第160~168話 √1-22 『十一月二十九日・十二月九日』/HRS√-2
== == HRS√1-2
私はある夫婦の間に産み落とされた第一子でした。
花が舞うように、身の周りを友人や人で彩ってくれるように。私は「舞」と名づけられました。
祝福され、笑顔に包まれ、宝物のように大切にされていました。
――というのは母がしみじみ話してくれたことなのですが、きっとそうに違いはなかったのでしょう。
モノゴコロが付いたのはそれから三年程経った頃で、家では母が家事をして父はハキハキと会社に出かけて行く光景を目に浮かびます。
そしてその一年後。家族は子に恵まれました。
「ねー、おかーさん。なんでお腹が大きくなってるの? 食べ過ぎた?」
その頃の私は純粋で、ただ単純に聞いたのです。
「ふふ、違うわよ! 家族が増えるの……そしてマイに弟が出来るのよ?」
母は嬉しそうに答えます。
「そっかあ、私に弟が出来るんだ~」
指をくわえて母の大きくなった腹部に目をやる私。
「もう少しかな? あと二、三ヶ月で予定日だから。待っててね、マイ」
「うん! まってる、弟楽しみだな~」
弟への期待にワクワクし胸を膨らまし、そして予定日の数ヵ月後。
「よくやったな……」
父は何もなく産み終えたベッドに横たわる母に慰の言葉をかけると同時に、近くからおぎゃあおぎゃあと声が聞こえます。
「これで私もお姉さんなんだねー」
と、産まれたての弟を見て、私は呟きました。弟も増えて、私たち家族は笑顔に満ちていたと思います。
家族が増えても母と父の仲は変わらず、というよりも仲が良くなっていたのかもしれません。
どうしても私に構うことが少なくなった両親。そんな弟に少し嫉妬しつつも、私と同じかそれ以上に弟の成長ははやく。
そうして4年の歳の差あれど、体は追い越せ追い越せと大きくなっていきます。そうして、モノゴコロがついて少し経つと気でした。
父はサラリーマンで、母は家事や子育ての為にパートに出て稼いでいました。
父が休日には映画館や遊園地に連れて行ってくれたり、母が手編みのマフラーやセーターを編んでくれたり。
母が家事に埋もれている時は、私たちの相手も沢山してくれました。
父母は私を愛してくれました。そして弟も私同様に愛されていました。
嫉妬心はなく、たまにワガママを言う弟に「お姉ちゃんだから」と言い聞かせました。
この時が、一番至福の時間でした。世界で一番幸せなんじゃないかと錯覚するほどにです。
でも、こんな時間は長く続く事はありませんでした。
まさか、あれほどの悲劇が家族に起り。
それをきっかけに私の家族が、生活が、崩れ始めていくなんて幼き私には夢にも思わなかったのです。
= =
十一月二十九日
「よーし、範囲は大体終わったな!」
勉強会を繰り返し、着実に復習を繰り返して頭に叩き込んでいく俺。
「(最近デート出来てないんだよなー……)」
デートとは名ばかりの寄り道の延長線上に過ぎないけども。
「そういえば十一月もあと少し……か」
言い忘れていたのと少々気恥かしかったのもあったが……言ってしまうが、俺は誕生日を迎えた当日にマイからプレゼントを貰っていた。
それもお手製のクッキーという……おいしかったですとも。「一生懸命つくってみたのですが……お味はいかがですか?」
そんなこと言われた暁には美味さ百倍ですとも。……マイの初手料理に感謝感激アメアラレと味わいながらいただいた。
誕生日とは関係ないが、十二月には――
「クリスマス!」
そうだな……プレゼントしなければなるまい、というか気が済まない!
