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第578話 √5-59 より幸せに



八月二十一日



<ユウジ視点>


 

 死神と戦う前日になった。

 これまで俺はユウジは夏休みを満喫しつつもホニさんの護衛に徹し、一方のUはひたすら貢献度を稼いで追加能力をいくつも得た。

 これ以上の準備は出来ないというほどに、それでも俺はどこか不安があったのだ。


 もしまた失敗したらどうなる? また同じ時を繰り返すのか、そしてそれを桐やホニさん達にも強いてしまうのか。

 それだけは避けたかった。

 それに、だ……なんとも自己中心的で私欲まみれの願望ではあるのだが――


 雨澄に告白したい!


 前の世界では告白する前に世界が終わってしまった、悔しくてもどかしかった。

 実際よし明日告白するぞ! というタイミングまで気持ちが昂っていたのだから、そして繰り返す世界でその熱を今も持っている。

 前の世界以上に雨澄と話せた、雨澄のことを知ることが出来たのだ

 ある意味ではモチベーションでもあった、俺がここまで分身して双方に負担がかかるような生活を続けていく上での。


 明日ですべてが決まる、タダの予感でしかないが。

 明日死神を倒すことが出来れば、いや雨澄と倒すことが出来れば――幸せな結末が待っている、そうに違いないと思ったのだ。


 だからこそ、俺は出来ることをしてきた。

 俺が考える未来予想図には、死神に中途半端に逃げられる未来ではなく、完全に倒す結果が必要だった――

 

「ホニさん、ちょっといいか」


 俺はホニさんの部屋の扉のドアをノックした。





「うん、それでお話って?」


 ホニさんに招き入れられて、部屋のカーペットの上に座る。

 目の前にはホニさんもちょこんと座っている、やっぱり何度も思うことだがホニさんは可愛いなぁ。

 ……と、いかんいかん今思う事ではない。


 俺がこれから頼むこととは、ホニさんを危険に巻き込むことなのだから。


「ホニさん……もしかしたら知ってるかもしれないけども、明日俺は超強い異と戦う」

「……うん」 


 桐から聞いた通りだった、こうしてホニさんは少しの躊躇こそあるが頷いた。

 ホニさんはこれまでの世界を、前の世界を覚えている……といっても桐曰く一部が俺の記憶とは食い違うようだ。


「俺はこれまで色々準備をしてきたつもりなんだ、それでも――」


 それでも、俺には。



「ホニさんの力を貸してほしい」



 ホニさんの神の力が必要だった。

 世界を終わらせるほどの力を使うことが出来ることは、前の世界で痛いほど実感した。


 そして俺は数日前に桐から聞き出したこともあった――ホニさんが神の力を使わない理由、使えない理由。

 それを聞いても俺はホニさんの力を頼らざるを得なかった、ホニさんを戦いに巻き込みたくないからと前の世界で非干渉化を願ったというのに都合が良すぎるかもしれない。

 でも俺は思ったのだ前の世界のホニさんを思って、その時のホニさんはどう思ったか、これまでのホニさんはどんな思いで俺に接してきていたか。


 それを考えて俺はホニさんの力に頼るという大義名分をもって、ホニさんを巻き込もうと思った。


 前の世界で失敗した原因は何か、ホニさんの非干渉化自体がすべての根源か。

 いいや違う、俺がホニさんを放って、結果的には邪魔だとのけ者にしたことが招いたの要因だとも思うのだ。


 ホニさんは神様であって、神様が家の家事を手伝う道理は本当ならないのだ。

 ホニさんの好意によるもの、俺の予測でしかないが……ホニさんが俺たちの家族になろうという思いから、だと思うのだ。

 だからこそホニさんはきっと出来ることならしたいはずだった、俺の記憶の中には無い感覚が物語る。


 きっとやら、だと思うやら、確証はまったくない。

 これからのホニさんの答え次第でしかない、断られたらそこまでだとも思っている。

 それでも俺は――


「俺も雨澄も桐も、総力でその異には立ち向かうつもりだけど……きっとホニさんの力が必要になるんだ」

「うん」

「だからこの通りだ、頼むホニさん。俺に力を貸してくれ」

「うん」

「俺と一緒に戦ってくれ」

「うん……」

「ホニさん……?」

「うん……っ!」

 

