表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第八章 ※独占禁止法は適応されませんでした。
44/648

第146~151話 √1-19 ※独占禁止法は適応されませんでした。



 文化祭前という祭りの前の喧騒。

 俺はそんな中で生徒会で走り回ったり、クラスで走り回ったり、今年の秋は何度廊下を駆け抜けたことか。 

 そして俺は今も走っていた。

 でも今回ばかりは思い切り私情だった。

 走らなければならない訳じゃない、でも俺は走っていた。

 俺は彼女の元へ向かっていた。

 早く、早く、足を運ばせ、文化祭に胸踊る生徒行き交う学校の廊下を駆け抜けていた――


「……っ」


 ユキは俺を好いていてくれて。

 ユキの気持ちに答えられなかったのに笑ってくれていて、無理をしているのがわかった。

 ユキの必死の告白を断り捨てた、今の俺がやろうとしているのは──マイに告白することだった。

 あのユイにも焚き付けられ、ユキも俺の背中を力強く押してくれた。


 マイにこの気持ちを伝えたい。


 ……もしかしたらマイは今まで俺をからかっていただけなのかもしれない。

 慕っていたのも見せかけで、彼女に踊らされていたのかもしれない、自意識過剰だったのかも。。

 だとしても、それでも俺は彼女のことが好きになってしまった。

 日々を過ごすうち、彼女に惚れこんでしまった。

 だから俺は、走って、走って――


「マイ」


 教室のドアを開き、マイの姿を探す。


「(ど、どこに……)」


 走る必要も焦る必要も無い、だが俺は必死で彼女を探していた。

 文化祭故、机が一度取っ払われテーブルクロスが掛けられた机を複数繋げて接客テーブルとしたものがクラスには鎮座している。

 その周辺の飾り付けをしたり、焼きそば機の調子を見ていたりする――そんなクラスの光景。

 しかし探しても探してもマイの姿を捉えることは出来ない、彼女が行くとしたらどこだろうか……。

 文化祭と関連付けるならば、機材や装飾を取りに倉庫。または近くの店まで買い出しに出ているのかもしれない。


「おい」


 俺の肩を誰かが掴んでいた、その呼ぶ声はなんとも聞き覚えのない男の声だった。

 そして何故か俺には、その男の声音がどこか不機嫌そうに聞こえていたのだ。


「……なんだよ?」


 焦っていたが為に少し口調が乱暴になってしまっていた、八つ当たりをしている。

 内心悪いと思いつつも、早くマイに会いたい気持ちの方が先行していた。 


「誰か探してるのか?」

「……まあ」


 なんともそのものズバリな悩みを言い当てられる、心を見透かされたような気分だ。

 まあ……おそらく「誰かを探している」というのが俺の顔に出てたんだろうけども。


「姫城さんか?」

「っ! あ、ああ」


 もはやエスパーを感じざるをえない、何者なんだこの男な。

  

「姫城さんなら、休憩に屋上に行ったぞ」

「本当か?」


 何故マイに接点の無さそうなこの男が知っているのか。

 そんな疑問など構いやしなかった、ただ俺はそいつの言うことを一瞬で信じてしまっていた。

 そうとなれば、俺は教室を抜けて廊下を駆ける。階段へと向かって、上へと駆け上がって、そして屋上へ辿りつく――


「マイッ――」


 しかし屋上の扉を開けた先、屋上に居たのはマイではなかった。

 ”ユキ様LOVE”やら”ユキ様を幸せに”に”ユキ様をお守りする”等と言った”痛い”文面が刻まれたピンク色の法被を着ている大勢の男子生徒共。

 そして彼らに共通して額に見えるのは「ユキ様ファンクラブ」の文字轟く、はたまたピンク色のハチマキ。

 そう、俺は――


『下之ユウジ、貴様を私たちは許さない!』


 状況をすぐには理解など出来なかった。

 なにせマイがいると案内されてきてみれば、ユキのファンを名乗る男子生徒の集団である。

 そして彼らの手に握られるのは幾多にも及ぶ鈍器で――


『その罪を自ら口に出してみるがいい、下之ユウジィ!』


 自称ファンクラブのメンツは、怒りを露わにさせた表情で俺を睨みつけていた。 

 俺はハメられたのだろう、おそらくさっきの男子も誘導用でファンクラブメンバーの仲間か協力者に違いない。

 しかし何故俺がマイを探していることをこいつらは分かっていたのだろうか?