ということで、現在思案中……さてどうしたものか。
「あー……とりあえず短期バイト始めようかねー」
姉貴に頼るのは色々と情けないし、汗水流して貰ったお金で買ってあげる方がさぞ気分がいいことだろう。
「よーし、とりあえずはバイト探しだっ!」
一人机に座りながら意気込む俺だった。
十二月九日
無残にも砕かれたアスファルトは下地の土が露出していた。電柱は倒れ、電線はガードレールに垂れかかる。
何かに衝突したか前部が大きく窪んでしまった車の車内には粉々に砕けたガラスが散乱していた。
落ちた看板はぐにゃりと拉げ力なく道路に投げ出され酷い惨状を露わしている。
荒廃した旧都で、俺らは戦っていた。
「くっ、和! どうすりゃいいっ!」
敵からの砲撃が襲う中で、隣を共に走る彼女へと質問する。
「……とりあえずは逃げるしかなさそうですね」
「全然解決策じゃねぇな」
「それは後々」
黒服。それもワンピース状に肩から足首までを覆う飾り気の一切ない黒一色の服を着る。
腰まで届くかのような長く流れるように美麗な黒髪を有し、精悍で非常に整った「美」をつけても遜色ないほどの美少女が彼女だ。
左手には繊細に磨かれて銀色に輝く刃先の反った日本刀を提げていた。そう、そして俺と彼女は戦っている。
「主、そこの路地に入ってください」
「おう」
半分以上が崩れたコンクリートのビルの影へと隠れる。
「8秒後に砲撃、来ます」
「!? だからどうすりゃいいんだっ!」
後ろを振りむけば、これ以上は進めない行き止まり。見事に袋小路に追いやられた訳だ……それも見方の彼女に。
「これを」
と言って彼女が俺へと放り投げたのは薄汚れた銅色を放つ10円玉だった。
「これを撃ってください」
「ちょ、まて! 俺はパチンコ玉しか――」
「有無を言わずに撃ってください、主。……きます」
「ええいっ、こうなりゃヤケだ!」
そうして俺は十円玉を空へと放る、目の前へと十円玉が落ちてくる――それが分かった途端。
「高速射撃! ”スピードシュート”」
俺の右手から放たれるは電撃……とは呼べない弱弱しい代物。弱弱しいことには違いないが、速度が他の攻撃を比べ物にならない。
そして言唱からのラグは1秒未満で、連続発動が可能なのがこの攻撃の大きな長所だった。
不意打ちのごとく相手にモロに食らわせた。普通なら速度だけの威力はからっきしなこの技も何か固形のものを付加すれば大分マシになる。
そもそもこの技は熱を微量にしか発生させず、瞬はつ的な目くらましなどが主な用途な技であり、それをなんとか敵へとぶつけること成功した。
「ていやっ!」
そうして俺が電撃を放つと同時に、彼女は壊れ砕けた道路を踏みつけ勢いを付けて飛びあがる。
キラリ光る刃先を敵へと向けて、鋭く光る日本刀を大きく振りかざし、相手を一閃した。
ダメ押しのように俺は、さらなる能力を発動させる。
「強力射撃! ”ライトスピア”」
右手という小さな面積から生まれたとは到底思えない程に電撃は強大に激しく暴れまわり、一直線先の敵を捉えた――
「ユイ、このアニメ何かどっかで見たことあるんすけど」
冒頭のはアニメの一シーンで、なんとも二人ぼーっと観賞していた。
「ああ”ep two”って作品で、なんかレー●ガンの要素入っちゃってるよねえ」
「だとしても、妙に気合いの入った戦闘シーンだな」
「ここだけで動画枚数どれだけ使ってるんだかねえ」
やあ、俺だ、ユウジだ。
俺はある場所、延々とアニメやゲームのPVやら本編やらを垂れ流すテレビを観てそんな感想を呟く。
ちなみに、ここは絶賛女子率向上中の俺の家こと下之家ではない。
ユイが居るので俺かユイの部屋のどっかだろと錯覚してしまいそうになるが断じて違う。
「あ、らっしゃいませー」
「いらっしゃいー」
訪れた客に頭を下げ、絶妙な具合に五月蠅すぎない声でお出迎え。
俺とユイは二人店番をしていた。そう、あの店でだ――
* *
十一月末。アルバイト先を探そうとネットで検索をかけるも、こんな貧弱町に載る勝手の良いアルバイト先など見つからず。
ネットがダメなら足で探そう……ろ、今日の夕飯作りも考えて、食材買い込みの為に商店街へと繰り出した。
歩みを進め店に張られた求人チラシを期待に胸を膨らまして覗くも、直ぐに期待は打ち砕かれる。
多くのチラシに踊るのは「大学生以上」という文字。それは高校生である俺を全否定し完膚なきまでに叩きのめされた。
年齢制限は書いていないのに「普通自動車運転免許がある者」と、さりげなーく俺を除外する。
そんな中でふと目に入ったのは、現在好評現実プレイ中の「ルリキャベ」を購入した全ての元凶こと「ゲームショップキドだった」
チラシそのものが張られていない……というかこの店は案外高校生が本分な俺には最初から論外かもしれない。
なぜならこのゲームショップということから想像も付くかもしれないが、モチロンのこと「エロゲー」も売っている訳で。
事実R-18指定の商品を動かすゲームショップが果たして高校生をバイトとしても雇うだろうか……いや、ないだろう。
そうして「ああ……どうしようか」と頭を抱えながら店前を後にしようとしたところ――
「おお、ユウジか。なんだ、何か買いに来たのか?」
聞きなれた。否、聞きあきた。声が俺に飛び込んでくる。いつものふざけた口調で統一感のない語尾を持った――
「ユ、ユイ!?」
「おうよ」
目の前に「ゲームショップ・キッド!」と青地に白いペンか何かで適当に書かれたエプロンを身に付けた、ぐるぐる厚層眼鏡をかけたユイが不思議そうに俺を見つめながら立っていた。
「お、おま! こんなとこで何してんだよ!?」
「バイトだ」
「は?」
「バイトなんだぜ! これも裸エプロンの練習でなく、この店の正装だ」
挙げる一例がひどすぎるとして、ユイがバイトと考える。
「それで、ユイなんでこんなとこで――」
「ああ、バイトだ」
……バイト? ええと、あの容量とかの単位のバイトでなく、アルバイトの略称ことバイト?
