第597話 √c-11 ずっと近くに居た私と、世界のこと
ここ最近色々ありました
それでも頑張ります
* *
委員長に言われて残ることとなり、学級委員活動に勤しんでいた矢先に。
ふと委員長が立ち上がって、口を開いたのだ。
「頃合いですね」
「え?」
「こうして学級委員に巻き込んで、下之君をこの教室に留めおいたのも理由あってのことなんですよ」
「……いきなり何を言ってんだ?」
「さぁ、ネタばらしをしましょう」
委員長は突然指を鳴らすと――何も起こらなかった。
……本当に何も起こらなかった、そして委員長は何もなかったかのように自分の席へと座ったのだった。
「……委員長、ネタばらしってなんだ」
「私が下之君を学級委員にしてまで、下之君をこの教室に居残らせたその理由。ふふ、それはですね――」
そして委員長は俺に聞かれるのを待ってましたとばかりに瞳を輝かせると――
「下之君と合法的にイチャイチャする為です!」
……俺はどう返せばいいのかと。
この高校に入ってほぼ最初に俺が委員長に副委員長に指名されてから、その時に俺を選んだ理由が好意があるからだとか。
そのあとの委員会活動で長い間俺のことを想い続けていたと告白してきたり……なんというかツンもないドストレート過ぎる感情表現に俺は気圧されてしまうわけで。
どうしてそこまで自信に満ち溢れて言えるのだろうか、どうして俺なんだろうか、とか色々考えてしまうわけで。
「なぁ委員長さ……俺が聞くのも相当野暮かもしれないんだが」
「はい」
「俺のどこがいいんだ?」
「そうですねー……――何事にもひたむきなところ、まっすぐに私に向き合ってくれること、気遣いのできるところでしょうか」
「お、おう」
そう言われてもまったく実感がなくて照れる――前に、なんかデジャブを感じる。
まったくそっくりのセリフをいつしか聞いた気がするのだが、思い……出せない!
というかいつもの委員長の言い方ではなく、どことなく抑揚のない声音で誰かのモノマネ風に言っているのがやっぱり気になる。
「あとは――料理が出来る男子というのも魅力的」
「……俺、委員長の前で料理見せたことないと思うんだが」
今のもモノマネっぽかったし……誰がモデルなのかと。
「ありましたよ、中学の頃の調理実習で。美優さんと料理争いを繰り広げていたではないですか、毎度上野さんが品評していて面白かったですね」
「あー、ああそんなこともあったかもな」
言われればそんなことがあったような気がしないでもない。
しかし完全に思い出すことは叶わない、あるタイミングで頭を打ってから記憶の一部が吹っ飛んでいるせいもあるのだろう。
悪いことばかりは覚えているというのに、そういった楽しいエピソードに関してはごっそりと抜け落ちている。
「……ちょっと失礼しますね」
「ん?」
委員長はふとメガネを外すと、俺を見つめた。
メガネを外すと、委員長の素顔が見えるのだが……意外にも端正な、美少女というよりも美女と呼ぶに近い顔立ちが現れる。
フレームレスのメガネを付けていれば決して悪くはないが地味めな彼女の印象が、素だとこうも変わるとは。
同年代のユキや姫城さんなどとは違った大人びた風貌だ、良い意味で二つほど年上なんじゃないかとも思えるほどに……少しだけドキリとさせられた。
かと思えばすぐに委員長はメガネを戻した。
「ああ……そういうことですか。いえ、こちらの話です」
「お、おう?」
「さぁ委員会活動再開しましょう」
「そ、そうだな……ん?」
俺はしばらくして、結果的に委員長への俺の質問は半ばはぐらかされたことに気付くのだが。