『貴様、下之ユウジは大きな罪を犯した』


 ユキ様LOVEと記されたハチナキやらを装備する、一見ふざけているとしか思えない格好をする男子生徒が俺を睨みつけ言う。


「はぁ?」

『我々の信愛なる篠文ユキ様を散々振りまわした揚句に捨てたことだ』


 話し方が芝居がかっているのが気色悪い、ただそれ以前に引っかかる言葉を聞いてしまった。


「……捨てたって、どういう意味だよ」


 意味がわからない、というわけではなかった。

 ただその言葉を受け入れたくなかったのだ。


『文字通りである!』

『幼馴染というのを口実に家へ向かいに来させる!』

『友人というのを口実に夏は振りまわし、我々の誰かでもユキ様のお隣に居られたらと何度思ったことか』


 俺を蔑むのは気にしない……わけではないとしても。

 果たしてこいつらはユキの気持ちを考えての行動なのだろうか。


『手紙で散々警告したはずだ”ユキ様に近づくな”と。我々は近づくことさえ出来ず、少し離れた場所から見守っているというのにぃ!』

『本当に妬ましいながらユキ様は貴様に好意を抱いてしまった。貴様がユキ様をたぶらかしたに違いない』


 好意を抱いてしまった……か、それは何か違うんじゃねえかな。


 その言葉を聞いて、俺は確信する。

 ファンクラブのメンバーらは誰もがユキのことは考えていても、ユキの気持ちを考えていない。


『不服ではあったが、ユキ様は貴様に勇気を振り絞って告白をした……というのに貴様は』

『貴様は他の女にうつつを抜かし、ユキ様を傷つけた……その罪は重いぞ』

『ユキ様が貴様と一緒にいたのは間違いだった!』


 俺のことは言いたい放題、それはまだいい。

 いや、よくはないな……なにせマイを出汁に俺を呼び出したのだ、面白くないわけがない。

 ただそれと同等か、いやそれ以上にユキの気持ちを勝手に代弁し、間違いだと断定するのは……ダメだそれは。

 

「はぁ、こんな奴らが自称ファンクラブか」

『……なんだと? 自分の罪が分からないのか? それとも愚か者なのか?』

 

