第606話 √c-20 ずっと近くに居た私と、世界のこと
ギリギリ滑り込みセーフな季節ネタ。
尺が足りずに普通は次の春にたどり着けない当作品も。
残り十数話で進級手前までを描くらしい。
次々と季節イベントを消化していくつもりだ。
(斉木楠雄の●難次回予告風)
中間テストが終わり終業式を終えユイ発案の水着回……じゃなかった、海に行くことになった。
最初は家族数人だけだったのだがユキや姫城さんにも波及していき――
七月二十三日
下之家から俺・ユイ・姉貴・ホニさん・桐・クランナ・アイシア。
クラスメイトからユキ・姫城さん・嵩鳥・愛坂・マサヒロ。
とユイ企画で集まったのだけでも大所帯になってしまう。
それで不思議だったのが、こういう近場でも出かけるとなるとアクセサリーサイズになってついてくるナタリーが今日に限って家に居ると言ったことだった。
ということからナタリーを家に置き、水着を予め中に着てマサヒロと砂浜で落ち合う。
ちなみに女子の着換えは時間がかかるもので、俺とマサヒロはさっさとビニールシートとパラソルで場所を確保して座り込んでいる。
マサヒロは水着ですらなく携帯ゲーム機でギャルゲーに夢中になっている、なんで来たんだこいつ。
そんな時座り込んでいた俺を一人の女子が覗きこんできた。
「……これはナナの言っていたユウジさんですか」
「お、おう?」
唐突に話しかけてきたのは深緑色の髪をサイドテールに束ねた女子だった。
こちらとしては面識がなく、名前を唐突に呼ばれて戸惑う。
「ちょっ、あ、あの! 私五組の井口です! でこっちは三組の雨澄さんで……」
更に面識のない大人しそうな女子に紹介された……二人ともさっぱり覚えがない。
「…………」
「な、なんだ」
「……あなたとはどこかで会った?」
「そ、そりゃあ同じ学校の生徒だったらすれ違ったかもな」
「……そうですか」
と聞くだけ聞いてサイドテールな子は納得して去っていった……なんだったんだ。
そしてそのサイドテールの唐突な行動を謝るべくペコペコする大人しそうな女子……本当に誰だったんだ。
それから水着に身を包んだ魅力的な女子勢が登場することとなるが……俺の各女子への反応などの描写は割愛する。
いやぁいいものですよ、男子高校生的には嬉しいものですとも、本来ならば俺のすべてをかけて描写するべきなのだが。
俺に彼女らを表現する語彙を持ち合わせていない、決して描写しようとしてもそれっぽいコピペになってしまうからではなく――
そんな中でも一応描写しておこうと思ったというか、誰かの見えないイシによってそう圧をかけられたのだからしょうがない。
「どうも下之君」
「どうも委員長」
「委員長じゃないです! 嵩鳥って七話前から呼ぶことになったじゃないですか!」
七話前ってなんだ、そういうメタっぽいこと言うな。
「どうにも慣れなくてな」
「慣れないからといって嵩鳥呼びになった次の話数で忘れてるのはどうかと思いますが!」
そ、そんなことないぞ。
俺は嵩鳥呼び”していた”……ことになったぞ、しれっと改変とかしてないぞ。
「それで下之君、私のスクール水着はどうですか?」
「そりゃプレイ用ではなくあくまでも使い込まれた色合いの紺色と、ぴっちり吸い付くように身体のラインを際立たせるのはもちろん、縦に伸びる縫い線がそれはもうそそるものがあり……って何言わせるんだ嵩鳥この変態め」
「いや……流石に自分で長々語っておいて私が変態呼ばわりされるのは冤罪ですよ下之君、訴えたら私が勝ちますよ」
スク水好きに餌を与える方が悪いんだ。
「ところで下之君は大きな方と小さな方、どっちが好きですか?」
「? いきなりなんだ、大手のサン●イズとかよりもゼク●ズとかの中小の方が好きだな」
「誰がアニメ会社について語れって言いましたか――胸の話ですよ」
その時周囲に集まっていた女子勢の時間が止まった。
俺がビニールシートに座って見上げた先にいる委員長とゲームに没頭しているマサヒロのそれ以外が、明らかにこちらに意識を向ける。
いや個人の感想だから、そう聞き耳立てられると困るんだけど……。
「ちょっとジュース買ってくるか、嵩鳥は欲しいものあるか?」
「ナチュラルに回避しようとしてんじゃないですよ。ギャルゲーの選択肢でそんな逃げ許されませんよ」
