第645話 √d-24 わたあに。 『ユウジ視点』『↓』
学校をサボって妹とやるゲームは面白い。
……兄妹の血は争えないのか俺も引きこもり街道まっしぐらなのかもしれない。
それでも俺が今日・明日のサボタージュに加えて日曜日も使った三日連続引きこもり化宣言をしたのも――どうにかミユを外に連れ出す為だった。
時間をかけるべきかもしれないし、早急かもしれない……が、記憶の中にある数少ないポジティブな思い出として俺とミユとサクラで自販機巡りをしたものがある。
部活動にも属していなかった俺たち三人は放課後繰り出してはサクラが趣味だった”B級なもの”探しを一時期していたのだ。
今はサクラこそいないが、ゆくゆくはまたミユと二人この町をブラつきたいと思っているのだ。
ミユの引きこもり脱却計画は、とりあえずこの部屋の外に出てほしいと思っている。
そうして始めたミユと同じ立場を経験してみてからその方法を考えるというものは――策士策に嵌るというか、俺も我を忘れてゲームに熱中していた。
……というかしばらく熱くなって二人対戦をしていたが、冷静になってみると俺あんなユイ相手以上にミユには遠慮なく言う性格だったのかと。
いやでもミユは俺の言動とかに何も言ってなかったはずだし、もしかするとミユに対する俺の感じって大体あんな感じ……?
確かに最近思い出したミユのイジメ(未遂)の現場に駆け付けた時の俺も似たようにミユに対しては兄っぽさを出しているというか。
「あ……ユウ兄、これ」
「あー……懐かしいな」
ミユの見せたソフトはファイナルドラゴンファンタジークエスト……今も続編タイトルが出ているという国民的ロールプレイングゲームだ。
その初作品で、弁天堂の家庭用ゲーム機ブラザーコンピューター通称”ブラコン”のソフトだった。
ちなみにミユの部屋にあるブラコン本体は両親が遊んでいた年代物で、地味に貴重な親父の形見の品でもあったりする。
「動くかな?」
「フーフーするか」
「錆びちゃうからダメ」
幼少期に俺たちはそんな両親が遊ばなくなって久しいブラコンで遊んでいた。
色々なゲームをプレイしたのだが、その中でも印象に残っているのが――
「あ、動いた」
「おお」
あの有名なBGMが流れはじめタイトル画面が出る、ミユはブラコンやソフトともども大事にしてくれたらしい。
「ゆみじ、ね」
コンテニューするとミユがそのプレイヤー名を見て呟いた。
確か両親がプレイしたゲームなこともあって、セーブデータのプレイヤー1・2が両親の名前で埋まっていて一つのアカウントしか余裕がなかったのだ。
母親のアカウントを上書きする気にもなれず、ましてや亡くなった親父のアカウントも消す気にも幼い兄弟の俺たちはなれなかったのだ。
兄だから僕にさせろだの、お兄ちゃん妹にゆずってよ! だの話し合った結果、二人の名前を組み合わせたプレイヤー名で一つのアカウントを共有することになった。
ユウジのミユ、共通する”ユ”とミユの”ミ”にユウジの”ジ”を組み合わせた……そればかりは印象的だけにちゃんと覚えていた。
ちなみに姉貴はあまりゲームに興味がなく、本当に小さい頃はおままごとで俺やミユも付き合わされていた。
そのおままごとが姉貴が小学校に入学する頃には家事にシフトしていったのである……思えば姉貴の趣味というのはあまり知らないな、と今更ながら思ってしまう。
「なつかしー、結局クリアしてないんだよね」
「新しいゲーム買ったらそっちやりはじめたんだっけな」
当時はまだ攻略本の時代なのだが、古いゲームなので普通の本屋に攻略本はおいておらず二人でどうにか攻略法を模索したものだ。
その結果強いボスに勝てず、新しいゲームを買ったことからそっちに興味が移ってしまった。
「ユウ兄、そこのパソコンで攻略wiki検索してくれる?」
「おま……少しは何も見ずにやろうぜ」
「えー、さっくりクリアしたい」
まったく最近の若い者は結論を急ぎよってからにまったく。
といいつつもミユはそれ以上は言わずにコントローラーを握ったまま画面を見つめてプレイを続けた。
そんなミユのゲームプレイを俺は眺めている。
思えば幼い頃は十分交代だの、コンテニューで交代だのしてコントローラーを奪い合ったことも思い出す。
なんだ、そういうことは結構覚えてるもんだな俺も。
「ねえ、ユウ兄」
そんな中ミユが画面を見つめたまま片手間に俺に声をかけてきた。
「なんだ」
「最近どう?」
「ぼちぼち」
「そっか」
……家族の妹にそんな抽象的な質問されても、どう答えていいものか分からずテキトーに返す。
質問が悪いよ質問がー。
「ねえ、ユウ兄」
「なんだ」
「ユウ兄に好きな人っているの?」
「ぶっ」
さっきの質問は俺が答えるかについての試金石だったのか、微妙に踏み込んだ質問をしてきた。