 愚か者には違いない、だがそれは俺だけじゃない。


「それはお互い様だろ」

『いいや我々は違う! 貴様は調子に乗り続けている! 幼馴染という間柄でユキ様に近づいて、近づいて来たら振る。人として最低の行動と思わないのか!』

「ああ、最低だな。だが、あんな手まで使ってで俺を呼び出してバットや鉄パイプを構えてるお前らも十分最低だろ」

『……黙って聞いていれば、なんと自分勝手か。そんな者にユキ様など最初の最初からふさわしくなかった!』


 黙ってはいないだろ。

 むしろまだ黙って俺に襲いかかった方がマシだったのかもしれない。


「そう言うのが自分勝手って言うんじゃないか?」

『何を言う! 我々は貴様とは違う! ユキ様の気持ちに応えることが出来る!』

「はっ、ユキの気持ちに応えられる? 笑わせるなよ……結局は俺と同じだ」

『貴様と同じ括りにするな! 我々は貴様のように愚かではない』

「お前らはユキのことしか考えていない」

『それがなんだ! ファンクラブとして当然だろう』

「いいや違うな……お前らは”自分の望むユキ”のことだけだ。ユキ自身の気持ちなんて考えていない」

『何を言うか! 我々はユキ様の気持ちを第一に考えている!』

「それならユキの行動を否定するのは違うだろ」

『……それとこれと話は別だ』

「それとこれと話は同じだ。ユキが思い、考えた行動を、お前らは”間違い”と否定したんだ。ユキの気持ちを考えてないだろ?」

『……そ、それでは貴様は考えられていたのか? 考えられていれば、ユキ様の告白を受けるべきだろう!』

「俺も考えられていなかったよ、友人に知らされるまでは……でも、俺は嘘をつくつもりはない。その場に任せて気持ちを変えることはしない!」

『そうか、貴様は姫城マイが好きになっていたらしいな。憎きファンクラブ相手の姫城派に……なおさら許せん』

「ああ、俺はマイが好きだ。だが、お前らに許してもらう必要はない」

『……我々は貴様を許せん。ユキ様を悲しませた罪は万死に値する!』

「いい加減帰っていいか? 俺には大事な用事があるんだ」

『……この状況で帰る? 残念だったな。貴様が来た当初にその扉は内側から鍵がかけられた上に――我々が返すつもりがないからな!』


 振り返ると扉の前にはガタイの大きいファンクラブメンバーが守護神のこどく佇んでいた。

 前後にファンクラブメンバー、逃げ場はないようだ。


「そうかよ……で、俺をどうするつもりだ?」

『なに、少し痛い目にあってもらうだけだ』


 そうして鈍器を持ったファンクラブメンバーが俺へとにじり寄る。

 これがゲームなら、きっとここからがバトル展開なんだろうが――あいにくこれは現実なのだ。

 あれ? |本当はゲームだったような《・・・・・・・・・・・・》……そんなわけないか。





 案の定ボコボコにされる。

 そりゃこっちは丸腰ですもの、でもその割には避けられたと思うんだ。

 俺は応戦することはなく、回避はすれど反撃はしなかった。

 俺が殴っても正当防衛だったのかもしれないし、気持ち的にはアリだったかもしれない。

 ただ俺はケンカが強くもなければ、ケンカがしたいわけでもなく、ファンクラブメンバーを殴りたいとも思わなかった。

 というか全員の行動がバラバラで、少し身軽に動いてみればメンバー同士でぶつかってもいた。

 なんのまとまりもなく、なんの統率も取れていない、それが不幸中の幸いだったのかもしれない。

 それでも何度かバットや鉄パイプが掠め、最後に思い切り腹にパンチを食らった。


 唇は切れてるし、何本か骨も折ってるかもしれない、頭部からの出血で視界の半分は赤く染まっている。

 体のあちこちは痛いし苦しいし息は上がってるしで、なにやってるんだろうと思う。

 俺が屋上の出入り口に向かう度に妨害を食らい、投げ飛ばされたり押し飛ばされたりする。

 


「(万事休すか……)」


 俺はそんな言葉が脳裏に浮かんだが、必死の思いで人を跳ね除け、激痛走る足を動かし扉のドアノブを回した――



「ユウジ様っ!」



 その声を聞いた途端に俺は手を掴まれ扉の中へ吸い込まれる。

 そしてその声の持ち主は――



* *



「学校から商店街が近くて良かった」


 私は歩きながらそう思う、布の買い出しを頼まれたのはいいものの……ある事が気がかりで。

 篠文さんがユウジ様を呼び出していたのを目撃していた。そのあと篠文さんは去ってしまい、その後は――


「(どういう意図なのでしょう……?)」


 篠文さんはどこか思いつめた表情だったような気がします。

 それに……篠文さんも、私も。何故か勉強会以来はユウジ様とあまりお話する機会がありませんでした。

 生徒会でお忙しいのは確かですが……どうにもユウジ様は私や篠文さんを避けていたように思えてならないのです。

 そういえば勉強会の時のユウジ様の私への態度も少し変でしたし――


「(はぁ)」


 夏休みは幸運と幸運が何層にも重なって、ユウジ様と共にする時間が多かったですよね――


「(あの夏は楽しかったです……あんなにもユウジ様と休みを楽しめるなんて)」


 はっ、もしかして私は嫌われてしまったのでしょうか。

 ユウジ様があまりにも共にする機会の多さに私にうんざりしてしまったのでしょうか……?


