第651話 √d-30 わたあに。 『ユイ視点』『↓』
どうやら最近は各々が考えていることをペラペラ喋っていいターンらしいので、アタシも話そうと思う。
あ、どうもユイです。
自分のモノローグだとこんな感じ、まぁふざけた語尾とか連続しててもくどいだけだしね。
昨日の夕食時にミナさんたってのお願いということで朝十時にリビングに家族全員集合することになった。
ちなみに朝の十時といえばアタシはギリギリ寝ている時間。
いや正直アタシ的にはリアルタイムの深夜アニメ見て―、面白かったら二周目してー……そうするともう深夜も四時である。
で、まあこんな時間に寝るもんだから休日は遅く起きるわけだ!
……いやいや、もちろんそれは次の日が休日って前提だよ?
学校がある平日は普通に二時に寝て七時ちょい過ぎには起きてるよ? ほんとだよ。
平日ド深夜にやる●BSアニメとかふざけんなやめろと思うけどしょうがない、仕方ないからリアタイで見て翌日は寝不足だ。
まあアタシのことなんてどうでもいい。
「しかしてミナ姉上が全員を集めた訳とはいかに、ユウジ殿はご存じか?」
「さあな」
ユウジも心当たり無さそうなそぶり、しかしミユたそや桐たその様子が落ち着かない。
何があるのかと身構え十時頃リビングで待っていると、なんということでしょう。
ミナさんとクリソツながらも、それでいて小柄にしたような美少女が姿を現したではありませんか。
誰これ何これ一体どういうことだってばよ?
「……なぁユウジよ。これはギャルゲーの隠しキャラクターってやつですかい」
「まぁ隠し妹だな」
隠し妹……下之家別名妹天国に更なる妹が現れるとは母……父さん再婚してくれてありがとう。
しかしてルート解放の条件やいかに!?
「どうしようユウジ!? 可愛い妹来ちゃったんですけど!?」
「いや妹言うが俺らと同い年だぞ」
むむ、やはりというかユウジは訳知りのようで。
それよりもなんと同い年の妹とは、それまたレアな……合法ロリっぽくていいな!
「合法ロリ妹!」
「ロリ言うな!」
そのツッコミは隣のユウジからではなく合法ロリ妹からだった。
ふむ、初見だと大人しそうだったけども割と言う時は言う子らしい……アタシは気に入ったぞおおおお!
まぁそれからほどなくしてアタシは衝撃的な場面を見せつけられることになる。
「――……なんかそれはやだな、ユウでいいじゃん」
「なんだと、そもそも引きこもったお前が悪いんだ諦めろ」
「あー! そういうこと言う! 頑張って勇気出してみんなの前に出てきた私にそういう事言っちゃうんだ!?」
「その勇気は認めるけど、ほかは知らん――」
いやあこの兄妹仲いいですねえ……やたらと。
というかユウジってこんな風に話せるんだ、アタシやマサヒロとの間どころかミナさんともそんな具合に話してた場面見たことないのに。
なにこれ、妹は特別ってこと?
確かにユウジとは会って一年だし、同居し始めたのもつい最近だけどさ……でも、なんかなんか!
「……ユウジってアタシとかとは違って妹とはそういう風に話すんだ、へー」
思わずアタシもチクりと愚痴ってしまうぐらいで。
アタシはモヤモヤとさせられながら、微妙に面白くなかったのだった。
とは言ってもアタシが抱いた感情というのはユウジとユウジの実妹の関係性にであって。
ユウジの実妹に関してはかなり興味があった。
だからこそアタシは、テキトーにふざけた口調ながらも内心は心臓バクバクのド緊張で彼女を自室に誘ったのだ。
……べつにいかがわしいことじゃないよ、本当だよ、あわよくばスリーサイズチェックしたいなあとか思ってないよ。
アタシが”こんな風”になってから始めた女子生徒観察である程度のデータは収集し終えているものの、アタシが”アレ”になる前に引きこもりになった彼女のことは知りえていなかった。
まぁアタシも若かったんだよ、あの頃は勉強勉強勉強とせっかくの学生生活を無為にして。
やっぱり学生は――学生という身分の間は好き勝手遊ばないとね!
とまぁどうでもいい持論はおいておいて、彼女……いやミユたそとの話は大いに弾んだ。
アタシは形からオタクを始めてどっぷり浸かった結果ドハマリしたパターンだけども、彼女もまた引きこもってオタク趣味にハマったということが分かった。
話が合うんだなこれが、義妹な上に可愛くてロリがかってそれでオタク趣味とかマジやばくね?
