第642話 √d-21 わたあに。 『ユウジ視点』「ダイヤル3・9」
妹であるミユの風呂に出くわしたその日、俺は風呂に戻るのも気まずかったこともあって結局風呂に入り損ねた。
本当ならばミユが風呂を確実に出ている時間を狙って入り直すべきなのだが、慣れない生徒会仕事もあって睡魔には抗えなかったのだ。
そうして俺は布団を被って寝てしまった――
* *
もう分かっていますとも、いつもの明晰夢だってことぐらい。
白い世界に俺と古いダイヤル式のテレビの二人きり、もう待っていても面倒臭いとダイヤルに手を伸ばしほぼ自発的に回し始める――
『ダイヤル3』
* *
ダイヤル3って、前にも見た気がするんだが……確か親父が亡くなったダイヤルの数字=歳だったはずだ。
親父が亡くなって、母さんが泣いていて、そんな母さんは何故か亡くなった親父を諦めない助けに行くみたいなことを言っていた。
夢が被るなんてことあるのか? 同じの見るぐらいなら違う歳の頃のことを思い出したいんだが……。
「……いつまでも泣いていられないわね」
目元を拭う母さんをぼーっと見上げる幼い俺、なぜかこの時俺は泣いていなかった。
むしろ母さんを気遣うような、泣いていた母さんを心配するような顔をしているようなのだ。
「ユウちゃん」
「なに?」
「ユウちゃんはこの家族で一人だけの男の子だよね」
「うん」
「だから私と一緒に――ミユちゃんやミナちゃんを守ってあげるんだよ」
家族でただ一人になってしまった男の俺は、幼いながらにその責任を感じていた。
兄は妹を守るべきだとなんとなく思っていたし、姉は自分よりも一歳年上であっても――女の子であり、守っていかなければならないと分かっていたのだ。
「うん、わかった。僕は――僕の姉妹とお母さんを守るよ」
父親の死ということに直面して、幼い俺でも自分のすべきことを理解できたのだろう。
それは今いる家族を守ること――もう誰も悲しまないように、男の俺が頑張るということ。
それはもちろん母さんも例外ではなくて、自然と口から出たのだと思う。
「っ……! そっか、そっか……なら頼もしいね。お兄ちゃん」
そこで夢は唐突に終わる。
* *
今のは覚えて、なかったな。
この夢の少し前の親父が亡くなって母さんが悲しんでいる光景はうっすらとでも覚えていたのに、この続きは知らなかった。
そうか、俺はこの時幼い心なりに決意したんだな。
そしてこの決意を俺は思い出す日はあったのだろうか、少なくとも記憶が欠如する前には姉妹を守ったというような思い出は残っていない。
俺はこの時の決意がただ一時のものだったのか、それとも――俺が覚えていないだけで、自分なりに姉妹を守ろうとしたのだろうか。
少なくとも今の俺は姉妹を守れていないだけに。
その答えはすぐに見れるようだった――
『ダイヤル9』
* *
さっきの夢よりはかなりに成長した俺は走っていた。
九歳ということは小学三・四年生ぐらいだろうか?
焦りと怒りの織り交ざったような感情で、とにかく足を前へ前へと持って行く。
そうしてたどり着いたのは校舎裏だった――
「ミユ!」
俺は妹の名前を叫ぶ。
その妹は地面に座り込み、周りには数人の女子に囲まれていた。
「お兄ちゃん!」
俺の姿を見て目に涙をためるミユを見て、俺は怒りを増幅させる。
「……お前らミユに何してんだよ」
「は? 今は女子での話し合いなんですけど、男子の兄貴は引っ込んでなよ」
気の強そうな……流石に名前は覚えていない気の強そうな女子が俺に言葉を返す。
「俺の妹に何してるか聞いてんだよ……答えねえとぶん殴るぞ」
「……殴れるもんなら殴ってみなよ! 先生に言うよ!」
強気な彼女に売り言葉に買い言葉で俺は拳を握って歩み寄り出した。
「そうかよ……じゃあ行くぞ」
「お兄ちゃん! やめて! ……わ、私が悪いから」
「ミユ?」
振り上げた拳途中でミユが声をあげ、そんなことを言う。
ミユに非があるとは、兄としては思いたくないところだった。
「コイツがいつまでも妹のクセに兄にくっついてんの見るとイライラするんだよね」
「なんだ、俺が好きなのかお前」
「は、はぁ!? 調子乗んないでよっ! ただ見てて鬱陶しいだけっ」
「鬱陶しいだけ、ねえ」
おそらく彼女が俺に好意がないことは確かなのだろう……それは今はどうでもいい。
彼女がミユを数人で囲んでいるこの状況に至るまでを聞きだす為の煽りだ。
ここでのポイントはおそらく”妹のクセに”というところだろうか……そして名前こそ覚えていないが確か彼女は――
「中学の三崎口先輩だっけ? そういえばお前の名字も一緒だったよな」
「……っ!? だから何よ」
「三崎口先輩、小学校でもファンのいる浦賀先輩と付き合いだしたんだっけ?」
「そ、それが! どうしたっていうのよ!?」
明らかに動揺している、ははぁなるほどなあ。
「お前、兄貴のこと好きだったんだろ?」
核心を突いてやった。
「なっ……」
「兄貴が彼女とくっついたからって、八つ当たりは違うんじゃねえかあ?」
「ち、ちげーし……アサ兄のことなんか好きじゃないし……」
図星のようだった。
