……お互い抱きしめ合って……ッ!」

「いや誤解なんだよ、あれはユキが階段で躓いて――」

「ゆ、ユキ!? ……うふふふ、あなたと篠文さんは名前で呼ぶ仲なのですね。篠文さんもあなたを呼び捨てで呼んでいましたし……」


 羨ましい、なんそこまで親密なのですか……幼馴染とはそこまで行けるのですか、そう妬ましざるを得ませんでした。


「でもそれがなんで俺を殺す理由になるんだよ!」

「なります。本当なら篠文さんを闇討ちすればよいのですが」

「でもユウジ様はとても魅力的です。 きっとまたあなたの虜にされる者が現れると私は思うのです」

「……」

「なら虜にさせないように、私のものにしてしまえばいいと私は考えました。 殺して愛しいユウジ様の生首だけを持って、私は生きて行くのです。 決して邪魔されることのない、永遠の二人の時間が続くのです」

「俺は、そんな事の為に死にたくはないな」

「そうですか……なら方法を変えましょう」


 それなら……分かりました。


「私が自殺しますから、私の生首を持ってユウジ様と共に生きさせてください」


「だから、なんで結局どちらかの生首しか残らないんだよ!」


 私に正直ユウジ様以外に未練はありません。祖父や祖母には悪いですが……私は愛の為なら死ねます。

 だから、私が死んだあと。ユウジ様が私を愛してくれさえすれば――私はいいのです。

 

「それがいいですね、そうすれば私の生首を気味悪がって他の女は寄り付かないでしょうし。それを構わない、という方がいたら呪い殺します。では、ちゃんと事後処理を……」


「……まてよ」

「なんですか? ユウジ様が死を選ぶのですか?」

「……」


 そしてユウジ様はそう言ったのです。


「お前に、本当に死ぬ覚悟があるのか?」

「……ありますよ。好きな人が、他人に取られる痛みに比べれば、死ぬ痛みなんてマシなんです」


 そんな事を言い切った手前、ユウジ様の次の言葉は想像出来ない事でした。


「ありがとう」

「え」


 私は、あまりの予想外さに驚きました。


「な、何故お礼を言われたのですか!?」

「気にしないでくれ」

「気にしますっ!」


 その時私は平静を保てていませんでした、あまりに不明瞭なその点に思わず身を乗り出すほどでした。


「……多少悔みたいことも、ありますが、私はここで死のうと思います」

「今のお礼の理由を教えようと思ったのに、もう死ぬのか」

「え?」


 その言葉を聞いて私は首からナイフを数センチ離しました。


「死ぬんだったら、別にいいか」


「よくないですっ! 教えてください!」


 それは小さな未練でした。私に向けてのお礼の理由……それが気になってしまいました。


「馬鹿じゃねーの?」

「!」


 そんなことを言われた私はナイフを構えたまま呆気にとられていました。なんで、今その言葉?


「え、えと、ユウジ様から言われるのはよいのですが……それは一体どのような意味で?」

「姫城さんが俺のことを好きだと仮定して」

「確定してもらって結構です、っていうかしてください。お願いします」

 

