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第585話 √5-66 より幸せに(終)

 我は、繰り返されて始まった世界で。

 ユウジさんにもしかしたら我の力を借りるかもしれない、と言ってくれた時……心の底から嬉しかった。

 

 我は守られてばかりで、ユウジさんには何も出来なかった。

 ユウジさんが我を大事に思ってくれることは痛いほどわかって、とても嬉しい一方で――我は無力だと知って。


 これまでの世界もそうだった、我とユウジさんが結ばれた世界でもそう。

 我はユウジさんに守られ続けてきた、我がユウジさんにしてあげられることは無かった。

 我はユウジさんをサポートするために、結ばれた時の記憶を持って我は忘れないようになったのに……サポートも何も出来ない我が悔しかった。


 だからユウジさんが、我に力を貸してほしいと思った時には……やっと役立てるかもしれないと、自分の中で胸が高鳴った。

 それは義務感だったのかもしれない、ユウジさんを手伝わなければならないという。

 義務感があっても手伝うことのできない状況に我はいて、長い間矛盾を抱えていたのだと思う。


 それをユウジさんが壊してくれた――救ってくれた。



『ホニさんの力を貸してほしい』



 そして戦う前日に、改めてユウジさんが言ってくれたことで我は嬉しくて……嬉しくて涙が出た。

 やっとユウジさんの役に立てる、我はお荷物なんかじゃない、守られているだけの存在から脱することが出来るとも思った。


 それも、それよりも――ユウジさんの力になれることの喜びが強かった。


 何の役にも立てない後ろめたさを、申し訳なさを感じながら日々を過ごしてきた。

 だから我がユウジさんの役になって消えるのなら本望だとも思った、だから迷いは無くて最初から答えは決まっていた。



『……我でよければ力になるよっ』

 


 ああ、我が存在した意味がようやく見いだせたと思った。

 だから我はユウジさんの期待に応えるべく、ヨーコの分も侵さない自分が持っているありったけの力もってユウジさんをサポートした。

 実のところユウジさんの役に立てたかは分からない、けれどようやく我はユウジさんを手伝うことが出来た。


 だから、我はユウジさんに感謝しきれなかった。


 ユウジさんのおかげで救われて、報われた。

 我がここにいる意味、存在証明をすることが何年の時を経て出来たのだから。

 この世界をここで終えるのも悔いはなくて、あとはヨーコに託すつもりだった。


 でも世界は終わらなかった。


『俺はさ神に願ったんだよ。ホニさんに雪空を見せてやりたいってさ』


 感情が溢れた。

 戦いが終わって、昼食終わりにユウジさんが話してくれた時。

 桐がユウジさんの神に願った内容を聞いて、そして返ってきたユウジさんの答えがそれだった。


 ああ、嬉しい。

 嬉しくて仕方がない、こんなに幸せに満たされるのは我とユウジさんが満たされた時以来だと思う。

 

 きっとユウジさんは我とのことを覚えていないのだ。

 それでも……何かの間違いであっても、我とユウジさんが結ばれた世界でユウジさんに話した自分の願いを……ユウジさんの口から言ってくれたことが嬉しくて嬉しくて。

 雪空なんて我が生きていた間も、神になっても飽きるほどに見た。

 けれど我はその雪空を、あの時は”ユウジさんと”見たいと思った。

 ……だからユウジさんが覚えていることは断片的でしかない、そのユウジさんの願いには我の隣にユウジさんは居ない。

 

 それでも我の為にユウジさんが願ってくれたことが嬉しくて、断片的でも消えないものがあったのが喜ばしくて、幸せで幸せに満たされてしょうがなかった。


 でも我はそんな嬉しいことがあっても、ユウジさんとまた結ばれたいとは思わない。


 もちろんあの夢のような日々がまた訪れるなら嬉しくは想う。

 でも今の我は充実感を覚えてしまった、満足してしまったのだ。

 ようやくユウジさんの力になれて、更には前の世界の我の願いに限りなく近い言葉で我をもう少しだけ居させてくれるよう神に願ってくれて。


 これ以上を望むのは欲張り過ぎだと思うんだ、だから我はもうこれ以上を望まない。


 

