第156~159話 √1-21 ※独占禁止法は適応されませんでした。
「あー」
皆の前で、かつマイの前で「デートするか!」なんて大見栄張ったのはいいものの。
「(見事なノープラン)」
それに、今日約束してしまったもんだから、仕方ない。
交際経験無し、しかしギャルゲーのシチュを頼りに……しなきゃいけないのが悔しい。
わー、なんで俺はこんなにもダメなのか。そんな自分にはたはた呆れる。
さてどうしたものかと授業中。板書もいつもはガッチリ写すのに、今はと言えば上の空。
『デートですか……行きますっ! この身が裂かれても行きます!』
『どんな状況!?』
えーと、何か半端じゃない争いに巻き込まれているかのような台詞なんだが。
……うん。比喩だろう。つまりは「どんなことがあっても行きます」こういうことだろう。
「!」
あ、えーと。そこまで俺の事を慕ってくれるのか……いや、今までも似たようなことは言ってくれたけど。
いざ恋人同士と考えると――
「(て、照れるっ)」
あー、なんというか。俺って相当ウブだよなあ……
放課後が訪れたとさ。
ちなみに補足しておくと文化祭後は生徒会役員は皆屍状態なので意気消沈中。
それ故に何故か会長は「これから当分は毎週金曜だけが生徒会っ!」と全開の屍臭漂う生徒会で宣言した。もちろん異論を唱える者は誰ひとり居なかった。
今日は水曜日。日直にもなっていなければ掃除当番でもない。ちなみにマイも同じ。
一応は考えたまでの発言だったのだよ、はっはっは!
……だぁけどプランゼロなんだよなあ。
「ユウジ様っ」
「お、おう」
俺を見つけるなり凄い嬉しそうな笑顔で駆けてきた。そんな笑顔に胸ドキュンな訳だが、平常心平常心。
「か、帰りましょうか?」
なんともモジモジして俺に聴いてくるマイがマジカワユス。
「あ、ああ。とりあえずは学校出よっか」
「……はいっ!」
俺のニュアンスに気付いたか、更に笑顔を輝かせたマイめっちゃ可愛い。
そうして二人仲良く校門を出て、立ち止まった――
「あのさ、マイ。マイは行きたいとことかあるか?」
「え、それって……」
「昼時約束したろ? デート。それとも、マズかった?」
「い、いえいえいえいえ! 嬉しいです! 誘ってくださったことが!」
首をこれでもかってぐらいに振るマイ。必死な姿がなお可愛い。
「良かったー、それでさ、何処か行きたいとこあるか?」
「いえ……ユウジ様となら世界の果てでも」
「いやー、それは無茶だろ」
「私はそれほどの覚悟を持っています!」
今度は自信に満ちた表情で、目をキラキラ輝かせながら熱弁された。
「そ、そっかー。でも手近な方がとりあえずは――」
「グアムですねっ」
「新婚旅行!?」
「ああ、結婚だなんて……! そんなユウジ様嬉しすぎて身投げしちゃいますっ」
「いやいや! 何故自殺するし!」
「嬉しさのあまりです!」
断言された。なんというか付き合い始めて、かつ二人きりのときはマイってすっげえアグレッシブだよなあ。
嬉しいけど、嬉しいけど! 本当にマイなら身投げしそうだから止めてほしかったりする。
「身投げしたら、俺らの関係も終わるな」
そう、冗談めかして心底マイはショックを受けた表情をつくり、ポケットからおもむろに太い縄を――
「……首吊ってきます」
「そういうことがダメだって! 死んじゃったら付き合うことも出来なくなるだろうが」
「そ、そうでした」
いやあ、単純なことだと思うんだが……
「こ、子作りも出来ませんしっ」
「一気に飛んだな!」
あ、あれ……これギャルゲー? いいの? 色々と。
「とりあえずはデートをしよう。話はそれからだ」
「そ、そうですね! そこから子作りですね!」
「だから過程10数個吹っ飛ばしてるって!」
「私、いつでもいいです」
「いや、今覚悟を決められても……とーにーかーく! マイ、デートだ!」
「はいっ! 行きたいところ……行きたいところ……極楽浄土! ……じゃなかった」
うお、マイなら行き兼ねないから困る。でもそんなお茶目なマイが俺は好きになったんだけどねー
……あ、あれ? お茶目って使い方違うような。
「決まりました!」
「おお、何処だ!」
さあ、何が来る! 一応いつかのデートに備えて小遣いは確保してあるぞ!