 それだけは譲れません……いや好きかは分かりません、でも愛したかったのです。 


「え ああ、うん」

「あっ、ありがとうございます」

「他人にとられる痛みに比べれば、死ぬ痛みなんてマシなんです……って言ったよな」

「はい、すごいですね! 一語一句合ってます! 流石ですユウジ様」


 感激ですよ、そんなことまで覚えていてくれるだなんて……嬉しいです。


「それは、ただ痛みから逃げてるだけだ」

「! いいえっ! 私は、そうして死の痛みを選んで」

「言い訳だな。死ぬ選択なら、その痛みは一瞬だ。自分の妄想した、思い通りの記憶と共に散れるのかもしれない。でもな――」


「自分の妄想だけで、生きて、死んでいくのは本当に本望か?」


「っ!」

「思い出がなくていいのかよ! それは、余りに悲しいんじゃないか!?」

「……今の私を全否定するんですか」


 全否定でした。今までの追いかけ、想い続けた私を全て否定されてしまったのです。


「ああ、否定してやるねっ! 死んで一人楽になろうなんて考えてるお前みたいな大馬鹿者なんて全否定だよ!」

「!!」

「チャンスを探そうともせず、あーだからこーだからと勝手に理由付けして、諦めて死のうとしてる奴なんてただの負け組だ、今のお前はそうなんだよ!」

「!! そ、そこまで言うなんて……酷いです」


 それは余りに酷でした。今までの生き甲斐を、そして死ぬ理由も――全て全て否定されていく。あまりにショックでした。

 でも、その後の言葉に――


「だから、生きてみろよ」

「えっ」


 唖然とぽかんとしてしまいました。


「自分を否定されて、大馬鹿者とか負け組とか罵られて悔しかったら生きてみろよ」

「……」

「俺はお前を知らない。多分お前も俺を知らない」

「し、知ってます! 私は、この学校に来たあの日から――」


 実際は一年前のある時から。ずっと、私は。


「それは俺のほんの一部だ。本来の俺は別人かもしれないぞ」

「!?」

「今の俺、お前を罵っている俺を想像出来たか?」

「い、いえ……」

「だからだよ。お前は俺を知らない。殆ど全くな」


 思わず、自分の望むことを。興味を好奇心を……口に出しました。


「……し、知りたいです」

「ん?」

「……知りたいですっ! ユウジ様のことを! 教えてください! ユウジ様のことをっ!」


 心の奥底から、ユウジ様を知りたいと思った。

 ほかにどんな表情のユウジ様がいるのだろう、どんなことを言うユウジ様がいるのだろう――気になって、気になって。


「それなら、同じ道を歩いて貰わないとな。一緒に話したり、飯したり、帰ったり。関係を持てば別のことももっと」

「!! 別のこと……?」

「それが知りたいならさ……生きていくしかないよな?」


 生きる。今まで意味が無いことだと思いました。全てを失くした私は生きている意味を見いだせない。

 でも、私はこの時に……生きる意味を見つけたのです。それは、ユウジ様をもっと知りたいということ。

 そしてユウジ様の近くで……欲を言えば隣で。感じていたい、話していたい――


「はい……覚悟しました。これから生きていく覚悟をしました!」

「ああ、それはよかった」

「……わかりました。ユウジ様の言う通りかもしれません。いえ、そうです。私にも傍にいたいという気持ちがありながら、奪われないために……独占欲が強すぎました、でも」


 独占したとしても見られるのは僅かな表情だけ、生活の中で生きるなかでならば色々な表情を見られるはずです。


「――怖かったんです。一度手にしたものが、欲しかったものが、他の人に取られることが。他人の手に渡ったらもう二度と返ってこない気がして……でも、私はやっと、遅過ぎるぐらいに解りました」


 

「ごめんなさい――」



 顔を下げて涙声でしっかりと謝る。気付けば本当に涙が出て……両親の居なくなったあの日から、初めて涙を零していました。


「それと……ですね」

「ん?」

「ごめんなさい」

「?」


「私の告白は撤回します」


「え?」

  

 撤回です。あんな適当過ぎる告白なんてノーカウントです。もっと時間をかけて、想いをこめて。

 だって生きれば、まだ時間はたくさんあるのですから。


「まだ、私にはユウジ様を独占する権利はありませんでした……だから告白は撤回します」

「……まぁ姫城が、そう言うなら構わないぞ」


 そうして私はユウジ様を背中に階段を上って、半分ほどで立ち止まって言いました。


「でも、私はまだ諦めません。いつかユウジ様が私に惹かれる日を待ち、いいえ……私が好きにさせてみせますから。 私が魅力的な女性になった時は、覚悟しておいてください」


