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第580話 √5-61 より幸せに

<U視点>



 俺と雨澄二人でトドメを刺した死神が霧散すると、俺はユウジ達の方へと駆け寄った。

 死神の猛攻をホニさんの神の力や、桐の能力、ユウジの力も駆使して潜り抜けてきたとはいえそれぞれ怪我をしていないか不安だった。


「皆無事か?」


 寄ってみると、それぞれ服がちょくちょく切れていて擦り傷もあるが――五体満足で立っていた。

 

「まぁ俺がついてたしな」

「うむ、問題ない」

「大丈夫だよっ」


 三人とも大きな怪我は無いようでホッとした……いくら巻き込むことは覚悟していても、大事な人達が傷つくのは見たくない。


「雨澄は……問題ないよな」


 後ろからついてきた雨澄も、こくり頷いた。


「そうだ、浄化申請しておかないとな。雨澄、同時に申請してみるか」


 また雨澄はこくり頷いてから、俺と雨澄の声は重なって―― 


「「浄化申請」」


 特に言葉にする必要はないのだが、強敵を倒した達成感からだろうか。

 俺と雨澄はそれぞれ自分の手の甲に表示されている貢献度の数字に二度触れることで、浄化申請は完了する。

 

 そうして――


「――百万超えた」

「ああ、俺もだ」


 二百万度の貢献度を有していた特A級異の死神を倒したことで、それぞれ百万度ずつ分配され貢献度を取得した。

 というか俺の貢献度百万百一って……死神の貢献度が無かったら一〇一度しなかったわけで、二日ちょいしか持たないのか。

 最近はとにかく分身した俺ことUが手あたり次第、雨澄の狙っている獲物以外は狩って溜めた百万が神代力でほぼ全部吹き飛ぶとか……コスパ悪いなぁ。


 まぁそれでも、こうして死神に全員が無事で勝てたからいいか。

 そして雨澄には貢献度を貯めて叶えたかった願いがあるように、俺にも願いがある。

 それは――


「「神よ、我が願いを叶え給え」」


 そうして俺と雨澄がそれぞれが神のいる白い世界へと誘われた。




 ――神への、世界への貢献を果たした汝には願う権利が与えられる。

 ――汝の願いを申してみよ。


「俺は――」


 俺はその願いを口にした。



* *



<以降 ユウジ・U視点>



「――ということで、実は俺は前に失敗してるんだ……ってここまで聞いてどう思う?」

「――……信じがたい」


 俺はあのあと分身していた自分を一人に戻して、全員が家に戻ってきた。

 それからはホニさんと姉貴にも手伝ってもらっての、昼食づくりである。

 いくら神裁になって、ある程度は鍛錬で力を付けても、まぁ身体はガタガタであって。

 こりゃ明日はとびっきり激しい筋肉痛と倦怠感のダブルパンチだな、と思いつつも明日にはしなければならないことがある、夏休みだからと寝休日とすることにもいかない。


 ともかく三人総力戦で昼食を作り、神裁でエネルギーを消費しまくった俺と雨澄の食べっぷりはなかなかだった。

 実際家に帰ってきて料理をしている間にも空腹は限界であり、居間で待っている雨澄もお腹の虫を激しく鳴らしている様子だった。

 俺はガツガツとかきこみ、雨澄は女子の食べ方のラインは守りつつも箸の速度はとてつもなく、咀嚼も驚くべきスピードで口と皿の往復を視認できないほどにまでなっていた。

 俺は四人前、雨澄は三人前食べたところで箸が止まった。

 これを見越してまるで店でも開くのかとばっかりに材料を仕入れて、姉貴がキッチンに残ってせっせと作り続けた料理の皿も空になっていた。

 ……もちろん他家族の分もちゃんと残してのことであり、一時はこれほどまでに更に乗っけるのかと言わんばかりの盛りっぷりだったことからとにかく相当量を作ったのだ。


 そんな食後は、俺が話すことを雨澄に約束したこと。

 俺が分身したことについて、そして俺が特A級異の死神の出現を予見していたことについてひっくるめて話した。

 もちろん、その際には俺が一度世界を失敗したことも話した……もっともホニさんがいる場なので、桐脚本によるちょっとした脚色が前世界の結末については入ったが。


「――それでも、そう言われれば納得できる部分はある」

「おお」

「――……確かに私は下之に土下座されてホニ神を狙わないで欲しいと言われた時、不思議とその時点で私もホニ神を諦めようとも思った」

「え? 確かそのあと週三の弁当の約束を取り付けたよな……それが決め手じゃなかったのか?」

「――……心外、そこまで食い意地は張ってない」


 食い意地張ってなかったのか。

 