電車で隣駅に行けばアミューズメント施設(要は中規模な遊園地)が何故かあるし、2駅飛べば映画館。3駅飛べば植物園。
なんだ、なんだ手近に結構スポットあるじゃないか藍浜!
それとも気取っても仕方ないから海岸線をゆっくり歩く! うわ、途端にケチくせえ、俺!
さ、マイ! 一体どこに――
「公園ですっ!」
超身近で手ごろだった。
「……公園? 公園って言うと……」
「はい! 学校の近くのです!」
……ええ、いいのか? それ。
* *
ええと藍浜町3丁目公園からお届けします。
紅葉が公園中に植えられた秋色に染まる景観が特徴で、文化祭明けの冬の一歩手前。
今日はなんとも気温が低い、こうして学校指定のダッフルコートを学ランの上に着ていても少し肌寒い。時より吹きつける風が妙に冷たく感じる。
スカートな女子全般に言えることだが、こんな寒空の下じゃマイもしんどいだろうに……
紅葉は言うと少々散り始めてはいるが大分葉を留めていて、紅葉がズラリと公園を囲みこむのは壮観かつなんとも良い景色。
この公園は学校の近くなので、たまに運動部の休憩スペースに使用されていたりするが、大会がここらは無く閑散としている。
なんとも寂れた感じがするのも、幼児・子供向けの遊具が一つも置いていなく、ベンチだけが等間隔で並んでいるだけからかもしれない。
簡単デートスポットとしては最適……なのかもしれないが。
「(初デートが学校近くの公園なのはどーよ)」
デートなんかギャルゲーでしかしてないので分かりません(痛い子)
それでいてやっていたのがトンデモ系ばっかなので参考ならず。ちなみにどれだけトンデモかといえば――
「じゃあマモくん、宇宙にデートしに行こう!」「地獄めぐりをしましょう……それでは本当の地獄へ参りましょうか」
「体から力を抜いてー、さあ二次元世界にデートに行こう!」「あ、あの……電話ボックス巡りをしませんか?」
「マクド●ルド食いに仙台行くぜえ!」「デートですって……絶望した!」
「(考えたらクソゲーばっかじゃねえか!)」
いや、マンガとかも読んでたけど……うん。それが昨日ひねり出した行き先ね。
わー、俺情けねええええええええっ!
「なー、マイ――」
なんとも甲斐庄無しセンス無し能無しな俺が恐る恐るマイの顔を覗きこんで見ると。
「デ、デートですね! ユウジさん!」
四葉のクローバーを一瞬で見つけた少女のように瞳をキラキラさせながらも、どこか興奮気味の彼女が居た。
「あ、ああ」
本人見るに大満足で、興奮のあまり息が荒くなっている……ちょっとマイさん?
「マイ、こんなところで良かったのか?」
「はいっ! ユウジ様との第一歩です!」
「そ、そうか」
「身近なところからデートしましょう!」
マイがこう言うのは初心者向けビギナーズクラスから始めようと解釈していいのか?
いいのか? 甘えていいのか? いや……もしかして次回デートもマイは視野に入れてるってことなのだろうか……?
そうだったとしたら、すっげえ嬉しいけども。
「それに、私は……ユウジさんが傍に居れば何もいりませんから」
「!」
そんなハズカシイ台詞を真顔で、真面目に言われたらクルじゃあないかっ!
「あ、いえ! 私とユウジさんとあとは……二人の子供が居ればいいんです!」
「……」
いやー、なんというか萎えてはいないけども、マイ節絶好調でなんかほっとした。
経過以上に発想が吹っ飛んでいるのに気付いているのだろうか、彼女は。
「じゃ、マイはそこら辺座ってて。ちょっとあったかい物買ってくるわ」
「そ、そんな! 悪いですよ!」
「デートなんだから、少しは格好つけさせてくれ、な?」
と言っても何にも屋台なんか無いから、悲しく自販機の飲み物だけどね! うわ、カッコワル!