ははは! この俺にかかれば彼女を手玉に取ることも容易よ……まぁサクラがそういう色恋沙汰とかに好きで、たまたま聞かされたことだっただけだけど。
そして俺はここから更に彼女を追いつめていくと――思いきや。
「諦めんなよ!」
なぜか松○修造的なことを言い出した。
「彼女が居たからなんだ! 彼女の知らない一面を妹のお前は知っているだろうに、それだけで勝ってると言えるだろ!」
「は、はい……?」
「彼女が出来たから諦めるなんて甘い、甘すぎるね! 本当に好きなら奪ってみせろよ!」
「いや……そこまでは」
「妹だからってか? 違うね、妹だからこそ一緒に居た時間を生かしてアタックするべきだ……というかアタックはしたのかよ?」
「……するわけないじゃん、だって――」
「兄妹だから? 知らんな! 本当に心の底から好きなら浦賀先輩から寝取ってやるぐらいの気概を見せろよ!」
「いやいやだから兄妹は付き合えないって……」
「うるせー! 法律なんかに縛られてんじゃねー、好きなら諦めんなよ! 兄妹とか言い訳にして逃げてんじゃねーぞ!」
「に、逃げてないし!」
「じゃあ戦え! 憎き兄を奪った女狐相手に戦え、なあに妹として兄と過ごした時間は長いんだ――機会はあるだろうさ」
「……本当に?」
「ああ! 当たって砕けてもまた当たればいい、兄貴に愛をぶつけろ! そこまでの覚悟がないならスッパリ諦めろ!」
「…………諦められない、諦められるわけないじゃん! 絶対アタシの方がお兄ちゃんのこと知ってるし!」
「そうだ! いけ! 兄貴に”やっぱ妹がいいな”って思わせるんだ! ぶつかってぶつかって、それでもダメな時は――」
「――さらにぶつかっていく!」
「分かってるじゃないか! やることは分かったな」
「よし! 今からお兄ちゃんの好み研究してくるっ! 見てろよあの泥棒猫……アタシの方がいいってお兄ちゃんに思わせてやる!」
「そうだ、善は急げだな!」
「ありがとう下之兄貴! そして八つ当たりなんかしてごめんミユ! ちょっと中学校乗り込んでくる!」
「う、うん……」とミユ。
「がんばれよ!」と俺。
「おう、見てろよあのクソ女――」と彼女。
そうして俺は彼女を見送ると、その完全に取り残された周りの取り巻きの逗子さんと川崎さんが「なんかごめんね」「うん、あの子あんな理由だとは思わなかったから」と引き気味にミユに謝ると帰っていった。
…………えぇ、小学生の時の俺のキャラなんなのこれ。
幼馴染のサクラの情報を扱いつつも、テキトーなこと言って納得させてたぞ。
するとミユは座り込んでいたことで汚れたスカートの砂埃をはらってから――
「お兄ちゃん……三崎口ちゃんに、なに言ってんの?」
そして案の定ミユは引き気味で、そう聞いてくる。
「…………割とテキトーなこと言った気がする」
気がするじゃねーよ! 自覚あんのかよお前!
「お兄ちゃん……」
ミユに呆れられてんぞ俺! 一番最初に涙目で見上げてきたミユの姿は無く半眼で俺をジトっと見ていた。
「でも、ありがとう……来てくれて」
「あぁ、まあ通りかかっただけだ」
そう俺がヘッタクソな言い訳をするとミユは軽く噴き出して。
「私目がけて走ってきたのに……?」
「全校一周中だったからな」
「……そういうことにするね」
そうして俺とミユは教室に戻っていった。
* *
「うわあああああああああああああああああ!?」
早い中二病なのか、この頃の俺の性格なのか分からないがミユの助け方が雑すぎるだろ!?
というか中学校に乗り込む言った三崎口のそのあとが気になるんだが!?
場合によっては焚きつけた俺に矛先向かない!? 俺、普通にアホじゃない!?
「わ、わかったぞ……こんな良く分からん性格で振舞ってたからその頃のことを俺は忘却したんだな」
黒歴史だから、思い出したくないから頭打ったとか関係なく忘れたんだなきっと……。
「でも一応は……」
やり方は下の下だけど、結果的には妹を守ろうとしているのか……?
もし次矛先が向くとしても三崎口を焚きつけた俺だろうしな、なるほど……ヘタクソか!
* *
四月三十日
……夢から覚めるといつもよりも早い時間に起きていた。
そして夢の内容はばっちり覚えている、松岡修造並のテンションでトンデモ理論で三崎口を焚きつけて妹から矛先を逸らした俺のメモリーはそのままだ。
「…………はぁ」
とりあえず昨日入り損ねた風呂入ろう。
ミユの前に風呂に入る予定だったユウジがそのまま寝てしまったために、宙ぶらりんになった家事について。
ユミジ「柔軟剤をポケットに少量ザバーして、その粉洗剤を洗濯機の中にカップ平盛ドバーして、あとはボタンをピッピッピ」
桐「こ、こうか」
ユミジ「さすが桐、覚えがいいですね。あとは電気も消して給湯器を止めれば完璧です」
桐「なぁ……わしの扱いひどくないか?」
ユミジ「何をいってるんですか、日々家事サボってるのですから今日ぐらいやってあげてください」
桐「いや……今二時なんじゃぞ!? 幼女の成長に良くないんじゃが!?」
ユミジ「一年ループする世界で今更何言ってるんですか」
桐「マジレスは嫌いじゃ」