第598話 √c-12 ずっと近くに居た私と、世界のこと
委員長「よっしゃ愚痴も言い終わったしついに私のターン! これから私による下之君との笑いあり! 感動あり! のホロリもポロリもある長編青春ラブコメがはじまるんですよ!」
ナレーター:えーと言いにくいですけど、あと尺が二十二話しかないのでいくつかの要素は諦めてください。
委員長「えっ」
ナレーター:えっ。
委員長「…………と、ということはファンディスクから本番ですね! ちくせう! これまで貢献してきた私がどうして短編ヒロインの扱いを――」
== ==
それは未来のこと。
「うーむ、このままルリキャベを現実に投影すると進行に無理が出て来そうだなぁ」
「ちょっと主人公依存の展開が多いですからね」
下之君に私はそう言葉を返す。
クソゲーとなってしまった私原作のギャルゲーこと”ルリキャベ”を私と下之君とアイシアさんでプレイしたあとのこと。
三人集まって、大画面のプロジェクター&スクリーンでプレイするギャルゲーの贅沢さと……気恥ずかしさ。
ギャルゲーって大人数でやるものじゃないですね……私原作なら尚更。
全てのルートをプレイした結果”主人公が唐突に覚醒する”ものや”主人公が理由なく持ち合わせた能力”などによって解決する場面も多く。
更にはエピソード進行も不親切で、いわゆる”詰んでしまう”可能性が高いことが分かってきました。
「サポートキャラを配置した方がいいかもしれないですねー」
アイシアさんがなんとなく呟いたことは、おそらく私や下之君も思っていたことでしょう。
ある程度の補助、主人公となる過去の下之君に直接的ネタバレにならない程度のサポートを出来るキャラクターを配置した方がいいという結論に至りました。
ちなみにネタバレを避けるのは、現実で純粋に選択肢や先の展開を知らずにギャルゲーを進行させられるかということの実験でもあるそうで決して意地悪とか鬼畜とかいうことではない……と思います。
それからサポートキャラを下之君とアイシアさんがそれぞれ作り始めました。
アイシアさんはプロデューサーでもありますが、私にはよく分からないプログラムやスクリプト……などにも精通しているようです。
そうして二人がサポートキャラを作り、ゲームに埋め込むべく様々なテストを行った後――
「とりあえずサポートキャラは私のよりもユーさんの作った方がいいかもですね」
「アイシアのもなかなか好みなんだがなー」
サポートキャラというよりも人工AIとも言うべきプログラムを二人は組みました。
アイシアさんが作ったのを”サポートキャラB”とするならばAIとしては非常に優秀で申し分ないのですが、いかんせん対応が固い印象が見受けられます。
以下私によるサポートキャラへのそれぞれ質問。
「お名前はなんですか?」
『B』
「好きなことはなんですか?」
『読書・映画鑑賞』
「好きなタイプは」
『誠実な方』
対して下之君が作ったサポートキャラは人工AIながらまるで人の手によって作られたとは思えない自然な受け答えが見て取れて、実際に私もコミュニケーションをとってみると――
「お名前はなんですか?」
『A! Aちゃんって呼んで!』
「好きなことはなんですか?」
『お料理かなー、美味しく出来るとすっごい嬉しい!』
「好きなタイプは」
『かっこよくて頼れる人がAはいいなぁ!』
……普通に小さな女の子と話している気分になりました。
これを作る下之君ってなんなんでしょう、凄いんですけどなんか変態っぽく――
「とりあえずサポートキャラとして採用するのは俺の作ったA……でいいのか?」
「いいよいいよー」
「いいと思います」
下之君にアイシアさんと私がそう答えます。
「アイシアのも良かったら、Aに何か有った時に対応できるように配置したいんだが、いいか?」
「もちろん! ということはサポートキャラは私が作ったB含めて二人配置ってことでいいのかな?」
「それでいいんじゃないでしょうか」
ということでいわゆるメインを下之君作のAで、サブにアイシアさん作のBを担当してもらうことになりました。
「そうだ! 折角だから嵩鳥さんに命名してもらおう! 売れっ子ライターさんだしね!」
「え? いえ、作った二人の方が……」
「俺のネーミングセンスを舐めないで頂きたい。俺ならこのAに”めぐみんと”と名付けるぞ!」
めぐみんと……どっかで聞いたような名前です。
「私も名前付けるの苦手なんだよねえ。メリー五式とかになっちゃうよ」
……五式はどこから来たんでしょう。
「……い、一応考えてみます」
それからまず私が思いついたのは――
「ユミジとかはどうです?」
「おお、ユミジか懐かしいな」
「ユーさん、何か心当たりがあったり?」
下之君が私の狙い通りに懐かしんだのを見て、アイシアさんが反応しました。
「ああ、子供の頃に遊んだゲームのプレイヤーネームで、俺と妹の名前を合わせたものでな……これ嵩鳥に話したっけ」
「その必要はありません、私”見えて”ましたから」
「……ああ、そういえば有ったなそんな設定」
「ここにきて設定とか言わないで下さいよ!?」
そもそもの私の書いた小説もこの能力あってのことなんですから!