「い、いないけど」
「ほんとに?」
「……今はな」
”今”はいない、間違っていないことだ。
「……じゃあもうサクラは好きじゃないんだ」
「っ……!」
その、名前が……まぁ出るよな。
恋は盲目で告白前は誰にも悟られてないという謎の自信があったけども、多分バレてただろうしそのあと振られたということはミユに伝わった時点で広まっている。
「ごめん、嫌な事聞いた」
「いや、ミユが謝ることじゃない……そうだな。どうなんだろうな――」
”サクラを好きだった”という事実は覚えているが、肝心の好きになる過程が分からない。
少なくともネガティブな記憶は優先的に残存した脳内データベースにはいつからかツン気味になり、理屈っぽくなり、俺やミユを振り回す……それが今の俺にとってのサクラという人間だった。
見てくれはいいのだが、どう考えても俺が好意を抱く状況証拠が不足している。
だから、俺としては――
「なんで、好きだったんだろうな……」
何の意図もなく純粋にそんな言葉が出てきてしまう。
そんな俺が桜に振られたというよりも居なくなられて、どうしてそこまでショックを受けたのだろう。
それでもネガティブな感情だけは鮮明に覚えていることだけあって、好きとも嫌いともありがとうでもごめんなさいの何もなく目の前からただ居なくなったことで、ただ取り残されたトラウマが焼き付いた。
そうして俺にはどんな形であっても”対象から拒まれる”ということを恐れるようになった……しかしショックを受ける理由として、おそらくきっとたぶんはサクラとの楽しい日々がいつどこでかは分からないにしても確実にあったはずなのだ。
でも、それを思い出せない。
だから俺には身勝手とも呼べる幼馴染らしい彼女に何故か愛の告白をし、答えが帰って来ないまま失踪されてトラウマになった事実だけが残ってしまった。
「ユウ兄……」
ミユはコントローラーを置いて振り返った。
「サクラとのこと、あんまり覚えてないんだね」
「…………ああ」
記憶を失った直後は思い出せないことを隠すよう振舞う為に、クラスメイトとも距離を置いたのだ。
俺は昔の自分を演じられる自信がなかった、だから「長年一緒だった幼馴染に振られ居なくなったことでショックを受けたみたいだからそっとしておこう」というクラスメイトの心遣いを利用した。
たぶんそれからもサクラとは親しい腐れ縁のような、それでいてクラスメイトにも俺の好意がダダ漏れだったことは分かった、それだけしか分からなかった。
その結果いつの間にか一人になって、過去の自分と接点のないであろうマサヒロやユイとしばらくして話すようになった。
「ご……ごめん、ユウ兄っ! 私が……私が突き落としたから……!」
ミユは顔を青くしながらそう謝ってくる、しかしどうにもピンと来ない。
「そうは言われて謝られても記憶は戻らないしな」
「……っ!」
「それに変なことは覚えてるけど、あの時は体調が極悪だったしミユにじゃれ合い程度の力で押されても転ぶほどだったみたいだし、まあ不幸な事故みたいなもんだ」
覚えているが別にミユは俺を階段から突き落とそうとした意思はなかったのだと思う。
実際に間抜けなもので、階段を上がってから十歩は歩いたところの廊下でそんなひと悶着があって、おっとっとツルッ……てな具合で階段から落ちたのが俺なのだ。
ああ、そんなネガティブなことはしっかり覚えてるのは損してる気がするな……。
「で、でも……そんな体調崩してることに気付かずに……私は……」
「そもそもバカな俺がサクラに告白しなければよかったんだよ。ごめんな、ミユの親友を去らせる要因作って」
「いや……その……確かに…………サクラは親友だけど」
……ん?
何故かミユの歯切れが悪い、これは何かミユを怒らせる要因がほかにもあったのか?
「すまん、正直言って覚えてないんだがサクラに俺が告白する前にミユになんかしたんかな」
「えっ! いや、違うよ!? そうじゃなくて、ようは……本当に私の身勝手な八つ当たりで――」
……よくわからんな。
「ユウ兄がサクラと結ばれるなら、私も諦められるって勝手に思ってただけで」
「……諦めるって何を?」
本当にミユが言おうとしていることがよく分からない。
俺とサクラが付き合うこと自体を良しとするというのは、そもそもサクラが俺をどう思っているかの前提が分からないので答え辛いとしても。
俺とサクラが付き合うことで、俺の妹でありサクラの幼馴染であり親友でもあるミユが諦められることってなんだ……?
そして俺にとっては予想だにしない、まったくもってぶっ飛んだ答えがミユからは返ってきたのだ――
「っ……わ、私がユウ兄を好きな気持ちを……だよ!」
…………。
「は!?」