 その時の私は笑顔だったのかもしれません。この場所でこの時から……私はようやく感情を取り戻し始めたかのかもしれません。



 その後も怒りそうになったり、かつての独占欲丸出しになったりしましたが、なんとか自制してきたつもりです。

 そして楽しい時が過ぎ、幸せな日常が流れ、私の感情もかつてのものを取り戻して行きました――そして文化祭の準備前日。私は――


「え、えと……姫城?」

「は、はぁいっ!」


 不安に満ちる私、それでもユウジ様の真剣な面に茹であがっていました。


「姫城に話があるんだ」

「は、はい! なんでしょう!」


 背筋ピーン、緊張ガチガチ。なんとも私はユウジ様と同じほどに固まっていました。

 一体私は何を話されるのだろう……なんなのだろう、分かりません。

 それでもユウジ様から染み出る真剣さに思わず体を硬直させていました。


「突然で悪いな……それにこんな場所で」

「……っ」

「俺は……俺は」


 ユウジ様に見つめられる。……ハズカシイです! 見ないでください……いや見て下さい!

 そんな、自分の中の”恥すかしい”私と”嬉しい”私が戦っていた時でした。



「俺は、姫城マイが好きだ」



 しっかりと聞きとった。その後は時が止まったかのような感覚を覚える。

 目の前の私は完全に固まっていましたた。おそらくこの世のものとも思えないようなものを目撃した表情を浮かべているのかもしれません。

 

「う、うう……」

「!?」


 私は泣いていました。もう嬉しくて嬉しくて。まさかそんな言葉を告白を、ユウジ様から頂けるなんて――

 ようやく私は、ユウジ様に認められた。似合うかどうかも魅力的かもわからないけれど。


「あ、あの姫城……?」

「うううぅ……」


「よ、よかったぁ」


「え」

「ユウジ様から言って頂いて……本当に、本当にうれしいです」


 嬉しさのあまり泣いていましたが、おそらく泣き笑っているのでしょう。 

 あの時とは違う”壊れた私”でなく”幸せな私”が感情を露わにしていました。

 そして、私はしっかりと。ユウジ様の勇気に気持ちに応えるように――


「私はユウジ様が好きです。私からこそ、宜しくお願いしますっ」


 そして私たちは、付き合い始めました。

 幸せは長く長く……いつまでも続いて続いて欲しいと願っていました。

 でも、それもあの時まで。あの冬の日の、ユウジ様を訪ねたあの日に。


 おそらく全ては終わってしまうのです。


 初めてユウジ様にお呼ばれした日。

 ユウジ様の家を訪ねようと外を見ると、雨風が吹き荒れていました。

 でも、せっかくのユウジ様からお誘い。無下には出来ませんし、したくありません。

 服を選んでいる内に時間は過ぎ、時間はギリギリになってしまいました。


「ああ、もうこんな時間」


 雨ですが走ります。雨が降ろうと風が吹こうと――私は地面の水を弾きながら走って行きます。

 

「あっ」


 瞬間的な強さの風が吹き、見事にびしょ濡れに。


「(濡れてしまいました……でも)」


 はやくユウジ様のお宅へ!