「……ああ」


 そうだったのだとしたら、死にたい。もう普通にお話も出来ないなら……本当に辛いです。

 多くの幸せを望んだ私が愚かだったのですか? 生きてきて、ここまで温かな時間も数えるほどしかありませんでした。

 それでも、高望みした私はいけなかったのですか? ……でも、最後の思い出があれほどまでにご一緒できた夏休みなら――


「いけないいけない」


 最近は身を潜めていたネガティブな自分が出てきてしまいました。それほどに今までの日常が幸せだったのでしょう。 

 ああ、終わってしまうのですか? この日々が、この幸せが。 戻ってしまうのですか? あの頃に。

 そうなのでれば、これからは本当に辛い一生ですね。そうと分かっているならば――


「(思い切ってもう一回告白してみようかな)」


 それで断られたら……引き籠ります。でも、でも、ですよ? もしかして応えてくれたら――


「(嬉しすぎて出血死しますね。確実に)」


 ああ、でもいいかな。そう思いながらも虎の狸の皮算用的なことをニヤニヤと買い出し袋を持ちながら考えていたのですが――


「!(ユウジ様の気配! それも近く!)」


 もう私はユウジ様が居る場所がある程度わかるほどになってしました。愛ゆえですよ?

 もちろん広範囲レーダーのごとくな使い方は出来ませんが、まあ学校内なら可能です。

 そして導き出された場所は――


「(屋上?)」


 見上げてみれば……何か生徒達が激しく動いています。

 ええと、屋上は確か基本立ち入り禁止のはず――そう思いつつ眺めていると。


「くっ!」


 何か鈍器を構え応戦している――渋い顔をしたユウジ様が、あ、そんな顔もいいですねって、そんなこと言ってる場合じゃない。屋上のフェンス越しにチラリと見えました。

 ほんの一瞬ですが、ユウジ様のお姿を私は見逃さない訳がありません。


「と、とりあえず、向かいましょう!」


 買い出し袋を提げながら昇降口へと走っていると――


「あ、姫城さん」


 その声に横を向くと、今にも泣きだしそうで、崩れそうな表情をした――


「篠文さん……?」


 ユウジ様の今の状況が果てしなく気になりますが、篠文さんの様子は余りにも変でした。


「――告白された?」


「え? えと、なんの話で……?」


 私は疑問譜を浮かべます。告白? それは私がしようとしたことで、されることなど――


「ああ……まだ会ってないんだね」

「ええと、話がさっぱり」

「ユウジ」

「! ど、どういうことで」


 私はその篠文さんの意味深な発言は気になりますが――


「そ、そんなことより! 何かユウジ様が喧嘩に巻きままれているみたいです!」

「そんなことって……って、え? 喧嘩」


 篠文さんの表情が固まります。


「今、屋上で何か鈍器を構えて――」


 自分が見たことを伝えると。

 

「うん、私も行く――と言いたいところだけど、とりあえず先生を呼んでおこうかな」

「なぜ篠文さんは付いてこないのですか!」


 ユウジ様を隣で長く見ていた方であるこそ、なにやら尋常でない雰囲気のユウジ様に駆け付けた方が良い、駆けつけるべきだと私は思ったのです。

 ……篠文さんのように幼馴染という立ち位置に居れたらという嫉妬心も芽生えていましたが、今は抑えて言いました。


「――私はフラれたからさ。だから、姫城さんが行くべきなの」


 っ! 私は篠文さんの言葉を直ぐには理解できませんでした。それほど私は衝撃を受けたのです。


「え、えと……篠文さん? それは一体――」


 篠文さんの言葉の意味が分からない。フラれた? それは俗に交際を断られたという解釈で――


「私はユウジに好きと告白したんだ」

「!?」


 篠文さんがこ、こここここここここここ告白をっ!? 先手を取られました! 勝ち目ないですよ!

 ユウジ様は篠文さんを好いていたように見えますし、もう断る理由が無いじゃないですか!


「でも、断られちゃった」

「な、なぜですか?」


 とても篠文さんには言いにくいことかと思いますが……篠文さんに問います。

 何故ユウジ様は断ったのでしょうか。

 正直、私から見て羨ましいほどに明るくて可愛くて……幼馴染を抜きにしても魅力的な女性だと言うのに。

 

「好きな人が……居るんだって」

「っ!」


 好きな人……好きな、人? 好き、な人? スキナヒト?

 私はその言葉の意味を考えます――ユウジ様にとって、好きな人……ですね。

 だ、だだだだだだだだだ誰なのでしょう! 篠文さんでなければ――最近話す機会が多くなった愛坂さん?

