第178~179話 √1-25 ※独占禁止法は適応されませんでした。
== == HRS√1-3
ここはどこなのだろう。なぜ私はここにいるのだろう。
白い壁に白い床、白い天井。それは本当に真っ白な部屋だった。
視覚に次いで聴覚を働かせると……聞こえるのは啜り泣く声と、何かに同情しているような会話が聞こえる。
なんで私はここにいるの?
聞こうとした、でも声が出なかった。出せなかった。
「そ、そんな……」
顔を両手で覆いなき続けるお母さんがいた。
どうして泣いているの?
でもそれは口にしない。幼き私は少しずつ理解し始めていたからかもしれない。
「くっ……」
父が泣いていた。後悔に苛まれ、自分の無力さに失望するように、唇を噛み締める。
私の視線の先に見慣れないものが鎮座していた。
それは大きな箱だった。直方体で覗きガラスが付いた、まるで人が入れるような大きさの箱。
労るように、慰めるように。箱の周りには花が据えられていた。
何よりもその箱の前にある写真に圧倒的な違和感を感じた。
「弟くん……?」
それは昨日まで一緒に喧嘩もありつつ遊んでいた──弟の写真だった。
どうして?
幼き私は分かったかもしれないし、分からなかったかもしれない。しかし確かめたたかった、これが何かの間違いだと。
箱を覗きガラス越しに見ると──
「……」
そこには外傷こそ思いのほか少ないが、健康的な肌色は薄暗い土色になってしまった弟の姿。
その表情は柔らかく、箱から出したら寝息をたてていそうなほどに安らかに眠っていた。
そう、弟は死んだのだった。
四歳年上の私と、母と父を残して飛びだって行ってしまっていた。
それは葬式、それは棺桶。弟はもうこの世にいなかった。でも私には実感がいまだなかった。
そして火葬される弟をみても何も感情はなかった。
そうして家に戻って少し時が経ったその日に、私は圧倒的な喪失感に襲われ――
「そっか……もう弟くんは」
涙が止め処なくポツリポツリと床を湿らして行く。その時私は、弟がこの世から居なくなって、もう帰って来ないことを実感したのだった。
== ==
12月31日
「あー、もう年末か」
年末は「笑ってはいけないデパート密着48時」なるもの以外はネットでアニメ観賞をしていた。
時折マイと電話で話したり、ユイが部屋を訪ねてきたり、ホニさんが夕ご飯を呼びに来たり。
いつもの、ぬぅ~っとした日常を過ごしていた。しかし机にある1つのモノをみて思う。
「……なんかちゃんと読めてないけど」
それは本。葉書二枚分の大きさで、それも光沢の入った紙を使用したであろう表紙。
しかしそれならどこらでも転がっているのだが――
「マイ……だよな」
マイが表紙には写りタイトルとして「マイ様ファンクラブ会誌No.15」と書かれていた。
「一応チサさんに貰ったけれども……うーん」
とりあえずは、読むのはやめておこう。うん、そうだな。
でも、捨てはしない。キチンと保存して……うん、いつかに。
年末。その名通りの年の末。テレビの画面の中では見てて寒いぐらいに芸人や俳優がドンチャン騒ぎをしていたりする。
ニュースでは何故か事件が増え、次々と今クールのアニメが終了していく。
「年越しそばにはお揚げつくかな!?」
あー、おそらくついてないかな。とホニさんに答えるとかなりションボリしていた。
いや、そば&お揚げはそもそもあんまりないぞ? その組み合わせはど●兵衛だって季節商品だ。
「ユウくん、年越しそばは期待しててね!」
「あー、楽しみにしてるぞ」
”年の締めはお姉ちゃんの料理で!”と胸を張っていたので、俺はそれに甘えて年末はとにかくゆっくり。
なんというか今年は色々あり過ぎた……うーん、疲れた。今年で思い残すことは……ないっ――
「…………」
かと思っていたら、思い出してしまった。クリスマスデートの海岸で俺がマイに質問した答え。
『いえ……私こそ、ごめんなさい。でも、少し待ってください。ええと、覚悟が出来たら――』
覚悟とはなんなのだろう、躊躇する理由が本人とっては重いことなのだろうか?