 首にユウジ様から頂いたネックレスを下げて、私はやはり走って行きました。


「あ、お客さんだね?」


 向かえるのは可愛らしい女の子……と言っても中学生ほどの方が出迎えてくれました。


「ああ、ユウジさんなら、買い物に出かけてる……遅いなあ――ってびしょ濡れだよ!?」

「ええと、はい。ちょっと雨に」

「それはいけないよ、我は丁度お風呂から出たところで暖かいから入って体を温めて! 体冷やしちゃだめ」

「え、でも、ユウジ様に――」

「いいのっ、とにかく入って入って」


 おそらくあの肝試しでユウジ様が引き取ったホニさんがそう言ってくれた。

 私は少し冷える体を見て――


「(こんな体で会うのは失礼かもしれないですね)」


 甘えて風呂を頂くことにしました。

 そしてシャワーを使っている時に背中をさすりました。


「(……まだ、これほどに)」


 深い傷。何十針も縫うほどに深く抉られた背中は、未だ完治していませんでした。

 後ろ鏡で見るに、赤黒く……やはり醜い傷を晒していました。


「(誰にも見せられない……ですよね)」


 こんあ醜く汚い傷。絶対に誰にも見せられません。

 だから私は背中が見えてしまう水着の学校指定水着を嫌い、体育の中の水泳授業が全て欠席していました。

 海に行ってもパラソルの中……こんな傷さえなかったら、ユウジ様とじゃれ合いたかったものです。


「(いつか話せる……時かあ)」


 来るのでしょうか。ユウジ様にはあの海で水着で来ずに着た私に、デートでは疑問に思っていたようですし。


「(でも、ユウジ様だけには)」


 見られたくない。もし他の人でうしろ指指されるだかならいい、でもユウジ様は――


「嫌われたく……ないから」


 この関係を保つ為に、これは私にとってのタブーなのです。

 そう考えた矢先に――


「!?」


 よりによって、体を拭いている途中に背を向けた脱衣所の扉が開かれ。

 そのユウジ様に見られてしまったのです。



== == HRS√1-9



 私は服を着ると途端に逃げ出しました。下着もちゃんと付けられていなければ着ている服はヨレヨレでした。

 とりあえずあの場から、ユウジ様に見られてしまったという事実から逃げたしたかったのです。

 ユウジ様の表情に確かに存在した驚きという感情を読み取れてしまった。それも私が背を向けていた際に見えたであろう深く醜い傷を見て。


「マイはそんな傷があるんだな……幻滅した」


 ユウジ様はそんなこと言いません──そう断言出来る自信に満ち溢れた私。ユウジ様でもこれは受け入れてくれない、という不安な私。

 そのときどちらが勝っかと言えば──


 私は逃げ出しました、ユウジ様の家から出来るだけ遠ざかるように。しかし雨の中、容赦なく雨具を持ち合わせていない私を襲います。

 着てきたコートも忘れて……ユウジ様には迷惑しかかけていません。分かっていましたが足は止まりませんでした。

 雨空の肌凍る下を肌着一枚と長めのスカートで走ります。髪こそ水気が残らない程度まで拭けましたがろくに拭けていませんでした。そこに雨、雨、雨。

 湯冷め以上に雨で風邪を引きそうで、風呂上がりが更に私の体温を下げています。

 どこに向かう?