「何か飲みたいものとかある?」
「ミルクティー……をユウジさんの口づけ後のあとのものを」
「ああ、わかった」
なんというか軽く流したけども、彼女はやはりとんでもないこと言っていたりする。
じゃあ1つでいいのか……ってケチくさいなあ、俺。温かいものも、寒風に冷えた手を温める為のものじゃないか。
公園の片隅で誰が買っているのか分からないが自販機がポツリと稼働していた。
”あたたかい”コーナーのミルクティー二つを購入した。一つはマイ用で、もう一つは俺の分だけどマイが飲む……分かりにくいな!
「待たせて悪い」
「いえいえっ」
「はいっ、ミルクティ」
「あ、ありがとうございましゅ」
寒さなのかマイが噛んだ。かわええー
「マイの要望のはまあ……後で」
「はい! 楽しみにしてます」
なんというかマイのそんなどこかぶっ飛んでいるところが可愛くて、好きだったりする。
こんな発想をするもの俺を考えてのことであって……そう考えると胸が熱くなるな。
「きれいですね……」
マイは少し見上げて呟いた。目線の先には朱やら赤茶色に輝く紅葉と、散って行く茜色の紅葉。
たしかにそれは美しいもので、見つめるあまり時間を忘れそうになる。
「最初のデートがここで良かったです」
「ああ、近場にこんないいとこあったんだな……」
改めて思うと、マイが此処を最初のデートに選んだのも分かる気がする。
ここは始まったばかりの二人が、ゆったりと時を忘れてくつろげる場所。落ちつけて、和めて、想いに耽ることも出来る場所。
すると隣座るマイが、俺にふっとよりかかってきた。任されたマイの体は驚くほどに軽く感じ、覗きこめば頬を紅潮させながら目を瞑っていた。
「ユウジ様……もう少しこのままでいいですか?」
「あ、ああ」
紅葉散る中、ベンチに二人。寒風は吹くけども、心はとても暖かだった。
「ただいまー」
帰ってきました我が家へと。ちなみにユイは先に帰宅してるそうな「ダッシュブーツを作ってみたんや」とか言ってたな。
……校則でいいのか? なんでそんな発明家キャラっぽくなってるんだか……確実にラブ●な再読したな、これは。
そうして笑顔の桐が……あれ?
「おかえりじゃー。そして来るのじゃー」
「ちょ、どした桐!」
笑顔は笑顔でも、ドスの聞いた笑顔だったのだった。機嫌悪そうだな……なぜ?
俺は桐の逆鱗に触れるようなことをしたか。いや、それはないだろう。
というか桐と話す時間も連載――ごほんごほん、出会った初期に比べると少なくなっているよーな。
ああ、それか! 俺が相手してやらなかったせいで、イジけたか(超上から目線)
さあ、桐。これからどんな展開を巻き起こすんだ……? こうして何故か自分の部屋に連れ込まれた。
「ユ、ユウジ……きさまぁ」
「な、なんだよ」
「マ、マイとはどこまで行っておる!?」
「は!?」
マ、マイ!? なぜその話題を出したし!
「どこまで行ったのじゃ! ほらほら言ってみい」
「……なんかエロオヤジみたいになってないか? お前」
「失礼な! エロババアじゃ!」
「余計悪くなってるだろ!?」
自虐ネタかよ! もう意味わかんねえよ!
「ほら言え」
「……なんでお前に言わないといけないんだ?」
俺は情報番組の情報提供者じゃねえっての。
「それは、わしが貴様の本妻じゃからな!」
……妻? こいつもこいつで過程吹っ飛ばしてるのな。なんだかんだ、マイと相性良さそうで反応に困る。
「……まだそんな妄言言ってるのか。4月病の一種でとっくに完治していると思ったのに」
「完治など絶対にせぬっ」
「そんなきっぱり断言するなよ……これから生きるのが辛くなるだろ」
社会的な意味で。
「そんなにわしの愛は重いというのか!?」
「ああ、とてつもなく」
そりゃ桐は嫌いじゃないけど、恋愛対象にした世間の風辺りが大変なことになって。
某アグ●スさんがニヤリ微笑みを浮かべながら引き戸を開けてやってきてしまう!
「それで」
「誰が言うか」
「……あ、そうじゃ。心を詠めば手っ取り早かったのう」
「忘れてたのかよ! そして詠むな」
「ふむふむ……なるほど」
「早速詠み始めてんじゃねー!」
なにやら桐の脳内を駆け廻るのは俺の心の中身のようで……ちくしょー、なんでこんな危ないやつにこんな能力授けたかなあ!
