第602話 √c-16 ずっと近くに居た私と、世界のこと
→第443話 √b-28 神楽坂ミナの暴走!
昼食を終えると、先ほどまでテレビゲームで遊んでいた四人はユーさんの部屋に再び集まります。
ユーさんやホニさんはミナさんの食器の片づけなどを手伝って、桐とユイはユーさんの部屋で時間つぶしのオセロをやっていました。
そして全員が揃ったことを確認してポーズ画面のままだったゲームが再スタートし、また大会が始まりました。
ちなみに美優さんはというと、携帯ゲーム機でユーさんに対抗すべく同じシリーズのレースゲームを遊んでいました。
具合としては「ユミジってゲーム下手」『……慣れていないだけです』「ふーん」『そもそも生身でもない私相手にゲームやって楽しいんですか』「それを言うなぁ!」
本当に仲良いですね二人とも、というかユミジは美優さんの二画面ゲーム機相手にGVAでどうやって対戦しているのでしょうか……謎です。
そんな一方でミナさんは――
とある部屋で線香にライターで火を点け灰入れに立てて、布の付いた棒で軽く鈴と呼ばれる鐘をチーンと鳴らしました。
「……」
目を閉じて手を合わせます。
それから鈴の音が鳴り終わる頃に、目を開けて目の前に置かれている写真の中の人を見つめます。
「お父さん、一週間ぶりだね」
ミナさんがいるのは客間である和室の一角に作られた仏間でした。
大きな仏壇でもなく、和タンスの上に作られた遺影と仏具が載った些細な仏壇がそこにはあります。
……私もログなどを見て知ってはいたのです。
下之家の家族構成で母親はミナさんに家事全般を任せて働き詰めていて、父親はというとユーさんの物心つく前に他界していることを。
「はいお父さんの好きな――ドク●ーペッパーと暴●ハバネロ」
……なかなかジャンキーなチョイス。
病弱な私には縁の無さそうなドリンクとスナック菓子の組み合わせですね。
「ねえ、お父さん。私しっかり覚えているわけじゃないんだけどね。お母さんにも時々聞いてみるとはぐらかされるし、疑問に思ってるんだけどさ――」
そうミナさんは笑顔でピースをしている若い父親の遺影と話します。
「ユーくんと、私と美優ちゃんと……本当はもう一人妹が居たりしない?」
……それはどういうことでしょう。
一応義妹になったユイさんや、ゲーム上の設定で桐がいることにはいるではありませんか。
どうしてそんなことを。
「あっ、私ったら桐ちゃんを忘れるなんて。ダメだね」
ですよね。
桐が抜けていたというなら、それなら疑問も解消されたはずです――
「桐ちゃんとは別に、私にも妹がもう一人いたはずだよね? それとも――出来るはずだった?」
何を、言うのでしょうミナさんは。
私が知らないだけで、ログに記されていないだけで、この仮想とリアルが複合した世界で消されてしまった存在がいるのでしょうか。
もし消されたとしたら何のために消された? あるいは上書きされた――?
「私、確かに聞いたんだよ。お母さんがお酒に酔った時に”美樹”って」
美樹、ですか。
美奈、美優、ときて美樹なら確かに不自然ではありませんが。
「あはは、ごめんねお父さん。ちょっとふと思ったから、気にしないで。じゃあね、お父さん」
そうしてミナさんは仏間の電気を落すと部屋を去ります。
偶然にも聞いてしまった私は、どうしようもない不完全燃焼感だけが残ってしまいました。
二時半ごろ、四人のゲーム大会もキリのいいところで終わりを告げるとそれぞれの休日が改めて始まります。
ホニさんは桐に連れられてアナログゲームを付き合わせられ、ユーさんはというとユイのアニメ鑑賞会に巻き込まれたようです。
「ユウジ殿! ふらいんぐりっちの最新話は視聴済みですかな?」(※この作品の時系列と、劇中に出てくるアニメの放送時期と一部異なります)
「いや、まだだけど。俺それよりも生鮮ケルベロスの方を――」
「なら丁度いいぜい! 一緒に見ようぜい」
「えぇ……一人で見ながらツイッターに感想呟きたいんだけど」
「いいからいいから!」
そうしてユーさんは渋々ユイさんの部屋に連れ込まれます。
ユイさんの部屋はというと……もろにおたくなお部屋でした。
マンガやライトノベルだけで数百冊は下らずに、アニメのDVDも結構あるようです。
……資金源は一体、そういえば過去ログにバイト描写があったようななかったような気がしますが。
「それよりも――ぽってまよのDVD-BOXあるのかよ! そっちの方が懐かしくて見たいんだが!」(※この作品の時系列と、劇中に出てくるアニメの放送時期と一部異なります)
「うむ、それでもいいな! アタシも買って開けるだけ見てなかったから、見よう!」
そうして二人並んでアニメを見始めます。
しばらくは二人黙って、見続けていました。
……私も流れで見ていますけれど、これゆるふわな絵柄に反してブラックなギャグもあるのが面白いですね。
「…………ん? どうした?」
「い、いや! 今携帯を手に取ろうとして偶然! 偶然ユウジの手の上にアタシの手が当たっただけだ! 気にするな!」
「お、おう」
いや、私には丸わかりですよ! 恋人同士でありがちな映画館での手繋ぎスキンシップを試みたんでしょうユイさん!
