第652話 √d-31 わたあに。 『ユウジ視点』『五月三日』「ダイヤル14」
ユウジ:なんか語り部がコロコロ変わって読みづらいとか聞こえてきたけど何のことか分からない
桐:誰にも読まれてないし言われておらんぞ
ユウジ:すまぬ……すまぬ……
どもユウジだ。
ミユを朝紹介して、そのあとユイの部屋に行ってオタ女子トークに勤しんだらしく、そのあとは俺も何故か呼ばれてユイの部屋で三人でアニメ鑑賞。
夕食時にはミユのやつ俺が大事にとっていたからあげを食いやがって……そんな一日だった。
昔の俺にとって、気兼ねなくいい会える相手はミユだけだったのかもしれないな。
俺の口からほぼ無意識に、条件反射的に飛び出す言葉の数々は正直あとになって思えば乱暴なものも多い。
しかしそれはミユも同じぐらいの言葉を俺にはぶつけてくるからでもあって――決して嫌い合っているわけではないと思う。
まぁともかくミユが部屋の外に出た初日は、心地よい時間だった。
そうして一日が終わる、眠りに就く、そしてまた”あの”夢を見る。
『ダイヤル14』
* *
別にサクラの性格や容姿から何から何まで全てを忘れたわけじゃない、幼少期もそうだし俺が告白する頃のサクラも覚えている。
セミロングヘアーに桜の花のヘアピンを付けているのが彼女のトレードマークだった。
中学二年生になる頃には俺と同じぐらいの背丈になり、スタイルがいいということで割と男子にはモテているのも覚えていたりする。
ネガティブな割と記憶は覚えていることもあって、中学生にもなるとサクラはいくらか性格を拗らせていた。
まぁ俺も最初はイラっとしたもんだが、慣れたのだと思う。
「おーいサクラ」
「……」
「シカトすんなー、なんだー面白くないことでもあったか」
「……うるさい」
なんともまあ心当たりがない……と言えば嘘になるか。
俺も少しは桜の性格が分かってきている。
どうやらさっきクラスの女子と話していたのが面白くないらしい。
「なんだ嫉妬か」
「そ、そんなんじゃないわ! なんで私がユウなんかの為にあの女に嫉妬しなきゃいけないの!?」
「悪い悪い、テスト範囲について話してたもんだからさ」
「……どうだか」
前髪パッツンで胸が少しでかくて美人なだけの秋城とかいうの絶対……と小声で言っていたのは聞こえた。
このクラスでも割と人気があるらしい、が俺はあまり関わりがない。
実際話したのもいつ以来か分からない――秋城舞姫というクラスメイトの女子だった。
……ああ、今思い返せば秋城舞姫という彼女は――
「ところで嫉妬と言っただけで、俺についてはまったく話してないんだが」
「っ! し、知らない!」
と、まあめんどくさいだけのツンデレさんなのである。
それを分かっているとこいつ良く分からんけど可愛いなとも思ってしまうわけで、自分の幼馴染は良くも悪くも素直じゃないのだ。
ただツンデレというか高飛車気味で毒舌要素もある彼女は、俺と一部以外にはその本質が分からずに周囲からはどこか浮いてしまっている。
「…………とにかくユウ、放課後ちょっと付き合いなさい」
「なにがとにかくか分からんがあいよ。ミユも誘っていいんだよな」
「っ! ……も、もちろん。ユウと二人きりなんて――何されるか分かったものじゃないもの」
あー、ミユのこと提案しない方が良かったかもな。
めんどくさい彼女の意を汲むと、何かしてほしかったというよりも二人きりでも問題なかったようだ。
「りょーかい、後で話しておくよ」
中学二年の頃、ミユとはクラスが違ったのだ。
だから、適度にクラスメイトとは話しつつも基本は俺とサクラでよくつるんでいた。
俺が広く浅く交友関係があったのに対して、サクラはその容姿から男子にモテてこそいたが孤立気味ではあったのだ。
それから放課後は、俺とサクラとミユでマニアックな飲料を求めて自販機巡りをしたらしい。
* *
五月三日
――このまま俺限定四連休キメちゃおうぜ。
……俺の脳裏にサボ○ーの魔の手が襲い掛かる!
あぶないあぶない、すんでのところでその欲望から脱して致命傷で済んだ。
はぁ、別に学校嫌いじゃないけど家でミユと一緒にゲームしたりアニメ見たりするの楽しいんだよなあ。
はぁ、つれえわ……。
とか思いつつも起床時間は六時半、ぐへへ言葉ではつれえと言いつつもキッカリ登校の為の起床するあたり身体の方は正直なようだな!
……朝から一人で何テンション上がってんだろうか俺、もちつけ。
ミイラとりがミイラになるどころじゃなく、引きこもり卒業待ったなしのミユの一方で俺が引きこもりデビューとか示しが付かないもんな。
「……よし」
頬を軽くペチンと叩き気を引き締める。
ズル休みしたとはいえ生徒会副会長の姉貴の弟であり生徒会役員でもあるのだ……姉貴の顔に泥を塗るわけにもいかないしな。
顔に泥を……泥パック……いや、なんでもない忘れてほしい。
そうして朝食担当の姉貴を俺とホニさんでサポートしてからの朝支度をして、生徒会活動日とのことで生徒会組の俺と姉貴とクランナは早くに家を出る。
……前に、俺はミユの部屋の前に立っていた。
そう、なんとなく来てしまったのだ。
あわーい期待というか、この時間はミユの生活サイクル(ユイ経由で聞いた)を想えば熟睡中だろう。
それでも、なんというか――
「ミユ、行ってくる」
誰も聞いていないはずなのに、そう声に出して俺は背を向ける。
すると後ろから「行ってらっしゃい」と聞こえ俺は振り返る、すると少しだけ扉が空いていた。
……いつもよりも断然、今日は頑張れる気がした。
案の定学校に行き朝の生徒会活動が終わって教室に行くとユキと姫城が駆け寄ってきて――
「ユ、ユウジ様お身体は大丈夫なのですか!? 生きてますか!」
「あ……ああ、なんとか三日かけて直したよ」
生きてなかったらここに居ない。
「ユウジほんと? ユイが”熱が三十九度出て、頭痛下痢嘔吐に悩まされて、汗と涙がナイアガラで、肌の色が青と赤を行き来して、幼児退行まで起こした”って言ってたけど」
何の病気だよそれ、本当に死ぬわ。
「なんか盛られまくってるな……まあ高熱が出た程度だよ」
「よ、よかったあ」
「安心しました」
そう安堵する二人の傍ら、俺はさっきから黙っているユイに詰問を始めた。
「……なあユイ」
「はて」
すっとぼけた顔しやがってこいつ……グルグル眼鏡で見えないのになんとなく分かるぞ。
「どこから盛った?」
「頭痛下痢から……かな」
「ほぼ全部じゃねーか!」
姉貴からユイに俺が休む口実を伝えられたはずだが、殆ど別物じゃん……。
「演出ってやつなのん」
「過多だよ! ……まぁ中身はどうあれユキや姫城に言ってくれてサンクスな」
「例にはおよばないってばよ、もし礼をしたいというのなら家帰ったらアニメ鑑賞に付き合えってばよ」
「ミユも呼んでいいか?」
「もちのろん」
と、まあこうして休み明け初日が始まるのであった。