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第560話 √5-41 より幸せに


 中規模異も狩り始めると、貢献度はかなり余裕が出てきた。

 小規模異だけに絞って狩り続けていると、数日休んだだけで貢献度が厳しくなり、自転車操業に近しかった。

 しかし小規模の合間に中規模を狩るようになり、時折負傷こそするが致命傷に至るものでなく慣れていった。


 その結果毎日早朝に異を狩る必要性が無くなった。

 頻度としては隔日ぐらいだろうか、おかげで生活にも余裕が出てきている。

 福島との走競技トレーニングが体育祭終了と共に終わり、夏の熱さも厳しくなったのと俺の腕も上達したとのことで姉貴との剣道鍛錬も終了した。

 そしてホニさんを神裁から非干渉化したことから雨澄が俺と敵対することも大分前から無くなり、生徒会のある日を除けば平穏にホニさんと下校することも出来るようになった。


 

六月十八日



 金曜、雨澄ベン・トーデイである。 

 今週月曜はイレギュラーに休日で、公園での共に昼食と相成ったが今日はいつも通りの階段、定位置だ。


 いつものようにいただきますと言って雨澄は弁当を食べ、俺も続き二人が完食した頃合いを見計らって雨澄が切り出した。


「――そういえば今日は、アロンツの集まりがある」

「ああ、そういえばそうだったな」


 組織に入ると、パソコンで言うところの電子メッセージのようなものが届き今日金曜がアロンツの集会があるということを知らされた。

 アロンツの集会も週一とのことらしいが、雨澄曰く決まった曜日というわけではなく週一のはずだが二週間空く時もあり不定期に近い集まりだという。 

 アロンツの組織理由に、俺を囲い込んだ理由として情報共有と各人が狙う獲物の把握とSには聞いているが……いまいちピンと来ない。


「――情報の共有自体は、顔を合わせる必要はない。集会は昔の名残のようなもので形骸化している」

「主にどんな事を話すんだ?」

「――浄化した異の成果、単純な数で報告する」


 伝統を守っているからか分からないが、現状はとりあえずの顔合わせのようなものなのかもしれない。


「それって小規模中規模関わらず、合計数でいいのか」


 雨澄は肯定を示すように頷いた。


「――あなた……下之の場合は、神裁となってからの合計数を言えばいい」


 なるほど、確かに俺は集会に初参加になるしな。

 確か合計数は便利なもので、異を探知する時に使うような地図とは別の戦果欄のようなところで確認が出来る。


「わかった、そうするかな」


 そうしてアロンツの集会のことを話していると、チャイムが鳴り昼休みが終わった。

 去り際に空の弁当箱を俺に手渡して、雨澄は言った――


「――放課後、集会場所に案内する」


 場所こそ雨澄は言ってくれたが異探知用の地図で確認できるとはいえ、行くには込み入った道を進んだ場所にあった。

 どうしたものかと考えていた矢先に雨澄がそう提案してくれたので、正直助かった。

 しかし今日は生徒会があると言いそびれたまま雨澄が姿を消してしまったので、正直困ってしまった。

 