 それとも巳原さん……いやいや、もしかして妹さん? または居候しているホニ……さん!

 ああああああ、ユウジ様が魅力的なのは分かりますがなんでそこまで候補が居るんですかああああああっ!?


「お、お相手は……?」 


 断られた篠文さんはいたく傷ついていると思いますが……こればかりは聞き出したかったのです。

 少し躊躇して渋っていて、もしかして言いにくい相手なのかなと、危惧して矢先に。篠文さんは衝撃的な名前を口にしたのです。


「姫城さん」


 …………え?


「え? えーっと?」

「姫城さん、あなただって」

「え、へ? ええええええええええええ! 冗談ですよね!?」


 嘘だ!


 そんなことあるはずがないじゃないですか。私が一体なにをしたらユウジ様が好きになってくれるのですか!?


「冗談じゃなくて……気付かない? ユウジって最近姫城さんにメロメロだったよ?」

「え、え! そ、そうなのですか」


 すると篠文さんは、はぁっと盛大にため息をついて――


「も、もう! ここまで言ったんだから行ってきなさい!」


 突然口調が変わり、今までの落ちつきを吹き飛ばしながら言う篠文さんに圧倒される。


「え、ど、どこにですか!」

「ユウジのとこ。今喧嘩してるんでしょ? さっさと捕まえてきちゃって」

 

 確かに私の見たのは鈍器を持って何かと戦っている姿――


「で、でもですね――」

「ウダウダ言わずに行く! ユウジってば姫城さん探しに行ったのに何処行ったかと思えば……屋上で喧嘩とかさあ」


 ユウジ様は私を探していたのですか……! なんて間の悪い事をクラスメイトは頼んだのでしょう!

 恐らく教室に向かったのでしょうから……くう、居れなかった私が情けないです。


「そ、そうでしたね! ユウジ様、喧嘩してたんでした!」

「……忘れてたの?」

「ちょっと衝撃的だったもので……」


 それはユウジ様のお気持ちがまさかの私に向いていつだなんて……妄想ならあったにせよ、想像も出来ませんでした。


「……まあ、いいから! とにかくユウジにとっ捕まえて、告白されちゃいなさい」


 告白される、のですか!? するのでなく!


「そ、そんな心の準備が!」

「もう、そんなんじゃ私フラれ損だよ」

「え、それはどういう――」


 フラれ損……それじゃまるで答えが分かってて告白したような――


「武器もってたんでしょ? 渋い顔してたんでしょ? ……ピンチかもしれないのに姫城さんはここで留まるんだ?」 

「!」


 少し嫌みなのか小悪魔のような表情で言う篠文さん……今日は初めてみる表情ばかりです。


「私は先生呼ぶから、ユウジを先生に見つからないように移動して」

「は、はい!」

「じゃあ、ほら行ってくる!」

「は、はいっ!」


 私は篠文さんに背中を押されて走る。屋上……あの階段を上り続ければいいですね。

 すると階段途中で――


「ちょっとそこの方」

「は、はい!」


 女性の声……! 先生かと思って振り返ると――なんともお美しい長い黒髪の上級生。どこか悪魔的な妖艶さえ漂わせています。

 腕の腕章に輝くのは生徒会役員の文字――


「はい、これ」

「えっ」


 手渡されたのは一つのカギ。


「これ屋上の鍵だから、それじゃ」

「え、あの!」


 すると鍵に目を落としている内に生徒会役員さんは一瞬で姿を消していました……この鍵は、屋上の鍵?

 なぜ今、私に、これを? 


「急がなきゃ」


 ここで立ち止まってはいけませんね。そうして階段を上りきった先では金属と金属がぶつかる音が聞こえます。


「!」


 すると屋上手前で、屋上への扉が少し開き――


「ユウジ様っ!」


 そこには扉の前で倒れるユウジ様――外から聞こえる怒声。


「! なんて怪我を……今すぐここから!」


 どうやらユウジ様は脚を怪我されているようです……痛々しいで涙が出そうです。


「ああ、うん」


 ……もしかしてこの鍵は、ユウジ様を逃がす為に?