ギリギリギャルゲーじゃねえし、現実とのハイブリッドだし。
俺にも黙秘権というものがあってだな、しかし答えないと嵩鳥は絡んできそうだな……よし。
「じゃあ嵩鳥よりはあった方がいい……ってことでジュース買ってくるわ」
「なっ……」
固まる嵩鳥。
勝ち組はよしっとガッツポーズをし、微妙なラインの者……ユキと、何故かユイは複雑そうな顔をし。
負け組はorz状態だった……いや俺個人の意見だし、気にすることじゃないから。
ちなみに嵩鳥の胸は”普通”である。
ぶっちゃけストレートに巨乳が好きなのだ。
ちなみにガッツポーズ組は姉貴と姫城さんがしていた。
まぁそれ以外はお察しください。
そうして俺はなんとなく海の家ではなく、海岸近くにある自販機まで歩いて行きジュースを買った。
海の家にはドデ●ミンがないのだからしょうがない、海の家サイドに問題がある。
あとは適当に数本買い、パーカーのポケットに忍ばせて畳んでおいた小さめのソフトクーラーバッグにぶちこんで帰る最中。
正直さっき俺が胸の好みを女子の前で言ったことによって出来てしまった微妙な空気の流れるあの場にすぐに戻りたくはなくなり、遠回りをして皆が集まる場所に向かっていた時のこと。
「よ、ユーさん」
声をかけてきたのはスクール水着(と思われる)に白いTシャツを着た黒髪ショートの女子だった。
しかしあちらは俺の呼び名っぽいのを呼ぶが見覚えがない。
「ど、どちら様で」
「あっ、この姿で会うのは初めてだったか……いけないいけない」
どうやら彼女は俺に面識があるらしい。
「ども中原・ナタリー・蒼美です」
誰だよ!
と一瞬思うも、何か引っかかる……中原・ナタリー?
「ナタリー……」
「そうです、鉈の妖精ことナタリーの一分の一スケールが私です!」
「えええええ、お前ナタリーなのかよ!?」
「えっへん、月に一回の一時間ほど人間サイズになれるのですよ」
なんだよそれファンタジーしすぎだろ……いやまあ鉈の妖精とかの時点でファンタジーなのだが。
「ということでユーさん! 私と遊びましょうっ!」
「いやいやまず状況を飲み込む時間を……」
「着替えとかに手間取ってあと十数分しかないんですっ、どうせ女子ばかりの空間に居づらくなってジュース買いに行ったんでしょう?」
「うぐ……」
「さあさ、海に行きましょう! 私海に入ったことないんですよー!」
そりゃ鉈は浸かるわけないだろう! というか海水なんかに浸かって錆びないのか。
「分かった分かった、時間までな!」
「やったー!」
それから俺とナタリー(一分の一スケール)は波打ち際でキャッキャウフフしたのだった。
……ナタリーたっての希望であって、俺がそうしたかったわけじゃない、ちょっと楽しかったけど。
本当に十数分ののちに岩陰に俺たちは逃げ込むと、ナタリーは妖精サイズに戻ってしまった。
「今日はここまで、みたいですね。ありがとうございますユーさん、楽しかったです」
クラスメイトでもなく、かといって家族でもない、あまりにも不思議な存在のナタリーが相手だけに。
俺は僅かな時間でも意外にも純粋に海遊びを楽しめたような気がした。
更に俺はスク水+濡れ透けTシャツの魅力に気づいたのだった……ナタリー自体スタイルは他の女子に比べると普通だけど、フェチ的にはなかなかアリで。
そうして俺はぬるくなり始めた飲み物と、肩に俺にしか見えないナタリーを乗せてみんなの元へ戻っていったのだった。
「私ヒロインなんですけど! おのれあの鉈妖精め、美味しいとこばっか持っていってえええええええ!?」
出迎えた嵩鳥にブチキレられたほか、他の女子勢にも白い眼で見られた。
どうやら俺は「海で出会ったばかりの女の子とイチャイチャしている」ように委員長と、一部のナタリーの存在を知る者以外には思われたようで。
というか嵩鳥はなんでナタリーのこと知ってんのとか、一分の一になると俺以外にも視認されちゃうのかよとか疑問は山ほどあったが、当のナタリーはいつの間にか肩の上から姿を消ていた。
ひどく熱せられた砂の上に流れで土下座させられたことを契機に、俺の弁解が始まる――!
こっそり数話に渡って委員長→嵩鳥呼びに訂正していたり
本当にもうしわけない