 放課後、生徒会を終えて帰ろうとすると雨澄が校門前で待っていた。

 姉貴とクランナに先に帰ってもらうように言う、もしかすると何時間もここで待たせてしまったのだろうか。


「ああ、雨澄待っててくれたのか」

「――生徒会、お疲れさま」


 俺は雨澄に突然そう労われて、つい驚いてしまった。

 正直雨澄は他人に無関心というか、やっぱり周囲を拒絶するオーラを放っている頃も印象的であって、つまりはこんな言葉をかける子だとは思わず予想外だったのだ。

 そんな俺の表情の意図に雨澄も薄々気づいたようで、微弱な変化ではあるがほんの少しだけ拗ねたような表情を形作り――


「――……同じ一年生なのに生徒会もこなすのは、凄いと思っている……それだけ」

「そ、そうか? 俺はほぼ雑用だけどな」


 実際生徒会役員での役職は”副生徒会長補佐代行”とかいう訳の分からないもので、実際の仕事と言えば配布物の制作やら荷物運びやらと雑用である。


「――それでも生徒会もこなしているのは凄い、と私は思う」

「あ、ありがとう?」


 雨澄から俺がそんな評価だったのも意外だった、精々弁当を作ってくれる神裁ぐらいのもかと。

 ……あ、言ってて悲しくなってきた。

 でも、少しでも俺への感心は持ってくれているようで安心してしまう。


「――行こう」

「ああ」


 まだ陽が落ち切っていない六時手前、俺と雨澄は学校を後にする。


「そういえば何時間も待たせて悪かった」

「――問題ない、その間は異を幾つか浄化出来た」


 ようは神裁として貢献し時間を潰していたようだった。

 集合場所に向かう道中で、雨澄に貢献度を見せてもらったが”十万”を超えていた。

 ホニさんを対象にしていた時は数字こそ知らされなかったが貢献度がギリギリだったとのことで、俺がホニさんを非干渉化してから一気に盛り返したことが分かる。

 そして俺はというと”一万八千”ほどで、雨澄曰く小規模と中規模の中でも下位のC級狙いだとこの数字は妥当とのことだった。

 



 

 案内されたのは草ぼうぼうに茂った道を潜り抜けた先にあった廃教会だった。


「やぁ、UにY。君たち二人が集まったことで、集会を始めようとしよう」


 出迎えたのは細身の男のSだった、そして大柄な男の方のTはイビキをかいて廃教会のベンチで寝ていたのをSが起こした。

 だがふと疑問に思ったのは俺はかつてSにアロンツは十数人の組織だと言っていたが、現時点で集まっているのは俺を含めて四人であって少なすぎるように思えた。


「……これでこの地区? の神裁は全員なんですか?」

「いやー、本当はあと十人ぐらいいるんだけど集まりが悪くてね。何か月も、場合によっては何年も来ない人もいるから困るよねー、大体は僕含めてこの数人が集まるメンバーかな」


 ……組織形骸化進み過ぎて、疎かになってるじゃん!


「まぁ、僕もTもぶっちゃけここ溜まり場にしてるだけだしね。真面目に来てたのはYぐらいだよ」

「――……」


 雨澄はというと、さっきまでの道中までと打って変わって拒絶のオーラを存分に滲みだしている。

 そんなこのSと会うのは二回目だが、俺も正直いって好かないタイプである。


「じゃあ、成果の報告と行こうか――」


 そうして寝起きのTも合わせて、成果を発表した。

 数はダントツ俺だったが「小規模狩ろうとするとそうなるよねー」とSに言われて、少しイラっとする……こいつ嫌いだわ。

 他の雨澄含めて成果はそれぞれ十前後であるが、その内訳が中規模だったり、場合によってはB級大規模異だったりと貢献度に関しては俺の比ではなさそうだった。


 こうして成果を言い終えて終わるかと思いきや――


「で、一応集会開いてるとして。まぁお知らせかな――」


 一瞬細身の男のSの目つきが少しだけ鋭くなったように思えた。


「Iの”未来予知(フィーチャー・プレディクション)”によると……今後数か月以内に、特A級の異がこの町に出現するそうだ」

「……――!」

「へー、そいつぁ噛みごたえがありそうだな」


 Sが他の神裁からの情報を開示し、それに雨澄も強く反応、そして暇そうにしていた大柄な男のTは興奮気味だった。

 特A級というのは最上位の異の階級で、非常に脅威であり貢献度も桁外れのものを有すホニさんと同じレベルになるのだろう。

 ……といってもホニさんが何度脅威だと言われても、まったくピンと来ないのだが。


「更には探知にも引っかかりにくい異のようだから、まぁ早い者勝ちかな」

「俺が一番先に見つけてやるぜ!」 

「……――私が浄化する」


 三人はそうこうして盛り上がっている(ように見える)が、俺はなんとも乗れずに見ている。

 アロンツに入って初めての集会で、勝手が分からないのもあるが……俺は別に強い敵と戦いたかったり、どうしても叶えたい願いがあるわけでもないのだ。

 だからこそ、そうなのかーとしか思えなかった。



 そうこうして集会は終わりを告げた。

 ……のちに、姫城さんに俺が廃教会に集まったことを何故か知られて「ユウジ様、怪しい宗教はダメです!」と教室で言うものだから、少しだけ教室は騒然となり弁明に追われるのはまた別の話である。

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