 ああ、ありがとうユウジさん。

 我はとても幸せだよ。



「またね、ユウジさん」



 雪の降る十二月二十四日、我はこの世界から姿を消す。

 我は最後まで幸せな気持ちに満ちていた。



* *



二〇一一年二月



 学校の屋上、今も外は冷え切っているが落ち着いた状況で話せるのはここだったのだ。


「ども、ユウ」

「最近どうだヨーコ」


 ホニさんが居なくなってから二ヶ月が経った、あっという間だったようにも思えるし長かったのかもしれない。


「ぼちぼちかな。まあ家事はなんとか板に付いてきたかも」

「……それは自分で言うものじゃねえ。それに初期はもう、ひどかった」

「それを持ち出すのはナシだから! あれは、あれは……バルサミコ酢と砂糖を間違えただけで」


 何一つ合っていない。

 それからうだうだとヨーコと話し続けた。


 結果から言えばヨーコは、ホニさんが持っていた料理の仕方や経験などを次第に失っていった。 

 そしてホニさんの存在は次第に薄れていき、今はクラスの誰もホニさんという人格を覚えていない。

 あくまでヨーコがクラスに居るという事実だけが残っていた。


「……でも私はさ、このホニさんが守ってくれた命を大切にするつもりだよ」

「そうだな」

「もちろん……守ってくれたのはユウもだけど」

「え? 俺が守ったのがなんだって?」

「全部聞こえてるじゃん!」


 ホニさんの居なくなったヨーコは、至って普通の女子中学生である。 

 流れで俺のクラスに在籍はしているものの、本来ならばおかしい事態とも言える。


「それで……わ、私もホニさんと同じくユウのことが――」


 どこかホニさんに比べるとさっぱりとした、少し強気なヨーコが俯いてモジモジしだしたので何事かと見守っていると。



「――彼女抜きでのラブコメはそこまで」



 ヨリがバタァンと屋上への扉をあけ放つと、すたすたと俺に迫って腕を抱いた。


「ヨリ!?」

「あ、雨澄っ! ちょっとぐらいいいじゃん!」

「――今告白しようとした、それは許されない」

「っ! なんでよっ、私だってユウのこと好きなの我慢してるんだから。というかユウ分身出来るんだから一人ちょうだい」

「――ダメ、二人のUともに私の」


 次第にユキ達とは関係を築いて、今も俺抜きで出かけることもあるほどに親しくなったヨリとユキ達ではあるが。

 どうにもヨリはヨーコとは相性が悪いらしく、こうしてちょくちょく衝突する。


「ケチ! 弁当たかり女!」

「――あれはUの好意で作ってもらったもの」

「嘘言っちゃって、私知ってるんだから。弁当作るの週二を提案したのは雨澄だし、あとに週三にしたのも雨澄だって!」

「――あなたとは一度話し合わなければならない」

「奇遇だね、私も一度は雨澄ととことん話し合わないとって思っててね!」


 ヒートアップする二人、というかヨーコもさっき俺のことさらっと好きだって言ってたけどマジかよ。

 

「というか呼び方紛らわしいから変えてよっ! 私の方がユウって呼んでたの先なんだから!」

「――彼女の特権、遅い早いは関係ない」

「ふ、ふんっ! ユウが神に願ったこと大体私関連だしっ」

「――……それはホニ神のことであって、あなたではない」

「なんだとー!」

「あのー……当人の俺は……まぁ聞こえてないか、二人とも」


 衝突はするけど、もしかしたら仲が良いのかもしれない二人を眺めながら思うのだ。

 平和だなぁ、と。

 そしてある意味二人の女の子にモテるというのは幸せなのだとも思う……ノロケジャナイヨ?


 もちろんこうしてヨリが本気で言い合える相手がいることも、幸せなのだろう。


 ホニさん、俺たちは幸せで元気でやってます。

 願わくばホニさんも幸せでありますように。








 √5 END



「もしもユウジが”幸せになりたかった女の子”と結ばれたら」


 これはそんな七つ目のユウジの”イフ”の話。

√4は短い話数なのに年内完結も出来ずに年を跨ぎ年度も跨いで……大変お待たせしてしまいましたので

√5は目標通り年内完結させるべく頑張りました


色々詰め込んだ√ですので99話あればもっとヨリとのイチャイチャも描けたかなーとも思いますが、これはこれでいいかと思います。

機会があったらOVAでアフターを、それでは次の√でお会いしましょう

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