ですが無駄です! 基本鈍感にしてアニメにのめりこんでいるユーさんにそんなスキンシップ無意味ですから~、残念!
……自分で使ってみても古いギャグでした、撤回します。
「そういえばユイってさ」
「んー?」
「BLモノとかも見るの?」
「んー、見れなくもないけど普通の男女のラブコメの方が好きじゃんよ」
「意外だな、てっきり女のオタクって全員腐っているものかと」
「偏見だぞ! 確かにアタシがSNS上で出会った女オタクの九割は腐ってたけど、アタシはそんなに腐ってないぞ!」
「……そのデータからもほぼ腐ってるじゃん」
「アタシが特殊だからな!」
私も男同士とかはちょっと……ほーんのちょっぴり興味がないわけではありませんが、いややっぱりないです!
「むしろユウジが少女漫画モノとかも普通に見る方が意外だわ」
「そうか? 意外と見れるぞ、たいてい出来も良ければ良質な恋愛モノだからな。青髪の白雪姫とか良かったわ」(※この作品の時系列と-以下略-)
「確かにあれはいい、ユウジも目の付け所がよい。初々しくて二クール目は砂糖吐きまくったわ!」
「いいよなぁ、あの初々しさ。俺もあんなラブラブする恋愛生活を送りたいぜ……」
「……あぁ(隣にアタシがいるってのにいい度胸だなコノヤロォ)」
……ユーさん相手だと、しょうがないと思います。
「ん?」
「なんでもなーいぜい! 続きいってみよー」
「そうだな」
そうして二人は結局一クールアニメの半分ほどを見終えるのでした。
それからホニさんが洗濯物を取り込んだり、帰ってきたクランナさんがお風呂掃除を始めたり、ユーさんが夕食の準備に取り掛かってミナさんも手伝ったり。
そうして休日はゆるやかに過ぎていきます。
ユーさんとミナさんの作った夕食は、何とも美味しそうですね。
……今度曖昧な世界でもユーさんに作ってもらいましょうか、この休日だけで色々やってほしいことが増えました。
それからクランナさんアイシアさんが一番風呂で、桐とユイさんが一緒にお風呂に入り――ホニさんとミナさんが一緒にお風呂に入り始めました。
桐やユイさんも割と意外ですが、ホニさんとミナさんというのはより意外です。
「ホニちゃん髪長いと大変ねー」
「はい、でもずっと付き合ってきたものですから」
「わかる! 私もユーくんにポニテ良いって小学生の頃に褒められてからは、ポニテに出来る長さは残さないといけないしね!」
「ポニテ……そういえば、ユウジさんそんなこと言っていたかもしれません」
……ポニテ、基本髪をセミショート以上にはしなかった私には縁がないですね。
どうにも鬱陶しいので切っていましたが……ちょっと伸ばしてみようかな。
いや、この妖精形態じゃ意味ないとは思いますけれど。
それにしてもミナさんの<規制>大きいですね……スタイルこんなに良かったとは、着やせする方なんでしょうか。
そして二人が上がると最後にユーさんがお風呂に――ああっ、流石に男子のお風呂を覗きはしませんよ!
ユーさんがお風呂を上がる頃はすっかり深夜です、基本的にホニさんやユーさんが一番遅い風呂のようですね。
「あぁ、給湯器消さないんだっけか。追い炊きもしておこう……」
そうしてユーさんが最後のはずのお風呂は蓋をすると再び温まり始めます。
ユーさんがお風呂を上がり、時間を立たずに自室に戻って寝息を立てはじめる頃――
ミナさんが朝食を置きに来て、食器を片付けに来る以外は基本閉じたままのある一室の扉が開きます。
「……誰も、起きてないよね?」
そろりそろりと彼女は廊下を歩き、階段を降りて浴室を目指します。
「あ、あったかい。サンクスユウ兄」
蓋を開けて指をすっと入れると、まだまだお湯はあたたかいものだったようです。
それから美優さんは服を脱いで身体を洗って……緻密な描写は省略します。
そうして身体を洗い、基本部屋に籠っている美優さんが浴槽に身体を落ち着けます。
「はぁ……あったまる」
すっかり長くなった髪をある程度結って湯船に浸かっています。
……こういうのはなんですけれど、ミナさんに比べると成長は――
触れないでおきましょう。
こうして下之家の休日が終わっていくのでした。