「おま……バイトなんかやってたのか」
「うむ、結構な!」
「……」
「まあ、ここで立ち話もなんだ。中に入ろうじゃないか」
「あ、ああ」
で、ゲームショップキド店内へ。てかユイのエプロンだと「キド」が「キッド」になってるんだが、どっちだよと。
ちなみに看板は「キド」になっており……店の中で情報がなぜここまで齟齬が発生しているのか、食い違いが誤植か、果たしてどうなのか。
そんな非常に益のないどうでもいいことを疑問に思っていたが、それよりもだ。
「ユイ、ここでバイトしてるんだよな……?」
「ああ、その通りだ!」
「高校生が雇って貰えるものなんか?」
「いや、店長と気が合ったからぬ。逆に誘われたぞい」
それが雇用理由とかすんげえな。なんというか、適当なQ&Aで採用した生徒会を思い出したのは何故だろう。
「……」
これは……もしかしてチャンスなのかもしれない。
さりげなくネットで数時間検索し続けて、商店街も見落としがないように2周してみたりしていた。
しかしどうだろう。この店で決まれば本当に助かる。それも俺も興味のあるアニメやゲームを取り扱うショップだ。
「なあ、ユイ。ここって店員募集とかしてないか?」
とりあえず表にはゲームの入荷チラシなどが無数に貼られてはいたが、求人チラシはなかったように記憶する。
そんでもってわざわざ募集はしていないと考えて、
「ん? ユウジ、ここで働きたいのかー?」
ユイは頭の回転が良い……のもあるだろうが、俺の質問そのものがあからさま過ぎたからかもしれない。
「ま、まあな」
「うーん、店長!」
カウンターを挟んで店の奥から出てきたのは、なんともガタイの良いまたもや「ゲームショップキッド」と書かれたエプロンを着た男だった。
「おお巳原くん、どうした」
更にとても良い声をお持ちであった。玄●さん並みと言ったら分かりやすい……わからない?