それは委員会活動を終えて帰路に就くころの話である。
* *
ええと、ナタリーです。
ユミジの言う通りに、ユーさんの鞄に忍び込んでスパイをしていたらとんでもないことを聞いてしまいました。
今現在いつの間にか元の世界へと戻っていて、委員長と話しているユーさんは覚えていないようですが、私はみっちりしっかりと聞いて……覚えてもいます。
正直私としても整理が付かないことが多々あって……。
私がゲームのキャラで架空の存在というのは、”曖昧な空間”でログなどを見ている間に察していたけれど、受け入れてもいたけれど。
だからこそまさか私にモデルが居たなんて……委員長の言う”その人や物を知ることができる力”が本当ならば、モデルとなった私は現実でも入院生活を送ってそれで――
妄想でしかないけれど、委員長がメガネを外してみた私が一日だけ座っていたという席を通して、病院のベッドで過ごす私を見通していたのなら。
いよいよ救いようがないというか、私はどうしようもないというか、夢も希望もないというか……。
架空の存在で、ゲームの都合で何度も病院で過ごしては死ぬを繰り返しただけかと思ったら。
モデルの私には必ず”死”が待っていたかもしれないと考えると……かなりにショック。
一度はゲームのキャラだから仕方ないよねと諦めがついていただけに、やっぱり動揺してしまう。
それに……今の私がモデルの私イコールではないにしても、現実に存在していた私をもとに話しが作られていたのはやっぱり複雑でもあって。
モデルがいる人をゲーム内とはいえ”死なせてしまう”のはどうなのかとか、そのモデルの人は”死”のあとどうなったのかとか。
それとも何かの奇跡でも起きて”死ななかったり”したのか、委員長からもたらされた情報は多いはずなのに私にとっては分からないことが増えすぎた。
いよいよどこからが現実で、どこまでが創作か分からなくなってしまう。
そして私が怒っているのか、悲しんでいるのか、その感情をどこに向ければいいのか。
言いたいことも、聞きたいこともまるでわからなくなってしまって、途方に暮れてしまう。
中途半端に知ってしまったことで生殺しの気分というのはこういうことなのかもしれない。
『はぁ……帰ったらどう話そう』
私は強引に自分の心を落ち着けて、まずはこの爆弾ばかりの情報をどう伝えるかだけを考えることにしたのだった――
気づくと委員会活動も終わり、ユーさんが帰路に就くころにようやく私は完全な落ち着きを取り戻しはじめて。
実際しばらくは自分のこといっぱいいっぱいだったのだけども。
ふと委員長があの”曖昧な空間”を打ち切る際に言い放った言葉を思い出してしまう。
『私よりも先に抜け駆けしてくれました”妖精”さん、もし桐たちにこのことを話す機会があるなら私のことは”創造神”とでも言っておいてください』
……抜け駆けってのはもしかして”アレ”なのかな。
いやいやいや! まさか! 私がユミジが言ったように一分の一サイズになった時にユーさんにした……キ、キスのことなわけが。
でも怒ってたなぁ、ユーさんは不機嫌そうとしか思ってなかったかもしれないけれど。
きっとお見通し、だったのかなぁ。
そう思うと途端に恥ずかしくなってくる……わ、若気の至りだから! その時の妙なテンションがそうさせただけで、別にユーさんにキスしたいほどだなんて――
ごめん委員長、せっかくの委員長ルート? なのに抜け駆けしてごめん。
でも私だって抑えきれなかったし……ぶっちゃけ私のモデルに断らずに私が死んじゃうようなシナリオ書いたんだからこれぐらい許してよ!
