第650話 √d-29 わたあに。 『ミユ視点』『↓』
ミナ姉が私を家族に紹介したあとのこと。
同い年のユイにユイの自室に誘われてまずは話をした。
どうにも私はこれまでの記憶があるのと、ユウ兄の学校風景を飽きるほど見てきたのもあって、ユウ兄のクラスメイトのユイという子のことはそれなりに知っている。
ユイという子はユウジに家族以外で一番近い女子と言ってもよく、更には義妹になり家族の一員になったことでさらに接近を決めていた。
しかしユイというキャラクターと容姿のせいでユウジには長らく異性としては見られていなかった――けれども!
彼女は紛れもなく一度はヒロインになったことがあり、ユウ兄の彼女だった時期があったんだよね。
その時はまぁテンプレートなギャップ萌えキャラだけど私も萌えちゃったから仕方ない、メガネ外すと美少女とか古典級なのに実際可愛いかったからなあ。
たぶんユイが本気でユウ兄を攻略しにきたらマズい気がする、本人のギャルゲー知識とそもそものオタクを始めたのが演技みたいなものだと考えると――最強の美少女を演じかねない!
そういえば実を言うと暇を持て余した際にユミジに頼んで視聴した回想ログで見た過去のユイを、私は実際に現実で見て覚えていたりする。
彼女は特に目立たない子で、かつ真面目でがり勉で、どこのグループにも属していなかったのも確かにそうで……。
そしてチョイスはどうあれオタク女子を演じてユウジとマサヒロに近づいて、関係に溶け込んでいった……変なな語尾と良く分からないテンションの組み合わせキャラの作り込みはテキトーに見えてかなりのもの。
もとの口数が少なく大人しめなオタクデビュー前とのギャップを思えば、なかなかの変人なりきりというか演技派だと思う。
……というか私は何視点で語っているのかと。
これだから下手に世界を何度もやり直しているといけないな、あくまで私とユイはこの世界では初対面なわけだし。
というか私が一方的に見て聞いて知ってただけだし……なんかごめん、ほんとごめん。
初めて会った体! 初めて話す体! 何も知らない体! で、ユイと改めて向き合った。
「おぉ、実のところ噂に聞いていたではござるが本当にユウジ殿に妹がいるとは驚き桃の木山椒の木ですぞー」
「う、うん」
お、おう……ユイのキャラクターは知ってるけど、強烈だわ。
確かにこのキャラクターは一部には避けられそうだけども敵にはならないような、絶妙なライン。
アニメで言うところの万人にはウケ無いけどもコア層狙い撃ちみたいな。
そういうところがユウ兄にとっては話しやすく、ユウ兄マサヒログループに溶け込めた理由なんだろうなあ。
「おっとそもそもの自己紹介をしていなかったですなあ……ゴホン」
しかしユイという子は、ちゃんとするところはちゃんとする――根は本当に真面目な子なのだから。
……真面目ならそのビン底メガネ付けないとか、休日の十時近くまで寝てるとかそんなことは今はどうでもよくて。
「この度私アタシの父と下之くんの母が再婚して下之くんの義理の妹になった、巳原ユイです。どうぞよろしくお願いします、ミユ……さん」
私の知っている素顔のユイの真面目な表情が脳裏に浮かぶ、ビン底グルグルメガネを外せば真面目な表情をきっと覗かせているに違いない。
「あ、どうも……ミユです。というかその……生まれだと私の方が遅いので、ユイ……姉さん」
「キュン! ああ、アタシが姉さんと呼ばれる日が来ようとは! たまりませんなあああああああ」
……さっきの真面目なユイはすぐさまどこかに行ってしまった、ああ悲しき。
「それはそうと、アタシはユイでもユイ姉でもお姉さまでもなんでもいいとして貴女の呼び方は如何にしたらいいかな?」
その三択の最後はなんかやだなあ……。
「ミユ、で……ユイ」
「おうよ! よろしくミユたそ!」
たそ、ってどっから出てきたし……。
「ところでさっき意味ありげにミユたその噂を聞いていたとアタシは言ったのですがな、実は学校でもミユ殿の存在は時折話されておったのだよ」
「え」
マジで? 私の見たシーンにそんなの無かったんだけど。
「別に四六時中ってわけではないですしおすし、実際よく話されていたのも藍浜中三年の四月ぐらいだったのぞいってな」
「え、その時ってまだユウ兄とユイって知り合って……」
「え?」
「な、なんでもない」
しまった、私が一方的に知っていたことを話してしまった。
というかユイのこの噂というのは、多分まだオタクデビュー三年生デビューする前のユイが真面目っ子だった時に聞いたことなんだろうな。
「ほかにも思い出話の一環で生徒会副会長の伝説の美少女妹ととして、あとはちょくちょく語られていたぞな」
やめて! 私が来年学校に行けた時にハードル上げるようなことはやめて!
「しかし伝説の妹が実在していた上にこんなに可愛いとはのう……むふふ」
「や、やめ……」
ちなみに喋る私はすっかり引きこもっていたことで人見知りになってしまった性格全開で、内心だけが割と饒舌になっているコミュ症の典型だったりする……。
いやまぁ確かに引きこもってない時もユウ兄とかサクラとかとばっかり話してたけども、ここまでコミュ症こじらせてなかったし……長期間の引きこもりが私をダメにした!
「しかしてミユたそは、一体どんな趣味をお持ちかな」
「え? えっと……アニメとかゲームとか、引きこもっていた時にはよく」
部屋にあるものは網羅しましたともさ、引きこもりには時間が有り余っているもんね!
「ほほう! ではではあにまるフレンドリーなどは見たかな!?」
「見た見た! バッグちゃんがヘルシアンの囮になるシーンとか!」
もちろん最新アニメのチェックも欠かしていない。
私はアニメとゲーム好きの引きこもりが得意なフレンズ。
「ふむう! あそこは熱い上に泣けて来週が待ち遠しくて仕方なかったでござるなあ! あ、あとは今期だと江口マンガせんせーは!」
「江口ちゃんと山本エルフレフが可愛い」
一話二話で江口ちゃんの萌え萌えツンデレ妹具合を描写してからの!
あの主人公とすっかり打ち解けて気を許したエルフレフちゃんよ!
「禿げあがるほど同意、本屋ちゃんに期待したいですぞ!」
「わかる」
確かに時折主人公とのシーンが出てくる本屋ちゃんもなかなか僕っ子でポイントが高い――あ、興奮しすぎてしまった。
ま、まぁそういうことでユイと趣味合いそうなのは知ってたけどね。
私の長年の引きこもり生のすべてはユウ兄のストーキングとアニメゲームマンガラノベだったからね!
……自分言ってててアレすぎるよ私、というかストーキングとか完全に犯罪だし……後者はダメ人間だし。
「ミユたそとは良い酒が飲めそうですなあ! 今度ストライクザザブレッドを一緒に見ようず!」
「見たい! 楽しみ!」
あの分かりやすいハーレムラブコメバトル! がなかなか良いんだよね。
ここから先は俺のターンだ! いいえ先輩、私たちのターンです! のテンプレートの安心感たるや――
そうこうあって私の引きこもり復帰最初の友人は元同期生にして義理の姉のユイだったのだった。
※作中に出てくるアニメと劇中の時系列は噛みあっていませんがそこは気にしない気にしない