 と、とりあえず喧嘩相手が追って来ないようにガチャガチャガチャリと扉の鍵を締めます。


「保健室に向かいましょう」


 足を怪我しているようですね……少し恥ずかしいですが、肩を貸した方が良さそう?

 ユウジ様のお腕が私の肩に……! たまりません、けれど興奮してる場合いじゃないですね。


「ありがとな……姫城、あのな」


 ! 何を言おうとしているのでしょうか? も、もしかして……ここここここ、告白を? こんな場所で?

 え、ええっと……出来れば落ちついたところがいいです。

 でも、もしかして篠文さんが勘違いで、もしかして私でも篠文さんでもない別の方だったら――

 聞きたくないです。まだ、まだなんです。もし私だとしても心の準備が出来ていません!


「……とりあえず処置しないといけませんね」


「すまん」


 とにかく話題を逸らすというか……はい。ごめんなさいユウジ様。

 

 後ろでは扉がガンガンと叩かれていて、それは階段中に反響していました。

 でも私はそんな音などどうでも良くて、というかそれどころではなかったのです。

 ……ユウジ様が隣に居るせいで心臓の鼓動が速くなっていました――そうして周囲に者が騒然する中で、私とユウジ様は保健室へと辿りつきました。



* *



「っ! なんて怪我を……今すぐここから!」

「ああ、うん」


 あれだけ想いを伝えるだのなんだの言っていた相手なマイだった。

 彼女は制服のブレザーポケットからなにやら鍵を取り出すと屋上の扉を閉め内側から鍵を閉めた。

 ふと横目に見ると屋上の出入り口の見張りの男子が伸びていた……なにがあったんだろう、考えるのはよそう。

 なんというか……色々な出来事に、マイの登場に俺は呆気に取られていた。

 そしてマイの言われるがままに肩を貸りて貰い階段を下りて行く。


「保健室に向かいましょう」

「ありがとな……姫城、あのな――」


 痛む横腹を抑えて言いかけるが――


「……とりあえず処置しないといけませんね」

「すまん」


 あとにしよう、せめてもう少しかっこつけてから告白したい、ここで振られるなんてかっこ悪すぎる。

 後ろでは扉がガンガンと叩かれ、それが階段中に反響する。

 しかし俺はそんな音などどうでも良く、それどころではなかった。

 ……彼女が隣に居るせいで心臓の鼓動が速くなっていたからで――俺のただごとではない様子に周囲の者が騒然する中で、俺とマイは保健室へと辿りついた。


「ありゃー、これはひどい」


 保健室に付き保険医に惨状を見せるなり言われた。


「左脇腹は打撲で済んでるけど……右足は折れてるね」


 なんという宣告。どうりで痛い訳だ……てか動かすと激痛が走って結構キツいな。

 まぁ木製バットが脇腹に。右足に鉄パイプが入ったなら、それも当たり前だろうな。


「あまり強くは折れていないし、全治3週間ってとこかな」


 と言って保険医は痛む箇所を矯正する為に板を入れて包帯でグルグル巻きにして右足はがっちり固定された。

 ああ、松葉杖確定か……


「それで……どうしたらここまで?」


 ちなみに保険医の差すのは脇腹と右足のことではない。


「いえ……ちょっと、色々ありまして」


 鉈を振りまわした弊害が出た。慣れない動きに体中が悲鳴をあげたようだ。

 闘っている時さえ気にも留めなかったが、一安心入れるとこれだ。見事なまでに全身筋肉痛だった。

 あまりバトルのことは言いふらしたくない……一応傍からみれば喧嘩なのだが、俺は襲われて自己防衛の為に鉈を振りましている訳で。

 そういえば鉈を持っていても「ああ、文化祭の道具ね」と保険医は勝手に納得。文化祭準備万歳だね。


「あー、ベッドに運んでおいてあげて」


 保健には顎でカーテンに包まれたベッドをマイに差す。


「は、はい」


 マイにはまた肩を貸してもらい、保健室のベッドまで運んでもらう。

 ……少しの振動でも体に響いて痛い。案の定ベッドに辿り着くと同時に仰向けにぶっ倒れた。


「おわっ」

「ユ、ユウジ様っ?」

「はは、情けねえ」


 自分のことをそう思う。鉈振りまわしただけで全身筋肉痛とか情けねえよなあ。

 

