第644話 √d-23 わたあに。 『ユウジ・ミユ視点』『↓』
ミユに色々謝られて、子供のように泣かれて……俺は何かスイッチが入ってしまった気がした。
最近思い出した記憶によれば、俺はミユに何かあると方法はどうあれ駆けつけてなんとかしようとしていたらしい。
そして今、ミユの間違いメールで助けを求められたことでミユに駆け付けてしまった。
その時自分を客観的に見てシスコンスイッチなる単語が頭をよぎる――
あー、中学三年頃だったか俺に対して”シスコン”と言っていた男子が居たが……まさか本当にシスコンの気があるのかもしれない。
と考えると俺の中で「シスコンじゃねえから!」という言葉が渦巻くのだが、なんなんだよ俺よくわかんねえよ俺。
「あのさミユ」
「……なに、ユウ兄?」
いつの間にか泣き病んでいたミユは少し目元を腫らしてそう聞いてくる。
そんなミユを見て、俺は「じゃあ俺は学校行くから……」なんて言える気がせず――
「久しぶりにゲームでもしないか?」
という提案を何も考えずに俺はしてしまっていたのだ。
「…………え? 学校は、どうするの?」
「サボる」
「え、ええええ」
こうみえて俺はズル休みはしないタイプなのだ、まぁ学校に行けば友人と会えるし……生徒会役員の姉貴の手前もあった。
だからこういうサボタージュの行為はおそらく覚えている限りでは人生で初めてかもしれない。
「姉貴にメールするわ」
「いや、なんで、ユウ兄が休む必要なんて……が、学校から帰ってからでもいいし!」
……その言い方だとゲーム自体は一緒にやってくれそうなことに俺は嬉しく思いつつ、携帯でメール文章を打ち送信した。
すると一分経たずに――
『from:姉貴 タイトル:どうして!? 本文:ユウ君グレちゃったの!? どうしてなんで! 私との生徒会嫌だった? 疲れちゃった!? ごめんね、気づいてあげられなくてごめんね。私、どうすればいいかな? グレないで! お姉ちゃんを一人にしないで――』
以下省略な長文メールが届いた。
……俺の簡潔なメール『本文:今日サボるわ』というのが姉貴にはあまりよくなかったらしい。
「…………ユウ兄、やっぱ学校行った方がいいと思う」
「う、うーん……」
いやでもせっかくの機会なんだよな、ミユとコミュニケーションを取れる貴重な時間に違いない。
何もわからない中で模索して、諦めてしまったミユとの関係を変えるキッカケを今どうにか掴んだのだ――それをみすみす逃すわけにはいかない。
「ミユは二人用ゲームの準備しといてくれ……ちょっと姉貴と話してくる」
「え……う、うん」
そうして俺はミユの部屋を一度出て姉貴の元へと向かった。
……半泣き気味の姉貴をあやすのと説明で結構に時間を要してしまった。
* *
私はユウ兄が去っていった扉の方を眺める。
ユウ兄は私といつ以来かゲームをしてくれるらしい、私はユウ兄のその提案を断ることは出来ずにユウ兄との久しぶりの時間という誘惑に負けてしまった。
楽しみだなあ、ユウ兄が学校休んでまで私とゲームしてくれる……なん……て。
「…………」
冷静に考えればユミジによってユウ兄を呼び出されて、勢いままに謝って泣いちゃったけど……。
「~~~~っ!」
は、はずい!
ユウ兄の前でガチ泣きしてしまったのも恥ずかしいし、ゲームで喜んでる私もぶっちゃけ恥ずかしいし!
というか今の私臭くないよね!? 部屋も暗い中であんまり汚さないようにしてたつもりだけど、散らかってるし!
ああ、片付けないと!
というか髪もきっと跳ね跳ねじゃん、ああああああユウ兄が戻ってくるまでになんとかしないと。
服も寝間着のままとか、なんかちょっと! 着替えなきゃ、掃除しなきゃ、髪整えなきゃ!?