「――下之にそう言われた時に、ならしょうがないと……不思議ながら思った。不可解、しかしこの世界が二度目なら、少し分かる」


 そこまで聞いて確かに雨澄の俺への態度が、前の世界の同じタイミングと比べると柔らかいとは思ったが――まさか気のせいじゃなかったとは。


「――前の世界の通りなら、私がこんなにも早くに神に願うことも出来なかった。感謝する」

「いや、俺は……雨澄の力を頼っただけであって、結果論だ」

「――本当に?」


 そう雨澄に疑いの眼差しで見られてしまう……その通り、考えていなかったといえば嘘になる。

 この世界で失敗しない、そのために雨澄の力が必要だったのは確かだったが記憶の隅に雨澄にも貢献度が必要で、そのために俺たちを襲ったことも覚えていた。

 もし二百万と言う貢献度を分け合うことができたなら、それぞれ願いを叶えることが出来ると思ったのも確かだった。


「それでユウジ、お主は何を願ったのじゃ? 雨澄と同じタイミングで神と会いに行ったようじゃが」


 そこで桐が切りこんできた、桐が切りこむってのは駄洒落でなく狙ったものでは断じてない。

 まぁ聞かれるだろうなとは思っていたのは確かだ。


「ああ、そうだな。言っておかないとな――」 



* *



 ――汝の願いを申してみよ。

 俺はずっと考えていたことだ、こうして世界をやり直した直後にホニさんにも力を貸してほしいと言った時から。

 その願いは、改めて戦いの前日にホニさんに力を貸してほしいと頼んだ時にももちろん考えていたことであった。



「俺は……ホニさんに雪空を見せてやりたい」



 ――夏に雪を降らせるということか?


「いや、そうじゃない。雪が降る季節までホニさんが居れるようにしてほしい」


 雪が降る季節、今はまだ夏真っ盛りであって……早くても四ヶ月後、十二月ぐらいを俺は想定していた。


 ホニさんは膨大な力を行使することが出来る、それは前の世界で知っている。

 しかしそれは自分以外、身体の持ち主の陽子や俺の家族など含めての力を吸収したことによって膨大な力を有した上でのことであり、通常時のホニさんは自分が存在する為の力しか有していないのだという。

 だから少しでも神の力を使えば数日経たずにホニさんの存在は消えてしまうと、桐に警告させられていた。


 前の世界のホニさんは異常だったこともあって、本来ならば自分の持ち分以上の力を使うことはない。

 陽子が生きる上での、存在する上での力までは侵さない――自分に残された力が無くなれば消えゆくというホニさんの無欲さ、優しさ故だった。

 しかし少しでも神の力を使うだけでホニさんは数日持たぬということは、今回のように全力で使うとどうなるだろう。

 最悪のことを考えれば結界を出た頃にはホニさんは消失し……陽子だけが残される可能性も十分にあった、だから俺は戦い終わって浄化申請をしてすぐに神の元に向かったのだ。

 

 そうして俺は、神に願った。

 ホニさんを今すぐに消さないでほしいと、その願い方が……何故か”雪空を見せてやりたい”という文言だったが。

 どう願おうと考えながら神に向き合って、すっと出てきた言葉がそれだったので仕方ない。

 その文言を誰かから聞いたわけでもない、もちろんホニさんから聞いた記憶もないのだが――何故か、ホニさんは雪空を見たいということをいつかの頃に聞いた気がするのだ。

 そのいつかも分からなければ、もしかしたら人違いかもしれないし、ひょっとしたら夢で勝手に見ただけかもしれないが。

 なんとなく、しっくりときた。 


 ――いいだろう、汝の願いを聞き届けた。 


 そうして神への願いは叶った、ホニさんがこの後普通に家に帰って料理を手伝うまで出来たのは俺の願いを叶えてくれたからに違いなかった。

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