第664話 √d-43 わたあに。 『ユウジ視点』『二〇一一年一月一日』
二〇一一年一月一日
年が明け初日の出を普通にスルーした俺はというとミユよりも早起きに居間に向かった。
「お! おはよー、ユウジ」
見慣れぬというよりも、この家に滅多に帰って来ない本来のこの家の主がどういう訳か何の前振りもなく帰って来ていた。
「……おかえり、母さん」
「ただいま、我が息子よ!」
母さんこと下之美咲は、仕事上あちこちを飛び回っているという忙しい身なこともあって家に帰ってくることは殆どない。
実際去年帰ってきたのは三月あたりが最後で……だったはずで、九ヶ月以上顔を合わせていなかったのだ。
とはいっても音信不通というわけではなく携帯メールは一週間に一度送ってくるし、月に一回ほど電話越しに話す。
変な母親であり変な家族だとは思うが、それが我が家の普通なのだ。
「はい、お年玉」
「お、おう……ありがとうございます」
「はいよ。ミナにはもうあげたから、他の皆にしくよろ」
と言ってミユや桐のみならず、ホニさんやクランナにアイシアの分まであった。
そして姉貴はというとキッチンで朝ごはんの支度をしているようだった……少ししたら手伝うからちょっと待ってほしい。
「皆に会って行かないの?」
「まーね、いきなり私が現れてもなんのこっちゃだしもう行かなきゃいけないし。落ち着いたタイミングでまたの機会ね」
ということからホームステイ組も再婚組のユイでさえ母さんとは顔を合わせていない。
彼女らも存在は認識しているようだがいまいちどういう人か分かっておらず、気を遣ってか話題にも出さないようだ。
「そうだ、母さん」
「なに?」
まだ誰にも明かしていない俺とミユの秘密を、まず最初に母さんに明かすこととした。
「ミユと付き合うことにあったから」
母さんの耳元で、姉貴に聞かれない様なボリュームでそう呟いた。
「……ほー、へー、なるほどなあ! いいんじゃない、おめでとさん!」
「いいのかよ」
「私のスタンスは昔から姉妹共々ユウジがもらっちゃえだからね、私は近親とか細かいこと気にしないよ」
……いやそこは気にするべきなんじゃ。
「しかしメールでも見たけどミユが引きこもり卒業とは……めでたい!」
「引きこもりを放置する母親がどうかと思うんだが」
「あはは、そこを突かれると痛いな……」
俺としては少しチクリと刺す程度に言ったことだが、母さんには思ったよりも効いてしまっていたようだった。
やめてくれよ受け流してくれよ、息子としてはそういう表情を見るのが一番きついんだから。
「……冗談だよ」
「いや、その通りだからね。全部子供たちに丸投げしてる私が全面的に悪い」
「そう……言うなよ」
申し訳なさそうにする母さんを見ていると俺も悲しくなってくるからやめてほしい。
「本当にごめん……でも私にはどうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ」
「息子娘よりも優先することなんだ?」
「……それを言われると…………そうかな」
実際のところ母さんがどういった仕事をしているかは分からない、そして一応義父になるユイの父親とも一度も顔を合わせていない。
母さんの周りは分からないことだらけで、言ってしまえば身勝手な母親に振り回される俺たちは理不尽さを覚えてもおかしくないと思う。
それでも――
「無理はしないでよ」
「うん、ありがとう。母親思いの息子を持って幸せだな~」
そういってわしゃわしゃと俺の頭を撫でる、ああちょっと懐かしいかもしれない。
「それはそうと母さんの結婚相手とはどんな感じなんだ?」
「仲良いよ~、昨日も一緒に戦っ……過ごしたしね!」
「一緒にいるんだ?」
「まあね、再婚同士でよろしくやってるダメ母親ですまぬ」
「いいよ、その内俺の新しい親父も紹介してくれれば」
「……うん、そうだね」
さすがに顔写真で一度見せられただけじゃ、なんとも言えないからな。
「その時は”お土産”も持ってくるよ」
「ほどほどに期待しとく」
「うんうん、そうして」
そんな母さんとの会話も終わりを迎える。
「じゃ、行ってくるから皆によろしくね」
「お年玉せしめない様に我慢するわ」
「そんなことやったら母親にはお見通しだぞ~」
「しないしない」
「じゃね」
「また」
そうして母さんはまた旅立って行った。
きっとその向かい先は、遠く遠く果てしない場所だということをある程度予感させながら。
「「あけましておめでとうございます」」
新年が明けてからはや九時間、ようやく家族全員が居間に揃ったところで全員で新年の挨拶。
ちなみに母親から託されたお年玉は俺の手に余ったので、俺のも含めて姉貴に預けた形をとった。
……まぁ俺だけもらってる状況ってのも変だからな。
「ジャパニーズお年玉!」
とクランナがテンプレ外人的なリアクションで歓喜していたが、本当に君そんなキャラだっけ? 無理してない?