そういえば付け足すように言った『桐たちに~』というのもどう考えても私向けだった。
それにしても”創造神”って……本当に桐たちに言って伝わるんだろうか。
「”創造神”……じゃと!?」
『……想像は付いていましたが、本当でしたか』
帰って来て、桐にユーさんのカバンから取りにきてもらうように頼んで。
いつの間にかこういった秘密の話をする場所として定着した美優の部屋に私と桐とユミジとホニさんが集まって、私がまずその”創造神”ということから切り出したのだ。
「……まさか委員長が”創造神”の一人じゃったとは」
桐が純粋に驚いたように呟くと、ユミジが私たち向けに説明をし始める。
『”創造神”というのは私ことユミジや桐などの”管理者”の完全上位的存在です』
中間管理職的な桐たちにとっての上司みたいなものなのかな。
「わしらが管理者というのは名ばかりで、実際は深くユウジやストーリーなどに干渉することは出来ない補助的存在に対して……そもそものわしらを産んだ存在じゃ」
産んだ存在……ああ、そっか。
そもそも”創造神”という言葉が差すのが”製作者”イコールでもあるのなら、確かに話の生みの親である委員長は確かにその通りなのかもしれない。
そうして私はそれから聞いた話をすべて、余すことなく話し始めた――
「創造神はそれぞれ未来の委員長・アイシア……それにユウジとはにわかに信じがたいのう」
『……流石にこの世界に至るまでの経緯すべてを知ることになるとは思いませんでした』
いやぁ私が一番そう思うよ。
「え!? 良く聞いてなかったけどつまりは、ユウ兄が黒幕の一人!?」
まぁ、そうなりますね。
「……我はなんとも言えないけど、ヨーコは本当に居たんだね」
ホニさんに関しては元となった人物がいなくても、陽子のモデルがいるのが複雑かもしれない。
というかここまで色々と衝撃的なことを話してきたけれど、正直――
『未来のユーさん自身がモテてないと思ってるの……無いですね』
私の言葉に全員こっくり頷いた、桐や美優はそうだとしてもホニさんも同じように。
「とんでもない勘違いで今の状況を生み出しおって!」
『……さすがにそこまでの鈍感振りには引きます』
「ユウ兄はほんと! 昔も今もモテてうのに自覚なんて全然ないし!」
「我も……聞いてる限りは少なくとも委員長とかアイシアも好意を抱いていると思うのになぁ」
未来のユーさん、散々。
でも仕方ないよね、少なくともこの場にいる美優が本当はお兄ちゃん好き好きっぽいし……口には出さないでおくけれど。
大体トラウマ抱えていたとしても、未来近くに委員長もアイシアも……それにユイとの関係も続いてて流石に無いと言うか。
それで「モテたい!」を原動力にタイムマシンも、その他のとんでもなく凄いことを実現したというのが嘘くさく思えてくる。
『……しかしスパイをお願いしたとは言え想定以上の収穫でした。私たち管理者でもおいそれと知れない情報を持ち出せるとは』
「確かにのう、それでいてユウジの記憶を消しているのが不可解じゃ」
確かに委員長の口ぶりを思うとわざと私を伝って情報を桐たちに流したように思える。
創造神で、もし世界に干渉出来るなら私の見て聞いたことを無かったことにすることも出来たはずで。
するとホニさんが手を上げて意見。
「今回の世界は委員長ルートだったよね? それで委員長はきっとユウジさんのことが好きなのも確かなんだろうと思うんだ」
ふむふむ。
「色々溜まっていた愚痴を言って晴らしたかったけれど、でもそれが今後のユウジさんとの付き合いに影響するのが嫌だから消した……とかかなって」
なるほど。
「うーむ、確かに以前のヒロインアピールといい委員長は委員長なりに創造神としてでなく、ヒロインとしてこの世界を楽しもうとしているのかもしれんな」
「委員長も言いたいこと言ってスッキリしてから、ユウ兄相手にギャルゲーヒロインしたいってことかなー」
または私たちにこれだけの情報を与えておくから、これからヒロインする私の邪魔しないでよという意思表示だったりして。
「「…………」」
否定してください。
そう思うと委員長の手のひらの上というか、実際私は桐たちに話してはいないけども……抜け駆けした立場からして強く言えないし。
つまりは本当にそういうことなのかもしれない。
……負い目のある私を情報伝達に使うのが委員長策士だなぁ。