だから結構に仲良くなれた……と思う、アタシはそう思ってるけどね。
アタシという人間は、多くの人格を共有している。
……いや、嘘をつきました。
そんな大げさなものではなく、単に色々な気持ちというヤツで人の各一面というかなんというか。
素のアタシ、がり勉で根暗でコミュ症である自分……根っこにこそあるが最近は出さないよう努めている。
ユウジ達のオタク友のアタシ、テキトーな口調と語尾とテンションでアホなことを言っている自分……基本アタシはコレ、だいぶ慣れてきた。
そして女としてのアタシ……いやこう見えてもアタシは女の子だったりする、おっぱいもちゃんとあるよ!
そういえばこの一人称もオタクキャラならば某やら拙者だかにすべきだが、こればっかりは昔のクセが抜けなかった……小さい頃からあたしでありアタシなのだ。
人間でありオタクの前に女なのだ、だからユウジに無防備なアタシを見られた時には普通に恥ずかしいし声も出る。
だってアタシ女の子だもん……自分で言ってて気持ち悪くなった。
ともかく!
アタシ的にはユウジのことが女として気になっていないと言えば嘘になって。
ユウジは男子としては顔もそこそこ、話題も合うし、割と気遣いもできる。
あ、ちなみにマサヒロはだめ……ゲームやアニメが恋人だもんアイツ、話は合うけどね。
気楽な友人関係でいいやと思うオタクなアタシの一方で、万が一にでもそういう愛とか恋とか出来たらなと思わなくもない。
そんなせめぎ合いに生きていることもあってアタシの思考は矛盾だらけだ。
「……ミナ姉のからあげ美味しい」
「あら、うれしい」
夕食時に繰り広げられるのはミユたそとミナさんの姉妹の会話。
ほほえま~、そして綺麗なお姉さんと可愛い妹が並んでいると非常に絵になる。
姉妹百合もいけるアタシ的にはご飯十杯は余裕だね。
で、その一方で――
「ユウ兄のもらい(ユウジがよそ見していたのを見計らって皿にあったからあげを奪取)」
「は? ああああああっ! おま、最後に残しておいたからあげになんつーことを!(ユウジブチギレ)」
「残しておく方が悪いよ(ここで開き直るミユたそ)」
「最後のあのサクサクに上がっていそうな衣と中のジューシーな鶏肉の組み合わせ最良の残しておいたんだぞ!(ユウジによる熱いからあげ解説)」
「ごめんごめん、じゃあこのプチトマトあげる(ほかの具材を食べ進める中で皿の端に寄せていたプチトマトを取ってユウジの更に移動)」
「いらねーよ! ってかまだトマト嫌い治ってないのかよ、ガキ舌だなあ……いやロリ舌だな(ミユたそを煽るように)」
「なによロリ舌って! じゃあユウ兄はオクラとゴーヤ克服したんだ? 私にそういうなら克服してるよねえ?(案の定煽られキレるミユたそ)」
「……ぐぅ……というかなんで俺が責められてるんだ! ともかくこのプチトマトは返す、食え(ミユたそにあーんをさせる構図)」
「んぐっ!?(目を白黒させながらもユウジのミニトマトを掴んだ箸を口に突っ込まれる)」
………………なんですか、これ。
こんな兄妹いるかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
こっ恥ずかしいイチャイチャ見せえつけやがってええええええええええ!
今どきラブラブカップルでもここまでバカじゃないわあああああああああああ!
はぁ……はぁ。
本人はすごい否定するけど――ブラコン&シスコンじゃん、言い逃れしようがないレベルじゃん。
あー、仲良いなあリア充爆発しないかなあ。
そうアタシが眉間にシワを寄せながら兄妹二人の様子を見ていると――
「実はねユイちゃん。私にとっての一番のライバルはミユなんだよね」
唐突にミナさんに話しかけられて動揺してしまう。
まさか心を読まれたというのか……!? さすが絶対的姉存在ミナさん!
「そう……なんです?」
「うん、あーいう風にユウくんと仲良いからね……私なんか目じゃないくらいにぃ……」
珍しくミナさんが頬を膨らましている……珍しいこともあるもんだ。
しかしミナさん以上にある意味では一番近い間柄と、まぁ昨日の痴話喧嘩と今現在進行形の茶番で分かりましたとも。
だから女としてのアタシ的には、ミユたそはライバルになった。
まぁもっとも女としてのアタシを表に出す気はさらさらないんだけどね。
アタシはアタシ、オタクで変人な友人であり義妹のユイでいい――その方が今も今後も気楽そうだから。