表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
438/648

第559話 √5-40 より幸せに


 

 ナレーションのナレーターです。

 そこは暗い部屋、パソコンの液晶ディスプレイの明かりだけが頼りの部屋で一人の少女が身体を伸ばしながら、古い携帯ゲーム機に向かって呟きました。


「今日は月曜だけど休みだ……!」

『お疲れ様です、美優』

「うう……今日は月曜だけどお天道様の下に出なくていいと思うと気が楽だ……」


 そんな少女は下之美優という下之ユウジのれっきとした妹です、そして携帯ゲーム機には一昔前のグラフッィクで女性の姿ユミジが写し出されています。

 しかし美優はとある事情によって、自分の部屋に籠ってから一年以上が経ちます。

 それから深夜などのシャワーを除いて自分の部屋を出ることは無く、無駄に貯蓄していたお金を切り崩して食料や娯楽を確保し、部屋近くにはお手洗いもあります。

 時折ご飯を作って持ってきてもらったり、深夜に起きて冷蔵庫に作り置きのものを食べたり……洗濯物は撮りに行ってもらったりしていました。。

 そんな半自己完結型 (?)の生活を送っていたわけですが、ここに来て転機が訪れようとしていました。


「でもいい機会だったことは確かかも……そうでもしないと、真っ昼間に部屋の外にトイレ以外に出ないし」

『良い事です』

「それに……私自身は自分の勝手にやって引きこもってるつもりだったけど、結局は迷惑をかけていることに代わりはないから」


 美優は、自分で出来ることはしようとする努力はしていました。

 それでも通販で購入する食料の栄養バランスや味は偏るし、時折実の姉のミナが作る料理が恋しくもなるのです。

 そして洗濯物に関しては深夜にこそっと未洗濯のカゴに入れて、そしてこそっとミナが美優の部屋の前に小さなカゴに洗濯が終わった衣類などを入れて置いていてくれるのです。

 お風呂だってそうで、シャワーしか基本使っていませんがそんなお風呂の掃除などをしているのは美優以外の誰かということも分かっていました。

 

 完全な引きこもりでこそ無いですが、それでも部屋に籠っている時間が圧倒的に長く、そして長期渡って続いていることに違いもありませんでした。


『……というか美優は家事は普通に出来るのですね、驚きです』

「……これでも一応女子だし」


 美優は引きこもる前はよく姉の家事を手伝っていました。

 といっても料理の腕も、他の家事の手際なども姉に勝てる部分はありませんでしたが……彼女なりにやってはいたのです。

 

 ホニが学校に通うようになり、平日昼間に居なくなったことで滞る家事などを美優はやるようになりました。

 それも毎日、洗濯物全般と家の掃除などもやるようになったのです。

 最初はミナがユウジの間食用にと随時補充もしているインスタント食品で昼食を誤魔化していましたが、冷蔵庫の中にあるあまりものなどで簡単な料理を作り機会も増えました。


「こうして何度も世界を繰り返している内にさ……辛くなってくるんだよね、自分がどんだけバカなのかって」


 引きこもって一年、その間は自分のしでかしたこと――そして自分がしでかすに至った出来事によるショックで自分の今の状況を顧みずにゲームなどに現実逃避をしていたものです。

