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第567話 √5-48 より幸せに

 

 

 神裁となったことで分かる、目の前に居る大きな鎌を持った銀髪赤眼の幼女のジャンル判定は――死神だった。

 その死神は鎌を振り下ろし攻撃を仕掛けてきた、それを貢献度を上げ鍛錬によってあがった走力などで回避していく。

 しかし一撃一撃が重い、今は回避できているからこそいいものの当たれば結構な痛手を負いそうに思えてならない。


 実際にその鎌が振り下ろされると、振り下ろされた場所から直線状に数メートルの長さと数センチの深さに渡って地面のアスファルトが抉れている、それ見るには相当な打撃力を有していることも分かった。


「なんで異が……ここら辺に異の反応はなかったはずだ」


 神裁特有の機能として、異を探知するものがある。

 一時期は小規模異のみを探知できるようにフィルターをかけていたが、最近は大規模異も機会があればと解除し探知できるようになっていた。

 それではこの異は探知に引っかからなかった、しかし目の当たりにして死神と判定された彼女は何者なのか。

 

『ユウさん! この異はヤバイですっ』

「え……」


 そして表示された死神の彼女は大規模異な上に階級は――”特A級”だった。

 更に貢献度は二百万、ホニさんと完全に同等の貢献度を有していた。

 ニ百万と言う数字は、単純に考えれば最初の願い以外にも一回につき百万の貢献度を消費することで願いが二回も叶う計算になる。


「……っ! こんなところで出くわすなんて」

『集会の時に話されたことを覚えてますかっ』

「ああ……!」


 かつて雨澄と一緒にアロンツの集会に参加したとき、情報共有の一環として話されたことがあった。

 それは数か月以内にこの町に特A級の異が出現するという予知だった、そしてその異は探知に引っかかりにくいともSは言っていたのを思い出す。


 俺は少なくとも大規模異の、特A級を倒す必要性がなかったので正直話半分ではあったが……まさか俺の前に現れるとは。


『あらあら、普通の人間よりはマシですのね』


 死神は幼女の容姿をした無邪気な笑顔で、そう言いながら鎌を振るっていく。

 そしてその鎌がギリギリナタリーを掠ったその時だった――


「――っ!?」

『……寒気がします。なんでしょう、これ』


 少し掠っただけで全身に鳥肌が立ち、底冷えし凍り付くような寒気が体中を駆け巡る。

 身体が警戒信号を出していた、鎌越しナタリー越しにも伝わってきた――この世のものではない、おぞましい感覚に身体は一瞬でも動きを止めてしまったのだ。


『棒立ちなんて余裕ですのね――』

「がっ……!?」


 動きを止めたのは本当に瞬く間だった、しかしその死神はその隙を見逃すことなく俺の腹部を鎌で切り裂いたのだ。

 切り裂いたと言ってもおそらくは肉を抉るほどでもない、服が切れ皮膚の表面が裂けた程度の――はずだった。

 それに見合わない激痛が俺を襲い、次いで大量の出血をもたらし身体から力が抜かれていくような感覚、ナタリーを持っていた手の力も緩みかけるほどだった。


 もしこれが深く身体を抉っていたらどうなっただろう、少し切られた程度でこのありさまを考えると――最悪を想定すべきだろう。


『フフフ、新鮮な生命の味を感じますわ』


 死神はその鎌を手繰り寄せると俺の血が付いた刃先をペロリと舐めた。

 その光景を見て怖気が走る、俺はその時に理解してしまったのだ――この異は俺一人が相手にしていいレベルではないということに。

 深く関われば、少しでも気を抜けばこの結界という中でも殺されることが確信できた。

 

 この最強……最凶とも言うべき異が展開した結界の中に不意に誘い込まれた時点で、俺は勝つ術はなかった

 そもそも異が結界を展開しているということ自体初めてのことだ、本質的には俺や雨澄や桐の作り出すそのもののようだった。

 ということであれば結界は有限であり、雨澄の結界範囲から逃げるようにすればいい。

 

「……ナタリー、撤退する」

『……賛成です。私もこの異相手に戦える気がしません』


 俺は鎌を舐めて鼻歌を歌っている死神から少しずつ後ずさる、背後は見せられないのでじりじりと下がっていく。


『あらあら、とてもおいしいそうなご馳走を逃すはずがなくってよ』


 すると死神は今までにない速度で飛んでくると、俺に鎌を振りかざした。


「くっ……」

『き、気持ち悪いですっ』


 鎌がナタリーと衝突し金属音を発する、ナタリーを通じて感じるものはまったく慣れる気がしない。

 感覚的には手足から頭の先までひやっとして、冷蔵庫にでも入れられてしばらく時間が経ったような気分だった。


 しかし死神はこうして俺を素直に逃がしてくれる様子はなかった。

 この底冷えする感覚を我慢して、少しでもダメージを与えて逃げる隙を作らなければならないことを悟った。


「ナタリー、悪いが我慢してくれ――”七変化(モードチェンジ)”」

『……善処します』


 ナタリーの鉈形態が変化し薙刀となる。

 そして中規模異を倒し続け貢献度を溜めて、新しく得た能力を使う時が来た。


「”速度超過(スピードリミット)”っ!」


 俺は貢献度が溜まり能力を得る際に、速度上昇を中心的に行った。

 結果的に鍛錬で鍛え、神裁となったことで基礎体力が底上げされたのだが、俺は極めるべくスピード特化を目指した。

 本来ならばこの走力強化で逃げ切ればいいのかもしれない、しかし死神の鎌の有効範囲は広くあの斬撃を食らっただけでも能力が失効しかねなかった。 

 だから、少しでもダメージを与え続けて――隙を作るっ!


『あら?』

「”光速一閃(スピードスラッシュ)”っ!」


 薙刀になったことで機動力が増し、死神の側面を駆け抜けた。

 少しの間を置いて死神の黒いロングスカート……黒装束の脇腹が裂けて血が噴き出した。


『あらあらあらー? フフフ……アハハハハハ! ワタシに傷をつけるなんてっ! おかしいわぁ』


 死神は傷をつけられたというのに腹を抱えて笑っていた。

 その挙動があまりにも異常で、俺は死神の鎌に触れていないというのに寒気がした。



『それなら少し楽しめそうですわね』 



 死神は笑ったまま俺に向かい来ると思った瞬間に――姿が消えた。

 どこへ行ったか見渡そうとした時に俺は違和感を覚えた。

 

 ちゃんと地面足を付いて立っているはずだった俺が倒れている。

 いや違う、目の前には俺の足が地面に付いているのが見える――え?


『ユウさんっ!?』


 迫真めいたナタリーの声が聞こえる。

 視線の傾きで視認できてしまったのは俺の血に塗れた腹部の断面だった、そして俺の視界は後ろに下がっていき最終的に空を仰ぐ形になった。


 つまり俺は――


『あらあら呆気ない』

「え」

『ユウさん! ユウさんっ!』


 俺は身体を腹部で真っ二つに切り裂かれ、上半身と下半身で肉体が別れてしまったのだ。

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