「……ふ、勝った」
「何とお前は戦ってたんだよ」
「マイじゃ」
「それまたなんで」
「わしがユウジに先に接吻したからの!」
「……え?」
「初めてのチュウじゃ」
「ええええええええええ、いつの間に!? 寝込みを襲ったな、この変態夜這いロリが!」
「その通りだ、壁を通り抜けてユウジの部屋に侵入しまくったぞ」
「もはやチート!」
「まあ……しかし。ユウジのあんなにまで力と思いの籠った告白は……羨ましくもあるな」
「え」
「到底わしとはお遊びじゃからの、しくしく……それはもう女泣かせなほどに」
「……桐さ、でっちあげるなよ」
「な」
「俺がモテる訳ないじゃーん、マイは奇跡みたいなもんだし。ユキもどうせ……」
「ま、まずはわしがホレてるというのに!」
「あー、はいはい。そうですか」
「人生最大の告白を受け流されたじゃと!」
「それで、接吻ってのは……」
「ああ……ほっぺにチュウじゃ」
「……勝った」
「なんじゃと?」
「ほっぺは接吻とは言いません(おそらく)」
「貴様のファーストキスをそんな形で奪いとうないわ!」
「おお、なんだ。変なトコは気にかけてくれてるんだな」
「一応はな……だがしかぁし! これからわしのターンじゃ」
「はい?」
「わしはマイに夫を取られてしまった」
「いや夫って誰だよ」
「だがしかぁし! わしは愛人でも良ければ、寝取りにも興味があるっ!」
「……」
「背徳感があっていいじゃろ?」
「お前、年齢詐称しすぎ」
「これでも花も恥じらう10歳前後じゃ! 人の趣味をとやかく言うんじゃないぞ!」
「10歳は花も恥じらうものじゃないと思うが……それにそれは趣味というより、フェチだ」
「ロリコンのハートを狙い撃ちじゃ!」
「ざーんねん。俺は対象外だわ」
「……そう言うなれば、わしにも考えがあるぞ」
「もうなんだよ、面倒臭いな」
「わしの能力の一つ”性癖追加コマンド”!」
「チートというより、もはや能力の定義がワカンネェ!」
「まてまてー、今から”ロリ好き”と”ババア可愛いよババア”を追加してやるぞ!」
「いらねーって! ほら、早く出てけ!」
「わー、お約束の首根っこ掴みやめるんじゃ――」
そうして桐を追い出すことに成功したのだった。
……って桐そのものだったな。なんというか久しい感じがするなあ。
「おお、聞き忘れていたがの」
「まだ居たのか」
「……今は幸せか?」
それはさっきまでの桐とは違って、真面目な口調でそう問いかけてきた。
今、マイとの交際。たくさんの友人が居る教室――幸せに決まってるじゃないか。
「え、は?」
「真面目な質問じゃぞ?」
わかってるさ。桐がここぞという時には空気を読むことも、俺の良き理解者になっていることも。
「ああ」
返事こそ、薄っぺらいが。俺には大きな自信があった。今が幸せであるということに。
「そうか……まあ、今の日々を堪能するのじゃぞ」
「ああ、わかったけど。いきなりどうした?」
そう聞くと少し押し黙る。そして小さな声で、聞きとれないほど――
「……この日々の長く続くとは限らないからの(ボソッ)」
「何か言ったか?」
何も聞きとれなかった。それがまるで俺に聞こえないように言ったかのようにも思えた。
「なんでもない。では夕食でまたの」
……変なやつだな。まあ今までも変な奴だったけども。
ただ単に俺をからかいに来ただけなのか? それとも、何か意味があったのか?
そして、今問いかけられた「幸せ」……分からん。桐の行動がよくわからん!
ボソっとして聞こえなかったけども、桐は一体何を言おうとしたのだろうか……?
「まあいいか」
桐も意味深なこともいいまくってた時期もあったしな。それほど重く受け止めるのはよしておこう。
桐の質問の答えを、少しはずいから皆までは言えなかったけどな。
「幸せだ。もうこれまでにないぐらいにな」
さーて、姉貴の絶品夕食を待つとしよう。おっと、準備手伝いに――