 しかしユウジと同じようにゲームを起動したその時から、美優は桐やホニと同じように繰り返される時を自覚し記憶に留められるようになりました。

 すると一年という時を繰り返してこそいますが、実際に感じている時間は何年も経過してある程度はそのショックなことを抑え込んで、客観的に観れるようになります。


「だからせめて、桐に押し付けられたようなもんだけど……私に出来ることがあるなら、やろうって」

『……偉いですね、美優は』

「そんなことない……そんなことないんだよ」


 美優は後ろめたさも感じ続けて、罪悪感も覚え続けていたのです。

 今回の少しでも家事を手伝うというのは、それを軽くするものでした。


「……まだ、私はユウ兄と顔を合わせられる気がしないんだよ」


 美優の引きこもる主要因はそれでした、同じ家族であり実の兄であるユウジと顔を合わせることが――


「一時の感情に任せて傷つけて、ユウ兄も傷ついてないはずがないのにね。本当にあの時の私はぁ……」


 美優が手のひらを見つめます。

 この手がユウジを――


『……美優は下之ユウジと会いたくないのですか?』

「会いたくない、だって私なんかが――」

『では質問を変えましょう。下之ユウジがお嫌いですか?』

「そんなこと! そんなことないっ!」


 美優はいつになく声を荒げて、否定します。


「だって……兄が嫌いな妹なんて居ないし」


 ……それはどうでしょうか。

 正直言ってしまうと、この家族って割とブラコンシスコンの類が――


『まぁそれはそうでしょうね。こうしてパソコン越しに下之ユウジの行動を逐一チェックしている美優が嫌っているはずありませんもんね』

「なっ……!」


 美優は繰り返される世界で何をしているかと言えば、もちろんネットサーフィンもすれば部屋にある漫画を読んだりゲームもする。

 しかし最近はユミジの協力によって――兄である下之ユウジをパソコン越しに、俯瞰で見ているのです。


「だ、だって! ユウ兄が変な女に騙されたら大変だしっ! というか今回も危ない目ばかりに合って……心配なんだから」

『そうは言っても、下之ユウジに直接物申すことは出来ないんですけどね』

「っ! ……それは……その……電源切るよユミジ」

『ごめんなさい、調子に乗りました』


 ――そんな最近の平日の月曜なら部屋を出て家事をしている美優が、今日は体育祭の振り替え曜日だからと部屋に終日籠っている時の話でした。

 

 

* *



 俺が中規模異を狩って、雨澄と別れて家に帰ったのが昼の二時半ほどだった。

  

「おかえりユウくーん」

「あっ! おかえりなさいユウジさん」

「ただいま姉貴、ホニさん」


 居間に行くと丁度洗濯物を畳み終えて、各部屋に持って行くところの姉貴とホニさんと遭遇した。

 ちなみに今日は外に弁当持って散歩してくると姉貴には言ってあった、もっとも雨澄に弁当を持っていただなんて言うと面倒臭そうなのもあるが。


「今日は姉貴とホニさんが洗濯物やってくれてるんだな」

「ホニちゃんとのんびりやってたんだよー」

「最近我は手伝えていないので……今日ぐらいは!」


 よくキッチンに並んで食事を作る姿は見ていたが、こうして姉貴とホニさん揃って洗濯物を畳み終わったという光景は意外に初めてかもしれない。


「じゃあ、クランナちゃんとかの部屋に持って行ってくるねー」


 と姉貴が去り、俺とホニさんが居間に残される。


「ホニさんが学校に通う前は、毎日昼の炊事洗濯とかやってくれたんだよな?」

「う、うん。学校は楽しいけど家事手伝えないのが申し訳ないかな」

「いやいや、それでも家に帰ったら姉貴の帰りが遅い日とかは夕食の準備してくれてるじゃん。ありがたいよ」

「そうかな……? ユウジさんにそう言ってもらえると嬉しいな」


 そう言ってハニカムホニさんは可愛いなぁ。


「そういえば桐はホニさんが学校に通うにあたって、昼間の家事とかなんとかするとか言ってたな……確かに昼間の家事はこなされてるの分かるんだが、どういう仕組みなんだろうか」

「あ、それはねユウジさん……なんというか」

「ああ、桐の特殊能力ってやつだな! 小学校通いながらも、遠隔操作なりで家事とかやってるんだろうか……改めて思ってもチートだな桐」

「……うん、そんな感じかな」


 やっぱりな!

 実際に家に居るのって引きこもってる美優ぐらいしか居ないし、桐のチートでも使わなければ無理だよなー


 最近の些細な疑問が解決したところで、丁度流れているニュースを見ていると――


「失踪事件なー」

「最近多いよね……」


 ニュースを見ていると時折藍浜町で失踪者が、というのを耳にする。

 実際この藍浜町では頻度としては多いであろう、そして人数も今年に入って十数人というものだ。


 これはもしかすると異に憑かれた人が、結び付きが強いが為に完全に浄化する必要性が生じ、その浄化によって人が消えるという現状が起きる――ということではなかった。

 完全に浄化し、宿主もろとも消え去る場合は痕跡を残さないのだ。

 まるで最初から居なかったかのように、そんなもの存在しなかったかのように、世界は作り変えられるのだという。

 実際に神裁の貢献度が尽きた場合も同じようなもので”存在が消失”してしまうのだ。


 よって失踪という事実が残ることで、神裁によるものではないと考えられる。

 じゃあ何者の仕業かというと――


「ユウジさんも気を付けてね……?」

「ホニさんもな」


 今日出会った鬼の異、通り魔のようなことしていたという情報も得ている。

 そして雨澄が戦った吸血鬼は死傷者を出したとも言っていた――故に、この一連の失踪も異によるものかもしれないのだ。


「あ、そろそろ我も洗濯物持って行かなきゃ」

「ああ、お疲れさまホニさん」

「うん、ユウジさんこそ――お疲れさま」


 もしかすると、俺が雨澄の弁当を持って行くついでに戦ってきたのもホニさんにはお見通しなのかもしれない。

 それが神様故か、女子の勘なのかは分からないが――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