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第569話 √5-50 より幸せに

 どーも陽子です。

 正直私はあまり表に出てこないというか、その方が性にあっていると思って今まで出てこなかったのは確かだったり。


 実際ホニから見える景色で私は満足していたから。

 ホニの喜怒哀楽が痛いほどに伝わってもくるし、そのホニの視界から……私もホニと同じように恋をしたユウ相手も見れていたから。

 

 正直思うところが無い訳ではなかった、だって仮にもユウは私と付き合ってたことがあったのに。

 世界は代わる代わる、その度に違う女の子をとっかえひっかえ……ユウの癖に!

 でも私はちょっと”むかつく”程度で済んでいた、なにせそんなユウに私の何倍も何十倍も触れてきたホニが居たのだから。


 ホニは前の世界で少し危うかった。

 ユウが私とホニと結ばれた時の記憶を思い出したかで、その内容を手紙に書いているのをホニが見てしまった際。

 抑え込んでいた思いが溢れて、さんは危うくユウに甘えてしまうところだった。

 その後どうにか堪えたけれど、それでも熱気にほだされているホニを見かねて私が表に出てホニと話した。

 それでようやくホニは平静を取り戻して、いつも通りに戻った――はずだった。


 でもこの世界は、私とホニがユウと結ばれた世界に限りなく近かった。

 いつもは忘れがちなホニの神の力を見せる場面だってあって、ユウが戦う場面も多かった。

 それがホニにとっては厳しかった、辛かった。


 あまりにも似た世界すぎて、かつてのことを思い出して胸が痛んだ。

 私もこの世界を過ごしていると、自分が恋した記憶を思い出して……少しもやもやとする。

 だけどホニはその比じゃない、私以上にユウに熱い想いを秘めていて――生殺しのようだった。

 実質的に家族と言う括りにされて、ホニとどもども振られる場面も見ていた。

 それから似ていた世界で、この世界で敵対していた女の子にユウが惹かれていく様も見せられ続けてきた。


 次第にホニの心が不安定になっていくのが、ホニの中の人である私には分かってしまった。


 そして今日、ついにホニが壊れる寸前までになってしまった。

 キッカケは目の前の光景だと思う、私も相当にショッキングだったけれど……きっと桐の力を借りればなんとかなるとは思った。

 だからホニの心を落ち着ける様にと、私らしくなくホニを諭した。


 でも、私の想像を遥かに超えて。

 ホニの心はボロボロで、今までがあまりに危険な綱渡りだったこと、首の皮一枚、切れる寸前の糸……ホニがどれほどまでに追いつめられていたかを、身で持って分かることとなる。


 ホニがついに壊れた瞬間――私は跡形もなく消失した。



* *



 目の前でユウジさんが倒れている。

 物音がしたからと居間からやってきて玄関戸を開けたら傷だらけのユウジさんが力尽きていた。

 傷だらけで服は切り刻まれて出血はひどく、呼吸も荒く顔色も決して良くはない。


 どうしてこうなったんだろう。


『ホニ、落ち着いて。ユウは大丈夫だから』


 我は今のユウジさんを見たくなんてなかった、こんなにボロボロなユウジさんを見たくなかった。

 こんな未来にならないで欲しいと願っていたのに、我がどうなってもユウジさんが傷つく姿なんて絶対に見たくなかったのに。


 どうしてこうなったの?


『ちょっと疲れてるだけだって、ちゃんと手当すれば治るから……頑張って部屋に運んで、桐を起こして治癒してもらお?』


 我の、せいだ。

 そもそもユウジさんが戦わなければならなくなったのは我のせいだ。

 思い上がりでもなんでもいい、キッカケを作ってしまったのは我に違いないのだ。

 我を守るために神に願って”神裁”となる道をユウジさんが選らんだことがすべての始まりだった。


 ううん、違う。


 そもそも我が存在していなければ、ユウジさんがここまで傷つくこともなかった。

 我がいけない、我がすべていけない。

 我がいなければユウジさんは傷つかなかった、戦う必要も無かった。


「こんな世界酷すぎる……」

『ねえ、ホニ。私の声聞こえてる?』


 我がいなければよかった。

 でも、それはどうすることも出来ない。

 我が代わりに傷つくこともできない、ユウジさんの負った痛みをすべて背負うことだって出来ない。

 きっとそれをユウジさんは望まないから、余計にユウジさんを傷つけてしまう結果になるのだから。


 だから我は想ってしまったのだ。

 思考が壊れて、ふつふつと沸き上がる向けようのない怒りが――矛先を定めてしまった。


「こんな世界形作ったのは誰……?」


 こんなユウジさんが無理をしなくちゃいけない世界を作ったのは誰?


「こんな物語を考えたのは誰……?」


 こんなユウジさんが傷つくように出来ている物語を考えたのは誰?


「分からない」


 そんなの我には誰かは分からない。

 神である我でも分からないことは分からない、知っていることしか知らない。


「我も悪いのなら物語が悪い、世界も悪い――この世界が悪い」


 世界が悪い。

 世界が憎い。

 ユウジさんを傷つけるこの世界なんて――要らない。


「あはは……」


 そうだ、こんな世界なんて要らない。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははは」

『ホニ! やめて!』


 聞こえてたよ……ごめんね、ヨーコ。

 我、もう嫌になっちゃったんだ。

 疲れたんだ、耐えられないんだ、楽になりたいんだ――――幸せになりたいんだ。



 だからヨーコ、さよならだね。


 

 我は共存していたヨーコの存在を食べてしまった。

 力がみなぎるのが分かった、これなら我はなんでもできそうな気がした。

 ユウジさんを治すのはもちろん、さっきまで無力だった我にも”とあること”が出来るようになる。

 それは――



「ユウジさん、我と幸せになろうね」



 そうして我は世界を終わらせた。

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