 ホニさんは何度も頷いてくれた、そして最後に――涙を流した。

 その意味が俺は最初は分からずに、ホニさんを傷つけてしまったのかと思った矢先だった。



「……我でよければ力になるよっ」



 ホニさんは泣きながら笑みを浮かべて、そう言ってくれた。

 しかしホニさんがどうして泣いて笑っているのか見当もつかなかった。


「きっとね……その言葉を我はずっと待ってたかもしれないんだ。ユウジさん」

「……」

「いつもいつもいつも我は無力で、何も手伝えなくて、見ているだけで、守られているだけで……何もできない自分が嫌いだったんだよ」

「いや、それは――」

「今まで守ってくれてありがとね、大事にしてくれてありがとね……でも我も一回ぐらいは無茶したっていいよね、ユウジさんの役に立っていいよね――だから我の方から、よろしくお願いします」

「……ああ、ああ! よろしく頼むよ!」


 ホニさんはそうして俺の頼みを聞き入れてくれることになった。

 ホニさんが神の力を行使することで、自分がこの世界に居られる時間を短くするのを知っていながら。

 そしてそれを俺は知ってホニさんに頼んだのだ、でも俺は――何かを手に入れる為に、もう一つを諦める気はなかった。


 理不尽に立ち向かうのなら理不尽が必要で、使えるチートなら、使える奇跡ならどんなものであっても使おうと思っているのだ。



* *



 八月二十二日



「ありったけの回復薬も謎ドリンクも簡易結界も、わしも睡眠バッチリで能力も使い放題パケホーダイじゃ!」

「我も準備は万全で、いつでもいけるよ!」

『私的にも昨日ユウさんが散々磨いてくれたので、コンディションは抜群!』

「そりゃ心強いな」


 昼前のこのタイミング、前の世界ではこれから告白場所の下見だと公園に向けて一人で出かけるところだった。

 しかし今回はホニさんと桐を連れて向かう、そして別行動のUが先に雨澄と合流する手筈になっている。


「……桐、ホニさん、ナタリー」

「なんじゃ?」

「ユウジさん?」

『うん?』


 俺は今一度言っておきたかった、これから起きることを、これから桐やホニさんを巻き込んでしまうことを。


「きっとこれからの戦いは……無傷では済まないと思う、だから――」

「ふむ、その気遣いの心はもっと常日ごろからわしに向けてくれて良いのじゃぞ。ただし、今回の場合は無用じゃ!」

「分かってるよ、ユウジさん。でも我は望んで戦うんだ、それにユウジさんが頼ってくれたんだもん……中途半端な気持ちで挑むつもりはないよ」

「そうか……そっか、なら……ありがとうな」

「ありがとうの気持ちは戦い終わってからわしと遊ぶことに向けてもらおう!」

「じゃあ、我はユウジさん一日占有権で……彼女さんには悪いけどねっ」

『なら私はどっか連れてってー』


 桐と遊ぶねえ、そういえば四月初めごろは桐に誘われてボードゲームしてたっけなと思い出す……そういうのだろうか。

 ホニさんは微妙に悪戯っぽい表情でそんなことを言ってくる……むしろホニさん一日占有権とかご褒美なのではと思うが心に今は仕舞っておこう。

 そしてナタリーは……鉈持って出かければいいのだろうか、そういえば外の景色見るの好きっぽかったし電車乗って遠出とかもいいかもしれない。


「まだ雨澄は彼女じゃ――ゴホン、それに関しては終わってから話すから……よし、行こう!」

「うむ」

「はいっ」

『おー!』


 そうして俺たちは家を出た。

 ついにその時がやってくる。




 学校に向かう通学路の途中で、世界は塗り替えられた。

 暖色系のSの結界とは違った、鮮血のような赤一色の世界に俺たちは引き込まれた。


『フフフ……美味しそうなご馳走が沢山飛び込んできましたわ』


 前の世界と同じようなセリフを吐く死神が目の前に対峙している。


『一つ一つ味わって、いただきますわ――』


 そうして俺たちの最後の戦いが始まる。

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