第638話 √d-17 わたあに。 『ユウジ視点』『四月二十八日』「ダイヤル7」
→第481話 √b-64 神楽坂ミナの暴走!
四月二十八日
生徒会……始まってみると以外にも大変だった。
というか完全にもの運び要員というか、パシられ要員というか。
職員室と印刷室、印刷室と生徒会室を何往復もした……いわゆる一年生組である俺とクランナと福島の三人がかりで。
「箸より重いものは持ったことありませんの」とか言い出したのでじゃあ家での料理監修なしなと、俺が言うと渋々といった様子で運び始めた。
ちなみに福島は実は脱いだら腹筋割れてるんじゃないかというレベルの力持ちでプリント満載ダンボールを片手に二個ずつ持っていた、俺はダンボール二箱が限度でありなんとまあ男として情けない限りだった。
台車の利用も考えたが微妙に古い設備のバリアフリーなんて美味しいの? レベルのわが校の無作為な継ぎ足し継ぎ足しの段差が多いところこともあって台車も使いようがなかったという。
まぁ筋肉痛である。
それでも家に帰ればホニさん一人に家事を押し付けるわけにもいかないので姉貴と俺とホニさんの三人の総力戦で家事に挑む。
俺が風呂に入り終わり睡魔と死闘を繰り広げながら課題をやっつけて眠りに就くころはもう深夜一時近くになっていた。
「アニメ見てる余裕なんか――」
ねえ、と言い終える間もなく俺はダウン。
そうして節々の身体の痛みも気にすることなく深い眠りに落ちていく――
* *
はいはい、今日は”あの”夢ね。
法則性があるのか分からないが毎日”あの”夢を見るわけではないようだった。
まぁ見慣れたというか白い世界に俺とダイヤル式テレビの二人きり、せめて相手がテレビでなく可愛い女の子ならよかったのに。
それでも……この夢は俺にとって得難いものであることは確かだ。
俺の物心つくまえ、おそらくは幼き俺が実際に見た光景を夢という形で知ることが出来るのだから。
いや、実は妄想でしたって可能性もなくはないが……それにしては妙に納得できてしまうというか、具体的な根拠はないんだけども。
そしてこの夢は例え覚めても、忘れることはなく記憶として必ず蓄積するところが普通の夢とは違うところだった。
さて今日はどんな夢……というよりも”俺の記憶”を見せられるのかとダイヤルに手を伸ばす。
『ダイヤル7』
* *
おお時間が飛んだな。
『お母さーん、あのねー 私大人になったらユウくんと結婚するのー!』
『いや、あねといもうとでの結婚はむりだろ』
ああ、そういえばそんなこともあったな。
俺だってすべてを忘れているわけじゃない、一部のことは今も覚えている。
もっともその前後が欠けている場合は十分あるんだが。
『あらあら素敵な夢ねー よぉし、お母さん全力で支援するわよ!』
『いやいや、親があとおししてどうすんの』
『……夢のない男ね』
『小学二年で夢がないのは致命的な気がする……』
七歳のころは小学二年……多分そのくらいで間違いないな。
というか姉貴は小三だよな、中学年にもなって……まぁ姉貴だしいいか。
で、しばらく小学二年の微妙に小賢しい俺と、まだ幼さが抜けきっていない姉貴と、何故か近親結婚を後押しする母さんとでの話が続いたのち。
『ユウくん、待っててね! 総理を吹っ飛ばして、私がユウくんのお嫁さんになるから!』
……これだけ切り取ると姉貴が将来革命家あたりになってしまうのではいかと思うがそうじゃないから。
姉貴は今も総理になって姉弟で結婚できる日本に変えることを夢見てたりするのだろうか……思えば姉貴の将来の夢とか今は知らないな。
姉貴の目には未来がどう見えてるんだろうか。
今までの夢が俺の知らないというか、完全に忘れていたことなのに対して今見ているのは俺が現実でも覚えていたことだった。
まぁこんなこともあるだろうと身構えていると、俺と姉貴と母さんのもとに――
『わ、私もお兄ちゃんとケッコンする!』
俺の妹ことミユの登場である。
あれ? これは覚えてないな、姉貴の日本を変える宣言の続きがあったのかと驚いてしまう。
『いいぞいいぞ! 私は姉弟間の結婚のみならずハーレムも賛成だ!』
『なにいってんだこの母親』
本当に何言ってるんだろうこの母親……。
『一夫多妻制ってしってる? お母さん』
『……それをミナがついでに壊してくれるわ』
ついでに壊すもんじゃねえよ! と内心ツッコミを入れるが幼き俺は呆れて沈黙していた。
『大体ユウトさんも全盛期は私以外の女の子とも同時進行か付き合って、あろうことか肉体関係まで――』
やめてくれ亡き父親のそんなこと聞きたくなかった……親父そんな尻軽かったのかよ (?)。
というか……この頃は親父のことも母さん話してたんだな。
時々帰って来ても母さんは親父のことについて語らないばっかりに、内容はどうであれ意外だ。
『お姉ちゃんが総理なら私が副総理になる!』
『志高い姉妹を私は応援するよ!』
またテキトーに母さんは言うが、姉妹総理とか前代未聞だよ……。
『総理副総理が姉妹だから……ユウジはハーレム王ね!』
どっから王政になった。
『ユウくんハーレム王!』
『お兄ちゃんハーレム王!』
たぶんハーレムの意味分かってないんだろうな……この時の二人は。
『おれは堅実にサラリーマンでいいから……』
うわ、それにしても夢ねえな昔の俺。
当時の母さんだけでなく今の俺でさえドン引きだわ。
といってもじゃあ現実の、今の俺に夢があるかと言ったら微妙なところなんだが。
……俺が忘れているだけで、何か俺にも男子小学生が現実性も無視したような華やかな将来の夢があったりしたのだろうか
それさえも俺は思い出せない。
かつての自分が分からない時点で、俺は将来を見る余裕も無くて。
ただ、時間だけが過ぎていく――
そうして夢が終わる。
目が覚める。
毎度のようにこの夢は冷めても忘れない、最後に夢の中で現実と向き合ってしまった苦さも消えることはなく。