「店長、この人はアタシの友人でして。ここで働きたいようです」
ストレート! ……まあ事情も何も話してないから、仕方ない。
「下之ユウジです」
と、軽く名前を言って会釈する。
「おお、ここでか? うむ、では雇用試験を行おう、ここで」
「ここで!?」
もろ店内で、もろ二人棒立ちである。いいのかこんなで雇用試験。
「では、君。好きなアニメは」
「へ」
デジャブだ……なんというか、このノリはやはり。
好きなアニメ……俺はなんというか大ウケするアニメにはあまり食いつかず、マニアックかつB級をよく見ていたりする――
「バリズムアーク……ですかね」
「バリズムアークだとっ!?」
知っていても、正直反応に困るよなあ……でもあの雰囲気好きなんだよ。結局尺足りなかったけどさ。
「アニメ版を、君が?」
「は、はい」
版、ということから知ってはいるようだ。もとは十八禁ゲームが原作だからどっちを差すのか確認を籠めたものなのだろう。
しかし残念ながらゲーム版はやっておらず、アニメだけは何度も観た。それだけ気に入っていたと言える。
「……あれはゲームをやった者からしたら辛いものだが、別物と考えれば非常に良いものだ」
「え」
「初元請けの会社が頑張って絵を動かしていたのが非常に印象的だった。しかしあれは本当に尺が足りなかった。本当に惜しい」
「! 俺もあの動きが好きでした!」
動かしてはいたが、正直作画はガタガタ。だとしてもなんとも憎めないB級作品だった。
「……ごほん。あと一つ上げるとしたら、どんなアニメか?」
「えーっとですね……」
考えてみたらここアニメ商品も扱ってるとはいえ、アニメ中心の質問でいいのだろうか。仮にもゲーム屋でしょうに。
それもう一つあげるとしたら、だ。俺はB級アニメを以下略――
「ご愁傷さま三ノ宮くん」
「ご愁様さま三ノ宮くんだとっ!」
知っていても、正直どうでもいいよなあ……でもあの独特の空気が好きなんだよなあ。結局放送時間帯が悪かったけどさ。
「原作ラノベでなく、君がか?」
「は、はい」
原作に関しては実は数巻は読んだ。そして続きを買う頃には放送終了2年が経過、書店から姿を消してしまった。
原作と比べると少々物足りなかったが1クールに収めたのと、ある程度話を纏めた点は評価出来た。
ちょっと作画がヘタレた部分があるのは少しばかり残念だったが、だとしても実際憎めないB級作品だった。
「……あの放送時間の悪い中でも、妙な魅力があった。しかし2クールモノの”加瀬のステグマ”と精霊会議で話題を呼んだ”お水”に挟まれ、後に”ロマンとカ”、”ストライクバーンズことストバン”と印象作が続いたのは運が悪かった」
「で、ですよね! でもステグマもなかなか良かったと思います」
「だな! 懐かしいな……あの枠は深夜まで目を擦りながら観たものだ」
「自分も明日が休みで良かったと何度思ったことか……」
「さ、採用だ!」
「え!」
「君には見る目がある! それもB級良作を探しだす素晴らしい目がな!」
「そ、それでは!」
「ああ、採用だ! ここで働いてもらおう!」
「あ、ありがとうございます!」
――と、いうことで。なんという雇用試験を終えると、それから働き始めたとさ。
* *
元の時間軸に戻って、店番する俺とユイ。先程の客は中古ゲーム一本を購入して去って行った。
店長は今日はどっかに仕入れに行ったか、不在で俺二人で店番していた。でも数時間程で帰ってくるらしい。
「いやー、お前がバイトしてるとはなー」
「うむ、本当に店長と話が弾んでしまってな! いやあ、あの人は凄い。ダ●録を何台も駆使して朝台から深夜台までの全てのアニメを溜めていた」
「そいつぁすげえ」
「続けて”ネットには頼らない、スタッフには一切還元されない、だから俺はDVDやBDを買う”という台詞を聞いた時には思わず惚れちまったぜ」
「そりゃあ惚れる」
「そしてこの品ぞろえ! 店内にびっしり埋められた棚にはさらにぎっちりと商品がメジャーなものからマニアックなものまで」
「こりゃ凄い」
「なによりも新品以外にも取り扱い、更に格安で提供する太っ腹さ」
「お世話になりやしたー!」
ちなみに言うと、ゲームショップキド(キッド?)は地方の町にも関わらず。コンビニの1.5倍程の店内スペース誇り。
それでいてびっちりと埋められた良商品の数々。この店目的でこの町を訪れる輩も多いという。
最近、商品数を増やしたようで人手が足りなかったとのこと。それで、俺を起用してくれたようだ。
「そういえば……ユイが姉貴に渡してる生活費もここからか?」
「うむ、働かざるもの食うべからず、住むべからず」
またまた回想。
== ==
八月某日のこと。
流石の暑さに気が滅入り、我が家のオアシスこと居間で麦茶片手に報道番組という至福の時間を過ごしていた頃の事。
「ミナ姉、じゃあ今月分」
「はい、しっかり受け取りました」