そして俺は覚えている――その時みせた憂げなマイの表情を。
「……なんなんだろうなー」
そして未だ開いていないマイファンクラブ冊子。
大きさ程それ程でもないが、厚みはゼロの●い魔のラノベ一冊分はあるだろう(注・憶測です)
ついでにNo.十五とういことから既刊済みのものが十四冊は確実にあることになる……恐るべきマイファンクラブ。
「ご飯だよー」
という姉貴の呼び声で、俺は表紙のみをじっと眺めていたマイデスクを後にして自室を出た。
「ユウジ氏! 年末アニメで年越ししようず!」
「あー、すまん。ちょっとその時間は」
「……あーそっか、ユウジはアレか」
「まあ、アレだよ」
マイとの新年最初の電話トークをするっ! ……というのが今回の目標。
しかし年末年始の電話回線も天下のN●Tであっても混雑するわけで、プレミアム会員なんてものはないので運任せ。
だとしても一秒でも早く年始電話を成功させたい! と、思ってる訳で。
「(とりあえず年明け十分前くらいからコールしまくろう)」
こういう顧客がN●Tを苦しめるという事実はどっかに放っておこう。
しかしそう思えばパソコンメールでも交換しとくべきだったなあ、と思ったり思わなかったり。
でもパソコン故に直ぐに返信出来なかったら悪いしで、迷ってたのもある。
決戦は自室にて、携帯回線を使用しての勝負。それまでは居間でテレビをみていることとしよう。
11時半。
俺は自室に戻って、古臭いブラウン管テレビ越しに先程のバラエティを観ていた。
すると突如「ピロピロリン」と購入時に設定されたままの着信音が鳴った。
「メールだよな? 誰からだ?」
マイはアドレスをそもそも持ってない。ユイについてはこんな数部屋挟んだ程度の近距離メール会話とか家庭崩壊だろう。
生徒会メンバーも委員長も知らないので、じゃあユキか愛坂かマサヒロか。
「あれ?」
…………男すくね。男友達すくねえ! すごい、年末にこんなこと気付かされるなんて!
「あ、はは」
ちょっと落ち込んできたぞ……ホットになれ、ホットになるんだ俺。ポジティブになるんだよ、俺。
「女の子ばっかでウハウハじゃーん」
…………彼女持ちの発言としてどーなの? ああ、逆に図に乗っちゃったよ俺。
そーだよなー、高校入学時も基本的に中学三年のメンツ三人がスライドしただけだしな……
「いや、これでも俺。以前は友達居たんだぜ? 男友達」
何かに弁解するように俺は――誰だおホモ友達とか言った奴、縛り首にすんぞ。え、それより嘘だろって?
ふふ、俺を甘くみない方がいい。
俺だって中学二年までは友人の多さに右手と右目が疼いて仕方なかったんだ、その疼きもアーマーコアの組み込まれた友人が傍に居たが故にっ!
え、なにいきなり厨二病暴露してんだよって? ネットに晒す? ……ごめんなさい、って俺誰に謝ってるんだ!?
「あれ、こっちの方がイタイ」
一人芝居展開とか厨二病以上に痛すぎる。うはぁーさらにこの十数分間で相当に百面相だったろうな、俺。
忘れることにしよう。
今までの部屋は全部夢、冬の迷いがみせた夢、だからなおのこと今までの事は泡沫と消える。
スタッフの発作による間違い。全てここから……ということにしてください、お願いします。
「で、誰からだよ……」
もう誰からなんてどうでもいいのでやる気なさげに携帯を開き、未読メールのアイコンをチェックする。
『From.マサヒロ』
パタン、俺は携帯を閉じた。
ちなみに後に確認した内容は”除夜の鐘? そんなもので俺の煩悩を消し去るとは方腹痛い、俺の煩悩は109つある”と読んだ時間と俺の労力と携帯の電池残量を無駄にした。
そうして11時45分ぐらい。時は満ちた。
「さあ、コーリングの準備をっ!」
『電池残量が不足しています』
「マサヒロオオオオオオオオオオオオオ」
半分ほど八つ当たりである。
「てめ、このっ、充電っ」
携帯に充電コードをプラグ・インして少し待つ。
「5分でどれほど通話出来るか……」
最近の充電の速さには恐れ入るが、5分ならどうだろうか。
しかしかつて内には14時間充電して30分しか使えないムダにデカイ掃除機があったのを考えると恐ろしいほどの進化だな、うん。
(※いや、なんで携帯と電気食う掃除機を比べるんですか?)
5分後。
「よしきた! コーリングッ」
『ただいま回線が混みあって――』
「ダメか、リトライ!」
そして23時58分45秒。
『プルプルプルプル』
「きたこれ!」
『ガチャ、ツーツーツー』
「切られた!?(or通話中)」
マジか……もう一分しかねえじゃん。うわー、どうするよ。そんな時に――
『チャラチャラチャララーン、チャラーン、チャラーン、じゃらーん(着信音:TRUTH)』
直ぐに手に取り通話ボタンを押した。
「ああっ、もしもしユウジです」
『…………』
「あのー」
改めて確認すると、携帯のディスプレイには「姫城舞」の文字……?
「えーと」
そして後ろのテレビ(時計確認の為にチャンネルを変えた)から、あけまして――
『あけましておめでとうございますユウジ様あああああああああああああああああああああ』
「おおうっ!?」
1月1日
声こそそれほど大きくないが、いきなり声がきたのでビックリした。
『今年もよろしくおねがいします! おそらくユウジ様への新年の挨拶は私が最速でしょう!』
「ああ、マイが一番最初」
『本当ですか! あけましておめでとうございます!』
「何度言うのさ」
『う、嬉しさのあまり!』
「俺も新年早々にマイと話せて嬉しいな」
『ほ、本当ですか! 今年もよろしくおねがいします!』
「あけましておめでとう。今年もよろしくな、マイ」
『ありがとうございます! あ。あ、あけましておめでとうございますっ!』
そんなこんなで新年のスタートはマイとの会話という凄まじいほどの幸運で始まったのだった。