 家まで走ろうか、でも流石に息が切れて──ユウジ様もきっと追ってこない。そう思って公園のベンチに座っていました。


 けれどユウジ様は来てしまった、追いかけてきてしまった。

 ああ、これで嫌われ、関係が終わってしまう――そして今別れを切り出される。そう思いこみ、私は言ってしまうのです。


「なんで、追いかけてきたんですか」


 驚くユウジ様のお顔を見ることは叶わず、ずっと私は俯いていました。

 本当に追いかけてくれたのに……なんてことを言ったのだと、改めて思います。


「ごめんなさい、ユウジ様。もう私はユウジ様に会わせる顔がございません」


 あんな傷をみせて、それを黙って騙して……会わせる顔なんてどこにも有りません。


「嫌われるのは私の方です! 私の、私のあんな傷……あっ」


 言いかけて私は口を手で押さえ――


「……ごめんなさい」


 そうしてまた私は逃げ出す。

 ずぶ濡れで家に帰り体中探りますが――


「……ない」


 どこにもネックレスが有りませんでした。

 初めて……ユウジ様が私に下さったプレゼント――それだけに、失意の海へと落ちて行きました。


 いつまでも、関係が壊れないように。それでも彼に拒絶にされないように……今までとは離れた関係を保つことにしました。

 それが解決策ではなく、いつかは崩壊してしまうのも目に見えていましたが――混乱していた私には、考える余裕などなかったのです。


 しかしユウジ様は逆に積極的に私に近づいてきました。

 それほどに忌々しく、失望してとっとと早く別れたい――かつてのネガティブな私に逆戻りし、ユウジ様を避けて行きます。

 会話に入ろうとはせず、話しかけられても無視をして、今までデートだった下校は逃げ帰るように一人。

 とても辛く寂しいもので……ユウジ様にどれだけ支えられていたかを思い知りました。

 それでも、終わりを遠ざけたかった。いつか来るであろう終わりが遠くなるように――

 少し前まではおばあちゃんやおじいちゃんに……ユウジ様のことを少し話していたりもしましたが。

 今では何も話すことは出来ず……たった数日。ユウジ様を避けるだけで私の心は折れてしまいました。


 ユウジ様と話すこと会うことを禁じた数日後、私は学校を休み……部屋で泣き続けました。

 離れたくないのに……離れるしかない。好きなのに……避けるしかない。

 自分に失望し、部屋にこもって泣き続けていました。

 そんな時に、おばあちゃんはユウジ様を連れて……帰って来たのです。



* *



「私は犯罪者一歩手前だったんです。お母さんが代わりにしなければ、私は父に殺しにかかっていた。そして私は血がカーペットに滴る父のガックリとうなだれた亡骸を見て──怒りよりも悲しみよりも、笑いがこみあげてきたんですよ? ──私は狂ってるんです。どうですかおかしいでしょう? 壊れているんですよ! こんな人間が幸せに──」


「話してくれてありがとうな」


 壊れた機械のように自虐し話続けるマイを思わず抱きしめた。


「!」


 それは本当に小さく儚いように思えた。こんな華奢な体で、強い心でここまで生きてきた。


「汲んでやることが出来なくてゴメンな」

「今までよく頑張ったな、マイ。……俺がこれからどれだけマイを手助け出来るかはわからない。でも必死でマイの彼女として傍に居続けるから……これからは全部は背負わないでくれないか?」


 背負い続けたら、本当に壊れてしまうから。少しでも助力が出来れば、一緒に背負って行けたら――


「私は……ユウジ様のお隣に居てもよろしいのですか?」

「もちろん……というか、居て下さい」

「ユ……ユウジ様ッ!」


 マイの方から強く強く抱きしめてきた。長く長く、その抱擁は延々と続く。

 二人の体温を感じ合うように。今までの寂しさを晴らすように。

 たった数日……でもそれが数週間、数カ月にも感じてしまうほどだった。


「マイ……あのさ、また受け取ってくれるなら――」


 ポケットを弄り、いつか渡そう……返そうと持っていたものを取りだす。


「!」

「受け取ってくれるだろうか?」

「は、はいっ」


 それはマイが俺の家へと忘れたネックレスだった。少し間合いを開けて、マイの首へと下げる。


「あ、ありがとうございます……」

「よかった。忘れた衣類は……」

「取りに行っても宜しいですか……?」

「悪くないか?」

「いいえ! 後日行かせていただきます」

「そ、そうか?」

「…………」

「…………」


 しばらく沈黙して、そうして俺は改めて聞いてみる。


「……俺なんかでいいのか?」

「こちらの台詞です。私なんかでいいのですか?」

「マイだから、いいんだ」

「私も……ユウジ様だからいいんです」


 そうしてお互い自然に唇を交わした。

 久しぶりの感触に、思わず嬉しく気持ちよく幸せな気持ちになってくる。

 




 学校を出て、もう遅いからと俺はマイの家へと送り届ける。

 そんな道中のこと、マイが隣で歩きながら聞いてくる。

 

「また、ユウジ様の隣を歩いていいんですよね?」

「ああもちろん」

 

 すると、マイは向き直って言った。


「ユウジ様、だーい好きですっ」

「!」


 その笑顔と子供っぽい仕草に胸を射ぬかれたのは言うまでも無い。

 こうして、また幸せな関係へと戻った。それももっと幸せで、信じあえる関係に―

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