と後ろでの会話が聞こえたので、気になって振り向いてみると、ユイと姉貴が卓袱台越しに向き合って座っていた。
「? 二人とも何の話?」
ギャルゲとかやっていて「女の子の話題に割り込んじゃ、メッ」というテンプレートな展開が頭に浮かんだが。
そもそもユイは女としてみるべきなのか、姉貴は正直どうでもいい……ということで今の思考は即刻廃棄することにする。
「生活費だ」
「生活費ぃ?」
「そうよ、ユウくん。ユイちゃん、毎月今月かかったであろう食費や光熱費とかを計算して渡してくるの」
「うむ、居候として当然のことだ!」
「ふーん」
その金の出所がすこしばかり気になったが、父親……俺の義父にあたる人も母さんと同職だったらしいし、仕事もしてるから、それなんだろう。
「別にいいのにー」
「アタシとしてはこんな温かい場所に居座らせて貰ってることに本当に感謝しているんです。下之家の家計を圧迫する訳にはいかないですよ」
「まぁ、ユイちゃん良い子! ユウくんと同じくらいいい子!」
何故俺を比較対象に出したし。
「じゃあ、これはしっかり預からさせていただきます」
「お願いします」
二人頭を下げる光景なんとも言えないな。ユイの態度が違うようで変わりないのが少し気になるところだけど。
「じゃ、ちょっとお茶煎れてくるねっ」
「あ、アタシは部屋に戻ります」
「あ、もしかしてこれを渡す為に来てくれた? ごめんね、手間とらせちゃって」
「そんなことないっすよ、じゃあ失礼して」
* *
「正直タダで居候してるかと思った」
「ま、失礼な! これでもアタシは真面目ですから、義理と道理は通すものものよ」
「へー」
「それにミナ姉には迷惑なんぞかけられねえ、アタシがワガママ言って住まわせてもらっているからな」
「はぁー、お前姉貴のこと好きだねー」
「そりゃあ優しくしてもらってるからぬ」
と、グルグル瓶底眼鏡をかけているので表情は見えないユイがそう呟く。
ユイは一人っ子で、親は俺の母と同じく職にのめり込み。まあ、実のところ寂しいよなあ。
「……ユウジはアタシが居て迷惑か?」
「は?」
「いや、もうあれから半年以上経ったが……一応な」
「迷惑かもな」
「え」
「廊下を歩くたび聞こえるユイの部屋から流れ出すアニメのBGMやらに、テスト期間中何度誘惑されたことか……」
「え、あ! そうだったのか!? それはスマン!」
なんというか、これでもかな程に謝られた。いや、冗談のつもりだったんだが……嘘ではないか。うん、あれは危なかった。
「でも、お前が来てからなんだかんだ楽しいぞ?」
楽しいさ。会話に困らなくて居てて楽しいさ。
「へ?」
「なにより、桐と同じくらいに気軽に話せるからな……」
「キロリ……妹とアタシが同じくらいにか?」
なんだかんだ心を許せているのは二人だけなのかもしれない。
マイと付き合っているというのに、なんという体たらく……まだ信じ切れていないのだろうか。
「話し易いんだよ。何の気兼ねもなく」
「……そうか」
「そして理由付けであげるのはちと違うが、お前は良く俺の背中を押してくれた」
何度だっけか、マイに告白出来たのもユイのおかげだ。感謝しきれない。
「いや、それはただの節介だ」
「そんなユイには俺は頼り切って、甘えてしまっていたんだよな」
「でも、それは……」
「本来ならば俺は誰にも判断を仰がずに決断すべきだと思ってる、ユイの進言が迷惑でなんかではくて、ただ単に俺は一人で決断が出来るようになるべきだと」
自分の考えで、全てを決めて行けるように。なぜならば他人に判断を仰げない、そんな窮地にたたされる状況、そんな時が来るような気がする。
「それで節介言うがな、実際助かってる。だから本当にありがとう」
と、ユイに頭を下げた。これも本当に助けてもらった故にだ。
「ユウジ……」
「だから迷惑ではないな。ユイがどう思ってるかは知らんが、俺はユイが立派な家族の一人だと思ってる……ダメか?」
「い、いや……」
すると、眼鏡越しでも分かる程にユイの顔が赤く染まっっていく!?
「す、すまん! 恥ずかしいことばっかぬかしたな!」
「いや、いいんだ……嬉しいぞ。そう言って貰えて」
「そ、そうか……じゃあ熱か? 以前お前に心配されたことがあったが、お前こそ無理しそうだからな、そんな顔色で大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ! 問題ない!」
と言うと少し沈黙。俺はと言えば店内のディスプレイに流れるアニメのPVをぼーっと観ていた。
少し落ち着いたか、いつもの感じに戻ったユイが口を開く。
「バイト言いだしたのも……もしやクリスマスか?」
「いや」
「違うのか?」
「鋭すぎだろ……」
いえーい、と胸を張ってブイサインされた。なんだかんだ、こいつには敵わないなあと思った。