「母上の顔を拝みたかったでござるな」
「朝の六時に起きれた?」
「……またご縁があれば」
もうちょっと頑張れよ。
そうしてそれぞれ早朝に帰って来てすぐ旅立った母親からのお年玉ということでワイワイとしだす下之家の居間、まぁ俺もなんだかんだで嬉しいし気持ちは分かる。
アイシアやクランナがこのお年玉で何を買おうと話していたり、ホニさんや桐も同じようだ。
しかしそんな中で、お年玉をもらいつつもジト目を俺に向けていたミユが口を開いた。
「というか一緒に寝てたのになんでユウ兄だけ起きてお母さんに会ってるの! ずるい!」
「いや起こすのも悪いと思って――」
そう、いつのものミユと二人きりのノリでミユと会話していたが……俺よ、考えてみても欲しい。
この状況はなんだ? そうだ、家族全員の前だ……家族の前で一応兄妹とはいえそれなりに成長した男女が同衾とのことだ。
果たしてどんな反応がとんでくるか――とんだ失態である。
「ちょ、ちょーとまって! 今ユウジとミユたそが何か言ったから静かにして!」
まさかのお前かよ、ユイ。
「……うん、私にも聞こえたけどね。ねえ、ミユちゃんユウくん……説明してくれるかな?」
姉貴怖いんだけど、笑顔なのにすっごい怖いんだけど。
「まさかアタシと桐たそが退散したあとによろしくやっているとは……!」
「ただ寝ただけだし、昨日はよろしくやってねえよ!」
「……ユウ兄、墓穴掘ってる」
なんで俺氏は昨日とか口走ってしまったのか。
「「魔女裁判だ!」」
なんでユイと桐同調して同じこと言ってんだよ、打ち合わせしてんのか。
「しかしてお主ら……実の兄妹に違いないはずじゃな?」
「ああ、うん」
「そうだけど」
「実は血がつながってませんでしたとかそういう展開現実にはないから! ラノベの中にしかないから」
そうやってバンバンちゃぶ台叩くのやめてくれユイ、ちゃぶ台が痛む。
「それを踏まえた上で問おう、あなたが私のマスターか」
「違うが」
「ユイがサーヴァントとか強くなさそう」
ちょくちょくネタぶち込んでくるのやめてほしい。
「言い間違えた……君ら、付き合ってんの」
「…………」
「そうだよ?」
俺が沈黙を貫こうとした一方で、ミユ即答!
俺ヘタレ!
「ユウジは?」
「……そうだな」
ヘタレな俺がギリギリカスにならない為に、俺も答える……いや男気まるでないけども。
「いつからなの……?」
しばらく進行を努めていたユイではなく、姉貴が口を開いた。
「…………夏から、だな」
「う、うん」
ここまで来てしまえば誤魔化してもしょうがないので正直に話す。
「夏から!?」
「だいぶ前じゃん!」
「禁断の兄妹間恋愛……ジャパニーズマンガ!」
「夏からよろしくやってたんだ」
「まあわしは知っておったけどな」
「…………うん」
姉貴、ユイ、クランナ、アイシア、桐、ホニさんが口々に言う。
というか桐は知ってたのかよ! じゃあ最初から言ってくれよ!
「ユウくんとミユちゃん仲良すぎて気づかなかった……」
「いやでも付き合う前というか、ミユたそがヒッキー卒業したぐらいから見た感じ変わりないというか……」
「まあ兄妹にしては仲が良すぎましたわね」
「事情知らなければカップルだもんね」
「わしというかわいいかわいいロリ妹のわしや選択肢があって、妹っぽい可愛さのホニさんに、義妹なのに妹感ゼロのユイがいる中で、なぜ中途半端な妹を選んだのじゃ!」
「うん……うん」
ミナが本気でショックを受けた表情をして、ユイから話されたのは俺としては衝撃的な事実で、さっきまでのエセ外人キャラがすっ飛んで冷静に言うクランナと、それに同意するアイシア。
桐が意味わかんねえことを言って、それに対してユイが「あれ!? アタシ何故か流れ弾喰らってる!?」とショックを受けているが知ったことではない。
ホニさんはさっきからとにかく複雑そうな表情をしていて、何か申し訳ない。
「いや兄妹ってこんなもんだろ」
「だよね」
「「違うよ!」」
総ツッコミである……お、おう。
「いくら仲が良くてもこの歳になって兄妹で一緒に風呂には入らぬ!」
「おい、なんで知って……」
「ユウ兄追求弱すぎだよ!? 本音ダダ漏れじゃん!」
またしても墓穴を掘る……というか本当になんで知ってるんだよ。
「ず、ずるい……なんで私も誘ってくれなかったの!?」
「そっち!?」
姉貴が本気でそんなことを言ってミユがツッコミを入れる、何を言っているんだろうこの姉は。
「下之ユウジは……ポルノマンガ先生!」
「そんな名前の人は知らん!」
「R指定ギリギリだよ、製作側の規制する身にもなってよ」
「何目線なんだよ!?」
クランナとアイシアが訳の分からないことを言っている。
「ぐ、ぐぬう…………しかしまだアタシにも、可能性はある! 一緒に風呂に入ると盛大な滑り台フラグだっておしろ色シンフォニーで見た」
「そんなフラグないから!」
ミユが必死に抵抗する、いやまさか一緒に風呂入っておいて先輩ルートだとは……今は関係なかった。
「おめ……おめでとう、ユウジさん」
「あああ、なんかごめんなさい!?」
ホニさんに至っては泣いている、なんでどうして、しかし謝らないといけないと俺の心が叫んでいる。
……そうして波乱の年初めはは、俺とミユの交際報告で幕を開けたのだった。
神社にて。
嵩鳥「あ、本来予定していた初詣エピソードなくなったんで。クラスメイト組解散でーす」
ユキ「ええっ!?」
マイ「ユウジ様と新年早々姫はじ……会えると思っていましたのに……せっかく着物の下には<規制>」
マイはさりげなく際どいこと言わない、というか作中のキャラがそういうこと言うの遠慮なくなってるけど好き嫌い別れそうだからほどほどにした方がいいよ。
愛坂「あ、うん……委員長、私なんで呼ばれたのか分かんなかったんだけど」
嵩鳥「二期ヒロイン予定なので一応顔見せしておこうかと」
愛坂「二期って何!? そもそも一期があるの!?」
福島「一期でハブられた私はどうりゃいいんだよ」
嵩鳥「この話はもう、やめにしよう」
こうして私含めて負けヒロインが何故か集まって、このあとめちゃくちゃ初詣した。