『ふふ、まるで乙女ですねミユ』
「そんなこと言ってないで手伝ってよ!」
『申し訳ありませんがPGPには自立歩行機能もお手伝い機能も付いておりません』
「くそー! 役立たずめー!」
口だけは達者な人工AIはこんな時に助けてくれない。
『下之ユウジは今下之ミナの説得に時間がかかっていますし、絶対大丈夫ですよ……たぶん』
「多分って言った! 絶対って言ったあとにそれ言ったらなんの意味もないよ!」
『口を動かさず手を動かした方がいいと思いますよ』
「ぐ、ぐぅ……」
とりあえず部屋を軽く掃除する、散らかっていたものをクローゼットに投げ入れゴミはまとめて部屋の隅に追いやり、服をとりあえず来賓用(?)ジャージに着替え、トイレに隣接した洗面台で顔を洗い髪を整える。
「こ、このくせっ毛め……」
お母さんやミナ姉と同様にどうにも我が家の女性陣は天然気味の髪質のようで、元から跳ねやすいクセに加えて私は誰にも会わないからと髪を伸ばし跳ね返りも放置した結果毛先はギュンギュンと跳ねまくっていた。
ステンレス繊維でも編み込まれているんじゃないかというレベルに強情な髪を力技でポニーテ―ルにして誤魔化してみる。
「あああ、それにゲーム!」
何がいいかな……やっぱ昔よく遊んだゲームがいいよね……レースゲーム系? それともパズルゲーム?
またはギャルゲーを兄妹プレイ……あ、今の無しでユウ兄と肩並べてギャルゲーとか想像したら恥ずかしくて死にそうだから無し!
結局パーティゲームをすることにした、本当なら大人数でワイワイやるのが楽しそうだけど……CPUとかがやっている間とかに何か話せたりするかも、だしね。
そうして二十分後。
出来ることはやった! もうどうにでもなーれ! という思いで内心冷汗をかきながらユウ兄を待っていると帰ってきた。
「悪い、遅くなった」
ユウ兄は着ていた制服を脱ぎ、私服に着替えていた。
「……ミナ姉なんて言ってた?」
「俺がサボる言ったら泣かれて困った」
ミナ姉泣いちゃったんだ……確かに私の二の舞になったんじゃないかと思ったんだろうなあ、ごめんミナ姉。
「で、まぁなんやかんやあって納得してもらった」
「なんやかんやって?」
「……そりゃその、妹と話したいからとかそんなとこよ」
「……そっか」
ミナ姉、何度もユウ兄とお話したら? とか仲直りした方がいいと思うよとか一緒に学校に行こうよとか、せめて家族で一緒にご飯食べようとか何度も何度も説得してくれたもんね。
でも私はユウ兄に会せる顔がなくて、それを無下に拒み続けたらそのうち私を気遣ってあまり言わないようになって……結局機会を逸しちゃって。
だから今の、やり方はどうであれ私とユウ兄がコミュニケーションを取るチャンスをミナ姉は尊重してくれたのだと思う。
ごめんね、ミナ姉……ありがとう、ミナ姉。
「ということで、明日も本当は午前授業だがサボることにした。三日連続俺も引きこもるぞ!」
…………本当にごめんミナ姉、私のせいで新入生で副会長の弟を二日もサボタージュさせちゃって。
それから私たちはゲームをした。
「おい! そこでアイテム使うのは反則だろっ!」
「へへーん、買っといたもの勝ちだもんねー」
まるで小学校も高学年ぐらいに戻ったような、童心に還ってユウ兄とパーティーゲームに熱をあげた。
「くらえ! 攫われ専門のニート姫!」
「ニート言った! このリアルニートの私が操るキャラをニート呼ばわりした! 傷つくんだけど! シスハラされたんだけど!」
「シスターハラスメントかよ! なんでもハラスメントつけりゃいいってもんじゃねえぞ!」
「謝って! 心を深く傷つけられた現職ニートに謝って!」
「うるせえヒッキー妹、悔しかったら外に出てこいカレーパン買ってこいや!」
「なにおう! ちょっと高校生になって周りに女子がいるからって、このハーレムウハウハ青春兄貴!」
「ハーレムってなんだよ! そんなモテねえよ! モテてえよ! あああ、浮いた噂の一つも欲しいわあああ!」
「ど、どの口が言うかこの全方位女タラシがあああああああああああああ!」
……実のある話とかは出来なかったけどね!
「ハァハァ……これってどうなるんだ」
「はぁはぁ……どうなるのかなこれ」
四人対戦、うちCPU二人だったのだけども……私とユウ兄が潰しあった結果CPU二人が上位をかっさらい――
「ハテナマス多く踏んだ俺の勝ちだな!」
「なにおう! マイナスマスの多い私だよ!」
某国民的パーティゲームの対戦結果はコインと星の数で決まる……そしてあろうことか私もユウ兄も完全に同数の同率だった。
「こんなんじゃ納得できねえ! 次はマリカーするぞ!」
「望むところだね! 受けて立つ!」
なんとも昔ハマった国民的対戦ゲームは熱くなりすぎてよくないようで、それでも楽しくて仕方なくて。
午前中はゲームをひたすらやりこんで過ごした――