「……そんなことありません」


「え?」

「ユウジ様は……その」

「……」


 「失礼しますね」と彼女はベッド横の椅子に腰をかけて、俺を見ればマイは不安に満ちた表情を形作る。

 ああ、俺告白するんだった。俺はマイと会う為に屋上に向かって、それから早く会う為に戦った。

 よし、せっかく会えたんだ。ここで告白してしまおう……当たって砕けても悔いはない。


「え、えと……姫城?」

「は、はぁいっ!」


 不安に満ちたマイの顔が一気に茹であがった。ん? なぜ? どちらかというと真っ赤になりそうなのはこっちだって……


「姫城に話があるんだ」


「は、はい! なんでしょう!」


 背筋ピーン、緊張ガチガチ。なんとも俺とマイは同じ精神状態だった。

 俺はフラれたらどうしよう……今度こそ立ち直れないかもしれない。

 いや、だけども! こうして皆に背中を押して貰って手に入れたチャンスを逃がすわけにはいかないっ!


「突然で悪いな……それにこんな場所で」


 本当に突然だし、よりにもよって保健室。ああ、もっとロマンティックな場所にしたかったもんだね。

 しかし俺の今の身体状況故、お許し願いたい。ああ……ベッドで体を起こした状態から告白するんだもんなあ。

 すげえ、格好が付かないよなあ。


「……っ」

「俺は……俺は」


 彼女の顔を一直線に見て。……整った日本美人な顔立ちに紅潮した頬や不安と緊張が入り混じった表情。それを見て俺は覚悟を決めた。

 すぅ、タメを作るように俺は息を吸い込んだ――よし。



「俺は、姫城マイが好きだ」



 きっぱりと言い放った。その後は時が止まったかのような感覚を覚える。

 目の前の彼女は完全に固まっていた。そしてこの世のものとも思えないようなものを目撃した表情だ。

 えーと、困るって。そういうのが一番怖いんだって。それで、答えをよこさずに去っていくなんて俺のトラウマストライクなことないよな?

 なあ、マイ? フルならきっぱりフッてくれ。でないと、俺は――


「う、うう……」

「!?」


 彼女は目に大粒の涙を溜めて、何か留め具が外れたような、解放されたかのように泣き始めた。

 ぽたぽたと、涙は溢れ子供のように泣きじゃくった。……そんな彼女の姿はもうショックで。


「あ、あの姫城……?」

「うううぅ……」


 ああ、こりゃダメか。もうダメなんだろうな。ああ、人生二度目の恋散る――

 さっきからネガティブオーラ全開で、かつてのマイを想像させる思考を展開していた俺に、ある言葉が届いた。



「よ、よかったぁ」



「え」


 ぐしゅぐしゅと手で涙を彼女は払うと、少し落ち着いて続ける。


「ユウジ様から言って頂いて……本当に、本当にうれしいです」


 少し目を赤くした。それでいながら嬉しそうに頬を染め、柔らかな笑顔を浮かべる彼女がそこには居た。


「私はユウジ様が好きです」


 マイは確固たる意志を持っているかのようにきっぱりと言った。そんな一瞬みせた精悍な彼女の表情にもドキリと来る訳で。



「私からこそ、宜しくお願いしますっ」



 それを言われた途端に、何かが抜けた。腰……いや? 理性……いや違うね。そう、意識が抜けた。

 緊張の糸がプッツンと切れて、俺はベッドへと仰向けで倒れた。

 生徒会や今日のバトルの疲労が重なった上に一月以上マイのことで唸っていた訳だ。

 

 そりゃあ、もう人生最大の告白を受け取ってくれたのだから。ショックと安心のあまり意識飛んでもいいだろう?


 え、だめ? あ、そう。でも、悪い――少し寝かせてくれ。

 耳元ではマイの俺の名前を呼ぶ声が少し聞こえたが、すぐに止まり、体に布団が被せられることを感じると意識は完全に堕ちた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