……ということもあって、その”ユミジ”はもとがレトロゲームのプレイヤーネームであり機械的な印象を受けることもあってアイシアさんが作ったBの名前に採用されました。
「あとは……そうですね。特に意味はないんですけれど、こんな名前はどうでしょう――」
名前はインスピレーションで考えたものでした。
ただどうしてか脳内で結びついたイメージはあのふと知ることになった、下之君を通して見えた存在で。
とある一つの可能性。
芽吹くことのなかった存在、誰にも知られることのないはずだったのに――私が見てしまった。
私が見てしまったものは、いわゆるこの世に生を受けることができなかった、産まれることができなかった子かもしれないと前から思っていたのは確かで。
少し前に何の関係もなくなんとなくに調べて知ったこと、といってもウィ●ペディアを見た程度ではあるのですが。
昔の日本の風習で女の子が生まれると……その”とある植物”を植えて、その女の子が育つ頃に育った植物で箪笥を作る。
存在できなかったあの子に、いや彼女にどうにかしてでも機会があるのならばと考えてしまって、私はその植物の名前とその子を結び付けてしまう。
サポートキャラといっても人工AIだったとしても人のような感情を持って生まれることのできた、下之君が産みだした彼女に付けたい名前だったのです。
その植物の名は――
「桐、なんてどうでしょう」
こうしてサポートキャラの桐とユミジが誕生したのです。
== ==
どうも、委員長です。
下之君との委員活動が終わって、下之君と別れて帰路についている頃になります。
曖昧な空間での暴露でスッキリしつつも、下之君に記憶は残させないことでようやく……ようやく私も下之君との関係に本腰を入れられはじめるというものです。
もちろんあの空間にユミジ辺りが自身ではない諜報員的な何かを送り込んでくることは想定済みでした。
……その諜報員的何かであるナタリーに先を越されたのは計算外だったのですが。
ユミジ辺りが申請したのか、はたまたアイシアさんが面白がって付けた特典なのかは分かりませんが一分の一ナタリーなんて聞いてませんよ!
それでそのままキスとかする流されっぷりもどうかと思うんですよ! ああ、せっかくのこの世界ではおそらく下之君のファーストキスが……。
相手は鉈だからノーカンとかになりませんかね?
私、これでも頑張ってきたと思うんですよ。
確かに趣味で下之君周りのことを書き記して小説仕立てにしたのは確かですけれど、まさか未来の下之君とアイシアさんの思い付きで過去に戻って――
大変だったんですからね! 私のシナリオを一応母親がギャルゲーのライターだったとはいえねじ込むの! ……それはもう反則技とかも使いましたけれど。
挙句出来上がったらクソゲーになるし散々です、未来になっても”懐かしのクソゲー”枠で語られているのが本当つらいです!
そういえば今の私はというと、現在の私と未来の私の性格や記憶がミックスされた状態になっていたりします。
分離していたオルリスとは違いますね、きっとアイシアさんの方が今の私とは近いかと思います。
繰り返してきたいくつもあった世界の記憶も、唯の一つだけ存在する”私と下之君とアイシアさんが三人集まる”未来の記憶もすべて持ち合わせているのです。
ホニさんよりももちろんのこと、未来に記憶も有しているので桐よりも様々なことを覚えていたりします。
普通の人なら心が挫けていそうですが、私の場合はそもそも”メガネを外すとあらゆることが見えてしまう”せいで狂人な……じゃなかった強靭なメンタルを持ち合わせているのです。
さすがにナタリーに先を越されたのは予想外すぎてショックでしたが……リセットボタンを創造神権限で押したい衝動を抑えていますが。
まぁ、いいのですよ!
これから挽回すれば済む話なのですから、初めてにはこだわりません、どうせ私の今のルートに至るまで下之君は多くの女性と付き合っているので今更ですし。
そうですとも!
ここで鮮烈なイメージを焼き付けてくれればいいのです、それはもうこれまでの世界を見てきた上に母親の影響でギャルゲー漬けにされてきた私にとって、下之君を私に激惚れさせるのもちょちょいのちょいなんですよ!
さぁ覚悟してください下之君、この私の世界の間では私抜きではいられない身体にしてあげますから……ふふふふふ、あははははは!
ここまで読んだ読者の方々はお気付きでしょうが
エイプリルフールネタなんてありません
そもそも更新することが(ry




